ケモプロ2019シーズン、2月の三実況

【対東京第12試合】 / 島根出雲ツナイデルス公式チャンネル 2019年2月4日配信


『お待たせいたしました! 本日はここ東京セクシードームより、島根出雲ツナイデルス対東京セクシーパラディオン、6連戦の最終戦をお届けいたします! 実況はふれいむ☆が、お送りします』


 セクシーはらやま、という企業ロゴが燦然と輝くドーム球場が歓声に包まれる。


『この6連戦、ツナイデルスは初戦こそ落としたもののその後は連勝! 首位の東京から白星を奪い続けています! この調子で決めたい5連勝! 今日の先発は新人対決! 島根の先発は三尾みつおマジ、東京は荒海あれうみタシゾウ。そして島根の捕手マスクは――山茂やましげみダイトラ!』


 ベンチでムスッとして座る青い虎が映し出される。


『2戦目で死球を受けて負傷退場となった正捕手高原たかはらルーサーは、まだ通院中です。しかしダイトラに交代してからの快進撃を見ると、やはりこの虎に対東京戦でのジンクスを感じずにはいられない……!』


 カメラは切り替わって一塁の守備につくゴリラ系男子を映す。


『東京セクシーパラディオン側は、やはり主砲、雨森あめもりゴリラの不調が目立ちます。この連戦、いい当たりがありません。ダイトラとの相性……でなければ、引越しの疲れかしらね』


 ゴリラは有り余る年俸をもって先月、選手寮から一軒家へと引っ越していた。選手寮は全契約選手分の部屋があるのだが、当然面積は限られている。広いところに住みたい、という欲求からだろう。懐に余裕のあるケモノたちはチラホラと寮を出ていた。


『一方今シーズンから三番を任されているDHの赤豪原せきごうはらガルは余裕の表情。確かにここ最近の成績だとゴリラよりは打ってますけどね……チームは負けてるんですけど?』


 ベンチに残るカンガルー系男子は、ベンチの背に腕を回し足を組んでニマニマとフィールドを見ていた。


『ペナントレースは今日島根が勝って、裏でやっている伊豆対鳥取で伊豆が勝つと、伊豆が1位タイに並びます。鳥取は3位、以下電脳、島根、青森と続く状況ですが……とりあえず勝ち星を重ねていきたい! さあ、試合開始です! バッターは一番、灘島なだしまマテン!』


 試合は序盤から乱打戦の様相をみせる。両チームとも早めのタイミングで投手を交代するが、打線を切ることができない。


 ズルズルと試合は続き――九回裏へ。


『――……今日は珍しく打線の繋がったツナイデルス。しかしパラディオンに追いすがられています。2点のリードで迎えた九回裏、先頭打者の新人、南北なんぼくジノマルが奇襲を仕掛けました。セーフティバントで出塁してから、俊足を生かしての二盗! さらになんと三盗! 二番赤豪原せきごうはらビワこそ三振に仕留めましたが、好調の三番赤豪原ガルのタイムリーヒットでスコアは12対11。1アウトランナー一塁で迎えるバッターは、雨森ゴリラ!』


 バッターボックスに物思いにふけるゴリラが立つ。


『この競った試合、抑えに出てきた落木おちきハナノブ。ダンではないところに忖度監督の成長が伺えますが……ハナ信にはいささか苦しい場面か』


 ハナグマ系男子が、マウンド上で汗をぬぐう。


『目立った決め球はありませんが、制球力はあります。対するは本日は不調でここまでノーヒットのゴリラ。長時間の試合で疲れも見えます。なんとか抑えて欲しいところ。第一球は――』


 ダイトラ、チラリとゴリラを観察してミットを構える。


『――外角低め! ストライク! いいところに行きました! 球速は130、しかしコースはギリギリいっぱい。ハナ信、落ち着いています。ストライク先行で次の配球は……同じコース、ボールになるカーブ。ダイトラ、なかなか慎重ね。いいわよいいわよ』


 ハナ信は頷き、投球を――


『ッランナー走った! ゴリラスイング! ダイトラ投げ――ない! くッ……一塁ランナーのガル、配球を読んだか、好スタートを切りました。ゴリラもそれを見て支援のスイング。……まあ、投げてもこれは刺せなかったわね。仕方ない。ガル、盗塁成功。1アウトランナー二塁になりました』


