【一日目】2018年ケモノプロ野球契約更改(前)

【一日目】2018年ケモノプロ野球契約更改 電脳、鳥取、島根 / ケモノプロ野球公式チャンネル 2018年9月22日放送


(机を前にして、ウサギ系ケモノの女子、ネコ系ケモノの女子、ネズミ系ケモノの男子が画面に映る)


炎:お待たせしました。2018年、ケモノプロ野球契約更改、つまり年俸交渉の模様を生放送にてお届けします。司会は島根出雲ツナイデルス公式実況者の私、ふれいむ☆。そして出演いただくのはこの方です。


砂:みんなおまたせ~! みんなのバーチャル砂キチお姉さんで~す! 非公式! 鳥取サンドスターズ応援Vtuberで~す!


遊:KeMPB代表のオオトリユウです。


炎:契約更改といえばストーブリーグの定番のお楽しみだけど、ケモプロではなんとその模様を公開放送しようという試みね。なんとも生々しいというか、砂キチお姉さんはどう思う?


砂:でもみんな気になると思うんですよね! プロ野球選手がいくら稼いでるのかって!


炎:それはまあ……お金持ちになりたくてプロになったって公言してる選手もいるし、球児のモチベーションにはなるでしょうね。代表、なぜ公開しようと思ったんですか?


遊:その前にひとつ聞きたいんだが……ストーブリーグとは?


炎:……冬はプロ野球はオフでしょ? 冬は寒いからストーブが必要でしょ? だからオフシーズンのことをストーブリーグと言うのよ。知ってなさいよ野球ゲーム運営!


遊:なるほど。……いや実はプロ野球選手の年俸が公開されていないのを知らなくて、公開するものだとばかり思っていてな。


炎:は?


砂:あ~、ゲームとかだと年俸が数字で出てきますもんね。


遊:あとは選手と面談したいというオーナー側の要望があって、それを反映した形だ。ついでに、せっかくだから放送しようと。


炎:ついでって……まあいいわ。とりあえず進めましょう。代表、選手と面談したいというお話でしたが、今回の契約更改はどのような仕組みで行われるのでしょうか?


遊:それでは会場の様子を見てもらいながら説明しましょう。


(三人の前に、現実世界の会議室が映し出される。向かい合わせのソファが一組。その中心にあるテーブルの真ん中には透明な板が、両者の間をさえぎるように立っている)


遊:これは現地の、島根の会議室の模様です。


炎:真ん中の透明な板はなんでしょうか?


砂:刑務所の面会みたいな?


遊:あれは透過スクリーンというもので、映像を投影しつつ背景も見ることができるものです。


砂:ああ~、初音ミクちゃんのライブとかでよく使われてるやつ!


遊:オーナーは奥側の席からあのスクリーン越しにケモノ選手と対面します。ケモプロ内にも同じものがあって、ケモノ選手はスクリーン越しにオーナーを見れるわけです。


(説明と同時に、表示される会議室の半分がケモプロ世界のものに置き換わる)


炎:なるほど。そうやって選手と対面するわけですね。


砂:私たちみたいにアバターを使って、オーナーがゲームの中に入ればいいんじゃないですか?


遊:そういう計画もあったのですが、直接オーナーの姿を見せたいという要望があったので。選手たちも誰がトップなのか実際に見れたら面白いだろうと。


砂:はぁ~、なるほど。


炎:オオトリ代表は現地にいらっしゃるんですよね?


遊:はい。スタッフと一緒に現地入りしています。各球団のオーナーも控え室にいます。明日は、東京に戻ってそこでまた放送します。


砂:うわ、お疲れ様です! 私たちはバーチャルで家から参加してるので移動距離はゼロですけど。


炎:バーチャルの利点の一つよね。さて、会場の仕組みを見たところで、契約更改の方の話に入って行きたいと思います。まずこちらに各球団の選手の年俸リストがあるわけですが。


(電脳、鳥取、島根の三球団の選手名と年俸が記されたウィンドウが虚空に出現する)


炎:この数値を元に交渉することになりますが、代表、この数値はどのようにして決まったのでしょうか?


遊:各球団には選手以外にも、それを支える球団職員がいます。彼らもAIによって動いているわけですが、その中には査定担当の職員がいます。査定担当はシーズンを通して選手の成績をチェックし、まず年俸の最初の基準を決めます。次にそれを元に監督とコーチ陣が数値を修正し、最後にオーナーによって調整されたものがこの年俸リストになります。


炎:査定担当……成績によって自動で決めるのではなく、選手と同じような個別のAIが決めるわけですか?


遊:成績によって自動で決めてしまうと、例えばの話ですが、前半で十割打ってそれ以降全く打てなくて最終成績が打率五割の選手が一番年俸が高くなったとして……来期の活躍は期待できるでしょうか?


砂:故障とかかな? 期待はできないですね~。なるほど、来期のことを予想した年俸なんですね?


