スナネコの、騒ぐほどでもない一日

藤原マキシ

騒ぐほどでもない一日

「ふわぁーあ」

 巣穴の中で眠っていたスナネコが、目を覚まして、大あくびをした。

 上半身をむっくりと起こして、巣穴の天井に届くくらい、大きく伸びをする。


 夜行性のスナネコが起きたのは夕方で、巣穴の入り口から見える外の砂漠は、夕日のオレンジに染まっていた。


 起きたばかりで、まだ眠い目をしたスナネコは、しばらく、ぼーっとしている。

 夕日を見ながら、大きな耳と、しましまの尻尾しっぽだけが、ピクピク動いていた。



「昨日は、楽しかったなぁ」

 昨日出会ったサーバルとかばんちゃんのことを思い出して、スナネコがつぶやく。


 二人は、バスっていう、変な乗り物に乗せてくれたし、ボスがしゃべるところも見せてくれた。

 一緒にジャパリまんを食べて、そのあと、二人が巣穴から地下のバイパスに抜けるのを、穴を掘って手伝った。


 あのときはそれで満足してしまったから、付いていかなかったけど、今になって一緒に行けば良かったなって、スナネコはちょっと後悔している。



 ぐるるる


 スナネコのお腹が鳴った。

 夕日を見ながら、朝ごはんの時間だ。


 スナネコは、砂に埋めておいたジャパリまんを掘り出して、一つ食べた。

 食べながら、今日一日、どんな面白いことが起きるんだろうって、考える。



「そうだ、また、サーバルとかばんちゃんが来るときのために、穴を掘っておこう!」

 あの、バスっていう大きな乗り物が通りやすいように、バイパスと繋がる穴を広げようって考えた。

 そうすれば、また、二人がバスに乗って遊びに来るとき、楽にここに入れる。



 食事を終えると、スナネコは砂に爪を立てて、穴を掘った。

 途中で飽きて、掘るのを止めて、ちょっと寝て、また起きて掘った。



「あれぇ?」

 途中まで掘ったところで、爪が、何かかたいものに引っかかる。


「なんだろう?」

 スナネコは首をかしげた。

 それは、硬くて大きなかたまりだった。


「なにこれ、面白そう!」

 好奇心旺盛なスナネコは、砂の中にあった硬い物を掘り出そうと、砂をいた。

 一生懸命、その大きな塊の周りを掘る。


 しばらく掘り続けて砂の中から出てきたのは、スナネコが見上げるくらい、大きなものだった。


 あの、かばんちゃん達が乗ってたバスよりも、もっともっと、もっと、大きい。



 全部掘り出してみると、それは、上と下に大きさが違う箱があって、二つが重なって出来ていた。

 どっちの箱も硬くて、爪で引っ掻いても、少しも傷が付かない。

 砂漠と同じ色をしているから、目立たないように擬態ぎたいしてるのかもしれない。


 下の箱は上の箱より大きくて、バスのタイヤみたいな、丸い物がたくさん付いてる。

 上の小さい方の箱には、前につつが生えていた。

 太くて長い筒で、先っぽに穴が空いている。

 筒の中は空洞で、穴が箱まで繋がっていた。


「これ、動くのかなぁ」

 ボスがバスを動かしてたみたいに、これも動くんだろうか?

 スナネコは、上の箱に登ってみた。


 上の箱の天辺てっぺんには、取っ手があって、引っ張ると、それが開く。

 そこから中に入れそうだ。


 天井の穴から顔を出せるのは、あの二人が乗ってたバスと同じだった。


 スナネコは、興味が引かれるままに、箱の中に入ってみる。

 バスと違って窓がないから、中は真っ暗だった。


「どうすれば動くんだろう」

 スナネコは、その中にあった、棒みたいなものとか、ボタンみたいなものとか、とにかく周りにあるものを全部押してみた。


 でも、ボスが動かしたみたいに動かない。

 うんともすんとも言わない。


 色々いじっていたら、突然、


 どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!


 と、すぐそばに雷が落ちたみたいな音がして、箱が揺れた。


 すごい振動で、スナネコは箱の中でひっくり返りそうになったけど、くるっと一回転して、上手く着地する。

 そこは、猫の本能がちゃんと働いた。



「び、びっくりしたぁ」

 大きな音で、耳が取れちゃうんじゃないかと思った。


 箱の外に出てみると、辺りに、なにか焼けたような、焦げ臭い匂いがする。

 箱から生えた筒の先っぽから、煙が出ていた。

 焦げ臭いのは、その煙の匂いだ。


 見ると、地下道のバイパスに、ぽっかりと穴が空いていた。

 筒の先が向いていた方向に、地面が破れて星空が見える。

 穴は、地下から地表まで繋がっていた。


 筒の先っぽから何かが出て、穴を開けたのかもしれない。



「すごいなぁ」

 スナネコは、その大きな塊を見上げた。


 こんなものが、あのバスみたいに動いたら、大きなセルリアンだって、簡単にやっつけられるかもしれない。

 これがあれば、もう、セルリアンを見て逃げ回る必要はないかも……


 すごい物を掘り出してしまった、と、スナネコはびっくりしている。



「でもまあ、騒ぐほどでもないか」



 今、あれだけびっくりしたのに、スナネコはもう飽きてしまったらしく、大きな塊に背中を向けて、自分の巣穴に戻った。

 砂が崩れて、その塊がまた地中に埋まっても、スナネコは気にしない。


 だって、飽きてしまったから。



 砂を掘ってお腹が空いたスナネコは、ジャパリまんをもう一つ食べて昼寝した。

 昼寝といっても、今は、真夜中なんだけど。


 昼寝しながら、スナネコは、サーバルとかばんちゃんの夢を見た。

 また、三人で遊ぶ夢を見て、幸せそうな顔で寝ている。



 これがスナネコの、騒ぐほどでもない一日だ。



 後で博士に聞いたら、スナネコが掘り出したのは「せんしゃ」っていう乗り物で、ジャパリパークにはこれ以外にも、壊れたのが何台か埋まっているらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スナネコの、騒ぐほどでもない一日 藤原マキシ @kazz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