第2話 突然

それからというもの、優との仲が縮まるのに時間は経たなかった。

優の敬語もほんとに最初の一ヶ月くらいだった。

そして8月になり暖かくなってきたある日の話。

「雪〜おっつ〜」

後ろから肩をポンとされた。

「優か、おつ」

私より5センチくらい背の小さい優は小動物みたいで可愛かった。

「ねね、今日放課後遊ばない?」

優からの突然の提案だった。

指定された場所は体育館裏。部活終わりの7時半くらいで、もう薄暗かった。

5分経っても来なくて、1人で暇していると遠くから誰かが走ってきたのが見えた。

「はぁはぁ、ごめん!!遅くなった!」

優だった。

「もう、遅いよ!」

私が言うと、優はヘヘッと笑った。

「んで、どしたの?」

聞いた瞬間、なぜか黙り込んだ。私はずっと待っていた。

「優?」

「あの、さ。突然で申し訳ないけど…」

私は唾を飲み込んだ。

「俺…ずっと雪の事好きだった。だから付き合ってください」

突然の告白だった。嬉しかった。初めての告白だった。

でも私はすぐには返事を出せなかった。優と出会って4ヶ月。色々楽しかった事があったけど、それでも付き合ったことのない私にとって、彼氏とはどういうものかわからなかった。

「ごめん…考えさせて?」

私が言うと、優は一瞬黙り込んで、すぐいつもの笑顔に戻った。

「そっか、こんな遅くまでごめんね、帰ろっか」

優が言って私に背を向けた。

私もその後をついて行って2人で自転車を走らせた。

「びっくりした?」

「うん、少し」

いつもみたいに会話が盛り上がらなかった。

「返事さ、今週の土曜日の中体連の時に聞かせて?」

明後日の話だった。

「…うん、わかった」

次の日から、正直気まずくなって話せなくなると思っていた。

恐る恐る部活に行くと、優が昌と話していた。

いつも通りの姿にホッとしながらカバンを置いていると、後ろから肩をポンとされた。

「やっほ」

優だった。

「あっ、やっほ!」

私は慌てて笑った。

「かーお!引きつってるよ!昨日の事そんなに気にしなくていいから!土曜日まで忘れろ!」

優はどこまでもポジティブだった。

そして、土曜日。

優も私も試合に出るけど、お互いそれどころじゃなかった。

試合の帰りに人気のない公園に寄って、その時に聞くことにした。

優は初心者なのにいいところまでいった。私は3回戦敗退だった。

帰り道、2人で公園に向かっている時、何も話さなかった。お互い緊張していた。

公園は、人はいなくて周りも畑のところだった。

屋根の下にベンチが向かい合わせになっていてその間にテーブルがあった。

私たちはお互い向かい合わせに座った。

シーンとしている中、先に口を開いたのは優だった。

「そっち…なんか椅子汚くない?」

優が笑顔で言った。私は首をかしげながら、そこまで汚くない椅子を眺める。

「こっち来たら?」

ポンポンと自分で座っている隣を触った優につられ、私は隣に座った。

5センチくらい間をあけて座ると、優が少し近づいてきた。

私は緊張してしまい、動けず黙って俯く。すると優は気にせずジリジリと寄ってきた。

そして、手が当たるか当たんないかくらいになった時、優は私の手を握って自分の太ももの上に乗せた。

あったかくて、泣きそうになった。

その流れで私は自然に呟いていた。

「付き合っても、いいよ」

手が強く握られた気がした。

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