第2話 巨大爬虫類出現
夜、たかし君がテレビを見ていると、窓にバタンと大きな音を鳴らせて何かが引っ付いた。
たかし君はその音にビックリして窓を見た。
母親も父親もおじちゃんもおばあちゃんも窓を見た。
そこには大きなトカゲのようなものが引っ付いていた。
「うわ?何だ?何だこれは?おい、ワニか?ワニなのか?」
パニックになる一家一同。
母親が警察に電話した。
警察の車と消防車と救急車まで出てきて、赤いランプをグルグルと回して、それは連続殺人事件が起ったような、または火事が起ったような大事件の様相であった。
町内総出で、巨大なトカゲを捕獲する事になった。
そして、このオオトカゲは無事に、消防隊員の手によって捕獲された。
大きなトカゲは、大きな袋に入れられて、どこかへと持ち去られた。
翌日からの、子供達と大人達との集団登校は、大げさな対処ではないほど、この事件は、町の子供達と大人達に、恐怖をあたえた。
この大きなトカゲだが、前出の大きなトンボを引き取った、あの大学に運び込まれた。
色々と調べた結果「うーん」と教授はうなった。
「これはヤモリだと思う」
教授は町長に言った。
「なんでかは解らないが、これは、ヤモリが、何らかの原因で大きくなった、ものだと思います」
数日後、大学の方から町に調査隊がやってきた。
この時までに、三匹の大きなヤモリが捕獲されていた。
子供達は外に遊びに出られない。
大人達も毎晩の見回りと、発見後の捕獲に走り回っていて、夜もグッスリ眠れずにグッタリだ。
大学教授とその助手たちは、町中を調べた。
さらに数匹のヤモリ、巨大なトカゲなどを発見した。
その度に町中は大騒ぎだ。
神社の境内に巨大な蛇が、とぐろを巻いているのを発見した時は、開いた口がふさがらないのだった。
この一連の事件は、テレビや新聞で大きく取り上げられた。
そして多くの人々がこの町を訪れるようになった。
毎日の様に巨大な爬虫類が発見されては捕獲されていく。
人々はそれを見学しに来るのだ。
町の人々は、毎日の騒ぎに気が気でない。
さらに、野次馬に来る人々にもうんざりだ。
ああ、もう平和な日々は戻ってこないのかと思った。
そのとおりだった。
最初の大きなヤモリが発見されてから数週間後、今度は、他県の別の場所で大きなトカゲが発見された。
インターネット上で、大きなトカゲの写真を載せて自慢していた男の家からそれは発見された。
たかし君の住む町から大きなトカゲを持ち出してペットにしていたのだ。
男の供述によると、数匹を近所の空き地に放したと言う。
この様な者は、この男だけではなかった。
巨大爬虫類発見の情報は日々、日本全国であった。
そして、巨大なトンボの目撃情報も、日本全国へと広がっていた。
そんなさなか、今度は十五センチメートルほどもある蜂が発見された。
さらに、巨大なミミズ、巨大な魚、巨大なイカが発見される。
世の中の生物が巨大化していっている。
人々は、猫と犬と鳥の数が、減っている事に気がついた。
それらは巨大な虫と爬虫類に捕食されていた。
骨だけ残して鹿が山から消えた。
四十センチメートルある巨大なカマキリが鼠をくわえていた。
ビルとビルの間に巨大な蜘蛛が巣を作っている。
この変化は急激に起った。
人間が駆逐しても、大きな虫と巨大な爬虫類の繁殖のスピードの方が速かった。
そして、始めて人への被害が出た。
十センチメートルもあるアリに人が襲われたのだ。
襲われた男は酔っ払っていて、公園のベンチで酔いつぶれている所を襲われた。男は骨が見えるほどに食われていた。
二次災害を恐れた警察はその場を酔っ払いの死体ごと焼却したという。
発見される爬虫類はどんどんと大きくなった。
三メートルのトカゲ、五メートルのトカゲと日をおうごとに大きくなっていった。
それを人々は狩った。
山から出てくる爬虫類を人々は殺していった。
どんどんと出現する巨大爬虫類。
それを殺すのがレジャーになりスポーツになった。
巨大爬虫類と大きな虫は、外国にも輸出された。
人々はそれを鑑賞し、飼い、殺し、そして捨てた。
捨てられた巨大な爬虫類と大きな虫は、外国でもその数を勝手に増やしだした。
それは既に、人々のコントロールのおよばない現象だった。
