4話 『覚悟』
「どうだ、ルシードの調子は」
試験官が声の方向に向き直る。ギルドマスターが様子を見に来たのだ。
「調子は良さそうですよ。彼はまぁ、大丈夫でしょう」
”夢見”の水晶を覗き込みながら、試験官が言った。ギルドマスターは水晶に映るルシードの姿を確認してふんふんと頷いた。
「一応聞くが、ジャンは?」
「予想通り、彼は厳しいでしょうね。あ……これは」
「どうした」
水晶が急に色を失い、大きくひび割れた。
「問題発生です。こいつはまずいですね」
ドス黒い気配が充満していくのがわかった。異様な雰囲気が漂ってくる。
「……この気配。死霊術だな」
「ええ。しかし一体、誰が」
「教会の連中か?」
「教会の妨害にしては手が込んでいますね。それに教会の連中は死霊術を嫌うはずです。そもそも、死霊術などという禁呪を扱えるものなど――」
ふと、思い当たる顔があった。しかし試験管はそれを口にはしなかった。
「とにかくだ。ルシードたちが危ないな」
「マスター。ルシードたちをお願いします。わたしは術者を追います」
「追えるのか?」
「ええ」
試験官は頷いた。それは夢見の水晶が教えてくれるはずだ。こんな恐ろしい術を使いこなす”ヤツ”を野放しにはしておけない。試験官は水晶が導くままに駆け出した。ギルドマスターはそれを見届けた後、遺跡へと急いだ。
――動け。動け、動け、動け!!!
恐怖に凍てついていたジャンの足が、ようやく動いた。
はやく逃げなければ。しかし、どうやって? どこに?
「ひゃあっ!」
スライムは、骸骨が突き出してきた錆びた槍の直撃を受けた。
「お、おい……大丈夫か!?」
「は、い」
液状のスライムには物理攻撃がほとんど効かない。しかし、錆びた槍には毒のようなものが付着しているらしい。スライムはそれによりダメージを受けていた。
「ぼくなら大丈夫です。ジャンさんは、逃げてください」
微量の毒ならば、中和できる。しかし、数が多すぎる。ジャンが逃げる時間を稼ぐことも難しいが、やるしかない。
逃げる?
こいつを置いて……逃げる?
ジャンは後ずさった。
そうだ。それがいい。こいつは勝手に自分のところにやってきて、勝手についてきているだけの存在だ。
遅かれ早かれ、どこかに売り飛ばすことになっていただろうし、何の義理もない。見捨てて逃げるのが一番だ。
そしてジャンは、決意した。
「――ふざけるなっ!」
ジャンは叫んだ。
こんなちっぽけなスライムやろうに守られるだと? 情けない。
俺はまた、守れないのか。守られるだけなのか。
戦わずして、逃げるのか。
俺は、強くなるんじゃなかったのか。
ジャンは深く息を吸い、しばらくしてから吐き出した。そして静かに槍を構えた。
「力を貸してくれよ……あの時みたいに!」
ジャンは骸骨に向かって槍を突き出した。ガシャリと音を立て、骸骨が崩れ落ちる。その眼窩の目に宿っていた炎が、ふっと消えた。
やれる。この槍の力があれば、戦える。
「かかってきやがれ! まとめて相手してやる!」
身体の震えは止まらない。しかしジャンは、前に出た。自らを奮い立たせるように、叫び、そして骸骨の群れに飛び込んでいった。
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