第2話 赴亜味例巣〈寿限無〉
あなたは〈寿限無〉という話を聞いたことがあるだろうか? そう、あの〈寿限無〉だ。
この話はある夫婦の間に男の子が生まれたことで始まる。夫婦は男の子が健康に長生き出来るようにと、お寺の住職にありがたい名前をつけてもらうことにした。
住職が男の子のために次々と案を出して紙に書き、「この中から選びなさい」と父親に選ばせると、なんと「いくら御利益があってもありすぎることはない」と住職が出した案を全てつなげた名前を男の子につけることととなり……。
どうだろう? なんとなくは聞いたことがあるんじゃないかな?
この〈寿限無〉という話の面白いところは、なんと言ってもその語感の良さだ。
寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末、食う寝る処に住む処、やぶら小路の藪柑子、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助。
声に出して読んでもらえるとわかるかもしれないが、リズムが取りやすくなっているし、ぎりぎりひと息で言える長さになっている。ちなみに、五劫の擦り切れと五劫の擦り切れずの2パターンがあるのだけれど、あたしは五劫の擦り切れ派だ。そっちのほうが次の海砂利水魚の水行末につなげやすいからね。
ところで、今の話を念頭に置いてちょっと聞いて欲しいことがある。
それはあたしがあるファミレスでアルバイトを始めてから一週間ほど経った日のことだ。
以前から店の前を通る度に、女性店員の制服姿を見て可愛らしいなぁと感じていたあたし。次第に自分も着てみたいと思うようになり、意を決してアルバイトの募集に応募してみた。だからお金目的というよりは、制服目的での応募だ。
無事に採用され、働き始めてから一週間は経とうとしていたが、あたしはまだ親友である楓にアルバイトのことを話していなかった。長年の付き合いから、教えれば間違いなく冷やかしに来るとわかっていたからだ。ある程度仕事に慣れてからならともかく、今はまだ時期尚早。なので、エリや他の友達には絶対に楓に教えないよう口止めをしていた。
「いらっしゃいませ」
ドアベルの音に振り向き、入店してきた三人家族へと丁寧に頭を下げる。今では顔を赤らめることもないが、最初からこんな風に挨拶出来たわけではなかった。制服は制服でも、学校の制服とは違い、どことなくメイドチックなフリフリの制服姿を見られるのには少し抵抗があったというか。どっちかっていうとボーイッシュなタイプだしね、あたし。じゃあ最初からこの店に応募しなければいいという話なのかもしれないが、それはあれだ。思春期特有の複雑な乙女心ということにして欲しい。
そんなことを考えながら、客席から空いたお皿を下げていると、本日何度目か定かではないドアベルの音が聞こえてきた。
「いらっしゃ……あ!?」
途中で止まってしまったあたしのみっともない挨拶で、店内は妙な沈黙に包まれる。
あたしの視線の先には四人の女子高生がいた。
……それはいい。
その四人組はあたしのクラスメイトで、時間が合えばよく遊びによくメンバーだった。
それも……まぁいい。
問題は、なんでその中にあいつの姿があるのかって話だ。
「やっほー、あっちゃん! 奇遇だねぇ」
あたしの気持ちなんて知るよしもなく、笑顔で手を振ってくる楓。
そう。あたしが今もっとも来て欲しくない知人のひとりだった。
どうしてこんなことになってしまったのか。
「……誰だ言ったやつ? エリか?」
前髪を大きなピンで留めたエリをギロリとひと睨み。彼女は怯えるように首を横に振って身の潔白を訴えた。
「違う違う、違うってば! みんなでご飯食べに行こうってことになったんだけど、そしたら楓が『じゃあ学校近くのファミレスにしようよ』って!」
「……本当か?」
念のために確認を取ると、楓とエリ以外のふたりはコクコクと頷いた。どうやらこの必死な空気を察するに、エリの言っていることは本当のようだ。……まぁ、こんな学校の近くでアルバイトを始めたあたしが悪いか。これくらいのこと、予想しておくべきだった。いや、正確には、予想していたにも関わらず目をそらしていた。一種の現実逃避だ。
とはいえ。とはいえ、だ。まさかこんなに早く来てしまうかね? 我ながら運がないと大きなため息をついてしまうと、何も知らないはずの楓は嬉しそうに目を細めた。
「ねぇねぇ、あっちゃん。ちゃんと接客やってみてよ。私、あっちゃんの頑張ってるところが見たいなぁ」
「……くそがぁ」
いつもの癖で反射的に捨て台詞が出てしまったが、今は仕事中だ。深呼吸をして気を静め、マニュアル通りの接客を始める。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「えー? 見ればわかるじゃん。四人だよねぇ?」
「は?……おタバコはお吸いになられますか?」
「吸わないよぉ。そんなのあっちゃんだって知ってるでしょ?」
この野郎……。
規則通りの対応を楓に弄ばれ、あたしの肩はわなわなと震えていた。あたしだってわかってるっての! 目の前の人数も、あんたらが喫煙者じゃないってこともさ! 規則なの、規則! 杓子定規な規則なの! 聞かなきゃあたしがグチグチ言われんの! 社員の人に!
