地球の急速な変容

朝野風

第1話 大きなトンボ事件

 子供達が学校の裏山で遊んでいると、ブーンと大きな、何かが飛んできた。

 ラジコンのヘリコプターだと思った。

 しかし、それは違った。

 大きなトンボだった。三十センチメートルほどもあるトンボだった。

「うわー、でっけー」

 と言って、子供達はそのトンボを追いかけた。

 家からアミを持ってきて、追いかけ回した。

 トンボに石を投げつけた。その石はトンボには当たらずに、友達に当たって、その友達は泣き出した。

 喧嘩が始まった。

 そうして、そのトンボは行方不明になった。

 子供達は大きなトンボを探したけどみつからない。

 その後、日がくれた。

 町内のスピーカーから夕焼けこやけが流れだす。

 それを聞きながら、子供達は家に帰った。

 たかし君は、大きなトンボの事を親に話した。

 しかし、親は信じてくれないのだ。

 けど、「絶対にいたんだ」と、たかし君は怒って泣いた。

 それを見て、父親は困ったように笑っていた。


 テレビを見ていたたかし君が父親の

「なんだこりゃー」

 と言う叫び声を聞いた。

 父親は外にタバコを吸いに出ていたのだが。

「どうしたお父ちゃん!」

 と母親が外に出て行く。

「おい、水槽を持ってこい、あの空の水槽を持って来い」

 と父親は言った。

 その空の水槽には、この前まで、ザリガニが住んでいたのだけれど、近所の野良猫に食べられてしまったのだ。

「早く、早く持って来い」

 と父が声を低くして母に言っている。

 たかし君は何があったのだろうと、開け放たれた玄関から、不安気に、外の暗闇を見ていた。

 すると、しばらくして、

「とった、とったぞ」

 と父親の声がした。

「たかし!たかし!ちょっと来てみろ、とったぞ。さあ、早く来い」

 と父親が言った。

 地面の上で逆さになった大きな水槽の中で、バサバサ、バサバサ、と何かが動いている。

「ほら、お前の言っていたトンボを捕まえてやったぞ」

 父親は、先ほど子供を信じていなかったにもかかわらず、そんな事は忘れて、自慢げに言った。


 次の日、たかし君は、水槽に閉じ込められたトンボを、早速学校に持っていった。

 もちろん、クラスの友達はビックリした。こんな大きなトンボは見たことがない。いくら田舎だといえ、こんなのは見たことがなかった。

 学校の先生も驚いた。図書室で百科事典を調べてもこんなに大きなトンボは載っていない。

 これは凄いトンボだと、数日後には新聞記者がやってきた。明日の夕刊に載ると言う。

 トンボは、餌も食べないのに元気にバタバタと羽を動かして暴れている。

 数日後、大学の先生がやってきた。この大きなトンボを研究したいので、ぜひとも譲って欲しいと言う。

 これは凄い事になったぞと子供達は喜んだ。

 このトンボを学校に持ってきた、たかし君も誇りに思った。

 こうして、この大きなトンボは大学の研究室に送られた。

 この大きなトンボの、その後の事は誰も知らない。


 しかし、大きなトンボ事件はこれで終りではなかった。


 大きなトンボが大学に引き取られて数日後。

 子供達が学校の裏山に足を踏み入れると、また大きなトンボが飛んでいた。

 それも二匹の大きなトンボが繋がって飛んでいた。

 子供達はその姿に呆然と見入った。

 そのトンボがスイスイと池の方へ飛んでいく。

 子供達はそれを追って走った。

 池に着くとそこには信じられない光景がひろがっていた。

 巨大なトンボが何匹も何匹も池の回りを飛び回っていた。

 恐怖した子供達は走って逃げた。そして家に帰って親に池の事を言った。

 さあ、何があったのかと、母親同士が話し合った。

 父親達が仕事から帰ってきてから、親達は池に様子を見に行く事にした。

 夕暮れ時の池には大量に大きなトンボが飛び回っている。

 なんてこったい。

 これは警察に知らせた方がいいとなって、警察と消防隊が池に来た。

 誰も彼も、大きなトンボが池の回りを飛び回るのを、ただ呆然と見入るばかりだった。

 この話はすぐに町長に伝わった。

 さて、この巨大なトンボは駆除した方が良いのだろうか?それとも放っておいて大丈夫なのだろうか?

 町で会議をした。

 駆除した方が良いのではないだろうか、ということに、話はまとまろうとしていた。

 しかし、トンボは、町の人々に駆除されなかった。

 なぜなら、また別の問題がすぐに起こったからだ。


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