六月の報告会

【『育成野球ダイリーグ』、8球団目が決まる! その名も『秋田ホワイトアイズ』。オーナー企業の美人社長にインタビューしてきた!】 2018/06/04 投稿


 5月上旬からクラウドファンディングを開始し、プロモーションを展開中の『育成野球ダイリーグ』から、新たな知らせがあった。5月中旬に発表された7球団目の『エイキョーナインズ』に続き、8球団目が成立したとのこと。

 そこで本日は8球団目となった『秋田ホワイトアイズ』、そのオーナー企業めじろ製菓株式会社の美人社長、八鍬ひのり(やくわひのり、以下八鍬)さんにインタビューしてきたのでその模様をお伝えする。



 ◇やり手女社長の参戦した理由とは


 ――本日はよろしくお願いします。それにしてもお若いですね。


 八鍬:よろしくたのみます。


 ――本日は『育成野球ダイリーグ』で野球チームのオーナーになられたということで、お話を伺いに来ました。まずは参戦された理由をお伺いできれば。


 八鍬:プロ野球の球団数を増やす噂は聞いていますか?


 ――はい。16球団構想等ですね。


 八鍬:その手の話で真っ先に本拠地候補に上げられるのが、秋田と静岡なの。


 ――隣接する圏内に球団がなく、かつ一定以上の人口がある土地、ということで候補にあげられますね。


 八鍬:逆に言うと最も野球空白地ということ。この地に球団がやってくることは、野球ファンにとっての悲願なの。ところが……ケモプロはそんな秋田県民たちの想いを踏みにじったのよ。


 ――というと?


 八鍬:静岡には声をかけておいて(※)、秋田には何のアプローチもかけなかった。発表を見て愕然としたものだわ。


 ※『ケモノプロ野球リーグ』の球団『伊豆ホットフットイージス』の本拠地は静岡県伊豆市。


 八鍬:ケモプロは秋田を見放した。そのことが今回の参戦に繋がる動機になったのよ。


 |ミニコラム 『めじろ製菓』ってどんな会社?

 |せんべいやおかきなどの、米菓を扱う会社。数年前からゲーマー向け栄養補給食として「オコション」を販売し人気を博している。これは八鍬ひのりさんが社長就任してからの方針で……――



 ◇ ◇ ◇



「ダイリーグは順調そうだな」

「何のんきなこと言ってんだよ」


 バーチャル空間で虚空に浮く記事を取り寄せて読み、感想を言うと、目つきの悪いキツネ――ミタカがあきれたような声を出した。


「前半、直接ケモプロを批判されてるじゃねェかよ」

「悲報、ケモプロ、秋田をハブっていた、とかまとめサイトに取り上げられてマスネー」

「候補地が秋田と静岡、っていうのは妥当なところだとらいむも思うな。お兄さん、なんで秋田に行かなかったの?」

「社会人野球チームがあったからだな。あとJリーグもあるし。優先度は低かった」


 どちらかがなければ行ったと思う。それと意外と社会人野球の人気はない、ということを知ったのはここ最近のことだ。当時は『地元に応援するチームがあるならバーチャルの球団は不要かな』と思ったのだが。


「こんなに熱意があるなら、声をかけてくれれば行ったんだが……」

「そこッスよね。実際、話はあったんスか?」

「情報公開前には当然だがなかった。情報公開後……去年の八月以降だと、ちょっと記憶にない。申し込みがたくさんあったから断るのが大変だったんだが……めじろ製菓、なんていたかな」

「んー、履歴検索してみたけど、いないね!」

「じゃ逆恨みじゃないッスか。抗議しましょうよ!」

「ほっとけ。『連絡がなかった証明をしろ』って悪魔の証明に持ち込まれでもしたらめんどうなだけだぜ」


 そもそも秋田にアプローチしなかったのは事実だしな。


「めじろ製菓とは縁がなかったと思うしかない。ダイリーグがうまくやったんだ、と。もう8球団だぞ、すごいじゃないか」

「うまく、ねェ」


 ミタカは首を捻る。


「まァ今回はそうかもだろーが、7球団目の『エイキョーナインズ』は正直、仕込みだと思うぜ。発表タイミングも早すぎるし、株式会社EIKYO、ってスマホアプリもやってっけど、どっちかってェと遊技機の会社だしな」

