第四回ケモノプロ野球リーグドラフト会議兼発表会(中)
「続いては、6月からサービスをスタートしたケモノジムについて。こちらはアップデート情報です。まずは動画をご覧ください」
スクリーンに動画を流す。ケモプロ内のケモノジムトレーナーが、人間と一緒に運動する様子。そこに人間の友人がやってきて、器具の補助をしたり、2人組のトレーニングをしたり。最後は4人でのダンスフィットネスも披露する。
「ご覧いただいた動画のように、複数人で同時のトレーニングするモード、補助をつけてトレーニングするモード、また息抜きの要素としてダンスモードを実装します。家の外に出る機会が少ない現状、親しい人とのコミュニケーションツールとしても活用していただければと思います」
ダンスは、踊りのモーションをケモノに覚えさせるのもそうだが、楽曲を用意するのもなかなか手間だった。有料だからいいものの、無料サービスだったらちょっと手を出せなかった分野だな。
「さて次は、伊豆ホットフットイージスのオーナー、ホットフットイングループ、伊豆本館『あしのゆ』に協力いただいてβテストを行っていた『監督シミュレーター』についての続報です」
再びスクリーンで動画を再生する。アバターと、それを模した通訳くんがベンチで見守る中、試合をするケモノ選手たち。通訳くんを通して指示を出し、作戦が成功して得点する。そんなチームの様子が流れた後、最後にサービス日の告知が入った。
正式サービス、2020年10月1日スタート。月額課金制。
「……ご覧いただいた通り、正式サービス開始日が2020年10月1日に決まりました」
アバターたちが拍手のエモートを終えるのを待ってから話し始める。
「正式サービス開始に伴い、βテストのデータについては本来リセットをする予定でしたが、多くの要望が寄せられたため、データの引継ぎをすることとしました」
何人かのケモノアバターが天に向かって吠えた。たぶん熱心な……プレイするために何度も『あしのゆ』に通うような本当に熱心なユーザーだろう。メールの熱意も半端なかった。
「βテスト参加者はデータの引継ぎをするか、新しいチームで始めるかを選ぶことができます。なお引継ぎをしなかった場合でも、チームメンバーは消えていなくなるわけではなく、またどこかのチームに所属することになります」
選手自体は残すつもりで、チームだけ全て解散の予定だったのを変更した形だ。わざわざ『あしのゆ』まで通ってくれた人たちにはそれぐらいの特典があっていいだろう、という話になった。正式サービスになればもっと手軽にプレイできるようになり、あっという間にプレイ時間の差は埋まるだろうし、と。
「正式サービス開始日を10月1日としたのは、プロ両リーグの契約更改を待つためです。βサービス中は即席のケモノ選手しか登場しませんでしたが、正式サービス後はアマチュア経験者、プロを引退した選手などがチームメンバーに加わる可能性があります」
何度か不満の報告があがった部分なのだが、βテストでは何の試合経験もない選手を、メタAIが適性を判断して振り分けてチーム作りをしていた。そのためどのケモノAIも自分が上手くプレーできるポジションを正確に把握しておらず、オーダーの作成が難しい状態になっていた。正式サービス後は投手をやっていたとか遊撃手をやっていたとか、そういう実績を参考にすることもできるようになる。
「監督シミュレーターは、本日から事前登録を受け付けます。なお事前登録には監督シミュレーターをプレイできる環境が必要です。『あしのゆ』からは登録は行えませんので、自宅にプレイ環境を用意してからお申し込みください」
VR環境を整えるのに苦労しそうだが、独立型のVR機器が近々家電量販店でも普通に発売されるようになる……という話も関係者から聞いているし、おそらく問題ないだろう。
「続いてはメディアミックスについて」
ケモプロはIP──知的財産としても認められつつある。ケモプロを使ったグッズや企画は、どんどん増えていた。もちろん、KeMPB本体としても収益の柱として展開を広げていかなければならない。
「ケモプロのメインデザイナー、ずーみーの著作『獣野球伝 ダイトラ』。既刊1~7巻。8巻は9月17日、9巻は10月15日、そして10巻が11月19日に発売となります。10巻は70プレイヤーズウィーク、ワールドシリーズ、オールスターを大幅に加筆しての内容となりますのでご期待ください」
リーグの試合数が増え、特殊な試合が増えた結果、連載期間も伸びて1シーズン3巻じゃ収まらなくなった。この夏はずーみーも、その弟子のまさちーも大忙しだったな……というか、10巻に関してはまだまだ作業中だ。ケモプロのシーズンが始まる10月までには終わらせるとずーみーは言っていたが、体調には気を配ろうと思う。
「そしてワルナス文庫が運営するWebコミック、『ワルナスオンライン』で連載中、
1年間連載した分があるので、間隔を少し詰めての刊行だ。うまくいけば次の施策とタイミングを合わせられる。
