東京セクシーパラディオン 対 島根出雲ツナイデルス 21回戦(上)
【対島根第21試合】 / 公式のやきうのあんちゃんズch 2019年4月21日配信
『さあ始まります。東京セクシーパラディオン対島根出雲ツナイデルス、3連戦の最終日です。球場は東京セクシードーム。えー……実況は僕、公式のやきうのあんちゃんズ
『解説の
『やっぱおかしいですよね? 僕、元プロだし、解説の立ち位置ですよね?』
『お前の方が実況向きなんやからしゃーないやろ。つーか、ワイが喋らんと喋るし、うるさいし』
(画面上で2Dの黄色い人間がため息を吐く。相方のカワウソ系アバターは動きがぎこちない)
『えー、あ、ご来場の皆さん、コメントありがとうございます』
『表ではババァが実況しとるっちゅーのに、奇特なヤツらやな。新しいチャンネルにしたから登録者もまだ少ないっちゅーのに』
『いやでもけっこうコメント来て……あ、すいません、妹さんはいないんですよ』
『
『そういうこと言わないでくださいよ。本当に公式か? とかコメントされてるし……。えー、さて、気を取り直して……まだ少し試合開始まで時間ありますね。どうですか兄ちゃん、ここまでの2試合は』
『島根に2連勝? まあ順当やね。3月後半はヤバかったけど、4月はここまで7勝4敗で勝ち越しやし。鳥取ももうちょっとで抜けるやろ。首位は預けとるだけや。三位の伊豆は7連敗で勝手にズルズル下がっていっとるし、今年は優勝間違いなしやな!』
『伊豆はどうしちゃったんでしょうね』
『よっぽどアメリカでロビカスにやられたのがショックだったんちゃう? ワイはメシがうまいけどな!』
渡米前は5連勝と好調だった伊豆ホットフットイージスは、現在7連敗中。打線に力がなく、チームの雰囲気もあまりよくない。
『ま、伊豆の話はいいでしょ。パラディオンの話やな』
『ここまで2連勝ですが、今日の試合はどうでしょう? 相手のマスクが変わりますが』
『あのクソ虎な……なんでルーサー使わないんや。今日は怪我してないやろが』
『やっぱりダイトラが捕手だと、東京にとってはやりづらい?』
『あきらかに打線が弱くなるのに負けるとか、もうわけがわからんわ。クソリードクソバッティング、自動アウトのカモのはずなのに……』
『あきらかにダイトラが捕手のときのほうが、東京は負けてますよね』
『まー全敗ってわけやないからな。それに今日の島根の先発は問題児やろ?』
『そうですね。じゃあここで両チームのスターティングメンバーを表示しましょうか』
『ええで。ほれ』
先攻 東京セクシーパラディオン
1 遊
2 左
3 指
4 一
5 三
6 中
7 二
8 捕
9 右
先発
後攻 島根出雲ツナイデルス
1 三
2 二
3 遊
4 指
5 一
6 左
7 捕
8 中
9 右
先発
『今日の先発は東京が檻城シニア、島根が山巣穴ビスカです。ビスカといえば先日の寝坊による遅刻でアメリカ行きがキャンセルになった件がありますね』
『んな、オネンネクソネズミを未だに先発起用する島根の監督の考えがわからんわ。ま、引っ込められる前に点数もらえるだけもらおうか?』
『ビスカは立ち上がりが安定しないというか……寝てますよね彼女』
マウンド上に立つネズミ系女子は、目を閉じて動いていなかった。投球練習の時間だが、ビスカは動かないし、相手をするダイトラも動かない。
『ダイトラとビスカが組むのは今日が初めてのようですが……これはひどい』
『島根はかわいそうやな。今日はセンターのレイも故障で引っ込んでるやろ? 打撃力を補いたいからって鈍足ショートはないわな。いやー、大量得点の予感しかしないですわ』
『さあパラディオンが3連勝を決めるのか、それともツナイデルスが連敗を止めるのか。バッターが位置につきます。投球練習ないまま試合開始です!』
審判がプレイを宣言し、ジャガー系男子のジノ丸がコンパクトに構える。それを見て、ダイトラはのそりとミットをど真ん中に構えた。
『ダイトラ、安定の初手ど真ん中です』
『いつものトラやな』
『そしてビスカは……投げ……ませんね?』
ビスカはマウンド上で微動だにしない。時間だけが過ぎていき、やがて審判がボールをコールする。
『初球……は投げませんでした。時間経過、ピッチクロックによりボールカウントが加算されます』
