初交流戦の3試合

【交流戦・対BIS第1試合】 / 電脳カウンターズ公式チャンネル 2020年2月1日配信


「はい、どうも、こんにちは。電脳カウンターズ公式チャンネルの、ねぎ棟梁とうりょうです。あ、どうも、よろしくお願いします。はい」


 タマネギをモチーフとしたドーム球場をバックに、ねじり鉢巻きを締めたカモ型アバターの男性がお辞儀をする。


「えーっと、今日はケモプロ初の、日米の交流戦っということになります。電脳カウンターズの対戦相手は、ビスマーク・キャッツ。ノースダコタ州のチームですね」


 球場の様子が自動カメラによって映される。


「いや、しかし、電脳県の中に燦然と輝くオニオンドーム、いいですね。自分が作った電脳県の中に、プロの作品があるっていうのがちょっと、申し訳ない気もしますが。はい。あ、そろそろプレー開始です。えーと、先攻がカウンターズ。後攻がキャッツ。キャッツのピッチャーは、ヨナ・アンダーブルー」


 神聖な雰囲気をまとったジュゴン系女子が、マウンドに上がる。


「キャッチャーはピンキー・バロウです。うちがトレードを断られた……」


 アルマジロ系女子がキャッチャーボックスに座る前に、投げキッスを飛ばしてからマスクをかぶった。投球練習が始まり、最初のバッターが登場する。ガゼル系男子、平土ひらつちトム。

 ヨナはピンキーとサインを交わすと、海を泳ぐかのように腕を振って投げた。


「おー、ストライク。トム、空振りでした。カーブすっごく曲がってましたね。次は、おお、すごい落ちるフォーク。難なく取ってるピンキーがすごいですね。さすが、アマチュア時代はロビンの相棒だっただけはあります。いやほんと……あっと、三振。最後はカットボールだったようです。球種が多い」


 ピンキーはヨナに球を投げ返しながら、軽くはやし立てる感じで投球を誉める。ヨナは目を閉じて無視した。


「さて二番は、新人の林茂はやししげみシンですね」


 まつ毛の長いシカ系男子がバッターボックスへ。


「うーん、ヨナの変化球がすごい……あっ、打った!」


 打球がセンター方向に高く上がる。


「ああ、けど取られそうですね。センター、キング・サンドランドが構えて」


 顔に傷のあるチーター系男子が落下点でグラブを構え――


 右に一歩。


 左に一歩。


 後ろに二歩。前に一歩。ウロ、ウロ、ウロと足を変えて。


「あっと……捕りました。アウトです」


 最後の最後まで迷い迷ってグラブを動かしていたキングは、内心を表示する吹き出しに大きな安堵のアイコンを浮かべる。


「いやー、なんというか……心配性? なセンターですね。さて、三番は兼任監督、指名打者の川軒下かわのきした イグマ」


 鼻くそをほじりながら出てきたアライグマオヤジに、ヨナとピンキーが顔をしかめる。下品に笑うイグマに、ピンキーは思考を巡らせてヨナにサインを出した。結果――


「あっ、三振。イグマ、しりもちついちゃいましたね。ヨナの変化球がすごかった。いやー、キャッツも強いですねー」


 ふんっ、と鼻を鳴らしてピンキーはベンチに戻っていく。イグマはカッカッとしながらベンチに戻り、ドカッと音を立てて座った。


「えっと、一回の裏になります。カウンターズの守備です。マウンドには久しぶりに、この赤い胸の男。ロビン・ニアウッドです」


 ドラフト一位、海を渡ってきたフルタイム・ナックルボーラーがマウンドに立つ。ビスマーク・キャッツ側ベンチが、身を乗り出すようにしてその姿を見た。特に大学時代に捕手を務めていたピンキーは、その姿に違和感を覚えているようだ。


「二軍から今日付けで出場選手登録されてきました。キャッチャーは同じく、二軍から上がってきた 黒土くろつちセバル」


 黒と白のコントラストの映えるヤギ系男子がキャッチャーボックスに入る。投球練習が始まるものの、しかし――


「あ、また。セバル、ナックルをこぼしました。これは大丈夫なのかなあ……」


 ねぎ棟梁の心配をよそに、打者がバッターボックスに入る。


「一番打者は……ピンキー・バロウ」


 かつてのバッテリーが60.5フィートを挟んで対峙する。


「初球はストレートで、ストライク。そんなに速くない球ですが……二球目はファール。これもストレート、ですね。追い込みましたよ。今日は行けるのかな?」


 しかし、そこからピンキーが粘る。


「これで10球。カウントは3ボール2ストライクから変わらず。ロビン、初披露したカーブも難なくカットされています。これは……あ、セバル、ナックルのサインを出しましたね。ロビン、頷きました」


 特殊な握りをしたロビンが、球を押し出すようにして投げ――


 カンッ!