「……てめぇ、あとで覚えてろよ……それではこちらのお席にご案内いたします」
拳を思いっきり握りしめながらマニュアル通りのスマイルを浮かべる。今は我慢のときだ。明日学校で会ったらぶん殴る!
これ以上楓に関わっていたら我慢の限界をあっという間に超えてしまいそうだったので、お冷を取りに厨房へ。すると、男性社員の熊田さんに後ろから肩を叩かれた。
「どうしたの亜美ちゃん? あれじゃダメだよ。すっごく恐い顔してたよ? 笑顔、笑顔。笑顔で接客がウチのモットーだからね」
「……すみません」
素直に頭を下げるしかない。イライラするのは間違いなかったが、頭を落ち着かせる必要があった。店にいるのは楓たちだけではないのだ。
気を取り直し、四人分のお冷をお盆に載せて楓たちの席へと向かう。控えめに深呼吸をしてからお冷をテーブルに置くと、楓が元気よく右手を上げた。
「もう注文してもいーい?」
「……どうぞ、お伺いいたします」
随分と注文するのが早いと思いつつ、伝票とペンを取り出す。さっさと帰ってくれるならそれはそれで好都合だった。
「じゃ、エリちゃんから時計回りで」
「わ、私!? え、えーと……」
突然楓に振られたエリはまだ何も決めていないみたいだったが、あたしのご機嫌を窺うようにチラッと目を合わせると、慌てた様子でメニューを見始めた。
「し、シーフードドリアで」
「あ、私も!」
「わ、私も同じので!」
どうやらエリだけでなく他のふたりも気づいてくれたようだ。あたしの心の中で静かに燃え上がる苛立ちの炎に。
「シーフードドリアが三つ……楓は?」
軽く睨みながら尋ねる。楓も気づいているよな? この迸る早く帰れオーラに。
「んー、私結構がっつり食べたいんだよねー。とりあえずライス二つ」
「……はい、ライスがお二つ」
なんだとりあえずライス二つって。「とりあえず生」みたいな感じで言われても……。
どれだけがっつり食べる気なのか戸惑いながら確認のために繰り返すと、楓は激しく首を横に振って駄々をこねる。
「違う違う! ダメだよぉ、もっとリズミカルに言わないと。ライス二つじゃなくてライスライス」
「はぁ!? 何言ってんだお前?」
突拍子もないことを言うので反射的に強めのツッコミが出てしまった。背後からはわざとらしい咳払いが聞こえてきた。恐らく社員の熊田さんがあたしの様子を監視しているのだろう。
……ああもう!
「ライス、ライス!」
「お、いいねぇ。えーとねぇ、それにごぼうの煮付け。海鮮サラダもいいかなぁ。それに水餃子に焼き餃子に揚げ餃子。あとこの海老とエリンギのブロシェットって何?」
「ブロシェットっていうのはフランスのほうの串焼き料理だ……というか、まだ注文するのか?」
ライス二つの時点で女性にしては多すぎる感が否めなかったが、流石にこれは明確に多すぎる。楓とは長い付き合いなので、普段どれくらい食べるのか知っているつもりだ。ここまでくると、ちょっと心配になってくる。
「まだするよ、お腹ペコペコだもん! じゃあそのブロシェットとミートスパにタラコスパ。あとデザートは……」
ノリノリで注文を続ける楓に同席する仲間たちは引いていた。楓が注文が増えるたび、まだ何も食べていないにも関わらず苦しそうな顔になっていく。
「この普通のバニラアイス二つ。アイス、アイス、アイスのシュークリーム、あ、これも美味しそう! シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタにパンのバイキング!」
「……え?」
目をキラキラと輝かせながら注文を終えた楓に、あたしは疑問を抱かずにいられない。冗談で言っているようにしか思えなかった。けれど、社員がこちらをチェックしていることはわかっているので、いつまでも注文を確認しないわけにもいかない。
「えーと、ライス二つに」
「違うってば! ライス、ライスだよぉ」
「……ああもう! ライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキング。……以上でよろしいですか?」
「あとそれとドリンクバーで」
「ドリンクバー!? えーとライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングにドリンクバーでよろしいですか?」
「うん、おっけー! じゃあみんなのも合わせて最初から確認しよっか」
ニコニコと促す楓にあたしは殺意すら感じつつあった。先ほどから店内ほぼ全ての客が楓とのやり取りに聞き耳をたて、クスクスと声を漏らしていた。恥ずかしさで頬が熱くなっていたが、後ろをちらりと見やると、まだ社員の熊田さんがチェックしていたので、ここから消え去るわけにもいかなかった。
「……シーフードドリアが三つ。それにライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバーでよろしいですか?」
「え、違うよ。ライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバーだよ」
「あ? だからライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げっ!……つぅ、舌噛んじまった。えーと焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバーだろ? さっきもそう言わなかったか?」
「違うよ。さっきはライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバーって言ってたの! アイスは二つだよ。正解はライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバー」
