打撃の女神

伊ホ・瓦ノ下ツツネ監督第一子出産 / 名勝スポーツ 2020年11月06日の記事


 伊豆ホットフットイージスの瓦ノ下ツツネ監督が6日、第一子を出産した。出産にかかった時間は約8時間。父、青森ダークナイトメア・オメガの砂林黒男監督と同じセグロジャッカルの男児。名前は当日中に砂林クロジと届けられた。二人はこれから2ヶ月間の育児休暇となり、チームへの復帰は来年1月6日、日米合同ニューイヤートーナメント以降となる。

 両チームとも今年のドラフトでそれぞれの監督のポジションを補充しているが、プロで通用するかどうかはまだ未知数。復帰後の二人の活躍にも期待したい。



 ◇ ◇ ◇



ケモプロで新生児続々誕生 / ゲーム系ニュースサイト 2020年11月13日の記事


 11月6日、ケモノプロ野球(以下ケモプロ)で初の出来事、赤ちゃんの出産が行われた。ケモノの選手によるリアルな野球を提供する本作は、選手の人生に対してもリアルを求めており、それがついに子供の出産までに至ったというわけだ。


 (写真:セグロジャッカル系ケモノの赤ん坊)

 /*6日に産まれた砂林クロジ。かわいい。


 6日に産まれたのは砂林黒男と瓦ノ下ツツネの間の男の子、砂林クロジ(ケモプロでは産まれた地域によって名称のルールが決まっており、日本リージョンでは選択式別姓+名となる)。プロの選手同士の結婚・出産ということで大いに話題になったが、その後も病院では子供が生まれ続けている。試合スケジュールに余裕のある二軍、三軍の選手と一般人(一般ケモノ?)の間のケースが多く、中には大学生同士の学生結婚もある。ケモプロ内での出産も、そのうち日常になっていきそうだ。


 (写真:病院内の新生児室。様々なケモノの赤ん坊が並ぶ)

 /*かわいい(確信)


 あくまでゲームの中での出来事ではあるが、AIについてのこれまでにない取り組みともいえる。世の中のAIは『即戦力』が求められているため、学習方法を効率化し、短期間で作成されている。ケモプロでもこれは同様で、現在は数時間以内に個性ある野球選手が作成可能という。

 ところが今回ケモプロで産まれたこの新たなAIたちは、寝て、泣いて、ミルクを飲み、排泄することしかしない。今の段階ではかわいい以外に何の役にも立っていないAIだ。到底即戦力とは言えない。彼らはこれからリアルタイムで体を成長させ、それに応じた学習をしていくことになる。つまり、人間の役に立つのはおよそ20年後で、しかも必ず役に立つかどうかは分からない。プロ野球選手にならないかもしれないし、テニス選手のように今後増えていくであろう別の進路を選ぶかもしれない。


 このような状況を鑑みると、果たしてケモプロで今回産まれたAIたちは、従来のAIと呼べるのだろうかと疑問を抱く。定められていないゴールに向かって、ゆっくりと成長し、変化していくAI。それはもう単なるAI(人工知能)ではなく、生命なのではないだろうか?

 もちろん、ケモプロはゲームで、不測の事態に備えてバックアップは取られており、AIの複製も可能だと開発者が答えている。しかし、コンピューター上の生命とは、もしかしたらそのようなものかもしれない。重要なのは我々人間が「命だ」と認識できるかどうかであって、そうであればすでにケモプロ内には生命体が存在するのかもしれない。筆者は今回のケモプロ内での出産を見てそう感じたが、読者の皆様はいかがだろうか。



 ◇ ◇ ◇



かわいい動物の赤ちゃん? / 全国紙の新聞・芸能面の記事 2020年11月10日の朝刊


 (写真:ベッドで眠るケモノの赤ん坊)


 写真はかわいい動物の赤ちゃん……ではなく、ケモノプロ野球リーグというゲームに登場する、動物を擬人化した人間の赤ちゃん。ゲーム内の野球選手同士の間に産まれたこの子が、野球選手になるまでおよそ18年の長い歳月を見守ることができるという変わったゲームだ。



 ◇ ◇ ◇



お祝いありがとうございます! / ダークナイトメア・オメガ公式ブログ 2020年11月10日の記事


(画像:砂林クロジの誕生を祝う花や粗品の数々。とその前に立つカラス系女子アバター)


 ハーッハッハ! 眷属のみんな! ヤミノウィングだ!