「あっ、ヒットです。ライト前。ピンキー、余裕で一塁へ。いやー、さすがピンキー、ナックルを受けてきただけあって、初めて投げられたナックルもあっさり当てて……ん? しかしなんだか、面白くない顔をしてますね」


 ピンキーは一塁上でむすりとしている。


「えーと次のバッターは、ザック・アイスシート……あっ、打たれた」


 もじゃもじゃなウシ系男子がストレートをあっさりと外野へ飛ばし、ノーアウト一、二塁。次のバッター、小柄なウマ系男子、ノーマン・ハイランドがやってくる。


「あっ、大きい! ……あー、ファールでした。初球からですね、またストレートを」


 ロビンはマウンド上で汗をぬぐう。そこで――セバルがミットを叩いた。


「あ、ナックルを投げるみたいです」


 ロビンは一度首を振るが、セバルはサインを変えない。ピンキーに投げたものとは違う、変化の大きいナックルのサイン。ロビンは――頷いて腕を振った。


「おお! ストライク! ぐにゃっと曲がったのを見事に捕りましたよ。これは、いけるかな?」


 安堵したアイコンを浮かべながら、セバルは球をロビンに返す。2球目は高めの釣り球。ノーマンが空振りし、早々に2ストライク。しかし。


「あっ、走った! ダブルスチール!」


 ストレートのボール球のタイミングを完璧に見計らい、ピンキーが合図してザックと共に盗塁を敢行する。セバルは三塁に送球するも、判定はセーフ。


「いやー、ピンキーは足も速いですね。それとも、相手がロビンだから完璧に見切れるのかな? ノーアウト、二、三塁。1ボール2ストライクです。カウンターズ、ピンチ!」


 ノーマンがバッターボックスで打ち気に構える。バッテリーは悩んでいた。先ほどとは状況が違う。


 一塁にランナーがいるなら、ナックルをこぼしても振り逃げは発生しない。しかし今は一塁は空いていて、しかも三塁に俊足のランナーがいる。後逸すれば先制点。


 ロビンは黙ってサインを待つ。セバルは悩んだ後――ナックルのサインを出した。


「あ、ナックルを投げるみたいです。どうなるかな?」


 ロビンが球を送り出す。不規則な軌道を描く球を、ノーマンは――


「空振り! ――あ!」


 セバルが捕球できなかった球が、転々と後方に転がる。セバルが追い付いたころには、ランナーは一、三塁。そしてスコアボードには1が刻まれていた。


「うーん、後逸からの得点はつらいですね。0対1……あ、ピッチャーとキャッチャー交代? 交代ですね」


 ベースカバーに回っていたロビンに、ピンキーは声をかけることなくベンチへ戻っていく。ロビンはその背中を少し見てから、肩を落とすセバルのところへ行き、背中を叩いてベンチへ向かった。ベンチでは監督のイグマがデカい態度でふんぞり返り、防具を付けた正捕手、ミーアキャット男子の岩荒いわあらミカドがやれやれと肩をすくめながら二人とすれ違う。


「これは、またロビンは二軍行きですかね……セバルが捕れるようになってくれるといいんですが」



 ◇ ◇ ◇



【交流戦・対WIL第2試合】 / 伊豆ホットフットイージス公式チャンネル 2020年2月6日配信


「ああっと! フィルダースチョイス!」


 眼鏡をしたハムスターアバターの男、回し車ハム巻が叫ぶ。


「ウィルミントン・ヨゾラのバント職人、ピース・ローランド! うまく一塁線に転がし、これの処理をイージスが間違えてしまいました。ランナー一、二塁になります」


 伊豆のベンチでシカ系男子が困った顔で頭を掻く。


「これは……ファースト、峻嶺しゅんれいルビィのエラーですね。本日のショート、甘口あまくちハツネがボールを要求しましたが、一塁へ投げるべきでした。いやあしかし……二戦目にして、弱点を突かれています、ホットフットイージス」


 ヤギ系女子とハツカネズミ系女子がお互いに頭を下げあう。


「今月からショートを守っていたツツネ監督が産休に入り、外野手の島住しまずみキョンがヘッドコーチとしてベンチで指揮を執っています。レフトとショートがいつものメンバーではないわけですが、ショートの育成、特に内野の連携が足りていませんね」


 2月から新体制となったホットフットイージスは苦戦していた。


「ツツネ監督の指示出しがうまかったのだと実感しますね。捕手のココロ様はその辺苦手ですし」


 特筆した成績は残していないものの、守備の要となっていたツツネの抜けた穴は大きい。捕手、乾原かんばらココロの弱点も浮き彫りになっている。


「なんとか連携を強化して、イージスの名にふさわしい鉄壁の守備を見たいところです。さあ次のバッターはトップに返って、現在チーム内出塁率1位のゴードン・スペース……――」



