5話 『死霊の術者』
「のけい!」
ギルドマスターが骸骨を蹴散らす。骸骨たちは鎧ごと砕かれ、地面に散る。砕かれた骨はカタカタと震え、再び一つに集まろうとしていた。これをいちいち相手していたのではキリがない。
「おやっさん!」
「ルシード、無事か!」
「ああ、オレは大丈夫だ。それよりおやっさん、こいつら一体……」
「話は後だ! ジャンはどこだ!?」
「最初の分かれ道で落とし穴に落ちた。もしかしたらまだ、下に」
「なにぃぃっ!?」
落とし穴? 以前同じルートを通った時にはなかったはずだ。それにこの遺跡に地下があるとは、ギルドマスターである彼も知らないことだった。
試験官は夢見の水晶で知っていたはず。なのになぜ報告しなかったのだろうか。今は考えても仕方のないことだった。
「最初の分岐点か……くそう、間に合うか」
骸骨や腐敗した獣たちが近づいてくる。その数はおびただしい。
「すべて相手にはしてられん! 一気に抜けるぞ、ルシード!」
「わかった!」
二人は力を合わせ、異形の群れを突破していった。
「まさかこんなにうまくいくとは思いませんでしたよ。さすがっスね」
黒いフードを深くかぶった男は、彼の言葉に微かに口端を歪めてみせただけだった。
「しかし、あの死者の数、尋常じゃないっスね。一体ここ、なんなんスか」
黒いフードの男は、静かに遺跡に振り返る。
「ここはかつての”処刑場”ですよ。罪人たちの憎悪が渦巻くこの場です。死霊術が成功して当然でしょう」
それでも、あれだけの死霊を呼び覚すことができる術者はそうそういないだろう。
(ありえねー。この人、パねえっス。やばいっス)
極力かかわりたくない人物だ。組まされた自分の不運を呪うしかなかった。
「待ちなさい!」
「――ほう、予想以上に早いですね」
黒いフードの男は口元に不敵な笑みを浮かべたままでいる。
「やはり貴方でしたか。死霊術を使って死者を目覚めさせたのは」
黒いフードの男は答えない。
「……今度こそ捕らえます」
「くくく。できるのですか、貴女に」
男から冷気が放たれた。得体の知れない、黒い何かが渦巻いている。周囲にただならぬ気配が漂い始めた。
死霊がゆらりと集まってくる。
「生に飢えた死霊と死を望むあなた……くくく、見ものですね」
彼女はするどく舌打ちをした。
ここで終わりにしなければ。そうしなければ、大変なことになる。
覚悟を決め、彼女は死霊とその男へと向かっていった。
エターナル・ファンタジー ~女神の涙~ るーいん @naruki1981
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