「ゆーぎき? ってなんスか?」

「パチンコ・パチスロのことだよ、ずーみーちゃん!」

「カジノ絡みで組むのを予定してたんじゃねェかね? んで追加企業の一番手として出して、様子見してるやつらを煽る感じの作戦よ」

「なるほど。それにめじろ製菓が乗ってきたということですか」


 どういう流れにしろ、事実はダイリーグは8球団だ。あと4球団、どうなるんだろうか。


「さて、ダイリーグの記事を読みに集まったわけじゃない。報告会を始めようか」

「そうだね~。じゃ、獣子園のほう! やっと少し盛り上がってきたね!」

「……その話こそ仕込みだよなァ?」

「えぇ~、らいむ、なんのことか分からないな~」

「高知のクマのことだが?」

「ああ」


 獣子園高知予選をぶっちぎりで優勝した、百森農業高校の――


「プニキか」


 黄色い熊。二年、山ノ府やまのふクマタカ。四番レフト。そのルックスとパワー溢れる打撃から、プニキと呼ばれて話題になっていた。


「ライムテメェ、毛皮の色カラーいじっただろ?」

「えー、変異種なだけじゃない?」


 ケモノ選手は、元ネタとなった動物の体色以外になる場合もある。だがその確率は低めに設定してあり、獣子園に参加する7144名のケモノたちの中でも数名しかいない。


「ずーみーさんよォ、容疑者はこう言ってるが?」

「いやー、ランダム生成とはいえ最後に自分がキャラチェックして確定してるんで……クロッスね!」

「ムフ」

「せめて、やったら言えよなオマエ……」

「実際に動くまで強いかどうかは分からないし、一回戦負けしたら言うだけ損じゃん。おかげで高知の決勝は盛り上がったでしょ?」


 ケモプロの選手の強さは、数値では分からない。実際に身体測定をさせれば100メートル何秒で走るとか、重量挙げ何キロかというのは分かるのだが、それだけで野球の上手さを計れるかというと微妙だし、獣子園に出場する選手たちはサーバー台数の都合のため試合以外では冬眠――AIさえ動いていないので、それらの記録もない。

 なのでプニキの活躍は誰もが想定外のことだ。まさか原作……というわけではないが、例のゲームのようにホームランを連発するとは……。……本人ならロビカスを打倒できたりしないかな。俺まだクリアできてないんだよな……。


「ダイトラ日記と合わせて、いい感じだったよね!」

「まさちーはネタ出しにヒィヒィ言ってるッスけどね」


 『獣野球伝 ダイトラ』。プロがオフシーズンの間は、選手ダイトラの日常を描いていく。その予定でずーみーの弟子、まさちーが主体となって、ほぼ日刊ペースで更新を続けているのだが――


「それもこれも、試合観戦しかしないダイトラが悪いんスけど。他の子はいろいろしてるのに」


 獣子園が始まってから、ダイトラは毎日球場に現れて試合を観戦していた。しかも大抵は一人で。おかげさまで話の広げようがなく、まさちーは無理矢理ご当地観光をからめて原稿を作っている。それでもネタが思いつかなければ、観戦したチームの選手紹介でお茶を濁す形だ。……プニキに関しては、それが功を奏した感じだが。


「でも毎日がんばってくれてるよね! おかげでPV数もそんなに落ちてないよ!」

「それ伝えたらビビってたッスね。獣野球伝の読者に申し訳ないとかなんとか」

「アシスタントが主導だということは初回からきちんと伝えてるし、おびえる必要なないだろう」

「なんか気になってまとめサイトとか見に行っちゃうらしいんスよね」

「アー、いろいろ言われてマスネ。手抜きトカ、ゴーストライタートカ」


 ライムからの報告にもあったな。書籍化が決定したのでその作業のためアシステントが出張る、とは開始当初から記載しているのだが、どうもうまくその辺りが伝わってない人がいるようだ。

 とはいえ好意的にとらえてくれている人、連載を楽しんでくれている人のほうが多い。そのうち誤解も解けるだろう。


「いろいろ、と言えばさ! ダイトラの移動経路を現実の交通機関で再現しているブログがあったのは面白かったよ。ほら、これ!」


 ライムが虚空にウィンドウを呼び出して、ブログを表示する。

 ダイトラは毎日獣子園を観戦している。一日四試合行われているうちの、時間のかぶらない二試合。予選会場はその県内の公営球場で行われている設定なので、ダイトラは毎日どこかしらの県に移動していることになる。場合によっては試合の合間に別の県までひとっとびだ。


