海を渡るドライチ
『それではあらためて、ドラフトのルールについて説明いたします!』
キタミタミがマイクを持って言う。アメリカ会場側では、ローズマリーが同じ説明をしていた。
『ドラフトは二位指名以降はウェイバー方式、つまり2019年度ペナントレースで下位のチームから上位のチームに向かって指名・獲得していきます。ここにはリージョンの制限があり、ケモノリーグのチームは日本のドラフト対象選手から、ビーストリーグはアメリカのドラフト対象選手からしか指名することができません』
『お、ニンゲン。オレ様気づいたゾ? そうやって説明するってことはぁ』
『そう、1位指名のみ方式が違います!』
ササ様がドヤ顔をする。いい感じにウザい。
『第1位指名は入札抽選! メジャーリーグは完全ウェイバー方式なので、アメリカの視聴者にはなじみがないかもしれませんね。同時に選手を指名し、重複した場合は抽選となる方式です。しかもしかも、この第1位指名1巡目のみ、リージョンの制限がないのです!』
『つまり、日本からアメリカの、アメリカから日本の選手を獲得できるってことだニャ』
『ええ、ほんとマジで、各球団には気合を入れて欲しいですね……』
キタミタミはステージ下の机に向かって座るダークナイトメア・オメガ仮面に冷たい視線を向ける。
「ん? フッ、任せたまえ! 今回の戦略はバッチリだとも! ハッハッハ!」
『……なお抽選で外れた2巡目からはリージョンの制限があります。どうしても海外の選手が欲しい! という場合は、迷いなくドライチ指名をしろっ、ということですね』
1位指名するほどの動機がないのであれば、自国の選手で十分だろうという意図だ。とりあえず今年はこのルールで行くが、今後はどうなるかな。
『他、ビーストリーグのみ今年度は各チームとも前年度実績がないため、契約金・年俸はなし。6位まで指名後は、現在所属している研修生に加えてランダムに残りの選手が補充される、という形になります。ケモノリーグの初年度とほぼ同じですね。……さあ、そろそろ向こう側の説明も終わったようですね。ローズマリーさん?』
『(準備完了です! それでは各球団の代表はお手元の端末で、第1位指名選手を指定してください)!』
『第1位ですよ、間違えないように!』
各球団の代表が、手元の端末を操作する。
『……さあ選択が終わったようです! それでは一斉にオープンします!』
◇ ◇ ◇
【裏番組】第三回ケモプロドラフト会議、観戦配信【コラボ】 / 2019年9月6日配信
(前略)
砂キチお姉さん:さあさあ来ましたよ!
ふれいむ☆:ではこちらも画面を表示します……各球団の1位指名はこちら!
青森ダークナイトメア
アムリタ・ブラックドラゴン 投手 コネチカット州:ナツメグ大学|(アムールヤマネコ)
電脳カウンターズ
ロビン・ニアウッド 投手 アイダホ州:ポテトアイス大学|(セイヨウコマドリ)
島根出雲ツナイデルス
伊豆ホットフットイージス
ロビン・ニアウッド 投手 アイダホ州:ポテトアイス大学|(セイヨウコマドリ)
東京セクシーパラディオン
鳥取サンドスターズ
ロビン・ニアウッド 投手 アイダホ州:ポテトアイス大学|(セイヨウコマドリ)
フレズノ・レモンイーターズ
ボイシ・ブロッサムズ
ロビン・ニアウッド 投手 アイダホ州:ポテトアイス大学|(セイヨウコマドリ)
アンカレッジ・ハンマーズ
バリー・リバースカイ 捕手 マサチューセッツ州:ミスカトニック大学|(ハクトウワシ)
ウィルミントン・ヨゾラ
アルバート・レイサン 投手 ハワイ州:カメ大学|(コアホウドリ)
ホーボーケン・ホワイトベアーズ
ビスマーク・キャッツ
ロビン・ニアウッド 投手 アイダホ州:ポテトアイス大学|(セイヨウコマドリ)
砂:おーっと、ここで一本釣りが決まったのは、青森ダークナイトメア! そしてアンカレッジ・ハンマーズとウィルミントン・ヨゾラですね!