 今日はな! 最近球団の事務所に届いた供物を紹介するぞ!


 砂林黒男監督の第一子、砂林クロジの誕生祝いに様々な贈答品をいただきありがとうございます。品物の画像については夫妻へ送らせていただき、食品については担当者でいただきました。


 いやまさかな! KeMPBの事務所だけでなく、こっちにも届くなんて思ってなかったぞ!


 伊豆ホットフットイージスの『あしのゆ』にも届いたみたいだし、そっちのブログも見るがいいぞ!


(画像:ベビーベッドの中のクロジ)


 それにしてもクロジはかわいいなあ! 抱っこしに行けないのが悔しいぞ!



 ◇ ◇ ◇



パ・リーグ、CS14日より開催 / スポーツ仙人掌 2020年11月10日の記事


 2020年のパ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)が14日から開催される。アドバンテージ1勝を持つのが、レギュラーシーズン1位の……──


 (中略)


 ……──、3戦先取の4試合制、開催期間は14~17日までとなる。例年は「4勝先取の6試合制」だったが、コロナ禍で試合数を削減した今年はより1勝の重みが増したCSとなる。特に重要な初戦には誰を先発させるのか。両チームとも4日休養のあるスケジュールとなっており選択肢は豊富だが、やはりここは天間投手……──



 ◇ ◇ ◇



CSローテ決定、初戦は天間 / スポーツ仙人掌 2020年11月11日の記事


 (前略)


 ……──初戦に置くのはニューヒーロー天間。シーズン8勝とプロ3年目も好調、短期決戦での勝負強さに期待する。2戦目を託されたのは……──


 (後略)



 ◇ ◇ ◇



 / Twitter 2020年11月17日


名勝スポーツ 野球部 @xxxxxxxx・11月17日


 CSもいよいよ大詰め! 負けも引き分けも許されない最終戦! 今回は山形の英雄、天間大地投手にインタビューをしてきました! [動画リンク]


【動画内容】


 ユニフォームを着てインタビューを受ける天間。


──今日はCS最終戦ですが、意気込みはいかがですか?


『引き分けも許されない崖っぷちですからね。チームとして勝つぞ、と気合を入れているところです』


──指名打者での出場となりますが、プレッシャーは?


『もちろんありますよ。でもそれより、今季あまり打撃成績を残せていない中、初戦の挽回の機会を与えてもらって感謝しています。今日の相手はサン君だけど、上手く打ち崩していきたいですね』


──今日勝てば日本シリーズでのタイガ投手との対決も実現しますね。


『? そうですね。もちろん、いろいろな投手と戦えるのは楽しみです。数少ない別リーグとの対戦機会ですからね、ぜひモノにしたいです』


──ありがとうございました。


『応援よろしくお願いします!』



 ◇ ◇ ◇



 11月17日。


『さあパシフィックリーグ・クライマックスシリーズ最終戦、いよいよ大詰め』


 私室に置いたテレビを、万年こたつに入りながら見る。


 感染症対策のため間隔のあいた客席、けれど熱気に満ちたその球場の中で、マウンドに立っているのは目つきの悪い投手──サン選手だ。


『9回表2アウト、0対1。バッターは5番、アツい男、シマ。マウンドにはここまで無失点のサンニンタロウ。完投優勝目前です』

『いやあ、今日のサン投手は非常にいいピッチングをしてますからね。投球回数も少ないですし、これはありますよ』


 確かに今日のサン投手は好調で、打者四巡目だが全然疲れていないように見える。初回に獲った1点を守り切る……いわゆる『スミ1イチ』を守り通すエースのピッチングだ。


 この試合、負けるとカナは日本シリーズに行くことができない。引き分けでもアドバンテージを持つサン選手のチームが優勝になるらしいので、ここから逆転するしかないのだが……この様子では──


『打った! ああッと! サードベースの角に当たって跳ねた! シマ選手、走る、ヘッドスライディング! どうだ!? ……セーフ! 内野安打です! ここで同点のランナーが出ました!』

