【二日目】2018年ケモノプロ野球契約更改

【二日目】2018年ケモノプロ野球契約更改 青森、東京、伊豆 / ケモノプロ野球公式チャンネル 2018年9月23日放送


(机を前にして、ウサギ系ケモノの女子、肌の黄色いへんてこな人間?、ネズミ系ケモノの男子が画面に映る)


炎:お待たせしました。2018年、ケモノプロ野球契約更改、二日目の模様を生放送にてお届けします。司会は島根出雲ツナイデルス公式実況者の私、ふれいむ☆。出演いただくのは先日に引き続き、KeMPB代表のオオトリさん。


遊:よろしくお願いします。


炎:そしてゲストはやきうのあんちゃんズchちゃんより、あんちゃんさんです。


兄:あ、ども……。


炎:……大人しいわね?


兄:いや、まあ……。


炎:……えっと。やきうのあんちゃんズchでは、東京セクシーパラディオンファンの兄ちゃんさんと、伊豆ホットフットイージスファンのあんずちゃんの兄妹でケモプロの実況配信をされているんですよね。いつもは2Dですが、今日はなんと3Dのアバターで登場です。どうですか、3Dは。


兄:あ、いっすね……。


炎:……今日は全員現地に集まって同じスタジオでの配信です。兄ちゃんさんはVR機器は初めてとのことですが、どうですか感想は。


兄:はあ、まあ……。


炎:……緊張してるの? 兄ちゃんさんらしくもない。いつも通りンゴンゴ言ってていいのよ?


兄:いや言ってな……いですよ。いやだって、自分みたいなのが公式に出るとか、放送事故……。


炎:あーもう! もごもご喋ってるほうが放送事故だっての! というかそういうグズグズは放送前にしてくれる!? 「まかしとき盛り上げたるわ!」とか、あの威勢はなんだったのよ!?


兄:………。


炎:はあ。えーっと。……オオトリ代表。昨日は砂キチお姉さん、そして今日は兄ちゃんさんとゲストを公式放送にお呼びしていますが、二人ともKeMPB関連企業の公式スタッフというわけではなく、いちケモプロファンですよね。どういった意図があるのでしょうか?


遊:ケモプロはサービス開始当初からUGC、ユーザーの作るコンテンツを応援してきた。けれど、それは一方的な関係じゃない。ユーザーが実況をしてくれるおかげで、それを楽しむ新しいケモプロファンが生まれている。ケモプロはユーザーの応援の上に成り立っているんだ。その存在を無視することは決してしない。今後もぜひ協力してほしいと思っている。


兄:………。


遊:砂キチお姉さんや兄ちゃんに今回の出演をオファーしたのは、鳥取、東京の各チームをとても好きでいることが動画から伝わってきたからだ。契約更改という試合外の場面でも、真剣に取り合ってくれるだろうと思った。


炎:単なるファンサービス、えこひいき、といった声もありますよね?


遊:ファンサービスの一環という面も確かにあるだろう。最終的に選んだのは自分だから俺の意志が関わっているのも間違いない。ただ、多くの人が納得してくれるだろうと思って選んではいる。兄ちゃんなら大勢が楽しんでくれるだろうと。


兄:……トリニキ……。


遊:いつも通りの兄ちゃんでいてくれれば問題ない。そう思っている。……やってもらえないだろうか?


兄:……へっ。しゃあないな。そこまで言うならやったろうやないか。


炎:はいはい、では茶番で暖まったところで……。


兄:ちょ、茶番言うなやババァ! ワイは結構真剣にやな!?


炎:ババァ言うな!


遊:仲がいいようでなによりだが、そろそろ始めていいだろうか?


兄:せや! 手際悪いぞ進行!


炎:あんたたち……。クッ……覚えてなさいよ。……えー、それでは最初の球団オーナーに登場していただきます。青森ダークナイトメア・オメガ、株式会社ダークナイトメア社長……ダークナイトメア・オメガ仮面。


『フハハハ! 待ちわびたよ!』


(黒いリンゴのかぶりもの、漆黒のマントを羽織った人物が部屋に入ってくる)


兄:なんで球団名変えたんやっけ?


遊:新種のリンゴの一般販売が始まったからだな。ダークナイトメアは外も中も黒いリンゴだが、ダークナイトメア・オメガは二つに割ると、赤い「Ωオメガ」のマークが出てくるんだ。


炎:長いからダークナイトメアって呼ぶけど。さてダークナイトメアで交渉に臨む選手は……セカンド、ニホンオオカミの大上川おおかみがわハギルです。


(オオカミ系男子が部屋に入ってきてソファに座る。と、辺りをきょろきょろと見回す)


炎:ん? これは……?