 ◇ ◇ ◇



【交流戦・対ANC第1試合】 / 【公式】砂キチお姉さんチャンネル 2020年2月9日配信


「みなさーん、こんにちは! 皆の、そして公式の! 砂キチお姉さんです!」


 ネコ系ケモノアバターがセンター方向に森を構える球場の前に飛び出す。


「いやー、交流戦、みなさん楽しんでますか!? お姉さんはめっちゃ楽しいです! ビーストリーグの選手も個性豊かで! お姉さん、英語苦手だけどもうね、めっちゃ、カタカナでカンペ作って頑張ってます。さて、今日の球場は、コカ・コーラボトラーズジャパンスポーツパーク野球場! いつもながら長いっ!」


 ぜっぜっ、と息を荒げる砂キチお姉さん。


「さて、しかもしかもですね。今日は現地のコカ・コーラボトラーズジャパンスポーツパーク野球場とも中継がつながっているんです! この2月、『交流戦観覧ツアー』が開かれているのをみなさんご存じですか? 日本からアメリカ、アメリカから日本へ、ケモプロのチームを抱える地域をめぐるツアーをやっているんですよ! お姉さんはお仕事もありますしパスポートもないので申し込めませんでしたが!」


 詳細はこちら、とテロップを案内する。


「というわけで、今日はコカ・コーラボトラーズジャパンスポーツパーク野球場に! アメリカからのお客様を迎えています! それでは中継を映しましょう、ドン!」


 砂キチお姉さんの背後に、球場の観客席に座っているツアー客が映し出される。ノリよく笑顔で手を振っていた。


「ハロー! ナイストゥミーチュー! アイアム、砂キチお姉さん! サンドスターズ、オフィシャル・ファンガール!」


 どっ、と笑いが起きる。


「えっへっへっへ……はい。あの、寒いと思いますけど、気を付けて応援してください!」


 中継映像がワイプになって画面端に収まる。


「さあ球場にカメラを。まもなく試合開始ですね。先攻はアンカレッジ・ハンマーズ。サンドスターズの先発は、新人の竹花たけばなメエメエちゃんです!」


 パンダ系女子がゆったりと投球練習をする。


「新人ながらさっそく先発ローテ入り、成績もなかなかのものです! なによりかわいい! 今日はハンマーズを相手にどう投げてくれるのか、注目です!」



 (中略)



 ウオー! という野太い男性の声と拍手が鳴り響く。


「これは痛い内野安打! ローハン・ファーロング、その大きな体から想像できないスタートダッシュでした。サード、ササミちゃん、もう少し突っ込みが足りなかったか。1アウト、ランナー一塁。そしてランナーを出して迎えたくはなかったこの男!」


 現実の観客席からコールが上がる。バリー! バリー! バリー!


「三番、キャッチャー、バリー・リバースカイ!」


 ハクトウワシ男子が、険しい顔でバッターボックスに向かう。


「ドラフト一位、強肩・強打の捕手! すでにビーストリーグナンバーワン捕手との評価も! メエメエちゃん、なんとかここは無傷で切り抜けてほしい……がんばって!」


 パンダ女子はにぎにぎと球を握って、キャッチャー、栗島くりしまラコフのサインを確認する。


「よしよし、勝負しにいくようです! 気持ちで負けてちゃいけませんからね! さあ第1球!」


 飛んできたストレートに、バリーはタイミングを合わせる仕草をする。


「ストライク・ワン! いいところに決まりました! 続いては――パームボール! おしいっ、わずかに外れてボール! いやー大きな手から放られるパームがダイナミックですね! 緩急の差が効いてますよ!」


 縦に落ちる緩い球を見送ったバリーは、目を細めて配球を読みにかかる。


「続いては……インコースへスライダー! っと! バリー読んでいる!? メエメエちゃん!」


 ギンッ!


「一塁線ッ――と!」


 高く、のびやかに、選手が舞う。


「ジャンプ一番! サバノブ、ライト前に抜けそうな鋭い打球を捕りました! サーバルジャンプは健在! そのまま一塁も踏んでフォースアウト! ダブルプレー!」


 驚きの声が客席から上がるが、すぐに歓声と拍手に変わる。


「一回の表、ファースト、原南はらみなみサバノブのファインプレーにより、アンカレッジ・ハンマーズは無得点で終わりました」


 バリー自身も、サバノブに拍手を向けてからベンチに戻っていった。そして静かに防具をつけ始める。


「さあ勝負はここからです! 一回裏、サンドスターズの先頭バッターは……――」


 (後略)

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