 二塁上で、カンガルー系男子がニヤニヤと笑う。一方ダイトラは、フンッと鼻から息を吐きながら、ハナ信にボールを返した。


『今シーズン、ガルの盗塁回数が増えてますね。成功率もそこそこといったところでしょうか……ゴリラの支援が手厚いこともあるかと思いますが。って、は?』


 二塁ランナーのガルは――リードを広げる。


『えっ、まさか、三盗狙い? 別にガルの足が遅いわけじゃないけど、ジノ丸ぐらいの俊足じゃないと難しいと思うけど……っていうか』


 挑発するようにガルはリードを伸ばす。


『いやこれは刺せるでしょ、もう!』


 セカンドを守るイブヤがチラチラと視線を送るが、ダイトラは無視する。ハナ信が牽制しようとするものの――バシン、とミットを叩く音が大きく響いた。


『は? バッター集中? ちょ、ダイトラ何言ってるの? 牽制させなさいって!』


 しかしダイトラはどっしりとミットを構える。ど真ん中に投げろと。ハナ信はちらり、と背後のガルを見てから――


『第三球……ッ、走った!?』


 内野陣から警告が飛ぶ。


『ハナ信、ウエスト!』


 大きくボールを外すハナ信。チッ、と舌打ちしながらダイトラは立ち上がって捕球する。


『ダイトラ投げ、ない――がッ、ガル、二塁へ戻ります。これは……実際に盗塁する気はない?』


 二塁上でニヤニヤするガルに、ダイトラはまた鼻で息を吐く。


『……ゴリラに対する援護のつもり……なわけないわよね、ガルだし。こんな付け焼刃の挑発に乗ることなんてないんだけど……』


 ボールを受けたハナ信は、チラチラとガルを気にする。


『くッ、ウザい。今さらだけどダイトラのバッター集中、って言葉に同意せざるを得ないわ。今日打ててないゴリラなのよ? サクッと仕留めちゃいなさい!』


 ダイトラは変化球のサインを出すものの、ハナ信は盗塁を嫌って首を振る。ハナ信の思考に、先ほどジノ丸に敢行された三盗が浮かんでいた。舌打ちして、ダイトラはストレートを要求する。


『ガル走ったッ!』


 ふたたびハナ信はウエストに切り替えるが、同じことが繰り返される。ダイトラの目線の先で、ガルは悠々と二塁に戻った。


『……これで2ボール2ストライク。平行カウントになりました。ハナ信には惑わされずに投げて欲しいとこ――は?』


 ぽてん。


 ――ダイトラが下手投げで放ったゆるい球が、ハナ信の足元手前2メートルほどに落ちて止まる。一瞬ケモノ選手たち全員の動きが固まった後、ハナ信は飛びつくようにしてボールを拾い、ランナーを確認した。それで顔を合わせてようやく、ガルが慌てて二塁へと戻る。ハナ信はホッ、と息を吐いた。


『なッ、何やってんのよこのダメ虎!? いや、ガルも固まって走らなかったけど、そういうことじゃないでしょ……ああ、ハナ信、ダイトラに文句を言っていますが、態度悪く無視してますね』


 ハナ信の疑問符のアイコン満載の吹き出しを、ダイトラは耳をほじくって無視する。


『……不安だわ。えぇと……ダイトラ、次はチェンジアップを要求。ここで仕留める――っと、ハナ信が首を振りました。うーん、ブレーキングボールはどうしても投げたくない? ダイトラ……外角高めのボール球を要求。ハナ信、投げた! ゴリラスイング――止めた! 審判のコールは、ボール! フルカウント!』


 ダイトラは口をひん曲げて次のサインを出す。遅い変化球。ハナ信は首を振る。ダイトラは舌打ちをして視線を斜め上にやる。その先のゴリラは静かに構えている。ダイトラは小さくため息を吐いて――ミットを構える。


『1アウトフルカウントから……ダイトラ、ストレートでボール球? 歩かせるの? ハナ信、これは拒否。まあ今日打ててないゴリラだし勝負はしたいわよね。次は……内角低め一杯のストレート。ハナ信、頷きました。慎重にランナーを警戒して……っと! ここでゴリラの思考が出る! これはコースを読んでいるか? どうだ? 長くて読みきれないわよッ! ハナ信……投げたッ!』