『これはサン投手に対してはアンラッキーでしたね。ボールが跳ねなければアウトにできたでしょう』


 と考えていた矢先に、イレギュラーが起きてランナーが出る。塁上ではユニフォームの前面を土で真っ黒にした選手が、グッと拳を握っていた。……これだから野球は分からないな。


『何はともあれ、アツい男シマ、今日はこれで3安打、猛打賞です。勝利を後続に託しました。さあ場内の大歓声をお聞きください』


 次の打者を迎える観客が歓声を上げる。


『やはり勝負を決めるのは彼なのでしょうか? 6番、指名打者──テンマダイチ!』


 長身のイケメン──テンマ選手がバッターボックスに向かう。


『さあ本日4度目の対決。ここまで惜しくも3打席無安打ですが、2017年の甲子園で数々のドラマを生み出したのはこの男、テンマダイチです』

『ここぞという時は決めてくれる、という期待感がありますね』


 テンマ選手がバッターボックスに立ち──サン選手は、明後日の方向に顔を向ける。


『これは……サン投手は相手ベンチを見ていますか? 後続の打者が気になるという所でしょうか』

『ここはバッターに集中して欲しいところですね』


 サン選手は肩をすくめて、前に向き直ると、さっさと投球モーションに入った。


『──ボール! 1球目またしてもインハイ、顔面近くへのクロスファイヤー!』


 距離を取って避けるテンマ選手。観客の悲鳴や怒号がテレビ越しに伝わってくる。


『ここまで4打席連続で初球は同じコースです!』

『徹底していますね』


 テンマ選手は長く息を吐いてボックスに戻る。


『さあ初球は見送ってボールでした。第二球は……ファール! 外角低めの変化球、カットしていきました』


 軽い音がしてボールがファールゾーンを転がっていく。そこから、テンマ選手は粘りを見せた。カウントが進み、球数が増えていく。


『──9回表2アウト、0対1、ランナー一塁。フルカウントに入って4球目になります。なんとか粘るテンマ選手、甘い球を投げないサン投手。一歩も引かない戦いです。さあ次の球は──』


 大きく腕を振って投じられた球。テンマ選手はバットを動かして──止める。ミットに収まる白球。審判のコールが遅れる。


『……ボール! アウトコースギリギリのところ、判定はボール! テンマ、フォアボールで出塁です! テンマ選手、よくバットを止めましたね』

『いやー、いいコースだったんですが、ボールでしたか。ここはテンマ選手の選球眼が勝ちましたね』


 テンマ選手が小走りに一塁へ向かう中、サン選手は小さく肩をすくめる。


『さあ2アウト、ランナー一、二塁となりました。次のバッターは7番ライトのフクマ選手ですが……ここでタイムが入ります』


 サン選手の周りに選手が集まり始める。


『マルオカさん、ここはサン投手の交代ということでしょうか』

『うーん、どうでしょう。ここまで似たような状況はありましたがすべて抑えてきましたし、何より2アウトですからね。続投か交代か、いずれにしろ難しい場面です。テンマ選手に球数を使いましたが、まだ余裕はありますし、プレッシャーにも強い投手なので、やれるとは思いますが……』

『なるほど──っと、動きがありました。サン投手は続投です──が』


 サン選手を残してマウンドから選手が散っていく。そして。


『バッターに代打が出ます! そう、まだこの人が残っていた! 代打は──』


 カメラがその人物を大きく映した。背の高い、おさげの、眼鏡をかけた幼馴染。


『オオムラカナ!』


 大歓声が球場に鳴り響く。


『さあバッターボックスへ向かいます。レギュラーシーズン本塁打数16本、打率2割8分3厘。打者十傑に入るとも評されるまさに打撃の女神です。マルオカさん、オオムラ選手とサン投手の相性はどうでしょうか?』

『去年、オオムラ選手はサン投手からホームランを量産していました。しかしサン投手も相当研究したんでしょうね。オオムラ選手は今年、本塁打も長打もサン投手から打てていません。サン投手からの打率も他の投手よりも低いので、今は苦手としている相手と言えるでしょう』


 サン選手は捕手のサインを覗き込むように腰を曲げ、眼を鋭くする。カナは一礼してからバッターボックスに入ると、真っすぐに前を見た。


 結局、現地に応援へは行けなかった。日本シリーズのチケットも予約済みだが、抽選で当たるかどうかは微妙だ。それをカナに伝えたところ、幼馴染からは気にしない旨の返答があった。


