試合前の報告会

【ケモプロ・キャンプイン】 / 名勝スポーツ 2018年10月2日の紙面


赤城あかぎ八太郎ハチタロウの打撃練習時の写真)


 10月1日にケモプロ(ケモノプロ野球)各球団は一斉にキャンプ入りした。今年のドラフトで入団した新人選手たちもこの日から練習に参加。先輩の選手たちと汗を流した。月曜の朝にも関わらず多くのケモプロファンが現地を訪れ、選手たちとの交流や練習の見学を楽しんでいた。ドラフト一位の鳥取の赤城八太郎、青森の雪道ルークは打撃練習に参加し柵越えを放つなど好調。開幕一軍の活躍に期待がかかる。



【ケモプロ・怪腕好投】 / 名勝スポーツ 2018年10月8日の紙面


一ノ原いちのはらサクラナの投球シーンの写真)


 10月7日に行われた伊豆ホットフットイージスの紅白戦で、今年のドラフト一位一ノ原サクラナが登板。三回無失点の好投を見せた。二回に温泉水バラ助、氷土クオンから連続ヒットを打たれるも崩れることなく後続をシャットアウト。試合後のインタビューにも笑顔で応じるなど精神面での成長が伺える。



 ◇ ◇ ◇



来週スタートの「ササ様と学ぶ野球」10月12日(金)に直前生放送&アフタートークイベント / アニメ系ニュースサイト 2018年10月5日配信


(「ササ様と学ぶ野球」のキービジュアル)


 10月12日23時より放送開始する「ササ様と学ぶ野球」の初回放送を記念して、直前生放送&アフタートークイベントが動画サイトで配信されることとなった。MCはフリーランスアイドルの北見タミさん。ゲストに元プロ野球選手のタレント宗村英史さんと、「ケモノプロ野球」運営元合同会社KeMPB代表の大鳥遊さん、そして近作で監督を務める萩中天平さん。アニメ制作秘話が語られるだけでなく、宗村さんがケモプロの野球選手たちを評価する? アフタートークでは視聴者プレゼントもあるとのこと。乞うご期待!



 ◇ ◇ ◇



「仕事を減らしてください」


 10月13日午前1時。

 どうしても時間が合わないため深夜開催となった報告会で、犬型ケモノアバターのシオミがそう言った。


「……そんなに負荷がかかっていたとは、気づかなくて悪かった。俺が代われる仕事はあるか? 営業の案件なら――」

「私じゃありません」


 シオミは大きくため息を吐く。


「ユウ様の話です」

「俺の?」

「はい。仕事を減らしてください」

「……体調も崩していないし、特にミスらしいミスもした覚えがないんだが」


 それとも自分で気づかないうちにやらかしていたかな?


「違います。ユウ様にしかできない仕事に使う時間を増やして欲しいのです」

「俺に?」

「今やっている仕事を列挙してみてください」


 改めて言われると数えるのが難しいな。雑用係だけあって、いろいろやっているし。


「対外的な仕事では、インタビュー、イベントへの参加、他社への営業、会合。KeMPB内部となると獣野球伝の編集、メールサポート。BeSLB関連では基本は向こうに任せているが、会議に呼ばれることはあるな。あとは他の仕事を手伝ったり……」

「その対外的な仕事が増えてきているんです。これはユウ様にしかできない仕事です」

「そうかな。皆は他にやることがあるから、代わりに自由な時間が多い俺がやっているだけだぞ」

「……時間の融通が利くから、ということだけではありませんが、まあそれでもいいでしょう。それで? ユウ様に今、時間の融通は利きますか?」

「……いや」


 今日も――もう昨日だが、イベント終わりですぐ帰ってこの時間だ。スケジュールはぎっちり埋まっていて、予定を動かそうとするのは難しい。


「ユウ様が他の仕事をやると、時間の余裕がなくなってしまうわけです。ですから、仕事を減らして欲しい。ユウ様でなくてもできる仕事を」


 シオミは俺に反論をさせず言葉を続ける。


「ユウ様は世間にKeMPBの『顔』として認識されているのです。インタビューやイベントへの登壇に指名されるのはそのためです。我々の代わりというわけではありません」

「ムフ。つまりお兄さんは広告塔、ってことだよ」

「ええそうです。そしてKeMPBが成長を続けるのなら、そういった仕事が増えこそすれ、減ることはありません。ですので、それに対応する時間を作るためにも、人に任せられる仕事は他に回していただきたいのです」