 ゴリラの目元と、ダイトラの目元のカットイン演出が表示される。ダイトラの目は、閉じていた。


『上がった大きい! 嘘!? 入る、入るかッ!? コギ六今無事にフェンスに激突! その頭上を越えて入った! 逆転サヨナラツーランホームラン! これが四番! 東京セクシーパラディオンの主砲、雨森ゴリラ、久々の一撃はレフトスタンドまっしぐら! やっぱりゴリラ、さすがゴリラ、雨森ゴリラが試合を決めたァッ! ……――』



 ◇ ◇ ◇



【対電脳第12試合】 / 伊豆ホットフットイージス公式チャンネル 2019年2月8日配信


『えー、ただいま入った情報によりますと』


 スーツを着てメガネをかけたハムスター系アバターの男性が、よく通る声で読み上げる。


『裏で行われていた島根対鳥取の試合は、1対4で鳥取の勝利ということです。うーん、これは大変なことになりましたよ』


 伊豆ホットフットイージス公式チャンネルの実況者、回し車ハムまきはワクワクした声で言う。


『現在のペナント順位は、東京、伊豆、鳥取となっていますが……伊豆と鳥取のゲーム差は先日の時点で0.5まで詰め寄られています。つまり、このゲームで勝たないと順位が入れ替わってしまうわけですね。ここはなんとしても、我らがイージスに踏ん張ってもらいたい』


 とはいえ、とハム巻は続ける。


『最近の下位チーム……鳥取、電脳、青森は好調に見えます。今日の対戦相手の電脳は、守備も堅くなりましたしねえ。さあ9回表。2対3。イージスの攻撃です。なんとか同点、いや逆転して裏の守備を迎えたいですね。先頭バッターは新人、峻嶺しゅんれいルビィ選手』


 スラッとしたヒツジ系女子がバッターボックスに入る。一部の観客席から、熱狂的な応援が飛んでいた。


『対するカウンターズのピッチャーはこの回の抑えを任されました、こちらも新人、木又きのまたヤマダ選手。カウンターズの新たなクローザーです』


 ヤマアラシ系男子は、ミーアキャット系男子の岩荒いわあらミカドが出すサインに頷く。


『――……ストライク、アウト! 三振です! ヤマダ選手、今夜も好調! いや~、青森のドイル選手といい、ヤマアラシは抑えに向いてるんですかね? 1アウト、しかし、まだまだ! イージスも負けてはいられません。次のバッターは三番、新人のうぉん公香コウカ選手!』


 やや丸っとしたウォンバット系女子が登場する。しかしその眼光は鋭くヤマダを見つめていた。


『獣子園ではベスト8。主軸としてチームを引っ張りました。開幕からスタメンで出場し、そのバッティングが認められてクリーンナップでの起用が増えてきたところ。今日は――おっと打ち上げました! センター前のフライ! これは――』


 ドドドド、とセンターを守っていたクマ系男子が猛ダッシュする。


林上りんじょうクマサン、追いついた! キャッチアウト! うーん、すばらしい。以前までのカウンターズなら、あのゾーンは魔の三熊ゾーン、テキサスヒットの量産地でしたが、セカンドとショートが入れ替わって安定しましたねえ』


 歓声に応えながら、クマサンは守備位置に戻っていく。


『9回表、2対3。2アウトランナーなし。伊豆ホットフットイージス、このまま負けてしまうのか? いいや、まだ分かりません! まだこの男が残っている! 四番、温泉水おんせんすいバラスケ選手!』


 歓声と共に、やる気満々のカピバラ系男子がバッターボックスに立つ。ベンチ、特に凡退に終わった新人選手二人から、熱い声援が送られていた。


『ブルペンでは守護神、灘島なだしまマヤ選手が肩を温めています。ネクストバッターズサークルでは氷土ひょうどクオン選手が素振りを。続くぞ、という意識が高まるイージス! さあ期待に応えられるか。初球――』


 ふわっ、と投げられたボールを、バラ助は大振りに空振りする。ボールを受けたミカドは、肩を揺らして嘲笑した。


『ストライク。放物線を描くスローボールを大きく空振りしてしまいましたバラ助選手。顔が赤いぞ大丈夫か――第二球! ッストライク! またも大きく空振り! 尻もちをついてしまいました。これはいけません、高めの釣り球に手を出してしまいました。うーん、頭に血が上っているのか……と』