『いつもならルーサーがマウンドまで行って起こすところなんやけどな。動かんな』
『動きませんね……ダイトラ、ど真ん中に構えたままです。……二回目の時間経過。2ボールノーストライク』
さらに時間が経過し3ボール目が告げられる。球場からはブーイングの嵐。
『これはひどい――っと? ここで審判がタイムをかけました。マウンドに向かっていって……ビスカに注意、いや、警告、警告です! ビスカに警告が与えられました!』
『おー、珍しいな。コリジョンじゃないのに警告か』
『ケモプロはイエローカード制ですので、ビスカはもう一度警告を受けると退場です。さすがに目が覚めたでしょうか。審判、ビスカが動くのを確認して戻って……ああ、ダイトラにも注意していますね』
審判から注意を受けるも、ダイトラはそ知らぬ顔でミットを構える。
『プレイ再開です。ビスカ、大きなあくびをひとつ。ジノ丸は……これは監督から待ての指示が出ましたね』
『3ボールやしな。当然やろ。フォアボールなら盗塁で稼げるしな』
ビスカは目元をごしごしと腕でこすると、ダイトラのミットを見て頷く。
『ビスカ、4球……初球? 投げます!』
バシッ
『おっと!? ダイトラ、捕球できませんでした。ボールは防具に当たって足元に。彼にしては珍しいですね?』
『せやな。このクソ虎、捕逸っちゅーかキャッチングミスだけはここまで0だったんちゃうか?』
『何の変哲もないストレートだった気がしますが、不調ですかね? ……ともかく、ボールはストライクゾーンを通っていますので、ストライクが記録されます。1ストライク3ボール』
ダイトラはボールを拾うと、ゆるい球をビスカに返す。そして位置に戻ると、ど真ん中に構えた。
『えーまたダイトラはど真ん中を指示ですね。……おや、ベンチからはさらに待てのサイン?』
『いやど真ん中なら打てやって話……まぁ立ち上がり悪いオネンネだから分からんこともないが』
『ストライク! 2球続けてど真ん中。そして2球続けてダイトラ、捕れていません。なんでしょうねこれ』
『そんなことよりジノ丸がキレとるな。そら絶好球2回も見逃させられればなあ』
『アキヒサ監督、次は自由にやらせるようです』
ベンチの中でアシカ系おじさんが額の汗をぬぐう。むくれていたジノ丸は、気合を入れて構えを大きくした。
『さあフルカウント。ダイトラは……まだど真ん中ですね。おや』
ミットを見て頷きそうになったビスカが、ふと動きを止める。
『えー、どうやらここにきて球種のサインがないことに気づいたようですよ』
『そういやそうやったな』
球種を問うサインを出すビスカ。けれどダイトラは動かない。それを見て、ビスカは球種を自由にしていいと判断した。構えが大きいジノ丸を見て、ニフッと笑う。
『6球目! ッ、チェンジアップうまい! 空振り三――後逸ッ!』
ストレートとまるきり同じフォームで投げられた遅い球は、見事にジノ丸の体勢を崩す。バットは空を切りそして――ダイトラは捕球できなかった。
『振り逃げだ、ジノ丸走る! ダイトラ――遅い! 今ようやく立ち上がった! 見かねたビスカ走る! ジノ丸一塁蹴った! ビスカボールを拾いますがジノ丸ゆうゆう二塁セーフ!』
『スタートが悪かったな。無理に振らずに走ってたら三塁いけたやろ』
『いや、というかダイトラが普通に捕りに走れば刺せたと思いますよ。ほらビスカも怒ってる』
ビスカがダイトラになぜ取らなかったのかと詰め寄る。ダイトラの回答のアイコンは短かった。
『……眠かった?』
『クソ虎までオネンネかい』
『ビスカ、納得してませんね。と……? ダイトラ、何を?』
急にダイトラは話題を変え、ビスカに後ろを向けと指示する。疑問符を浮かべながらもビスカが素直にそれに応じて背を向けると――ガシッ、と背中合わせになったダイトラがビスカの両腕を取った。
『ああっと!? ダイトラ、ビスカを背中に持ち上げた! そして前にかがんでビスカを伸ばす、伸ばす、伸ばす!』
ボキボキボキッ
『背骨からいい音がしている! チームメイトが駆け寄ります! しかしなかなか手出しできない様子!』
ビスカは足をじたばたさせるが、ダイトラの拘束を振りほどけない。集まってきた選手たちもどうしたらいいのかとオロオロしている。
『ん? ダイトラが何か? ノリに……ビスカの足を引っ張れ? いやいや? いやノリもやろうとしないで。ああ、審判がようやく止めに入りました。ビスカが降ろされます』