『ハッハッハ。どうしたんだねハギル君。ワタシは――ダークナイトメア・オメガの首領、ダークナイトメア・オメガ仮面はここだぞ! フハハハハ!』


(立ち上がりマントをひるがえす仮面。ハギル、目を丸くしてひっくりかえりソファから落ちる)


『……だっ、大丈夫かね?』


兄:マンガみたいな落ち方しよったな。


炎:ケモプロ選手は結構オーバーリアクションだけど……ここまでのリアクションは初めて見たわね。それだけ驚いたってことかしら?


『……落ち着いたかね? それでは交渉に入るとしよう。ハギル君への提示額はこうなっているが……――』



(中略)


『――……はっはっは。いいだろういいだろう! それでは、これだけアップということでいいかな? うむっ、ではサラバだ! 今期も期待しているぞ! ハッハッハ! おっと、彼で最後だったか。それでは、私も引っ込むとしよう! ハーッハッハッハ!』


炎:はい。ダークナイトメア・オメガ仮面さん、ありがとうございました。以上で青森ダークナイトメア・オメガの契約更改は終了となります。いかがでしたか、兄ちゃんさん。


兄:なんで揃いも揃って仮面見て腰ぬかすんやろな?


炎:さあ……? 球団のマスコットも同じ格好してるんだから見慣れてると思うけど。


兄:ま、査定は甘いなと思ったわ。大半上げとったし。ま、金があるんならええか。それを見越して留保しとったみたいやしな。


炎:この三球団の資金力は文字通り桁が違いますからね。特に、次の球団は。


兄:金は正義や!


炎:では唯一、一億KEMケムプレイヤーを擁する球団に登場いただきましょう。東京セクシーパラディオン、セクシーはらやま野球部部員、ウガタユウヤさんです。


(ウガタ、部屋に入ってくると一礼してからソファに座る)


兄:お辞儀て、面接に来た新卒か! ホント大丈夫かこのヒョロメガネニキ……なんで去年のオッサンじゃないんや?


遊:タカサカさんは今、療養中なんだ。


兄:あ、お、おう……。


遊:本人は来たがっていたんだが、大事をとってもらうことにした。


炎:お見舞いに行ったけど元気だったから安心しなさい。……さて、東京セクシーパラディオンの年俸リストはこちらです。なんといっても目立つのは、一位の雨森あめもりゴリラ、一億KEM、ですね。ケモプロ選手の中で唯一の一億超プレイヤーということになります。


兄:打撃三タイトルとってれば当然やろ。


炎:ちなみにAIが出した査定では一億に届いてなかったところを、調節して一億の大台に上げたとのことです。やはり億、となるとインパクトがありますからね。しかし、この影響がどう出ることか。調整した、ということは他の選手の年俸を下げたということになります。


兄:光林こうりんダディの最多勝、勝率一位も正直ゴリラのおかげやし、かまわんやろ。あの防御率で勝ち星上げてるのはゴリラの打撃あってこそよ。


炎:と、東京ファン代表は申しているわけですが、同僚はどうなのかというところですね。さて最初に登場するのは、指名打者としてスタメンを張っている、アカカンガルーの赤豪原せきごうはらガルです。年俸リストでは上位に入っています。


兄:態度悪いほうの赤豪原な。


炎:従弟の赤豪原ビワは普通だけど、ガルは最近態度の悪いシーンをよく見かけるわよね。ベストナインの発表でキレたり……。と、入ってきました。ああ、すでに態度が悪いです。なんという座り方。電脳のイグマは行儀が悪いという感じでしたが、ガルは……態度が悪い、ですね。ああ、大股開いて……。


『えっと……赤豪原ガル選手ですね。きょっ、今日はどうされましたか』


兄:医者の診察か。どうも何も年俸交渉やろが。


炎:ウガタさん、緊張されているみたいですね。さてガルは……これは? は? 一億一千万!? が、ガル選手、初手希望年俸を提示しました! 一億一千万KEMを要求です!


