ひとりぼっちのミナミコアリクイ

@zatou_7

はじめての友達

「なんだよぅ!あっちいってよぅ!」

「す、すみません・・・サーバルちゃん、ほらいこう?」

「うん、ばいばーい」

 

「またやっちゃった…」


 折角であった見知らぬフレンズ二人の背中を木陰から見送りつつミナミコアリクイは自己嫌悪に浸る

 動物だった頃からの自分の臆病な性格と咄嗟に威嚇してしまう自分の習性にいい加減嫌気がさしてきた

 仕方のないことだと片付けられる問題ではない、この広いジャパリパークでいつまでもこんな調子でフレンズを寄せ付けず一人孤独に生きていく事はあまりにも辛い

 自分の力で生きていくのがパークの掟だが、だからといって孤独で良い訳がない・・・時には手を取り合って辛いことも楽しいことも分かち合える友達が欲しい

 そう願っているのに今日もまた拒絶してしまった・・・本当はそんな気はみじんもないのに何故?


「寂しいよぉ・・・お友達・・・欲しいよぅ・・・」


 寂しくて寂しくて涙がポロポロとこぼれてきた

 ここ、じゃんぐるちほーには沢山のフレンズがいる、目を凝らして道を歩けばすぐにフレンズに会えるほどに

 だがそんな環境であってもフレンズとの遭遇を避けるように歩くことが身に染み付いていた


 悲しみにくれながら道なき道をトボトボとあるいていると何やら気配を感じた


「だ、誰かいるのぉ!?」


 周りを見渡してみるも特に人影のようなものもなく辺りからは風が葉を薙ぐ音しかしない

 辺りをキョロキョロ見渡していると背後から気配がした


「うわぁ!」


 さっきまで居なかったのに背後にいきなり見慣れないフレンズが立っていた


「なんだよぅ!あっちいってよぅ!」


 いつものように腕を振り上げ威嚇のポーズでまたいいたくないことを口走ってしまった

 しかしどうしたことだろう、今回に限っては何かが違う、いつもならすぐに相手は立ち去ってしまうのに

 この目の前のフレンズ、鋭い目でこちらをジッと見つめてる、ものすごい眼力で睨まれているかのようだ


「な、なんだよぅ・・・」


 見つめられているだけなのに思わずたじろいでしまった

 特徴的な羽のような髪型から鳥類のフレンズであることは明白だが

 なぜこちらをじっと見ているかが分からない、緊迫した空気が漂う

 しかし、その空気を破るように目の前のフレンズは口を開いた


「ご、ごめんなさい…驚かせてしまって…わたし、つい相手じっと見て・・・こう、機を伺ってしまうの、だからよく誤解されてしまって…怒ったり睨んだりとかそういうつもりはないの、つい…その…習性で…本当にごめんなさい」


 似ている、この子も自分と同じような悩みを抱えていた、習性からくる自分行動で相手に誤解されてしまうというのは自分も同じだ

 目の前のフレンズについ自分の姿を重ねてしまった、だがこの子は自分と違い誤解を解こうとしたそこは自分とは違った

 だがあたしもこのままじゃいけない、ずっとそう思ってきた、この子なら・・・この子になら言える


「あ、あのぅ・・・その・・・こ、こんにちはっ!あたしミナミコアリクイ!」


 震えるような声だが自分の言葉で相手に話すことができた


「こんにちは、私はハシビロコウ、へいげんちほーから来たの」


 ハシビロコウ・・・やはり鳥のフレンズだった、じっと見られていたので怖かったがとても可愛らしい声をしている


「は、ハシビロコウはなんでここに?」

「サバンナに行こうと思ってるんだけど私そんなに長く飛ぶのが得意じゃないから…休み休み飛んでるんだけどたまたまさっき着地したころにアリクイがいたの」

「そうだったんだぁ」

「それとさっきはごめんなさい、怖がらせちゃった?私よくほかのフレンズ怖がられてしまって・・・」

「ちょっとだけ・・・ちょっとだけ怖かったけどぉ、怒ったりしてないって言ってくれたし、それにぃ・・・ハシビロコウの声がすごく可愛かったからもう大丈夫だよぅ」

「よかった…」

「あ、あのさぁ、よかったらサバンナならこのさきだから案内するよぉ」

「本当に?ありがとう!」


 はじめての事だった、こんなに初めて出会ったフレンズと話すのも自分から道案内を買って出るのも

 サバンナへの道すがらハシビロコウに悩みを打ち明けた


「私も・・・本当はもっとこうやって気軽にみんなとおしゃべりしたいのに、誤解されてしまってうまくしゃべれないんだ」

「あっち行ってってつい言っちゃうから友達がいなくて寂しいんだよぅ・・・」

「じゃあ私が友達になるってどうかな?」

「え!?」


 突然のことで我が耳を疑った、自分がずっと欲しいと願った友達

 欲しくてももつことができなかった友達になってくれるとハシビロコウが言ってくれた

 驚きと嬉しさで頭の中がぐちゃぐちゃになった

 一時の静寂のあと息をのみ、アリクイは言った


「あたしとお友達になって欲しいよぅ!」


「うん!これで友達だね、よろしくねアリクイ」

 鋭い目つきだがアリクイにはハシビロコウが微笑んだのがわかった

 はじめての友達ができた嬉しさで、嬉しい涙が目からホロリとアリクイの目からこぼれた


 サバンナの入り口までたどり着いた二人

「ここから先がサバンナだよぉ」

「うん、案内ありがとう」

「あのぅ、また・・・また遊びにきてよぅ」

「もちろん!それじゃあまたねー」

「うん!またねぇ!」


 スゥとサバンナに向かって飛んでいくハシビロコウの姿が小さくなるまで見送った

「またねかぁ・・・」

 ”さよなら””バイバイ”とは言われたことはあるが”またね”と言われた事は無かった

 ”またね”は”さよなら”とは違う、また会おうねという意味も含まれてる

 はじめての友達と再会を楽しみにしながら、新しいともだちがきっとできると希望を胸に抱き

 今までの臆病で習性に負けっぱなしの自分から一歩成長できた気がしたミナミコアリクイだった。

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