2話  『落ちた!!!』

 ラスカの遺跡。考古学者ラスカが発見した広大な遺跡である。ここには”罠”が多数存在しているという。異形のモノ――モンスターの姿も目撃されている。


「さて。試験内容は至極単純です。この遺跡の中のどこかにある、赤い宝石を3つ入手して来てください。制限時間は日が落ちるまでです」

 試験官は簡潔に述べた。

(日没までか……あまり時間がないな)

 今の時期は日が長いが、広大な遺跡を巡るには時間が足りない。範囲を絞るべきか。ルシードは表情を険しくする。

 事前に情報を得たところ、それほど手ごわいモンスターは徘徊していない。それよりも厄介なのは罠だ。それをいかに回避するか。慎重に行動すればするほど、宝石を探す時間がなくなるというわけだ。


「ところで、ジャンさん。そちらの子供は?」

 試験官が目をやる。ジャンの隣には小さな子供。ジャンと同じ青い髪をしているが、彼に子供がいる話は聞いたことがない。試験官は首を傾げた。

「こいつはまぁ、あれだ。俺のパートナーだ!」

 ジャンがそう言うと、子供はにっこりと笑った。

「確かに今回、同階級に限りですがパートナーの同行は禁止していません……しかし、子供」

「うるせぇな。こいつはただの子供じゃないんだから大丈夫なんだよ。時間がねぇんだからとっとと試験始めようぜ!」

「……いいでしょう」

 確かにただの子供ではなさそうだった。試験官はその子供から何か異質な雰囲気を感じ取っていた。もし、ただの子供だとしても、それを守るために行動するということは、ジャンにとって大きな不利となる。

(万が一に備えての”監視”もあります。まぁ、大丈夫でしょう)

 試験官はその子供の同行を許可した。

 それにしてもパートナーの同行が許されていたとは。知らなかったルシードは肩を落とした。もっとも、同行してくれるような仲間はいないのだが。


「それでは試験を開始します。ご健闘を」

 試験開始。ルシード、ジャン、そして子供は遺跡に足を踏み入れた。


 最初に、いきなり分かれ道があらわれた。

「俺は左を選ぶぜ! ルシード、お前は右に行けよ!」

「別に競争じゃないんだから、一緒に行動した方が……」

「何ぬかしてやがる! これは競争だ! どっちが早く、赤い宝石を3つ手に入れられるか、勝負だぜ!」

 やれやれとルシードはため息をついた。どうしてこの男はこんなにも自分に敵意を剥き出しにしてくるのか。


「ところでジャン。やっぱり、そいつはあの塔の……」

 そうだ。あのスライムだ。ルシードには、ジャンの後にぴっとりとついている子供の正体がすぐにわかっていた。どういった経緯で今、ジャンと行動しているというのだろうか。

「どうでもいいだろ、今は。気にするな。じゃ、俺は行くぜ!」

 ジャンは颯爽と駆け出した。新しい冒険の始まりだ!


「うわぁぁぁぁ!」

 ジャンの姿が突然消えた。

 落とし穴だ。

 スライムは、落とし穴を覗き込んだ。そしてルシードに一礼をすると、ジャンの後を追って落とし穴に飛び込んでいった。


「いてててて……どうなってるんだ、ちくしょう!!」

 下からジャンのわめき声が聞こえる。無事のようだ。ルシードはまた、ため息をついた。とりあえず、ジャンのことは放っておこう。

 こんなところで足踏みしている時間はない。オレは、オレの道を進むだけだ。ルシードは右の道を進み始めた。

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