あしのゆから報告会(中)
「そもそも元の『超力野球』は訴えられたんスよね? だったらダメなんじゃ?」
「『超力野球』をローカライズしてそのまま持ってくるのが問題だったんだ。今回は事情が違わァな」
「でも、どう見てもいろんなゲームのパクリッスよね?」
「そりゃそうだが」
ミタカは腕を組んで話を続ける。
「アイディアの流用……類似のゲームを訴えるのは難しいぜ。そうさな、PUBGって知ってるか?」
「Vtuberの動画で見たことあるッス」
「名前だけは聞いたことがあるな」
「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDSっつー、バトルロイヤルのFPSでな。今流行ってんだよ。で、これとゲーム性のまるっきり同じ荒野行動ってゲームと、建築要素を足した感じのFortniteってゲームがある。このふたつを、PUBG側はパクリだと非難してるんだわ」
3つのゲームの動画が再生される。……なるほど。Fortniteはともかく、荒野行動のほうは一見同じゲームに見えるな。
「実際、PUBGの開発元は、荒野行動を著作権侵害で4月に訴訟した。結構話題になったぜ」
「おっ。じゃあ荒野行動はもう終わりッスか?」
「訴訟に勝ちゃな。実際のとこは難しいだろ。『似てる』って意味のパクリで訴訟して勝った例はほんのごくわずかだ。そもそもゲーム業界じゃ流行ったゲームの模倣、『○○クローン』『○○ライク』『○○フォロワー』が出るのは日常茶飯事だからな。スマホっていうプラットフォームが出てさらに加速した感じだぜ。Flappy Birdとかが近年の代表例だろーな」
「タップだけで障害物を避ける横スクロールのやつデスネ。見た目に反して鬼難しいヤツ」
「まァ、あいつは簡単な実装で面白いっていうのがクローンが出まくった主要因だろーな。話は逸れたが、とにかく似てるってだけじゃ訴訟に勝つのは難しい。アイディアを実現する為に同じような手段を使ったにすぎない、と判断されるのがオチだぜ」
バトルロイヤルというアイディアを実現しようとしたら、似たような感じになるのは仕方ない、ということか。ふーむ。
「勝てるケースで多いのは二つ。まずは素材の流用だ。イラストやモデル、効果音やBGM。なんらかの素材をぶっこ抜いて使ってる場合は、そりゃもちろん著作権侵害でアウトだ。最近だとFF11の素材を使ったやつがあったか……まァありゃ訴訟まではいかなかったみてェだが」
「おッ、サービスがソッコー終了したヤツデスネ。20なん時間とかデ」
「んだ。で、次がチト分かりづれェかもだが、特許権の侵害だ」
「博士とかが取ってるやつッスか、特許」
「一般にはそんなイメージか? まあゲームの制御方法や操作方法なんかを各社特許として出願してんだよ。はっきりいって素人には何が書いてあんのかよくわかんねェ文章だろーが」
ミタカがなにやらごちゃごちゃした長い文章のウィンドウを表示する。
「これは今年の7月末に特許の切れるやつな」
「……なんスか、これ?」
「すっげー雑に要約すると、譜面に合わせて操作するリズムゲームの特許」
「とてもそんな感じには読めないが……」
「専門家でもなきゃ難しいからな。ま、ここではゲームの細かい仕様がいちいち特許になってるってことが分かりゃいい」
「特許がいろいろあるとして、それを全部避けてゲーム開発することはできるのか?」
「できてるからこんだけゲームがあるんだろが」
それもそうか。
「まァ、どーしても避けられない時はライセンス契約したりする。あとは防衛出願つってな、ライセンス料を取る気はないが別のヤツが申請して邪魔してくるのを防ぐ為に特許を取得しておく、って場合もある。そういうのは別のゲームで特許技術が使われてても、特に文句は言いに行かねェよ。平和なもんだぜ。つか、特許侵害で訴えに行くのだってレアケースなんだかんな?」
「そうなんスか?」
「訴えたとしてだ、特許侵害の裁判は年単位の時間がかかる。そんな時間かけてまで訴訟して勝てたとして、その労力に見合う金を払える相手じゃなきゃ訴えるだけ損だろが」
会社のやることだからな。赤字になってでも名誉のために訴えに行く、なんてなかなかできないだろう。
「無闇に訴えに行ったら悪評も立つしな。そうさな、特許侵害は最近だと、任天堂とコロプラの裁判が話題になったか。ま、決着まで何年かかるか分かったもんじゃねェが」
「おお、任天堂といえば最強の法務部じゃないッスか!」
「最強っつっても全戦全勝じゃねェぞ? 公道をちんまいカートで走らせる会社の商標での争いは負けたしな。まだコスプレ衣装のレンタルとかの方では、不正競争と著作権侵害で係争中のはずだが……」
「詳しいのですね」
「業界にいりゃ嫌でも耳にする話だ」
感心するシオミに、ミタカは肩をすくめる。
