表札のない会社

【ケモノ放送局SPOOORTS!】獣子園情報#5 /ケモノ放送局 2018/06/16放送


 グリンド:2018年6月16日放送、ケモノ放送局から飛び出したケモプロ専門番組、ケモノ放送局SPOOORTS! メインキャスターのグリンドと。


 ニット:同じくニットです。よろしくお願いします。


 グリンド:今週もケモプロの獣子園の試合結果や、注目の選手などを紹介していくぞ。


 ニット:まずはおなじみ、試合結果からだね。はい、ドン!


 (中略)


 ニット:……という感じ。それにしても、最初の週は決勝がなくて正直ツラかったけど、それ以降はほぼ毎日決勝があっていいよね。


 グリンド:決勝といえば今週はまずこの試合を取り上げないといけないだろう。滋賀県予選決勝、私立当目あたりめ高等学校対、関西水守みずもり実業高校の試合だ。


 ニット:ズルだよねーこれ。


 グリンド:まあそう言うな。大盛り上がりだっただろう? さあ、動画を流しながらいこう。この決勝もやはり、ジャガー兄弟の独壇場だったな。兄の三年、一番ショート南北なんぼくジノマルがこう……これだ。セーフティバントや絶妙な転がしで塁に出ると――


 ニット:すぐに盗塁して二塁。で、弟の二年、二番セカンド南北ガスケがバントであっというまに兄を三塁送り。しかも弟もかなりの確率で一塁セーフっていう俊足っぷり。このズルパターンで勝ち上がってきたんだよね。


 グリンド:この決勝で二人が得点に絡んだシーンはどれも印象的だった。まずは初回のダブルスチールだな。一塁、三塁の状況から、一塁の弟が盗塁を仕掛けて、それを刺しにいっている間に三塁の兄がホームイン。


 ニック:もう流れが決まったようなものだよね。


 グリンド:いや、水守実業も食らいついたからな。八回裏で同点に追いついて。


 ニック:でも九回表にまたズルされたしなー!


 グリンド:推しが負けたからってそう言うのはよくないぞ。それにすばらしいプレーだった。1アウトで二塁に兄。バッターの弟がバントで三塁線に転がして。


 ニック:一塁にアウト取りに行ってる間に、兄が本塁まですべりこんだんだよね……これなんていうの? スクイズ? 二塁からだけど。


 グリンド:三塁にもランナーがいたらツーランスクイズというらしいが……。とにかく兄のスタートはすばらしかったし、弟もわざと一塁へのダッシュを遅らせた感がある。頭脳と俊足を生かしたプレーだろう。


 ニック:バント戦術、もっと対策されていいと思うんだ。ズルいよ。


 グリンド:監督は試合を偵察しているらしいから、対抗策を思いつかなかったんじゃないかね? 南北兄弟の足が全国でも通用するか楽しみだ。


 ニック:はぁ……まあ、獣子園への出場とドラフトは別だし?


 グリンド:球団のスカウトがチェックしてくれていたらいいな。さて、では次の試合にいこう……――


 (後略)



 ◇ ◇ ◇



【育成野球ダイリーグが美麗なグラフィックに進化! 開発版プレイインプレッション】 /ゲーム系メディア 2018/06/18投稿


 5月からクラウドファンディングを実施している、9月サービス開始予定の野球ゲーム『育成野球ダイリーグ』から新たな情報が上がった。グラフィックの大幅なリファインを行ったとのことだ。

 正直な話、初報で公開されていたアバターはややブラウザゲームプラットフォームのアバター感があった。そこに多少不安を感じていたのだが、新しいバージョンを見て驚いた。これぞリファインと報じるのにふさわしい出来栄えだ。


 (画像:初報の試合画面)(画像:リファイン後の試合画面)


 のっぺりした(言葉は悪いが)よくあるインディーの3Dモデルだったものが、アニメ調のトゥーンレンダリングになって、独自開発されたシェーダーが埃臭さまで感じさせてくれる。まぶしい青空とグラウンドに広がる土と芝のグラデーションも美しい。