「しかし、任せるといってもな……」


 皆の作業時間を作るために、俺がそういった雑用をやっているわけで。


「承知しています。ですから究極的には――人を雇いましょう、ということですよ」

「……そうだな」

「BassとB-Simの日本展開の話もあります。アメリカでは専門チームがグレンダさんを中心に立ち上がっていますが、こちらではミタカさんだけでしょう?」

「マ、セプ吉に手伝わせたりもしてッけどな」

「地獄のサーバー移設が終わったらコレデスヨ」


 ニャニアンが肩をすくめて呟く。北海道出張は大変だった。移設だけでなく担当者への引継ぎやら打ち合わせやらいろいろあったし。


「トユーカ、ワタシ個人で抱えてる仕事もあるノデ、そんなに暇じゃないんデスヨ? わかってマス? アスカサン?」

「どーせ日中は動けんだろ」

「深夜メンテが多いのは事実デスケドネ? この後もメンテデスケド?」

「へいへい。冗談はさておき、向こうより規模は小さくても専門のチームは欲しいね。機材を取り扱うから物流の管理も必要だし。その辺は今んとこイサねェちゃんにやってもらってんが……」


 イサマルミ。事務所に通っていろいろやってくれている、シオミの後輩だ。事務仕事は既にイサがいなければ回らない。


「けっこー重いし力仕事だと思うんだが、ねェちゃん大丈夫かね?」

「イサは問題ないのですが、運送業者から苦情が」

「苦情?」

「荷物の大きさに対して、エレベーターが狭いと」


 KeMPB事務所が入るオンボロビル。それに備え付けられたエレベーターは狭い。前の家主が事務所に残した机がどうやって入れられたのか不思議なくらい狭い。


「その上頻度が高いので……」


 特にB-Simで扱う機材は、ほとんどがミシェルに作ってもらう特注品だ。それを一度KeMPBに届けてもらって、各所に発送している。


「相手も仕事だからやってはくれていますが、いい気はしないでしょう」

「確かに狭いな、あのエレベーター。かといってどうやっても広くはならないだろうし」


 建物を建て替えないといけないだろう。そうなると――


「……事務所を経由しないで送ってもらうのは難しいんだったよな?」

「んだな。まァ倉庫借りるとかでもいいけどよ。物流倉庫なら発送もやってくれっけど、そういう規模じゃねェし」

「きちんとした住所が欲しくて借りたような事務所だ。これを機に引越しも視野に入れるべきか」

「人を雇うなら今の事務所では手狭ですからね」


 ん?


「荷物用の場所があればいいんじゃないか? 人は別に、自宅から作業してもらえば」

「んー、だいたいの仕事はそうだね、リモートワークで充分! だけど、そういうのが嫌って人もいると思うな」

「オンオフキッチリ分けてェヤツとかな。あとは、仕事場じゃねェとモチベーションが維持できねェヤツ」

「……そういう人もいるか」


 NoimoGamesのマウラがそういうタイプだとミタカに指摘されていたな。実際どうなんだろう。


「分かった。一度本人の希望を聞いてみよう」

「……本人、ですか?」

「一人、ユーザーサポートをやっていた人間に心当たりがあってな。信用できる人だし、うちで働かないか、働くとしたらどうしたいか聞いてみる。雇えれば、ユーザーサポートの分は手が空けられるだろう」

「いいんじゃないデスカ? ユーザーも問い合わせの回答がまさかダイヒョーからとは思ってないデショーシ」


 KeMPBへのメール問い合わせは、俺とシオミ、ライム、イサが回答している。ここを任せられれば、俺だけでなく他の皆の負担軽減になるだろう。


「Bass、B-Sim関連の人材は今のところ心当たりがないが……」

「あァ、そっちは鬼ジャーマネに探してもらってるぜ」

「エーコに?」


 エーコはカナとタイガのマネージャーをしている。IT関係の仕事ではないはずだが。


「プロ野球選手もずっとプロってわけにゃいかねェだろ? 競争社会だ、加齢による衰えだったり、より上手いやつが入ってくりゃクビになる。んで、クビになった後はどうなるか知ってっか?」

「確か……用具係とか、打撃投手、ブルペン捕手なんかの球団職員とか」


 ケモプロ選手もいずれは引退する。というか来年のドラフトがあれば確実にその分の引退選手は出てくる。それがどうなるかというと、一般職の他には今言った球団職員になる道がある。