「こういうオタクいるよな。まァ内部でも移動時間はとってるがダイヤまでは再現してねェし……お、宿泊費まで計算してんのか」

「本拠地の寮にはほとんど帰ってないからな」

「おーおー、けっこうな出費じゃねェか。たく、来年からはこうはいかねェからな?」

「え? なんでッスか?」

「今シーズンでは契約金がなかっただろう?」


 ドラフト会議。草野球で活躍していたケモノ選手たちの獲得は、球団からの指名と抽選だけで行われた。そこにケモノ選手に対する報酬――契約金はない。

 契約金の原資は、球団の運営費だ。そしてその運営費は、ゲーム内アイテムやオーナー企業がケモプロ経由で販売している商品の売上から積み重ねられていく。現実の収入が球団の収入とリンクする形だ。リーグ順位による賞金や、入場者数に応じた収入という例外も一部にはあるが、とにかく――


「シーズン開始時には球団に運営資金はなかった。だから契約金……ケモノ選手たちが使えるお金がない。なので、9月の契約更改まで、ケモノ選手たちは何をするにも金がかからないようになっている」

「ま、高額なアイテム……家とか車とかは買えねェようになっているがな」

「あー……そういえばそんな話でしたね。あんま散財してる感じじゃなかったから忘れてたッス」


 契約更改でケモノ選手が個人のお金を手に入れれば、寮住まいから独立する者もでてくるだろう。より選手たちの個性が出てくるようになるわけだ。


「ルーサーがいるんだ。ダイトラにはそんなに払わねェだろ。諸国漫遊も今年までってな」

「世知辛い。世の中金ッスね」

「大事なことだ」


 金がないとケモプロの運営もできないからな。


「というわけで、新しい仕事の話をしよう」

「おぉっ? お兄さん、サプライズ? らいむ聞いてないよ~?」

「うっせ。こっちには話通ってんだよ」

「決まりそうなので、その報告ということだ」


 まあ初報を入れなかったのは、ミタカが『たまにはライムの方を驚かしてやろう』と言ったからだが。


「上手くいけば、NPBから仕事を受注できる話だ」

「NPBからッスか?」

「ケモプロで使っているシーン検索機能があるだろう? あれはケモプロだけじゃなく、ケモノ選手の学習のために現実の野球動画も検索できるようになっている。その機能を、プロ野球に提供するんだ。対戦相手の研究なんかに使いたいという。できればNPBの全球団が使うように契約したいが……できないようなら各球団と個別に、少なくともカナとタイガの球団で導入、最悪でもカナとタイガ個人で使いたい、と」


 エーコはどうにかして上層部を説得してみせると息巻いていた。それに期待したいところだ。


「そしてこれはKeMPBだけでなく、ケモプロにとってもメリットのある話だ」

「ケモプロにメリット? どういうことッスか?」

「オウ。AIの学習のために動画を収集して解析、タグ付け、モーションの取り出しなんかをやってるわけだが、ここで使ってる動画は『放送されたもの』なんだわ。つまり、試合中に複数のカメラの映像を切り替えて作った一本の動画な」


 ミタカはアバターの指を立てて説明する。


「つまり他のカメラで撮った映像なんかは含まれてねェし、頻繁に切り替えがあってどーしても資料としては弱ェんだわ。だがNPBと契約すりゃ、解析のためそいつらを生データで提供してもらえる。つまり、ケモプロでも学習に使えるデータが増えるわけだ」 

「おー、なるほど! たしかに!」

「そういうことなので、ケモプロのためにもぜひ成立させたい仕事だ。段階を踏まえて進んでいくことになる」


 さすがに相手が大きいので、いきなり本契約というわけにもいかない。


「まずは評価版を提供することになる。お試し版、というところだな」

「ここまでは既存のシステムの利用でいくぜ。フロントエンドは新しく作るとして、他はケモプロ側のを使いまわす。喜べよライム、テメェにも仕事させてやっからな?」

「ん、うん。デザインは任せてよ」

「動画データだが、今のものはテレビ放送の私的録画なので、第三者が触る評価版には使えない。なのでエーコから球団で撮っているデータを貰う。それを使って評価版ができたら、NPB側に使って試してもらう。本来ならこの評価版の作成にも契約と請求をするべきなんだろう」