遊:そうです。監督やコーチのAIもそれぞれ各選手に対する評価が異なります。特に実際に試合で選手を起用するのは監督ですからね。彼らによる年俸の変動もまとめて、オーナーに情報を提供し、最終的な年俸を決めてもらった形です。


炎:相変わらず細かいことを……。


砂:この年俸に不満のある選手が、オーナーに直談判するわけですか~。


炎:リストで色分けされているこれらの選手たちですね。


砂:電脳多いですね……。鳥取と島根との比較だからそんなに変わらないような感じですけど……最低保証年俸の子が多いから、ですかね。


遊:他の球団、他の選手の年俸も見れるからな。自分の方がそれらより給料をもらうべきだろう、と考えている……んじゃないかと思う。本来なら全員と面談すべきだと思うんだが、そうしたところで球団の資金力にも限度がある。時間もかかるし、各球団5人までの面談に絞ってもらった。


炎:面談はどのように進むのでしょうか?


遊:選手側から最大三つまで、シーンの提示、成績の提示ができるようになっています。それに対してオーナーは評価できるかできないかを答える形です。


砂:おっと~! どこかで見たようなシステム!?


炎:まあ他に形もないでしょ……。


遊:ちなみにオーナーからの質問や提示も、進行上三回までとなります。


砂:内容をよく考える必要があるわね──と、そろそろ準備が整ったようです。まずご登場いただきますのは、鳥取サンドスターズのオーナー、鳥取野球振興会より代表、スナグチアキラさん!


(入り口から入ってきたスナグチが、奥のソファへと座る)


『あ、よろしくお願いしまーす』


炎:対するケモノ選手側、トップバッターはサンドスターズのレフト、クギササナイでファンにはおなじみ、スナネコの黒獄こくごくナイルちゃんです。


砂:ファンメイドのMMDで人気に火がついた選手なんですよ。あ、今日の私服もかわいい!


(紫色のパーカー、フードをかぶったスナネコ系女子が入ってきてソファに座り、膝にひじを立てて顎の下で手を組む)


炎:サンドスターズファンとして、どうですか砂キチお姉さん。ナイルちゃんは何を言ってくると思います?


砂:う~ん、ぶっちゃけ妥当なラインだと思ってるんですよね。打撃成績も打順どおりって感じなので。言ってくるとしたら守備かなあ? いや、かわいさアピールという手も?


炎:選手としてどうなのと思うけど……と、吹き出しが出ましたね。さらにウィンドウでグラフも。これは……失策率の少なさをアピールしているようですね。


(耳にはめたイヤホンに手をやるスナグチ)


遊:スナグチさんも同じ解釈をスタッフから聞いています。


炎:……スナグチさん、評価用のバーに触れます。ちょうど中心……理解はすれども評価は変わらない、というところでしょうか。


砂:エラー数はサンドスターズ外野陣の中では一番少ないですけど、そこまで差があるわけでもないですしね~。


炎:次にナイルちゃんが提示したのは……動画ウィンドウが出てきましたね。これは……1アウトランナー一、二塁。レフト前ヒットから、ナイルちゃんが送球してホームで二塁ランナーを刺したシーンですか。


砂:あ、覚えてる! 三月下旬に青森から三連勝して5位に浮上したときの初戦! このアウトで同点のランナーを防いだんですよ~。なつかし~。これはファインプレーですよねっ!


炎:それはチームも勢いがついたでしょうね。スナグチさんの評価は……迷っていますね?


『……えっと、指摘ってできるんすよね? どうしたもんか……ああ、はい、お願いします。じゃあ、ええと、ナイルちゃん。このシーンは自分はラッキーだと思ってる』


(スナグチの頭上に、ケモプロで使われるアイコンが並ぶ)


『ホームでランナーを刺せたのは、ランナーが走塁をしくじって三塁で大きく膨らんだからだ。けどそれを見て投げたわけじゃないよね? この投げてるところ、フォームが崩れて顔が地面を向いてる。うまく投げられたからいいけど暴投になる可能性もあった。クギネちゃんの中継指示も無視してるし、バックホームは完全に独断だよね? 一塁ランナーがよく見ていれば三塁も狙えた状況だから、最悪だと1点入って1アウト一、三塁になってた。少なくとも6回表、下位打線を控えてするプレーじゃないと思う。自分はここは同点になっても堅実に守ってほしいかな。成功したから評価は下げないけど、連携を捨てたギャンブルプレーは加点できないな』


砂:……お、おう。


炎:時々忘れるけど、スナグチさんって元甲子園球児なのよね。ベンチだけど。


遊:スナグチさんの指摘はどう思う?


炎:そうね。私も二度目はないプレーだと思うし、これを元に評価してくれと言われても困るわ。もちろん、成功したことを評価することも間違いではないと思うけど。


(スナグチの頭の上に表示される吹き出しが消える)


『それで三つ目は? ――って、あれ?』


(目を丸くして聞いていたナイル、ゆっくり立ち上がると退室する)


砂:あ、あれ? ナイルちゃん?


炎:納得しているように見えましたが……あれで十分、ということでしょうか。ま、まあとにかく、これで一連の流れは分かりましたね。次々行きましょう。えー、次は同じ外野組で、センターの木橋きのはしカイリ……――

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