 さらにアバターパーツの拡充も行われ、よりアニメっぽいキャラを作れるようになった。これではドラフトの基準に『容姿』が関わってきてもおかしくないかもしれない。


 さて新グラフィックになったバージョンをプレイさせてもらって、まずその変化に驚いたが、カメラワークにも大幅なてこ入れがされているのが分かった。これまでは『プレイヤーに操作させるため』の見下ろし型の視点で固定されていたが、今回のバージョンから試合中、バッテリー間を横から見る視点や、キャラをあおって魅せるダイナミックなカメラワークになっていた。方針を選択中、様々な視点に切り替わるカメラが楽しい。

 なるほど、『育成野球ダイリーグ』ではプレイヤーにアクション操作を要求しない。ならばこうやって格好いいカメラワークに振るのもアリだろう。さらにアクションを要求しないことによって、もうひとつメリットがあった。それは『リアルタイムでなくていい』ということだ。


 一般的な野球ゲームでは(多少は演出で止まっている時間があるとはいえ、ほぼ)リアルタイムで試合は動いている。対戦ゲームであればなおさら、どちらかの演出の都合で時間を止めることはできない。しかし『育成野球ダイリーグ』は戦術的な指示は出すが、実際に選手にバットを振らせたりボールを投げさせたりするところまで操作はしない。そのため『リアルタイムでなくていい』という発想が生まれ、演出の幅が広がったわけだ。


 (画像:マンガのコマのように割れる盗塁の場面)


 例を出すと盗塁の際の演出が良かった。ピッチャーが投球モーションに移った瞬間、画面の一部をマンガのコマのように割って(対戦ゲームでは考えられない視界の隠し方!)、ランナーのスタートを表示する。この間、0.5秒ほど時間は止まっている。その後時間が動き出して……という形だ。対戦ゲームでは考えられない演出だろう(そんなことしたら盗塁側が怒る)。AIが自動で試合を進行させるダイリーグならではのやり方と言える。


 グラフィックの強化はアバターや試合内に留まらず、シナリオの方でも……――


 (中略)


 以上、短いプレイ時間ではあったが十分に進化を感じることができた。『育成野球ダイリーグ』のクラウドファンディングはゴール間近。ゲーム内アイテムが二倍貰えるお得なプランはゴールまでの受付なので、様子見していたひとは急いで手続することをお勧めする。


 最後に運営・開発会社の株式会社カリストの現役高校生社長、高梨氏から一言いただいたのでそれを掲載して本稿を終わりたい。


 ■支援してくれる皆様へ(株式会社カリスト 高梨狩主より)

 皆さんの熱い支援のおかげで、クラウドファンディングのゴールを前にして新しいグラフィックに進化したダイリーグをお見せすることができました。ダイリーグはこれからもみなさんの驚く仕掛けをしていきます。まずはクラウドファンディングのゴールまで、ご支援よろしくお願いします。



 ◇ ◇ ◇



【疑惑】ケモプロ運営元、架空オフィスの可能性 /ゲーム系ブログ 2018/06/19投稿


 仕事で近くを通ったからケモプロのオフィスを見に行ったんだけど、クッソボロいビル。


 (画像:ビル)


 ビル案内板にケモプロの名前ナシ。


 (画像:長年変えられていなさそうなビル案内板。5階は空きになっている)


 エレベーターはボロくて怖かったから乗らなかった。

 日が暮れても、所在地のはずの5階に明かりはつかなかった。


 (画像:明かりのつかない窓)


 もしかして偽の住所なんじゃね?

 経営状況も良くわかんないし、怪しい。


コメント


 1:名無し

  1


 2:名無し

  やべえな


 3:名無し

  これはいかんですよ


 4:犯罪は許せない

  これ特商法違反ってこと?