「んだ。あとは上手いやつならコーチとか、ネームバリューがあれば高校野球の監督とかな」

「――ん? あれ? 元プロ野球選手って高校野球の監督になれないんじゃないッスか?」

「昔はな。2013年から研修を受ければオッケーつーことになったんだよ。ま、アマチュアが指導するより、元プロの方がいいだろうし、マトモな判断だろ。ただ、いずれにしろそーゆー就職先は枠が限られてるワケで、進路に迷うヤツらは多いワケよ」


 今日のイベントにゲストとして出演してもらったソウムラはプロ野球選手からタレントになったわけだが、それもレアケースだろうしな。


「プロで稼いでて元手のあるやつは飲食業を始めたり、あとはまァ普通に会社員とかもあるが……野球しかやってなかったようなのが急に世間に放り出されても上手くいかねェわけよ」

「つまり、エーコにはそういう……就職先に困っている引退選手を紹介してもらうのか」

「そーゆーこと」


 ミタカは満足そうに頷く。うーむ、しかし。


「BassもB-Simも、畑違いじゃないか? 確かに野球関連のものだが、仕事となると操作方法のサポートだったりするわけで」

「確かにシステムを上手く使いこなせるやつ、って条件ならIT畑から引っこ抜いたほうがたくさんいるわな。ただ、付き合う相手はバリバリ体育会系の野球選手だぜ? ……この際だから言っとくが、プログラム書けるやつでマトモにコミュニケーションできるやつはレアだからな?」

「……そうなのか?」

「そーだよ。正直デキるやつほど一般世間とはズレてくからな。ツグみたいな天才で、一般人と話が通じるなんてレア中のレアだ。引きこもってる程度で済んでるのが奇跡みたいなもんよ」

「なるほど」

「えっ? あれ?」


 従姉、奇跡だった。


「つまり、IT畑から野球に詳しくて体育会系と付き合えるヤツを探すより、引退選手からITに詳しいヤツを探したほうが効率がいいっつー話だよ。『野球に詳しい』も『知識として』っていうより『体験として』『業界事情として』っていうのが主だからな。技術サポートもそんな詳しいところまでやってもらうこた考えてねェよ。せいぜい操作方法、トラブったらエスカレーション……こっちに回す判断ができりゃいい」

「なるほど」


 サポートを受ける側も、実際に野球をしていない人間からアドバイスされるより受け入れやすいか。

 しかしそれを考えるとアメリカのグレンダのチームもレアということだろうか。問題らしい問題も聞いていないし。


「マ、いきなり決まりってわけじゃねェ。あくまで紹介してもらうだけだし、雇うかどうかはこっちで決めらァ。……正直早く引き継ぎてェけどな」


 エーコの人脈に期待しよう。


「少し話を戻すが、事務所の広さも問題だったな。雇う人数と仕事環境によって変わってくるだろうし、その辺が固まってから探すべきか……」

「あー、その」


 リス型ケモノアバター、ずーみーが頭をかきながら口を開く。


「広い事務所になって、空きスペースがあったら自分が使っていいッスかね?」

「空きがあれば構わないと思うが……どうした?」

「いやほら、今自分、学校の部室を仕事場にしてるじゃないッスか」


 ずーみーとその後輩にしてアシスタントのまさちーは、棚田高校漫画部の部室で毎日作業している。毎日だ。土日もずーみーは学校に通っている。……さすがにまさちーはアルバイトなので休みにしているが。


「卒業後どうしようか考えてるんスよ。部室にけっこー資料置いてるんで、その置き場とかも。量があるんで、家の自分の部屋には入らないんスよ」


 そういえばこの小さな後輩も、もう高校三年生なのだった。


「部室は便利なんスけどね……」

「まさちーがいる間は、部室でもいいんじゃないか? ライパチ先生か……ミサキに頼めばなんとかしてくれるだろう」

「でもいずれはまさちーも卒業しますんで」

「あの漫画部はどうしても潰したくない事情が教員側にあるようだし……いっそ漫画部という名のずーみーのアシスタント育成場としてしまえば、ずっと使えるんじゃ」

「先輩天才ッスね」

「オイオイ」


 ミタカがツッコミを入れてくる。


「万一学校側が許しても、セキュリティ的にチトマズくねェか?」

「学校だから不審者はなかなか入ってこないし、部室には鍵もかかっているぞ?」

「イヤ、まァ、そうだけどよ……」

「あ、冗談、冗談ッスよ! さすがにこう、ずっとは……大人になっても高校行くとか恥ずかしいし」


 ずーみーならいつまでも紛れ込めそうな気がするが。


「っと、とにかくそういうわけで、せめて資料置ける場所があったらなと。いや本当は、ちゃんと仕事できる部屋を探すべきなんスけどね……一人暮らしとか引越しとか、不安だなと」

