第3話 未来からのEメール

「おーい、たかし、らんまるちゃんに水をやったかー?」

 父親が言った。

「いや、まだー」

 たかし君が言う。

 らんまるちゃんとは、家で飼っているヤモリの名前だ。

 らんまるちゃんのせわは、たかし君の仕事だ。

 たかし君の名前は、全世界中で知られる様になっていた。

 巨大昆虫発見の少年として、彼の名前が新聞で、大きく報じられたからだ。

 巨大昆虫と巨大爬虫類の出現現象を「たかしエフェクト」と学会では呼んでいた。

 外国からわざわざ、彼に会いにくるツアーまで組まれた。

 やってきた外国人が、たかし君と握手をして写真を撮る。

 インターネット上の写真に、一番多く写っているのは、たかし君だった。

 そんな有名人のたかし君は、普通の子供だった。

 巨大イモリの、らんまるちゃんに水を出していると、門の前に、隣の家のお姉さんがやってきた。

「たかし君、こんにちわ。えっと、ちょっといい?これ読んでみて。なんか、私のEメールに入っていたんだけど、どうも、たかし君あてみたいなのよ」

 たかし君は一枚の紙を、お姉さんから受け取った。

 たかし君は早速、そのEメールを読んでみた。


 「前略、たかし君はじめまして。たかし君にしか頼めないお願いがあります。なぜなら、未来には、たかし君の名前ほど有名な名前はないからです。たぶん、たかし君以外の人の名前を出しても、私達人類の問題は、解決しないからです。たかし君の名前は、たかしエフェクトと共に、未来でも語られています。まさに、たかしエフェクトが、人類の分岐点であったからです。だから、このEメールを受け取って、あなたがたかし君でないのであれば、是非にたかし君にこのメールを届けてください。お願いします。あなたの行動に、人類の未来がかかっているのです。このEメールは、全人類の全Eメールに、送信されています。未来から送信されています。たかし君、お願いです。私達を助けてください。お願いです、学校の裏の公園の横の神社に、石碑がありますよね。その石碑の下、三十センチメートルの所に、防水された入れ物に、瞬間接着剤を入れて、うめてほしいのです。お願いします。人類は今かなりピンチです。たかし君の力が、必要なのです。もし、あなたが、たかし君でないなら、あなたの力が、必要なのです。ぜひ、お願いします。たかし君にこのEメールを届けてください。お願いします。人類は本当にピンチなのです。このEメールが無事に、過去に届くことを祈ります。ひみこ」


 たかし君はお姉さんを見た。

「これさ、買っておいたから、どうぞ」

 お姉さんは、たかし君に瞬間接着剤を渡した。

「人類救ってあげてね」

 お姉さんはそう言って帰った。

 日が落ちてから外に出るなどとは自殺行為だったので、たかし君はその手紙と接着剤を持って家に入った。

 明日、学校が終わってから、埋めに行こうとたかし君は思った。


 次の日。

 たかし君は学校が終わると、学校の裏の神社に瞬間接着剤を埋めに行った。

 お茶っ葉を入れる缶に瞬間接着剤を入れて、それにビニール袋を何重にも巻いた物を、石碑の下三十センチメートルに埋めた。

「さて、本当にこれで未来を救った事になるのだろうか?」

 たかし君が公園に行くと、友達が虫を戦わせて遊んでいた。

 たかし君も虫を捕まえて、それを戦わせて遊んだ。

 夕方になると、夕焼けこやけが町のスピーカーから流れてきた。

 たかし君は暗くなる前に家に帰った。

「ただいまー」

 たかし君は家に入った。

「ああ、たかし。なんか、こげんに沢山郵便が届いているよ。なんだろねえ?」

 おばあさんが言った。

 居間のテーブルには大きな荷物が数箱、それと沢山の封筒が置いてあった。

 その郵便には全て、たかし君の名前が宛名に書かれている。

 たかし君は早速、その大きな荷物を開けた。

 箱の中には大量の瞬間接着剤が入っている。

 それに、手紙が入っていた。

 その手紙には、昨日隣のお姉さんがたかし君に持ってきた手紙と、同じ事が書かれていた。

 それに書き足して、

「どうか、人類の未来を救ってあげてください、お願いします」

 と書いてあった。

 次に開けた箱にも瞬間接着剤と同じ内容の手紙が入っていた。

 そして、全ての封筒に、瞬間接着剤と、同じ内容の手紙が入っていた。


 次の日も、瞬間接着剤の入った郵便物は、たかし君の家に届いた。

 数日後には、海外からも瞬間接着剤が届いた。

 それから毎日、たかし君の家に瞬間接着剤が届いた。

 家に入りきらないほどの瞬間接着剤が届いた。

 一日に、郵便局の軽トラで、五回ほど運ばれるて来る。

 たかし君の一家は困った。

 たかし君は隣の家のお姉さんの所に行った。

「お姉さん。Eメールのアドレスを教えてください」

 たかし君は、お姉さんのEメールアドレスが書かれた手紙を持って、学校の裏の神社に行った。

 そして、石碑の下に埋めたお茶っ葉を入れる缶を掘り出した。

 缶の中に瞬間接着剤とその手紙を入れる。

「お願いだから僕に用がある時は、このメールアドレスに連絡してください。全世界を巻き込まないようにしてください。僕の家は瞬間接着材で埋もれてしまった。とても困っています」

 未来への手紙にはそう書いてあった。


「たかし君、人類の未来は救えたのか?」

 朝のホームルームで先生が言った。

 先生のところにもEメールが届いたのだろう。

「バッチリです」

 たかし君はそう言ってから、歯をキラーンとさせた。


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