「そして『レミは静かに野球がしたい』について新たな発表があります。こちらの動画をご覧ください」
スクリーンの前から離れて立つ。ステージ上のライトも消え、動画に集中してもらう。
最初に聞こえてきたのは、おとなしい女の子の声だった。
『私、
希望に満ち溢れた声が流れる。鞄を両手で前に持ち、しずしずと歩くレミングス女子。テロップで少女漫画風のフォントで『可憐な少女
『面大高って野球強くないらしいし、それなら私の出番だってある……よね? のんびり楽しく野球ができるといいなぁ──』
ゴスッ! ──打撃音。
『ペッ』
『──ん?』
不審な音を聞きつけて校門の裏を覗くレミ。すると校庭では数名の不良が地面に倒れていた。一人だけ金属バットを肩に担いで立つ、長いスカートのセンザンコウ女子が首だけで振り返る。
『アァ?』
『ひぃ!』
睨みつけてくる顔。テロップに血みどろ文字で『不良少女
『なになにどうして? え? え? ええ!? もしかして……もしかしてこの高校──不良の人の集まる学校~!?』
『平凡な野球好きの少女が平穏を求めて入学した高校は、まさかの不良の吹き溜まり!』
ナレーションが煽り、テンポよく場面が変わっていく。
『えっ、校則で運動部への所属が必須……?』
様々な部活を見学してはその荒れた様子に悲鳴を上げるレミのシーン。
『どうしよう。他の運動は無理だし、やっぱり野球部……でも、一番こわい先輩たちがいるって……で、でも、見るだけ、見学だけはしてみても……。し、失礼します!』
ガラッ。
『アァ?』
『ひぃ!?』
引き戸を開けた先、荒れ果てて血みどろな部室で振り返るザン子。
『何だよ、オマエ野球部に入りたかったのか? オレも勧誘されたけど、パシってこいとかふざけたことばっか抜かすからボコしちまったぜ。センパイ方も逃げてったし、部員、もう残ってねェんじゃね?』
『え、あ、うん、そ、そっか、それじゃあ私……』
『しょーがねーな、こーなったのもオレの責任だし──オレも野球やってやんよ』
『へ!?』
『こうしてレミとザン子、二人の高校野球が幕を開ける!』
場面がさらに目まぐるしく変わる。
『良かったな、一年で即レギュラーじゃねーか!』
『でも私ヘタクソで……』
『野球やりてーんだろ? じゃあ、やろーぜ!』
練習する二人。わずかに残った部員の先輩や同期との交流。徐々に形になっていくチーム。そして。
『練習ばっかじゃつまんねーし、試合やろーぜ! 相手、見つけてきたからよ!』
『初試合の対戦相手は──』
河川敷で、バイクにまたがりバットを担いでニヤニヤする集団と対峙するレミたち。
『──県内最凶の
『舎弟が世話になったなァ。そっちが負けたら分かってんな?』
『ヒッ!?』
『なーに、勝ちゃいーんだよ! やるからには勝とーぜ、な!』
凍りつくレミの肩に腕を回して、ザン子がニヤッと笑う。レミは目に涙をためてぷるぷると震え──
『わ、私……私は』
画面が暗転し。
『静かに野球がしたいだけなのに……!』
『レミは静かに野球がしたい』とタイトルロゴが表示され。
『もしかしてこのアニメって、昭和なの~……!?』
レミの悲鳴と共に、2021年夏放送開始、と予告されて動画が終わる。
……舞台の年代は昭和じゃないが、ノリは昭和だ。そもそもレジェンド──宝子の読者層が昭和生まれだし。ただ、今時少女漫画で野球のスポ根で不良で百合というのは珍しいらしく、そういった意味でも人気を集めていた。
「ご覧いただいた通り、『レミは静かに野球がしたい』のアニメ化が決定しました。KeMPBも製作委員会に参加しています。アニメーション制作は『ササ様と学ぶ野球』に引き続きマルイミカンになります。続報は今後の発表をお待ちください」
大きなプロジェクトだし、KeMPBは製作委員会の幹事会社じゃないから言えることも少ないんだよな。今後段階的に情報が開示される予定だ。2期の制作発表は1期の放送終了後だから、絶対言えない。
製作委員会の一員としては、レジェンドの漫画連載が締め切りを守って進められることを祈るばかりだ。コロナ禍で、レジェンドの自宅兼事務所に集まって作業することができなくなったため、リモートへ作業環境を移行していた時期はだいぶ締め切りも怪しかったのだが……修行に行っているまさちーからは、環境にも慣れて順調だと聞いているから信じるしかない。
「それでは続いて……──」
各オーナー企業が主体の取り組みについて発表していく。コロナ禍にあっても、どの企業も現状でできること、そして現状が続いてもできることを……何十年と続いていくケモプロを軸とした施策を打ち出していた。
これらを支えられる存在に、ケモプロはならなければならない。そのために。
「──……さて、ここまで様々な取り組みを発表させていただきましたが、今回はあと2つの話を発表して終わりにしようと思います」
ケモプロが今後も続いていくための話をする。
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