兄:アホか……何千万アップ要求しとると思っとるんや……。


炎:ゴリラ以上の年俸、ということですが……自分はゴリラ以上だということでしょうか。


『はあ。えっと……回答保留ってできますか? まだ理由があるんですよね?』


兄:却下でええやろ……。


(ガル、いくつかのウィンドウを提示する。いずれもランナーがいない状況でガルが長打を放っている場面)


『……?』


炎:えーと……何かしら?


兄:打率ならゴリラのほうがあるんやが?


『打撃成績は査定に入っているはずなので……評価変わらずで……』


(すかさずガル、新しいウィンドウを提示する。今度はガルがヒットでランナーを還し得点している場面)


炎:さて最後の提示ですが……うーん、意図が分からないわね。打点ってこと? それもゴリラの方が上なんだけど……。


兄:……ん? この試合は……。


炎:兄ちゃんさん、何か気づいた?


兄:いや、タイムリー打っとる場面は、あれやな。ゴリラが怪我で離脱してたときの試合やなと思って。


炎:つまり……ゴリラがいない間、チームを支えていたのは自分だと?


遊:じゃあその前の動画もゴリラのいない試合か。


兄:いや、ちゃうな。スコアボード見たけどゴリラいるわ。ゴリラがホームラン打った後やな、これは。


炎:……もしかして、そのホームランはソロホームランじゃあなくて、ランナーがいた?


兄:お? そうやな。ツーランかスリーランやな、どれも。なんや、何か分かったんか?


炎:アウトカウントも0か1……もしかしてなんだけど――ゴリラがいなければ、ランナーを還していたのは自分だ……って言いたい、とか?


兄:え、あっ……あぁ……そうかもしれんなあ。ゴリラがいないか打順が自分の方が先ならもっと成績があがったやろっちゅーアピールか、うん、話はわかるわ。分かるけど……そーいうタラレバはなあ?


炎:この解釈が正しいとして、気持ちは分からなくもないけど……結果を出しているのはゴリラだし。


兄:ゴリラいない間、だいぶ負けとったしな。ないない、ないわ。言ったれヒョロメガネニキ!


『うーん……すいません、年俸は変わらずです。ゴリラ選手より打撃成績を上回ることを期待してます――ひっ!?』


(ガル、音を立てて立ち上がり、机を蹴って部屋を出て行く)


『な、なんなんですか彼は……』


炎:いやー……態度悪いですね。


兄:ゴリラより劣るだけで、普通にいい打者なんやし、腐らず励んで欲しいんやがなあ……。



(中略)



炎:――……はい。以上で東京セクシーパラディオンの契約更改は終了です。ウガタさん、お疲れ様でした。いやー、面談枠が多くてファンには嬉しい時間でしたね。


兄:トップバッターが空気悪くしただけやったな。ま、金に余裕があればこんなもんよ。


炎:うらやましいことで、本当に。……さて、この二日お送りしてまいりました契約更改の模様も、残すところ最後の一球団。2018年度ペナントレースの覇者、伊豆ホットフットイージスの出番です。球団代表、トリサワヒナタさん、よろしくお願いします。


(着物姿のヒナタ、部屋に入ってくるとニコニコとソファに座る)


炎:うーん、王者の貫禄。さて伊豆の年俸リストはこちらです。上のほうにはタイトルをとった灘島なだしまマヤ、氷土ひょうどクオンの他、ベストナインに選出された温泉水おんせんすいバラスケ乾原かんばらココロ様。そして兼任監督にしてアイドルナインにも選ばれた瓦ノ下かわらのしたツツネさん。先発陣ではアカがお香草コウソウ……東京もだけど、伊豆もタレント揃いよね。


兄:………。


炎:兄ちゃんさん?


兄:おッ、おお? そ、そやな。やっぱり六番を打てる捕手っていうのがデカいわ。


炎:確かに、打線が切れませんからね。


兄:あれ? 島根にも六番打てるイケメン捕手がいたような? 名前なんだったかなぁ、出番少ないから忘れたわ。正捕手……やっけ?


炎:クッ……。


兄:ほんで、誰が年俸交渉にきたのよ。


炎:それが伊豆は唯一、誰一人として不満の出ていない球団なのよね。AIの査定からほとんど変えていないということも大きいのかしら?


兄:ほーん。まあ文句つけるような数字じゃないしな。


炎:というわけで伊豆は全員が面談枠になります。気楽に見ていきたいですね。早速進めていきましょう。まずは伊豆の守護神こと、ツシマヤマネコの灘島マヤ……――



(中略)



炎:――……はい、以上、温泉水バラ助でした。いやー、最後までガッチガチだったわね。


兄:緊張するほどオーナーって存在が怖いんかねえ。


炎:そうかしら? 理由は違うと思うけど……まあいいわ。さ、次が最後の選手です。イージスを率いる選手兼任監督、瓦ノ下ツツネさんの登場です!