「ああもう、わかったわかったわかった! シーフードドリアが三つ。それにライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバーでよろしいですね!」
「はーい」
楓のOKが出ると、あたしは怒り狂う猪の如く厨房に駆け込んだ。さながら暴走機関車のように深く息を吐き、厨房に向かってオーダーを叫ぶ。その心はどす黒い何かに蝕まれていた。
「9番のお客様、シーフードドリアが三つ! それにライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバーで!」
「え? 9番て四人でしょ? しかも女の子」
厨房を任されている先輩店員の石井くんはオーダーを聞くや否や怪訝そうな顔。餃子だけで考えても一皿七個なので計二十一個だ。石井くんが信じられないのも無理はない。
「いいんです。友達なんですけど、そいつ馬鹿なんで」
「あ、ああ、そう。それでなんだっけ? シーフードドリアが三つと……?」
「ライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバーです」
「ん? えっとライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバー?」
「違います。ライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバーです」
「……了解。デザートはあとでいいんだよね?」
デザートは基本的に主食の後に食べるものだ。ましてや楓の注文した量を考えると後で出さないとアイスは溶け切ってしまうだろう。なので普通なら石井くんの通りだったが、あたしはあえて首を横に振った。
「いえ。最後の注文は全部一緒に持って行きます。懲らしめなきゃいけないんで」
「……わかった。じゃあとりあえずシーフードドリアからやっちゃうね」
そう言うと石井くんは厨房の奥へと戻っていったが、話の通じる人でよかったとあたしはホッとしていた。もし社員の熊田さんに聞かれていたら「私情を持ち込むな」と注意されていただろう。
シーフードドリアはハイスピードで出来上がったので、それをお盆に載せ楓たちの席へと運ぶ。あたしのお盆の上に自分の料理がないことに気づくと、楓は少しだけ不満そうな顔をした。
「ねぇ、あっちゃん。私のライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバーは?」
「お前のライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバーは量が多すぎて時間がかかるんだよ。ちょっと待ってろ」
楓のオーダーを流暢に述べると、周りからニヤついた目を向けられたので急いで厨房に戻る。恥ずかしさはあったが、これからの復讐を考えると頬が緩んだ。
「石井くん。ライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバーはどうなりました?」
「えーと、ライスは終わって、ブロシェットと餃子待ちながらミートスパにタラコスパやってる。パンバイキングとドリンクバーはお皿とグラス持っていくだけでいいから……寺田さん、悪いんだけどデザートの盛り付け手伝ってもらっていい?」
「わかりました」
基本的にファミレスのデザートはほとんどが冷蔵あるいは冷凍しているものなので手間はかからない。が、この店にはこだわりがあるらしく、なかなかに煩わしいものだった。ましてや店内には他の客もいるので楓のオーダーに付きっ切りになることは出来なかったが、今日の楓の振る舞いを思うと自然と他の仕事にも精が出た。あの野郎、絶対残させないからな。人をからかいやがって。食えるもんなら食ってみろってんだ! ざまあみろ!
「おっけー! ライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバー出来たから9番さんに持ってっちゃって」
「はい、ありがとうございました」
出来上がったライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバーをまず四つのお盆に振り分ける。正直これを一回で持っていくのは限りなく無謀に思えたが、そこはこれまでの鬱憤でカバー。両手の手のひらと腕の部分になんとかお盆を四つ載せると、あたしは学友たちのもとへと急いだ。
「お待たせいたしました。ライス、ライス、ごぼうの煮付け、海鮮サラダに水餃子、焼き餃子に揚げ餃子、海老とエリンギのブロシェット、ミートスパにタラコスパ、アイス、アイス、アイスのシュークリーム、シュークリームの苺味、苺味のパンナコッタ、パンバイキングのドリンクバーです」
注文の品を読み上げながらテーブルに置ききると、あたしはそこでようやく友人たちの顔が青ざめていることに気づいた。
「……あれ? 楓は? トイレ?」
そういえばあれだけ騒がしかった楓の姿が見えない。おいおい、なんだよ人がせっかく持ってきてやったっていうのに。もう腕がパンパンだっての。まぁでも、あいつもこの料理の量をみたらビビるだろうな。
楓の驚いた顔を想像し、あたしが少しだけ口元を緩めると、エリは申し訳なさそうにこう言った。
「えっと、楓は料理来るの遅いから駅前のハンバーガーショップに行くって……」
「あの野郎……」
あたしの持ってきた料理はすっかり冷め、アイスはただの液体になっていたのだった。
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