やきうの兄ちゃん:うへぇ。プニキが4球団競合、ロビカスが5球団競合かいな……。
砂:気になるタミタミちゃんの反応ですが……青森の1位指名は……あっ、伏せていた顔を上げます。これは……笑顔! 笑顔ですよ! 両手で大きなマル!
炎:投手ではやはり無敗のフルタイムナックルボーラー、ロビン・ニアウッドが注目されていましたが……5球団競合であれば、一本釣りで別選手を指名したほうが有利でしょうね。アムリタはBeCWSでも活躍していましたし、あの鋭いシュートはなかなか打てないでしょうから。これは青森、大成功ね。
砂:バリーとアルバートはどうでしょう?
兄:ええんちゃう? 特にバリーは打てる捕手やからな。アルバートもいい球放っとるで。
炎:アルバートは頼れるクローザーよね。カメ大学はリードしていれば必ずアルバートが出て勝つ、みたいなチームだったわ。
砂:なるほど~。あ、そろそろ抽選ですよ! まずはプニキこと、山ノ府クマ貴からです!
兄:頼む……頼むでおっさん……。
炎:プニキを島根に……プニキを……あああアアアアア!?
兄:はあァァ!?
砂:山ノ府を獲得したのは――フレズノ・レモンイーターズだーっ!
兄:終わったわ。ドラフト終了。お疲れさん……。
炎:はあ……切り替えていきましょ。獣子園でホームランを量産してチームを優勝に導いた山ノ府クマ貴、プロでは海を渡り、フレズノ・レモンイーターズでプレーすることが決まりました。
砂:フレズノの代表者のおじさん、めっちゃレモン食べてますね……。
炎:さて続いてはロビン・ニアウッドの抽選です。日本から3球団、アメリカから2球団が指名。
砂:スナグチさん……ッ……けッ……引けッ……ぁぁあああああ!?
炎:これは――ロビン・ニアウッドを獲得したのは、電脳カウンターズ!
兄:ハァァ!? 電脳にはカズがおるやろ……ロビカスまでそろったらまともに強くなるやん……?
炎:日米期待の新人が、それぞれ海を越える結果になったわね。
砂:ウゥゥ……ロビン……ロビン……。
炎:はいはい、切り替えていくわよ。2巡目の発表が始まるから。……はい、出た!
兄:ハア!? また2巡目被りかいな!
砂:ギャア! 東京と被った!
炎:東京セクシーパラディオン、鳥取サンドスターズが2巡目に投手、
砂:さ、さすがにここは譲れませんよ、兄ちゃんさん!
兄:去年のメガネヒョロニキの悪夢が……たのむでおっちゃん……――ぉぉぉよぉおし!
砂:アアァァァア!
炎:抽選に勝ったのは東京セクシーパラディオン! タカサカさん、ガッツポーズ!
砂:うぅ……でも指名できた
兄:なんでパンダなのにヤギみたいな名前なんやろなそいつ。
炎:さて、1位指名から後はリージョン別、ってことで、ここからはケモノリーグのドラフトに集中ね。アメリカともいったん中継が切れるわよ。
兄:今年は投手が不作やからなあ……あと二人は欲しいとこやが……。
(中略)
炎:――……以上で、ケモノリーグのドラフトは終了ね。
砂:はい、まとめておきましたよ~。結果を貼りますね。
青森ダークナイトメア
1 アムリタ・ブラックドラゴン 投手 コネチカット州:ナツメグ大学|(アムールヤマネコ)
2
3
4
5
6
電脳カウンターズ
1 ロビン・ニアウッド 投手 アイダホ州:ポテトアイス大学|(セイヨウコマドリ)
2
3
4
5
6
島根出雲ツナイデルス
1
2
3
4
5
6
伊豆ホットフットイージス
1
2
3
4
5
6
東京セクシーパラディオン
1
2
3
4
5
6
鳥取サンドスターズ
1
2
3
4
5
6
炎:ここまで見てどうかしら?
砂:ウェイバー方式つらいです……。
兄:まあまあやな。おっちゃんのパワー信仰がチト気になるけど、抑えるとこは抑えとるし。去年がひどかっただけや。外野も欲しかったけどまあ……。
砂:振り返ってみると……大学リーグもできたのに、ほとんど高卒指名でしたね。例外は伊豆のコウメ選手だけ?