大きな虫と巨大な爬虫類は、世界中で爆発的に増えた。
そして、小さな哺乳類がその餌になった。
それは、人間にもおよぶ災いへとなっていた。
どんどんと人間が虫に襲われていく。
一番怖いのはアリだ。数にやられてしまう。
人間の子供など、アリに囲まれたらすぐに殺されてしまう。
虫が家畜を食い尽くした。
虫が増えると、巨大な爬虫類が虫を食う。
そのような惨事の中であるが、人類は巨大な爬虫類をコントロールし始めた。
虫を活用し始めた。
今や、世界は大きくそのシステムを変えた。
敵などいないと思っていた人類は、敵に囲まれ、生存のために敵と戦い、そしてそれを喰らい、コントロールして、新たなシステムを構築した。
たかし君の家の玄関の前には小屋があった。
前は犬が飼われていたのだが、今は大きなヤモリが飼われている。
バサバサバサと大きな虫が飛んでくると、ヤモリが、のそりと小屋から出てきて、素早くパクンと虫を飲み込んだ。
餌はやらなくても元気にしている新しいペットだ。
「行ってきまーす」
と家から出てきた子供の服装も少し変わっていた。頭には黄色いヘルメットをかぶり、そのヘルメットはフルフェイスだ。肩には肩パット。腕と足にもパットが付けられていた。そのかっこうは、時はまさに世紀末という感じだ。
子供は今日も元気に、学校に登校して行く。
「おはよー」
と声を交わす女の子。
「ああ、ピンクの肩パットいいなー、私の茶色いのと交換してよ」
などと会話している。
そこにブーンと大きな虫が飛んできた。
女の子は、腰に付けた竹の棒を抜いて、バシリと何げもなく、その虫を叩き落とした。
そして、その地面に叩きつけられた虫を、足でグシャリと踏みつける。
虫の死骸からピュピュピュと何か、得体の知れない液体が出て、底厚のブーツに付いた。
ポケットから取り出したティッシュペーパーで、それを拭き取って、ポイッと捨てる。
「やーねー、朝から虫に出会うなんて」
と言いながら、女の子は学校への道を歩いていった。
すると今度は、目の前を大蛇がウネウネと、道路を横断してる所に出くわした。
車も大蛇の前で停車している。
「あら、大神さまが神社にお帰りなさる」
などと言って女の子達は、大蛇が通りすぎるのを待っている。
男の子達は、通り過ぎる大蛇の腹を触ったりして、ふざけている。
「こら、あんたたち、バチが当たるわよ」
と言った女の子に
「ばーか、バチなんか当たるかよ」
と男の子が言った。
そうこうしていると、大蛇の通り過ぎざまに、大蛇の尾の端がビシッと、男の子の頭をはたいた。
「ほら見なさい、大神さまのバチが当たったのよ」
そんな事を言いながら、子供達は学校へと歩いて登校するのだった。
学校の校庭には大きな体育館が出来上がっていた。
渡り廊下にも壁ができていた。
校舎に入るには二重扉を通って這い入るのだ。
朝の朝礼で、校長先生が
「えー、みなさん、もう新しい生活にも、なれてきたころだと思います。ですが、まだまだ、私たちの知らないことが、起っているかもしれません。十分注意して、生活してください。特にアリには注意する様に。アリを見たら、すぐに逃げるようにしてください。そして先生や大人に、すぐに知らせるようにしてください」
などと言っている。
給食にはトカゲの唐揚げなどが出る。
たまに出てくる鯨の肉がごちそうだ。
鶏肉、豚肉、牛肉などは、金持ちしか食べることができない、高級品となっていた。一般人の口に入ることはない。
たまに出てくる虫の料理は不人気だ。少しグロテスクすぎる。
大きな虫と巨大な爬虫類が登場してからの、人々の生活には混乱があった。
しかし、すぐに人々はそれになれた。
そんな虫が大きくなったり、爬虫類が巨大になったのにビックリして、それを恐れ続けて暮すなど、できないのだった。
確かに一部の人々は、虫や爬虫類に恐れをなし、家にひきこもった。
これがいわゆる「虫と爬虫類によるひきこもり」だ。
これはしかたのない事かもしれない。
月に二三件の、虫や爬虫類による死亡事故は、あったのだから。
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