(着物を着たツツネ、部屋に入ってくる)


『こんにちは、ツツネさん。はじめまして、ホットフットイージスの球団代表、トリサワヒナタです。今日はよろしくお願いしますね』


(ヒナタが笑いかけると、ツツネもにこりと笑う)


炎:かわいい……。え、今のはトリサワさんの笑顔のマネ? そういうことするの?


兄:いや表情パターンやろ?


遊:表情というのは要するに顔の筋肉だ。人間の動きを参考にして学習しているから、表情も学べないことはない。もちろん顔の構造は違うから完全に同じというわけじゃないが。


兄:このゲーム頭おかしいわ……。


『今日の着物も似合ってますね! 呉服屋さんにお話を通した甲斐があったというものです』


兄:服って全部セクはらとちゃうの?


遊:セクはらに着物の取り扱いはなくてな。ヒナタに紹介してもらった呉服屋に参加してもらっている。


『それじゃ最初の質問です! 着物、好きですか? ――そうですか! 私もです!』


炎:ガールズトークって感じですね。


兄:AIとガールズトークねえ……。


炎:なによ。


兄:いや、ええんちゃう? 平和で。癒されるわ、うん。


『じゃあ次の質問です! このシーンなんですけど』


(ヒナタ、動画ウィンドウを呼び出す。2018年ペナントレース最終戦、十二回裏、11対10、1アウト1ストライク、ランナー二塁。イージスの守備)


『体力的に限界が近かったのに、ツツネさんは交代しなかった。そこに飛んできたショートライナー。運よくツツネさんのグラブに打球が入ってダブルプレー、結果的にチームは優勝したわけですが、交代しなかったという判断をどう思いますか?』


兄:……いきなり平和じゃなくなったわ。


炎:ツツネさん、笑顔を引っ込めて下向いちゃったわよ……。


兄:なんでいきなり気まずくするのこの女将……怖……。


炎:ツツネさん、動きません。


(長い沈黙。ヒナタも、実況陣も待つ。――そして、ツツネは顔を上げる。吹き出しが出る)


炎:勝ったので正しい判断だった? ――でも?


(ツツネは首を振る)


炎:もっと勝率の高い方法があったのに、選べなかったのが……よくない? ……ふ、フクザツなこと考えてるわね……。


兄:反省してるんやな。ま、優勝の瞬間にフィールドにいたいって気持ちは分かるけど、チームの勝利を優先せななあ。


炎:とはいえあのシーン、急に交代した控えがちゃんと守れたか? って疑問はあるわよね。そういう意味でも、勝ったから間違いではない、というのはその通りだと思うわ。


『ありがとうございます。監督らしい考え方で安心しました。今年のドラフトで獲得した選手で、ショートにコンバートできそうな方がいたら、積極的に育成してくださいね』


(ヒナタの上に浮かぶ吹き出しを見て、ツツネは頷く)


兄:そういやドラフト5位以下は全部内野手やったか、伊豆。


炎:ショートの注目株はその手前で出揃ってしまいましたからね。もし残っていたら伊豆が指名していたかもしれません。


兄:まあセンターラインはどの球団も課題やからな。鈍足ショートとか三熊とかお手玉カワウソとか。


炎:伊豆は堅い方なんですけどね。監督を兼任するツツネさんの負担が重いだけで。さて──


『そうそう、ツツネさんは温泉は興味ありませんか? 特に足湯ですね! ケモプロにも実装してもらったんですがまだ入っているところを見たことが──え? 質問回数がおしまい? あれ?』


炎:……さっきの「コンバートしてね」で三回でしたね。


『ちょ、え、あれ? まだいろいろお話したいことがっ? あっ、つ、ツツネさんも帰らないで? ええーっ!?』


炎:……代表、延長は?


遊:不公平じゃないか?


『あの! 好きな食べ物の話とか、そういう……ああぁ……!』


炎:……じゃあオチがついたと言うことで……以上を持ちまして、ケモノプロ野球、契約更改の模様の中継を終了いたします。兄ちゃんさん、オオトリ代表、今日はありがとうございました。アーカイブの公開は……──

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