 バットの頭をぐるぐる回し、肩をいからせながら構えるバラ助の頭上に思考が浮かぶ。


『おっと、バラ助選手、これは演技のようです。これで甘い球を誘おうと。ストレート待ち、なるほど、しかし――』


 キャッチャーマスクの下で、ミカドはペロリと舌を出す。


『読んでいるのかカウンターズのミカド選手! 第三球!』


 焦り顔のバラ助と、驚いた顔のミカドのカットイン演出が入る。ストライクコースからわずかに落ちる速球に、バットが――


『打ったッ! 抜け――おっと!?』


 ヤマダの足元を抜けたボールが、セカンドベースに弾かれて高く上がる。


『ショート、ジャンプキャッチアンドスロー! 一塁、アウト! ゲームセット! 2対3、電脳カウンターズの勝利です! イージス、なんと三位転落……!』


 一塁を駆け抜けたバラ助は、ザッと足元の土を蹴ってから、トボトボとベンチに帰っていった。


『イージス、最後はベースに嫌われてしまいました。いやー、バラ助選手の演技を見抜いたミカド選手も良かったですが、それでいてスプリットに食らいついてヒット性の当たりを出したバラ助選手も見事。しかし、最終アウトを取ったこの選手こそファインプレーでしょう。ショート、草刈くさかりヨウ選手、敵ながら見事な守備でした』


 黒い角のシカ系男子が、カウンターズベンチに戻る。くちゃくちゃと何か噛みながらめんどくさそうに拍手するアライグマ系男子、イグマ監督にぺこりと頭を下げ、さっさと片付けに入っていった。


『獣子園ではセカンドを守っていましたが、ショートにコンバート。カウンターズのセンターラインを支える欠かせない選手となっています。空中からのスローイングも見事でしたね。ではもう一度リプレイを……――』



 ◇ ◇ ◇



【対鳥取第10試合】 / 青森ダークナイトメア・オメガ公式チャンネル 2019年2月9日配信


『ハーッハッハッハ! 眷属のみんな、待たせたな! 青森ダークナイトメア・オメガ公式実況者のヤミノウィングだ! 今日はな! ゲストがいるぞ!』

『は~い、おまたせぇ~! みんなのバーチャル砂キチお姉さんで~す! 今日はこちら、ダークナイトメア・オメガさんの公式チャンネルにお呼ばれしました。ヤミノちゃん、よろしくね~!』

『うん、くるしゅうないぞ!』


 カラス系女子アバターと、ネコ系女子アバターがわちゃわちゃとする。


『砂キチお姉さんは、先輩だからな! 今日は勉強させていただくぞ!』

『あはは、お手柔らかに。でもヤミノちゃんが主役だから、実況はちゃんとしてくださいね?』

『ハッハッハ! もちろんだ! 頼りにしてるぜ!』

『う、うん? うん。……えっと、そう、それはそれとして。最近青森は調子いいよね~』

『え、そーかな? 最下位だぜ?』

『今月に入ってからは4勝2敗で勝ち越しじゃないですか。しかも東京から2勝も!』

『あ~、なんか勝てたよな! なんでかな?』

『そうだね~。チーム改造が功を奏したって感じかな? 2月に入ってからだいぶスタメン入れ替えたし』

『あぁ……覚えるの大変だったぜ!』

『あ、そこ……うん、まあ、そうだね』


 ウンウンと頷くヤミノに、砂キチお姉さんは苦笑する。


『砂キチ先輩は、入れ替えた中でもコイツ! ってのはいる? キーマンってーの?』

『そ~ですね~。まだ具体的には……ああ、でも、注目してる選手ならいますよ!』

『おっ、どれどれ?』

『三軍から昇格してきた、凍土とうどナガモちゃんですね!』


 カメラがダークナイトメアベンチを映す。メガネをした小柄なマンモス女子が、隣に座るハクビシン系男子と話し込んでいた。


『ニューイヤートーナメントに出てきた時から、なかなか珍しいケースだなって。二軍をすっとばして三軍の子がスタメン捕手に採用ですよ? ロカンもそこまで悪いわけじゃないのに』

『へー、そんなもんなんだ? ルールは覚えたつもりだけど、野球って難しいな』

『あはは、まあこういうのは雰囲気と慣れですよ! 数をこなしていけば分かっていきますって。あ、そろそろ始まりますよ~』

『よーし!』


 ヤミノはガコッという雑音をマイクに吹き込みながら言う。


『さあ試合開始だぜ、眷属ども! ガンガン勝ってさっさと優勝すっぞ! 鳥取サンドスターズ対青森ダークナイトメア・オメガ、先行は青森ダークナイト・オメガからだ! ハッハッハッハ!』

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