 この時点でもサーバーは増やすし、ユーザーが操作する画面の作成で手間がかかっているからだ。けれど。


「なんだろうが、無料にする」

「ダイヒョー、その心は?」

「今の時点でもほぼ間違いなく本契約にいけると思うが、それを確実にするためにも――『使わせたい』からだ」

「人は一度便利なものを使うと前の環境には戻れねェからな。使わせちまうのが一番確実だ」


 それでも本契約に行けなかったのなら、単に需要がなかったのだということでしかないだろう。……カナとタイガは買ってくれるそうだから、無駄にはならないと思うが。


「オエライさんに使わせる前から契約金だのなんだのやってたら、ぜってェ横槍が入んだろ。サクッと使わせて上のほうの味方を増やしていくっきゃねェ」

「というのが、エーコの話を聞いた上での結論だ」


 俺はぐるりと一同のアバターを見渡す。


「タダ働きになる可能性があるのは嫌だ、ということであれば、交渉してくるが……」

「何ヶ月タダ働きさせられてたと思うんデス? 今さらデスヨ」


 ……正式サービスまでは無報酬だったな。やっといくらか報酬を出せるようになったが、振り返ってみればよく皆ついてきてくれたと思う。


「……いつも助かっている。では、評価版の後の話を、ミタカ、続けてくれ」

「オウ。正式受注したら、動画解析のサーバーを独立させる。動画の蓄積、解析、検索、閲覧のためのサーバー群な。ケモプロのAIは、今までケモプロ内のサーバーを見ていたわけだが、今後はこの動画解析サーバーにアクセスして学習することになる」

「動画データの量が増えるんデスヨネ? なら、これまでより大規模なストレージサーバーデスネ。腕が鳴りマス。概算で見積もっときマショー」

「本契約まで先は長いと思うが、よろしく頼む」

「任せてクダサイ。貴重なデレも見れましたカラネ!」


 そんなに感謝の言葉が少ないだろうか。もう少し意識して言っていかないとダメかな。


「HERBの案件も合わせて、三つ目の仕事になるわけだがスケジュールなんかは大丈夫だろうか?」

「なんとかならァ。HERBの方はヘルプレベルだしな」

「とか言いながら、電書サイトはがっつりデスケドネ~」

「ずっ、ずーみーちゃんの配信プラットフォームなんだから当然だよね~!」

「デバイス系はツグがメインで手直ししてるから、問題ねェだろ」

「う、うん……大丈夫」


 何でもできるな従姉は。


「ま、これでケモプロの開発が減って仕事がねェ、っていう状態は当面回避したわけだ」

「楽になるかと思ったんデスケド、デマエになりそうデスネ」

「何がだよ」

「多すぎただろうか?」

「あー。イヤ、こんぐらいでちょうどいいだろ。適度に忙しいのが一番だぜ」

「オ、そういえばダイヒョー。このNPBの案件は、プロジェクト名とかないんデスカ?」

「プロジェクト名?」

「HERBとか、YYSとか、ああいうやつッスか」


 ああいうのか。急に言われてもな。


「……プロ野球検索システム……PYKS?」

「オマエほんとネーミングセンスはゼロな」

「社名をインターネットベースボールにしようとしていた件を思い出しました」


 古傷を。


「まァ凝った名前にする必要はねェよ。仮名だし、他のプロジェクトと区別がつきゃそれでいい」

「……や……野球、記録……検索システム……」


 英語にすると、えーと。


「……Baseball Archive Search Systemで、Bass、バスというのはどうだ?」

「オ、いいんじゃないデスカ?」

「それならつづりも一緒だし、読みはバースだろ」


 何と一緒かは分からないが、文句をつけて別案を出さないといけなくなるのは困る。後で調べておこう。


「ではBassバースがプロジェクト名ということで、今後進めていこう。……他に何かある人はいるか?」

「んー……、ねえねえ、アスカお姉さん」


 いい時間になってきたし終わろうか……としたところで、ライムが遠慮がちに口を開いた。


「アんだよ?」

「Bassの評価版って、やっぱりデモするよね?」

「そりゃするだろ。オマエのUIが悪いとか言う気はねェが、説明もなしに丸投げして通じるような組織でもねェし。体育会系だかんな、メカに弱いおっちゃんの相手もしなきゃいけねェだろうなァ」

「それって、やっぱりアスカお姉さんがするよね?」

「まァ、後はコイツと手分けしてか? 手がたりねェなら秘書さんにもやってもらうが」

「機能さえ教えてもらえれば大丈夫ですよ」

「うん、そうだよね、そっかぁ……」


 ライムは腕組みをする。何か考え込んでいる様子だが……なんだろう?


「あのさ……それ、納期とか決まってる?」

「……評価版は7月からデモする感じで決まったが?」

「んー、ずらせないかな?」

「なんでだよ?」

「あのね。らいむもお仕事とってきたんだ」


 ミタカが動きを止める。しん、とバーチャル空間が静まり返った。


「すっごくいい話だよ? スケジュールも、今からやれば間に合うしさ」

「……何に間に合うって?」

「お兄さんのパスポートの取得に!」


 ライムは――アバターを雲のように笑せた。


「変化球の……ナックルのデータを取るために――アメリカに行こうよ!」

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