第3話 事件1
「はいはいみなさんに報告ー!」
いつも通り部活をしていると、優がなにやら言い始めて私を連れてきた。
「どうしたの?」
「土曜日から!俺、伊藤優とこの人斉藤雪は付き合いました!」
私は驚いた。恥ずかしくて赤くなってしまった私を見た優は頭を優しく撫でてくれた。
細くて小さくて年下の優と、ポッチャリで大きくて年上の私。この普通とは正反対なカップルの私たちはみんなから祝福され、いじられた。
そして誰よりも喜んだのは、昌と海だった。
「優おめでとー!俺ら協力した甲斐あったな!」
昌の言葉にびっくりした。
「協力?」
「うん。美雪の事誘えたのはこいつらのおかげ」
優は照れくさそうに言った。
毎日が幸せだった。毎日一緒に卓球して、毎日話して、毎日2人で帰って。
そんなある日のことだった。
一つ目の事件が起きた。
いつも通りのお昼休みだと思っていたが、その日は違った。
「一年の教室に大が乗り込んで一年の人と喧嘩してる」
「殴り合いだって」
そんな話が聞こえてきた。
大とは、同級生の男子。クラスが違うので、あまり話したことなかった。
殴り合いとか凄いな〜なんて呑気に思っていたら、昌が血相を変えて私のところに来た。
「雪!」
「え?どしたの?」
息を切らした昌は明らかに慌てて様子が変だった。
「はぁ…はぁ、雪っ…はぁ、優が大に喧嘩売られて…それで買って今、殴り合いしてる」
気付いたら私は走って優の教室に行っていた。
昌の止める叫び声と腕も振り払った。
急いでいくとそこは騒然としていた。
二人の叫び声もしていた。
野次馬の中に入って教室を見ると、机や椅子もグチャグチャで、瞼から血を流して立つ大と口から血を流して立つ優の姿があった。
止めようとしたその時だった。
「雪に手ぇ出しやがって!」
大の声だった。何の話かわからなかった。
「言い方悪ぃな。雪はお前となんの関係があんだよ!」
優が叫んだ。
「一目惚れしたんだよ!おめーより先に!」
大も叫んで優を殴ろうとした。
「やめて!」
私は咄嗟に叫んだ。一瞬にして周りはシーンとした。
「2人ともやめて!」
「ゆ…き?」
2人は驚いた様子で私を見た。
「昌が、教えてくれたの。なにがあってこんななってんのかは知らないけど、もう怪我するようなことはしないでよ!」
「おい!何事だ!」
私が言った瞬間、先生5人くらいが入ってきた。
「怪我してるじゃないか。誰か保健室!」
「先生。私連れていきます」
私は挙手して2人を連れていった。
「雪…」
優が心配そうに声をかけてきた。
「喋んないで。口元切れてるんだから。」
なにも言ってほしくなかった。
「…ごめん」
大が謝ってきた。でも私はそれを無視した。
「お大事に。優、今日は部活休みな?別々に、帰ろう。じゃぁ。」
私はそれだけ言い残して保健室を出た。
「雪」
声がしたので振り向くと、昌がいた。
「昌…優が…優がぁぁ」
私は思い切り泣きじゃくった。昌はそんな私をただただ抱きしめてくれた。
「優…怪我してて…それで、血出てて…私のせいで…私…優…」
涙が止まらなかった。
「大丈夫だよ。優の怪我はどうってことないから。大丈夫だから。ね?雪泣いてたら優に笑われるよ?」
昌なりの慰めだった。
その日、優は部活に来なかった。初めて優のいない部活を過ごした。
あの後先生にも呼ばれ、何があったのか説明するよう言われたが、本当に何もわからなかったからすぐに開放された。
後から聞いた話では、大は私に一目惚れをして好きだったが、優が私と付き合った事で怒ってしまったらしかった。
それで殴り合い…私は、優といちゃいけないと思った。
喧嘩から2週間後、私は優を呼び出していた。あの、告白された所に…
「雪?どした?」
優と話すのは、喧嘩の時以来久しぶりだった。
「優…もう傷、治ったの?」
「うん、ただの切り傷だよ!」
優は明るく放った。
「優」
でも私は明るくなんてならなかった。
「ん?」
「私たち、別れよう?この前の喧嘩でわかったの、一緒にいたらダメなんだって。たった一ヶ月だったけど、楽しかったよ」
優は何も言わず、涙を流した。
9月の出来事だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます