【挿話】ポテトの国のブロッサムランド、補足

ブロッサムランド主催 ケモノプロ野球リーグ日米交流戦 一日目デイゲーム / 現地時間2019年4月5日放送


「(ボイシの皆さん、アイダホ州、USA、そして日本の皆さん、こんにちは。スコッティ・ペックです。今日はテレビ、ネットの同時放送。それもすばらしいゲストをお招きしての収録です。さっそくお呼びしましょう。チェルシー・コイル、そして、ユウ・オオトリ)!」


 名前を呼ばれてチェルシーと共にスタジオに入る。金髪七三分けのスーツ姿の男――スコッティーと握手して、それぞれの席に着いた。


「(ご紹介しましょう。チェルシー・コイル。ボイシの郊外にあるブロッサムランドを再建した天才発明家にして経営者です。まだ行ったことがない? あんなボロ遊園地? あなた、損していますよ! 今やブロッサムランドは最新技術の遊園地に生まれ変わっています。そして今年から新たな事業を始めるとか)?」

「(ええ! 野球チームを運営するのよ。チーム名はボイシ・ブロッサムズ)」

「(いい名前ですね。しかしみなさん、ブロッサムズは普通の球団ではありません。インターネット、デジタルの中に存在する球団なのです。そしてプレーするのは人間ではなく、ケモノ、ビーストなどと呼ばれる擬人化された動物。いったい何を考えたらこんなクレイジーなことが実現するでしょう? そのベースボールリーグを生み出した人が、ユウ・オオトリです)」


 一拍置いてスコッティが俺を見る。


「コンニチハ」

「こんにちは。(上手な日本語だ)」

「(ありがとう。あなたの英語も上手ですよ)」


 カメラに向かってスコッティは短くドヤ顔をする。


「(彼の名前はユウといいます。あなた、ではなく、ユウ、が名前です。面白いですね。さてユウはブロッサムズが登場するゲーム、『ケモノプロ野球リーグ』を作った会社、KeMPBの代表です。まずはケモノプロ野球リーグがどのようなものか簡単に説明していただきましょう)」


 映像とインタビューを交えて、ケモプロの説明をする。何度か打ち合わせしたにもかかわらず、スコッティの驚く顔は本物に見えるからすごい。……これで普段はラジオでの野球実況がメインだというのが信じられないが。


「――……(というわけで、日本から3チームがやってきてアイダホ州のチームと戦います。早速スタジアムの様子を見ましょう)」


 守備練習中のケモノ選手たちが散らばるスタジアムの映像が流される。この後はほぼケモプロの映像がメインだ。少し気が楽になる。


「(初戦、こちらからはケンピッジ大学、アイダホ州の一部リーグに所属するアマチュアチームです。チェルシー、ケンピッジ大学とは)?」

「(ケモプロには架空の学校がいくつかあるんだけど、そのうちの一つ。名前はユーザーから公募したものよ。もし大学名に自分の企業や組織の名前をつけたいと思ったら、うちの広報までまずは連絡を)!」

「(CMが入りました。番組を再開しましょう。ところでケンピッジとは)?」

「(日本のポテトを使ったお菓子に、イモケンピというものがある。イモはポテトの日本語だ。ケンピは棒状の硬いお菓子。つまりイモケンピとはポテトを棒状に硬く、溶けた砂糖でコーティングしたお菓子の名前だ)」

「(ケンピッジは言葉遊びね)」

「(なるほど! ポテトを愛する我が州にふさわしい名前です)」

「(原材料はPotato《ジャガイモ》じゃなくてSweetPotato《サツマイモ》なんだが)」

「「(えっ)?」」


 チェルシーとスコッティがそろってこちらを見てくる。……何度目か忘れたが、息がピッタリだな。この場面を放送すればいいのに。


「(なんてこった。サツマイモ? あれがお菓子になるなんて信じられません)」

「(日本のサツマイモと、アメリカで育てられているスイートポテトは種類が違うんだ)」


 こっちのやつはなんかオレンジだった。チェルシーに見せられてびっくりしたな……なんか水っぽかったし。


「(実物があったほうがいいだろう。これがイモケンピだ。どうぞ)」

「(おお、これは! 黄金色でなんとも美しい色艶です。それではいただきましょう。……うん、うん。うまい! これは感触がたまりませんね)!」


 そう言って食べるのも何度目か。リハーサルのたび食べるから、もうほとんど残ってないぞ。


「(日本ではこれをヘアアクセサリーにも使うんでしょ)?」

「(これを)?」

「(……イモケンピをモチーフにしたヘアアクセサリーが作られたことはある)」

「(クレイジー)」


 実物じゃないんだから、言うほどクレイジーじゃないだろう。大々的に売られたわけでもないし。


「(さて、話を戻しましょう。次は日本からやってきたプロチームの紹介です。その名も、青森ダークナイトメア・オメガ)!」


 おそろいの黒マントを着たダークナイトメアの選手たちが、ザッザッと歩いて球場入りする場面が映し出される。


「(なんとも悪役のような衣装です。これはチームの方針でしょうか)?」

「(わからない。なぜかダークナイトメアの中でだけ流行っているんだ)」


 マントを着てない選手もいるにはいるのだが、大部分が着ている。


「(青森、というのが地名ですか。どのようなチームか説明いただいても)?」

「(青森は日本の北の方にある県だ。ダークナイトメア・オメガというのは会社名で、りんごを栽培して販売している。そしてそのりんごの品種名も、ダークナイトメア・オメガだ)」

「(オゥ……)」


 しばらく問われるがままにダークナイトメアの説明をする。スコッティはもちろん事前に予習済みなので、視聴者向けだ。


「(なるほど。投手力のチームということで、ケンピッジがどれだけ打つ事ができるかというのが課題になりそうです。さあ、お待たせしました。そろそろ交流戦の第一試合が始まります。青森ダークナイトメア・オメガ対、ケンピッジ大学、試合開始です)!」



 ◇ ◇ ◇



ブロッサムランド主催 ケモノプロ野球リーグ日米交流戦 一日目ナイトゲーム / 現地時間2019年4月5日放送


「(こんばんは。スコッティ・ペックです。デイゲームに引き続き、『ケモノプロ野球リーグ』の試合をお届けします。ゲストは引き続き、チェルシーとユウです。時間があるので、少しデイゲームについて話したいのですが)?」

「(構わない)」

「(ありがとうございます。デイゲームは青森ダークナイトメア・オメガとケンピッジ大学の試合でした。ダークナイトメアは現在日本のリーグで5位ということですが、それにしてもケンピッジ大学を圧倒していましたね)」

「(やはり練習時間や経験の差が大きいと思う。説明したとおり、ケモプロの各選手は実際に練習することで学習する仕組みだ。ダークナイトメアの選手は1年以上ずっと動いているのに対し、ケンピッジ大学の選手は去年の秋生まれたばかりで、またサーバーの都合で一ヶ月に3時間程度しか練習できていない。公式戦の経験もここまで4試合だ)」

「(なるほど。試合の形になっただけマシというところでしょうか。次の試合はどうでしょう? 日本から出場するのは現在リーグ最下位、島根出雲ツナイデルス。そしてアメリカからはボイシ・ブロッサムズ! チームの正式なスタートは9月からということですが、このチームはなんでしょう)?」

「(練習生の所属する仮チームよ。とはいえ、練習生もスタートはケンピッジみたいなアマチュアチームと同じ。練習量だけは半年以上あるけど、公式戦の経験はないの)」


 いちおう練習試合とかは行っているが、公式の記録に残るようなものはない。


「(なるほど。しかし練習をしているなら期待はできますね)」

「(もちろん、勝って欲しいわね)!」

「(そろそろ試合開始が近づいてきました。ところでユウ、ツナイデルスのメンバーが事前に聞いたものと違うのですがどういうことでしょうか? 先発のピッチャーは、山巣穴やますあなビスカでは)?」