 5:あきれた

  登記簿とれば分かる話。さっさとやれ


 6:名無し

  ボロすぎワロた


 7:名無し

  え、こんなところで開発してんの? 何人体制なんだ?


 8:あきれた

  https://xxxx

  記者が行ってるだろ。そもそも基本リモートワークのはずだぞ情弱ども


 9:名無し

  世の中にはレンタルオフィスとかバーチャルオフィスとかありますが、印象よくないですよね。

  表札出てないのはいろいろ邪推してしまう・・


 10:名無し

  情報ありがとうございます! これは許せないですね。まじめに商売をやってる人たちがかわいそう。


 11:あきれた

  https://xxxx

  住所も電話番号も出てるだろバカか


 12:名無し

  電凸配信マダー?



 ◇ ◇ ◇



『やあ、面倒なことになってるようだねえ』


 夜。電脳カウンターズのオーナー、日刊オールドウォッチの編集長のユキミから電話がかかってくる。


「そちらが出してくれた記事のおかげで、だいぶ落ち着いたみたいだ」

『そうかい。それならこっちも書いたかいがあったよ』


 発端はどこかの個人ブログで、KeMPBの事務所が実在していないのではないかと騒がれたことだ。


 ……まあ、気持ちは分かる。オンボロビルだものな。簡単な取材対応以外では、郵便物の回収と掃除にしか来てないから、普段人はいないし。表札もオーナーに掲示を頼んでるんだけど見積もりさえ来ないんだよな……それでいて勝手につけるなって言われるし……まあ、なくても不便じゃないしと放置していた俺も悪いんだが。


 とはいえ実際に住所はKeMPBが借りているものだし、嘘はない。少し調べれば分かることだ。ユキミがすぐにデマを訂正する記事を出してくれて、ケモプロのオーナー企業もフォローに回ってくれたことで事態は沈静化しつつある。発端のブログも削除された。


「とはいえ、全部落ち着いたわけじゃない」


 問題がひとつ残っている。電話の件数が増えたことだ。


 KeMPBは基本的に電話での連絡を受け付けていない。会社に電話なんてあっても無用な営業が増えるだけだというミタカの強い主張もあり、メールやチャットでのやり取りを基本にしている。


 だが、電話をなくすことはできない。特定商取引法の対応のためだ。

 簡単にまとめると、特定商取引法とはネットで何かを販売する時には守らないといけない法律だ。ケモプロでもゲーム内アイテムの販売をしているし、ケモプロを通じた物販もやっているから、無関係ではない。


 そしてそういう商売をする会社は特定商取引法にのっとって、必要な情報を表示する必要がある。会社名や住所――そして電話番号だ。

 これがあるため、KeMPBでは1回線電話を契約している。ただ事務所には誰もいないので、その番号に電話をかけた場合、転送でシオミの携帯に着信することになっていた。


「これまでも番号は公開してあったが、同時にメールアドレスも公開していたので、電話で問い合わせがくることはほとんどなかった。なのだが、今回の件でだいぶかかってくるようになってしまった」


 今はもう夜なので、そもそも電話をかけても営業時間外で繋がらない。おかげでシオミの携帯も静かになっているが、昼は大変だった。かなりの頻度で電話がかかってきて、商談どころではなかったという。


『ナカガミさんも大変だったねえ。それで、どうするんだい? さすがに初日の勢いはなくなると思うけど……美人秘書の声がする、って一部では妙な盛り上がりも見せているよ?』

「件数は減っても、シオミの仕事に支障が出ることは確かだからな……人を雇うことにする」


 シオミにはアメリカに同行してもらうことになる。その際、さすがに海外にまで電話を転送するのはまずい。フリーダイヤルではないからこちらの懐は痛まないのだが、電話してきた人が電話代でひどいことになるだろう。