『なんや折らんのか』
『えー、審判がダイトラに事情を聞いていますが……ストレッチをしてただけ? いやいや。はい。ダイトラに警告が与えられました。集まっていた選手たちが散っていきます。あのー先輩、ケモプロって乱闘起きないって聞いてたんですけど』
『だからストレッチなんやろ』
『えぇ……』
『なんちゅーか仕様のギリギリをついてくるわなこのクソ虎は』
『よくわからないんですけど……とにかく、全員守備位置に戻りました。試合再開です。ノーアウトランナー二塁』
マウンドに立つビスカは、肩をぐるぐる回して調子を確認する。
『バッターは二番、赤豪原ビワ太。赤豪原兄弟の従弟の方です。左対左の対決になります』
『出塁率はあるし、カンガルー弟を一番、ジノを二番にってパターンもいいと思うんやけどな』
小柄なカンガルー系男子が赤みがかった首をぽりぽりと掻いてバットを構える。その構えとジノ丸の様子を確認したダイトラは、フンッと鼻を鳴らした。
『これはジノ丸の三盗、ありそうですね』
『左投手やし、鈍足ショートやぞ? やらん理由がないわ』
『ですよね。さてダイトラのサインは変わらずど真ん中にストレート』
ビスカはダイトラのミットをじっと見つめる。それが動かないのを見て――目を細めてコクリと頷く。
『初球投げた――見送ったストライク!』
『カンガルー弟は慎重なのがいかんな。振れや』
『いやー、球が走ってましたから、これはど真ん中でもなかなか手が出ませんよ。続いて2球目は――チェンジアップ! ビワ太、バット止めましたがストライク。高め一杯!』
ビワ太は悔しそうにいったんバッターボックスから離れて素振りをする。
『いやー、ビスカのチェンジアップすごいですね。見分けがつかない。さすが島根のドライチですね』
『ほー、元プロが見てもか』
『はは、まあそうですね。これがただのゲームならゲームだから、って話で終わるんですが。さあノーアウト2ストライク。ビワ太、打って欲しいところですが……3球目――ジノ丸走った!』
ガッ
『ファール。外角いっぱいのカットボール。ボールになりそうでしたがビワ太、手が出ました。ファールです。ジノ丸、二塁へ戻ります。エンドランのサインは出てなかったですよね?』
『走ったのは独断やろな。まあ悪くないしええやろ。プレッシャーかけてけ』
ビスカは二塁に顔をやるが、ボスン、とダイトラのミットを叩く音で顔を前に向ける。
『ダイトラ、バッターに集中しろってことですかね。まあ三盗はジノ丸ならされてもしかたない、と割り切ったほうがいいかもしれません』
『それで割り切れりゃええけどな……お?』
ダイトラの出したサインに、ビスカが頷く。
『4球目! ジノ丸走った! ……空振り三振! ダイトラは投げ、ない。1アウト三塁! 最後は先ほどと同じコースに遅い遅いチェンジアップ!』
『割り切ってきよったな。ま、カンガルー弟はしゃーない。切り替えてこ』
『そうですね。……っと』
とぼとぼとベンチに戻るビワ太を、ドンと押しのけて次の打者がバッターボックスに入る。
『三番、赤豪原ガル。こちらも乱暴者の登場です!』
『カンガルー兄もしゃーないわ。別の意味で』
ガルはダイトラに「ど真ん中をくれ」と言ってクツクツ笑う。そんなカンガルー系男子を、どろっとした目で見上げたダイトラは――
『ダイトラ、なんと注文どおりど真ん中を要求! これは……おっと、ビスカも頷いた!?』
『マジでかこいつら』
『初球――』
投じられたのはチェンジアップ。遅い、しかし要望どおりのコースの球に、ガルは目を見開き慌ててバットを振りはじめ――
『アウト! ガル、初球打ちましたがショートライナー。ドーラ正面で受け止めて、2アウトです。……コギ六が後ろを駆け抜けていきますがまあ、置いておきましょう』
『何やっとるんやカンガルー兄は。注文通り来たら打ち返したらんか。そこで焦るからコイツは……左だから使ってもらえてるようなもんやぞ』
『あーあー、道具に当たるのはよくないですね。悔しいのは分かるけど。……さて、2アウトランナー三塁。バッターは四番、雨森ゴリラ!』
――歓声を背負って、ゴリラ系男子がバッターボックスに立つ。
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