金曜日:『星の雨』

 休日を目の前に控えた金曜日がやってきました。今日学校へ行けばいよいよ土日です。


 そんな金曜日には、「星の雨」が降ります。


 私は、星の雨が降るのが金曜日で良かったなと思います。今日は金みたいに、光輝く日だからです。



 学校へは帽子をかぶっていきます。月曜日の水の雨と違って服が濡れたりすることはないので、頭を守る帽子だけで十分です。


 頭の上でパチパチと音がして、なにもしていないのになんだか楽しくなってきます。


 左手を前に出して、降ってくる星をその手のひらにわざとぶつけさせます。星がはじける瞬間は、チクチクして意外と気持ちいいです。


「しぐれ君もやってみなよ」


「うん」


 しぐれ君私と同じように左手を前に出します。すぐに、一粒の星が降ってきてしぐれ君の手のひらにぶつかります。そして、パチンとはじけ……。


「……あれ?」


 はじけませんでした。たまにこういう星も降ってくるのです。


、この星……」


「……そうだね」


 降ってくる星たちの形は いろいろあります。ピラミッドみたいな三角形の星とか、20個くらいとげのついたものとか。だけど全部トゲトゲしているので頭に当たれば痛いです。


 この星たちは、落ちてくる途中でいろんな光を集めています。昼間だったら太陽の光とかで、夜は、家から漏れる光だったり街灯の光だったり。こういう光をたくさん集めることのできた星たちは、何かにぶつかったときに光を出しながらパチンとはじけるのです。


 でも時々、はじけることなく地面に落ちてしまう星があります。それを私たちは「死んだ星」と呼んでいます。


 私は死んだ星を見つけたら、拾って家まで持って帰ります。死んだ星は、光を十分に集めることのできなかった星。そしてそうやって死んでしまった星は、一度何かにぶつかってしまうと、もう二度と光ることはありません。


 これも、お母さんが教えてくれたことでした。この話を聞いた時、涙が止まりませんでした。


 この星たちは、頑張って少しずつその硬い体の中に光を集めていたはずなのです。いつか光り輝く瞬間を目指して、一生懸命努力していたはずなのです。それでも、光ることができなくて、硬い体だけが地面に残されてしまいます。たくさんの仲間と空から降ってきたのに、たった一人で、取り残されてしまったこの星の、そばに居たいと思いました。そばに居て、見守っていこうと決めたのです。みんなは、もう二度と光らないと言うけれど、それでもいつか、その努力が実って光れる日が来ると、私だけは信じてあげかったんです。


 ■


 前に出していたはずの手の上に、もう一つ手が乗っています。これは……しぐれ君の手?


「え」


 いつの間にか、しぐれ君が私の手を握っています。ぎょっとしてしぐれ君の顔を見ると、すっごい笑顔です。ちょっとだけ、顔は赤いけど。


「ちょ、ちょっと何やってんの!? 急に女の子の手を握るとかもうアンタ何考えて――」


「そんな悲しい顔しないで?」


 そんなに悲しい顔をしていたのかな。しぐれ君は、心配してくれたみたいです。


「……うん。ごめんね」


 そうです。私は、誓ったんです。お母さんからあの話を聞いた、その夜に見たあの流れ星に。真っ暗な空に、二つの星同士がぶつかって、一本の金色の線を描いたあの流れ星に。


 私の隣には、いつだってしぐれ君がいてくれます。いつもふわふわしていて少し頼りないけど、私が悲しい顔をすれば、何も言わずそっと手を握ってくれるしぐれ君がいてくれるように、私もこの星たちのそばにいてあげようと、そう決めたんです。


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