 かといって日本に残る誰かに任せるというのもまた、適任者がいない。ミタカはプレゼンのために残るわけで、プレゼン中に頻繁に席を立つわけにもいかないし。ずーみーやまさちーには問い合わせの対応は難しいし、ニャニアンは「発音の怪しい外国人を雇ったって言われてまた炎上する」とライムに指摘されたのでダメだ。


『代行会社を頼むって手もあるけどね』

「元から人を増やすことを検討していたし、ちょうどいい機会だと思ってな」


 シオミの仕事は多い。営業、契約、法務、会社運営に関わる様々な手続に加えて、秘書業務。以前、秘書はしなくてもいいんじゃないか、と言ったら、それがやりたくて参加したようなものだと言われた。スケジュール管理など助かっているのは事実なので、外せない仕事だと今では考えている。


「向こうに行くまでに雇って、引継ぎをしようという話になった」

『へえ。アテはあるのかい?』

「シオミの以前の職場の後輩が現在求職中だということで、早速明日会って話すそうだ」


 なんか嫌そうな顔をしていたが、ここで候補に挙げるぐらいだから能力はあるのだろう。


『なるほどね。ま、そういうことならそれはいいとして……本題に入ろうか』

「本題?」

『今回の騒動――裏で仕掛けた奴がいる』


 ユキミは声を低くして、けれど楽しそうに言う。


『今回だけじゃなく、最近地味な噂でチクチクやられているだろう? ケモプロを妨害しようって動きがあるんだよ。その指示をしている奴の尻尾を掴んだんだけど……どうする?』

「どうする――というと?」

『派手に公表するのか、裏でシメるのか、どっちが好みかと思ってね』


 KeMPBの意見を聞きにきたということか。まあ、当事者だものな。どっちか、か……うーん。


「どちらもしなくていいんじゃないか?」

『……ほう? デマサイトを放っておくのは、僕の信条に反するんだけどね』

「ユキミの手に入れた情報だから、ユキミが好きなようにすればいい、とは思うが」


 カウンターメディアメディアを標榜する日刊オールドウォッチにとって、根も葉もない噂を流すサイトは許せない存在だろう。けれど。


「日刊オールドウォッチはケモプロの球団のオーナー、KeMPBの関係者だ。当事者が反論するのは、火に油を注ぐことにはならないだろうか?」

『………』


 今回出してもらったデマ訂正記事でさえ、KeMPBの擁護だのなんだのコメントついてたし。


「もちろんユキミが確信を持ってすることなら、間違いないとは思うが」

『……まあ、見苦しい言い訳と受け取るバカもいるかもしれないな。なら、ちょっと迂回して別方面から記事を出してもらうってこともできる』

「それを頼んだのがユキミだと知られたら大変じゃないか?」


 直接反論したらしたで何か言われそうだが、しなかったらしなかったで、やましいことがあるんじゃないか、と邪推されそうな。


『……そうか』

「もちろんこれまでやってきたユキミの手腕を信じないわけじゃないが――」

『いや、分かった。オオトリ君の言うとおり、この程度なら放っておこう』


 ユキミはケロッといつもの調子に戻って言う。


『この程度で済んでいるうちは、さ。……社員への個人攻撃とかになったら全力でいいだろ?』

「その時はこちらからお願いする」

『ははっ。言われるまでもないさ』


 ククッ、とユキミは笑って――ぼそりと呟く。


『しかし、このままじゃダメだな』

「何がダメなんだ?」

『いや、こっちの話さ。まあ、アメリカで稼いでくるのもいいけどさ、ケモプロの方も頼むよ』

「わかった」


 ナックルを再現するゲーム、というのはひとつのウリになる。だがそれだけでは足りないだろう。

 今や比較される対象となってしまった『育成野球ダイリーグ』は、先日のグラフィックのリファインで相当な話題になり、そのままクラウドファンディングのゴールを決め、話題が絶えない。対するケモプロは、地道に獣子園の予選を消化中。話題に乏しいと言われればその通りだ。


「負けないようにがんばるよ」

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