 テレビの中でバットを構える幼馴染曰く──


『さあ、サン投手、まずは初球──』


 俺が見に行けない日の方が多いのだから──


『打ったッ!』


 ──その状態で勝てなければいけないのだ、と。


『大きいぞ、これはどうだ!?』


 サン選手が背後を仰ぎ見る。


『──入った! 逆転ッ! オオムラ、初球代打逆転ホームランッ!』


 球場が揺れる。それが伝わってくるような歓声。タオルを振り回して叫ぶ観客、抱き合って飛び跳ねる観客。


『3対1! 試合をひっくり返しました、打撃の女神オオムラカナ! お聞きください、場内の大歓声!』

『いやあ、綺麗なホームランでした。初球から行くのはサン投手も予想外だったんじゃないでしょうか』

『今年、サン投手から初めて打った本塁打は、優勝決定の一打となるのか。まだ裏の守備があります。九回表3対1、2アウトです!』


 カメラはダイヤモンドを一周してホームを踏み、ベンチ前で他の選手たちとハイタッチを交わすカナを追いかける。興奮する選手たちに笑顔で応えるカナ。──そこから一歩引いて、テンマ選手も拍手を送っていた。


 試合は進む。サン選手は降板し、後続の投手がランナーを出すも追加点を与えずにスリーアウト。そして九回裏になり──


『マルオカさん、これは』

『これは予想外でしたね』


 実況から戸惑いの声が聞こえる。


『……7番ライト、フクマ選手に代わり、代打でオオムラ選手が入りましたが……裏の守備、ライトはそのまま、代打で出場したオオムラカナ選手です!』


 ライトに向かって走るカナに、球場内に動揺の声が上がっていた。


『マルオカさん。おそらくオオムラ選手が守備に就くのは、プロ初のことだと思うのですが』

『そうですね。二軍でも代打と指名打者でしたので、これが初めてのはずです』

『オオムラ選手と言えば、失礼ではありますがメディアでも何度か取り上げられているように、守備に関しては評価が低いと言いますか』

『高校時代の守備の映像がよく流されていますね』


 流されていた。あの穴を超えるブラックホールの守備が。選手の高校時代の活躍を振り返る……といった趣旨の番組なんかで、他の選手に混じって流されている。おそらく野球ファンで知らない人はいないだろう、というぐらい。


『交代の選手は他にもいますよね? それをあえて出す理由は……優勝の瞬間にフィールドに立たせてあげたい、ということでしょうか』

『逆転打の功労者ですからね。そういう気持ちもあるかもしれませんが、実はオオムラ選手は最近、守備練習をしているという噂もあるんですよ』

『なんと、そうなんですか?』

『ええ。守備ができるようになれば、指名打者の枠もいろいろ使えるようになりますからね』

『ファンの間では指名打者専門でも問題ない、と評価されつつありますが、確かに守備ができるようになれば戦術の幅は広がりますね』

『そうですね。ただ公開練習では守備をしていないので……本番でどこまでできるのかは未知数です』


 不安の言葉が実況席に流れる中、試合は進む。幸いというか偶然というか、カナの守るライトに球は飛ばないまま、決勝の場面を迎えた。


『さあ泣いても笑っても九回裏2アウト、ランナー二、三塁。アシダ投手、抑えられるか。バッターは五番、タカナカ選手──打った!』


 打球が高く上がる。球場に歓声と──悲鳴。


『ライト方向!』


 ランナーがホームベースを踏む。


『オオムラ選手、グラブを構えて──』


 捕ればリーグ優勝。落とせば同点振り出し。


 カナは──


『オオムラ──キャッチ成功!』


 グラブに白球を収めて──それをまじまじと見つめて──それから走り出す。


『優勝、優勝です! アシダ投手、最後はライトフライに打ち取りました!』


 優勝に喜ぶ各選手の様子が、テレビで次々に映し出される。その中では特にカナが映される時間が多かったように思う。


 そして、スマホに通知があった。メッセージの送り主は、タイガ。


『たのしみ』


 それだけ、短く記されていた。

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