 しかしスコアボードに表示される先発ピッチャーは草穴くさあなリトルだ。


「(ビスカ選手に何かトラブルでも)?」

「(寝坊して、飛行機の時間に遅刻してな)」

「What?」


 ビスカ。2019年ドラフト一位の投手。獣子園で活躍した投球はどういうわけか実力を発揮せず、それどころかマウンドで眠そうな顔をし続けるケモノ選手。その選手は今――日本に置いてけぼりにされていた。


 寝坊して、飛行機が出発するまでに球場に来なくて。


「(これはゲームですよね? なのに、遅刻して飛行機に乗れなかった)?」

「(もちろんビスカが現実の飛行機に乗るわけじゃない。実際に行われているのは日米のサーバー間でのデータ転送だ。しかし、ケモノ選手たちはゲーム内で自分の意志で移動するようになっている。こちらの都合でテレポートさせたらAIの記憶に支障があるからだ)」

「(スコッティだって、家で寝て目が覚めたら日本のホテルにいた、なんてなったら混乱するでしょう)?」

「(うーん、日本には行ってみたいので飛行機代が浮いてラッキーですが、密入国になってないか心配ですね)」

「(そういうわけで、飛行機に乗って移動する、となっている)」


 飛行機代はかからないから次の便――二回目のサーバー移動を用意してもよかったのだが、オーナーの島根出雲野球振興会の代表は、懲罰の意味をこめて日本での留守番を選択した。これで寝坊癖が治るといいのだが。


「(わかりました。ビスカ選手についてのことはスッパリ忘れて実況することとしましょう。さあ、間もなく試合開始です! 島根出雲ツナイデルス対、ボイシ・ブロッサムズ)!」



 ◇ ◇ ◇



【魔球あらわる! ケモプロ、ナックル投手を発見!】 / 名勝スポーツ 2019年4月4日の記事


 (写真:マウンドから投球するロビン・ニアウッド)


 ケモノプロ野球でついに現代の魔球、ナックルを投げる投手が発見された。ケモプロでは精密な物理シミュレーションが行われており、変化球は選手の握りや投げ方によって曲がる仕組み。多彩な変化球がゲーム内で投げられてきたが、ナックルだけはこれまで投手がいなかった。ナックルのモーションデータの取り込みは昨年秋の時点で行われていたというが、実践できた投手が確認できたのは初めてとなる。


 ナックル投手の名前は、ロビン・R・ニアウッド。アイダホ州ポテトアイス大学に所属する四年生。所属する大学リーグで、彼の活躍によりチームは首位に立っている。今年のドラフトの候補であり、どの球団からも熱い視線が注がれている。現地時間6日に行われる伊豆ホットフットイージスとの試合が試金石に……――


 (後略)



【ダイトラよ、メジャーにいけ】 / 名勝スポーツ 2019年4月7日の記事


 (写真:ホームランを打つダイトラ)


 米現地時間4月5日、KeMPBとブロッサムランドの提携を発表するイベントにおいて、ケモプロチームと地元チームのイベントマッチが行われた。第一試合、青森対ケンピッジ大学は、青森が持ち前の投手力で圧倒し3対0で勝利した。第二試合は島根対ブロッサムズ。現在練習生が所属している(本契約していない)ボイシ・ブロッサムズとの戦いは、予告されていた先発山巣穴ビスカが飛行機に乗り遅れ不在というトラブルから始まり、代わりに投げる草穴リトルは早々に掴まる打撃戦へ。そんな中絶好調だったのが山茂ダイトラ。守っては3刺殺、打っては5打席4安打1本塁打4打点の大活躍、8対6で勝利した。

 あきらかにやる気が違って見えたダイトラ。このパフォーマンスが発揮されるなら来年度はトレードでBeSLB行きもあるかもしれない。ツナイデルスファンからしたら、ペナントでこそ発揮してほしい爆発力だっただろうが。

 本日、米現地時間6日は伊豆対ポテトアイス大学となり、注目すべきはポテトアイスのロビン投手。初めて見るナックルに伊豆の選手は対応できるだろうか。

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