「ずーみーちゃんはらいむの家に来たらいいよ! 部屋空いてるよ?」

「申し出はありがたいんスけど、ちょっと遠いんスよね。まさちーが通うとなると」

「……そういえば、うちのアパートも手狭になってきたな」


 荷物も増えてきたし。というか、まだカナの家に島根からもってきた従姉の荷物を半分以上置いているんだよな。置いているということは使わないものなので、いっそ捨てたほうがいいと思うんだが。


「不動産関係なら頼れる相手がいる。ずーみーの話も合わせて相談しておこう」

「おおッ、先輩さすがッス。よろおなしゃッス!」


 できればそれぞれ近いと行き来が楽になって、より時間の短縮になるな。


「とりあえず……時間を作るにあたっての課題はこんなところか? なかなか単純にはいかないな」

「そういうものです。ひとつひとつ進めていきましょう」

「ムフ。時間があればいろいろできるよね!」

「オマエはな……」

「そうだな……正直なところ、最近遊ぶ時間もなかなかなかったし」


 腰をすえて遊ぶことができないので、プニキは未だにロビカスを打倒していない。今やメインのゲーム機は場所を選ばないスマホだ。


「ダイリーグに使う時間が確保できると考えるとやる気が出る」

「オイィ?」

「冗談だ。いや、遊んではいるんだが……課金はしてないぞ?」


 しようかなと迷ったことはあるが。今も迷っているが。


「10月から育成が新シーズンに変わったから、やることが増えてな」

「へー、そんなことになってたんスか。てか、甲子園はどうしたんです?」

「球児園予選か……」

「あ、そうそう。球児園。てか、なんで甲子園じゃなくて球児園なんスかね?」

「さーな。甲子園の商標使うの断られたんじゃねェの? 野球賭博するっつってるゲームだし、それじゃ拒否られて当然って気もすっし」


 そのことについて特にダイリーグ側から発表はないから、推測することしかできない。ミタカのような意見がネット上では多いが……どうなんだろう。


「球児園予選は、一回戦はリアルタイムで見れたし、勝ったんだ。ただ二回戦は都合が合わなくてな。リアルタイムで見れなくて……試合が始まった通知とか、点が入った通知とかを眺めていた」

「おっ、なかなか親切ッスね」

「そうしているうちに負けた」


 二回戦敗退だ。……やっぱり、選手名が悪かったかな。残念だったな、ライパチ・センセイ……まあ二試合ともベンチだったんだが。


「負けたので、次のシーズンのための育成をしている」

「あー……他の試合は見ないんスか?」

「相手チームも三回戦で負けたしな……」


 じゃあ三回戦の勝者の試合を追うかと言われると、そこまではモチベーションが続かなかった。特に注目選手とかもいないし……というか、選手の容姿には多種多様なパーツが選べるのだが、ユーザーが作るせいかだいたい似たような感じの女の子が多いし、かと思えば名前は適当だったりアニメキャラだったりで統一感がなく……覚えづらい。チームメイトも2、3人ぐらいしか把握できなかった。


「えと、ま、まあ、先輩は明日の試合があるじゃないッスか!」

「……そうだな」


 相変わらず、選手の名前は二人しか覚えていなくて、次が球団職員一名という体たらくだが、それでも見に行きたくなる試合がある。


「スケジュールもそれに合わせて調整した。忙しいところ悪いが、これだけは行かせてもらう」


 幼馴染の、久々の晴れ舞台に。



 ◇ ◇ ◇



【2軍の女帝、1軍初出場か!?】 / スポーツ仙人掌 2018年10月9日の紙面


 ――……の大村奏奈が13日、緊急帰国したフリーマンと入れ替わりで支配下選手登録、出場選手登録されることが発表された。初の1軍昇格となる。2軍ではDHとして出場する大村はその活躍ぶりからファンに『女帝』と呼ばれている。『帝王』は二軍で活躍しても一軍では活躍できない選手への呼称だが、果たして女帝はどうなるのか。気になる出場日は天間大地とのアベック出場となる同日13日となる模様だ。



【大村・1軍初出場決定】 / 名勝スポーツ 2018年10月13日の紙面


 ――……は本日13日のナイターに大村奏奈選手が出場することを正式に発表した。予告先発は天間大地選手。打順、ポジションは発表されなかったが、代打での出場が濃厚。一部には指名打者での先発出場との噂もある。すでに消化試合の日程となるため来シーズンを見据えた大胆な起用も予想される。試合は17時30分開始。

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