兄:大学は1年しか経験積んどらんからなあ。いくら身体能力違うゆーても、それなら2年練習してきた高卒の方を取りたくなるんちゃう? 育成的に考えても。
炎:投手不足からか、1位、2位はほとんど投手の指名ね。
砂:そんな中、島根さんの2位に捕手の指名がありますけど?
炎:まあ……ダイトラの代わりは育てたいし……ルーサーのバックアップもね?
兄:ダイトラ、もう47やろ。さすがにね?
砂:あとはやっぱり青森のまか……あ、アメリカも結果出るみたいですよ!
(後略)
◇ ◇ ◇
『――……はい! 各球団コメントいただきました! そしてここで、ビーストリーグのドラフトも終了したとの連絡が入ってきましたよ~!』
『待ちくたびれたゾ』
『(おお、ササ様、申し訳ありません! 日本の皆様、お待たせしました! こちらもドラフトが無事終了です。それでは結果をご覧ください)!』
スクリーンにドラフトの結果が表示される。
フレズノ・レモンイーターズ
1
2 ケニー・オーストラル 投手 カニクイアザラシ
3 ナダ・ロッキーズ 内野手 カナダオオヤマネコ
4 キャッシュ・レインフォレスト 外野手 ヒクイドリ
5 ポール・ブリザード 投手 コウテイペンギン
6 シエラ・クーラーマウンテン 外野手 シエラネバダオオツノヒツジ
ボイシ・ブロッサムズ
1 バーバラ・クロッシングロード 投手 アメリカバイソン
2 ソニア・ネストミニウム 外野手 シャカイハタオリ
3 スノウ・ワドル 外野手 ウスユキバト
4 アメリー・シップ 内野手 ネコ:アメリカンショートヘアー
5 ジェイド・フィッシャーマン 内野手 カワセミ
6 ニキシー・フォレストエッジ 内野手 ヨウム
アンカレッジ・ハンマーズ
1 バリー・リバースカイ 捕手 ハクトウワシ
2 リルピエール・カラドラ 投手 コチドリ
3 ローハン・ファーロング 外野手 ウマ:サラブレッド
4 アメリア・サウザンヒル 内野手 イヌ:アメリカンブルドック
5 ガンナー・ツリーホール 投手 キンカジュー
6 イーノック・マッドパドル 内野手 イノシシ
ウィルミントン・ヨゾラ
1 アルバート・レイサン 投手 コアホウドリ
2 ロデル・ウェスタン 投手 クォーターホース
3 ペイトン・ファームランド 外野手 クビワペッカリー
4 ゴードン・スペース 内野手 コモンリスザル
5 ピース・ローランド 外野手 インドクジャク
6 アッシュ・ツリーライン 内野手 クロハゲワシ
ホーボーケン・ホワイトベアーズ
1 グリゼルダ・ノースランド 外野手 ハイイログマ
2 ドディ・ドア 外野手 ドーベルマン
3 マイク・グラスランド 捕手 アメリカハタネズミ
4 ザトー・オーシャン 内野手 ザトウクジラ
5 アーチャー・ブッシュファイヤ 投手 ヘビクイワシ
6 シェルドン・ランチ 投手 シェトランドポニー
ビスマーク・キャッツ
1 ヨナ・アンダーブルー 投手 ジュゴン
2 ピンキー・バロウ 捕手 ヒメアルマジロ
3 キング・サンドランド 外野手 キングチーター
4 スコット・ナイトフォレスト 投手 コノハズク
5 ノーマン・ハイランド 外野手 ウマ:野間馬
6 フォスター・コンブフォレスト 内野手 アラスカラッコ
……こうして見ると、あれだな。記者向けにすぐ分かるように、ということでカタカナ表記にしたのだが……英語表記でもカタカナ表記でも、日本人にはこの量は辛いな。漢字が入ってたほうが目が滑らない。
かといってKombuForestさんを昆布森さんと表記すると、分かりやすいがそれはそれでおかしいだろうし。
……などと考え込んでいたら、ローズマリーとの中継が終わった。
『それではドラフト会議が終了いたしましたので』
キタミタミからの視線がこちらに飛んできたので、頷く。アメリカではバーサが今頃スタンバっているだろうな。
『KeMPB代表、オオトリユウより、今後のケモプロの展開についてお話しいただきます』
さあ、仕事の時間だ。
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