「んで、『育成野球ダイリーグ』が訴えられるかどうかだったか。ねェだろうな。キメラ化が進みすぎて元ネタは単なる一要素でしかねェし」
「でも『超力野球』は訴えられたんスよね?」
「ミートカーソルの特許侵害でな。ただし特許は国内でのみ有効だから、向こうさんのサービスは訴えられなかった。国内でそのまま展開するって話になったから、こっちでは特許侵害での販売差し止め請求がされたワケよ」
「うーん? パワプロにそっくりなんだし、著作権侵害にはならないんスか? 著作権は海外でも有効ッスよね?」
「実は十年ぐらい前に『新野球』っつーパワプロ似のゲームがあってな。そいつは展開元の国で著作権侵害を訴えたんだが敗訴してる。それぐらい『似てる』ってだけで勝訴すんのは難しいんだよ。……んで、特許侵害だが、ダイリーグでは試合中のプレイヤーの操作が簡略化されてミートカーソルがねェ。問題ナシってわけだ」
なるほど。むしろ特許の回避のためにそういう仕様にした可能性もあるのか。
「っつーことで、まず訴えられねェな。……オマエも別に訴える気はねェだろ?」
「ないな」
ダイリーグとケモプロの類似点は、試合を観戦できるとか動画配信するとか、その程度だ。まるまる同じなら多少気分も悪いが、この程度で騒ぐのもどうかと思うし。
「訴訟の心配がなさそうなのはわかった。ゲーム性に関しては未知数だが、ユーザーの集まる可能性もありそうだ」
だが、それだけで成功するか――ケモプロの邪魔になるかは分からない。
「キメラじゃない、ダイリーグ独自の要素……仮想通貨とかギャンブルについてはどうなんだろうか?」
◇ ◇ ◇
「ちょっとした変化球のICOってトコだな」
「野球ゲームダケニ?」
「うっせ」
バーチャルキックがネコ――ニャニアンを襲う。
「どこからいくかね。まァ、ゲーム内通貨に仮想通貨を使う発想は悪かねぇ。つか、他のところでもそういう企画が立ってる。基本無料ゲーの新しい集金手段として、マイニングさせるのも……まァ、アリだろーな」
「マイニングというのがイマイチ分からないのだが」
「あー……大雑把に説明するとだな。仮想通貨を使うヤツら同士で暗号化された取引情報の計算競争をしてだな、イノイチに正しい計算をしたヤツに報酬として、仮想通貨をくれてやるんだよ。この正しい計算が積み重なるのがブロックチェーンな。ちなみに発行総量は決まってっから、無限に金が増えていくわけじゃねェぞ」
そうなのか。景気のいい話が聞こえてたから、無限に増えるものかと思ってた。
「報酬は最初の頃はデカくて、発掘総量が一定額に達するたびに半減されていく。最終的にはマイニングで報酬は出なくなる感じだな」
「つまり最初に参加するのが得ということか」
「そういうこった」
「無料で遊ばせる代わりに、マイニングのための計算能力を提供してもらう、って感じだね! ちなみにマイニングはブラウザ経由でもできるから、Web広告の代わりの手段としても注目されてるよ。無料で記事を見せる代わりに計算させてね、って。広告と違ってバックグラウンドで動くから、ユーザーは気にならないって感じ?」
なるほど。ピカピカしたり大きくなったり上から下に流れてきたりする広告よりはストレスにならないか。
「まァ、無遠慮にリソースを食いつぶすスクリプトが多いから、ウザがられ始めてるけどな。マイニングをブロックするアドオンとかも出てきてるし」
「スマホ程度の処理能力じゃ発掘量も知れてマスシ、本体が熱くなる弊害ぐらいしかなさそうデスケド。ゲームと同時実行なんてトテモトテモ」
「発掘したDLMは運営と山分けってクラウドファンディングの説明ページに書いてあったけど、恩恵を受ける人は少ないかもね~」
熱くなるのか……俺のスマホは大丈夫かな。
「さっき言っていたICOというのは?」
「イニシャル・コイン・オファリングの略でICOな。仮想通貨っつーのは、仮想通貨の取引所に上場……つまり現実の通貨と取引できるようにして初めて価値が出る。んで、まだ上場していない仮想通貨を売りつけるのがICOだ。株取引のIPOをもじった感じだな」
「なるほど、IPOですか。ということは仮想通貨を『これから値上がりするから』と投資家に売りつけて資金集めをするわけですね。IPOと同様の問題が?」
「上場すりゃいいが、資金を集めただけで上場しねェとか、思ったより値上がりしねェとか……ひどい例だと、発行者自身がタダで仮想通貨を発行して抱え込むとかな。株より法整備が進んでねェから、けっこーやりたい放題だぜ?」
ダイリーグの構造で言うと、株式会社Minocoが発行元で、株式会社ライブラの取引所『ビットバランス』に今後上場するということか。
「もうその仮想通貨……DLMは買えるのか?」
「ん。hiraminおじさんが広告塔になって売ってるよ。Minocoに問い合わせたら価格表貰っちゃった」
価格表が表示されるが、相場が分からんのでよく分からん。ただ、だいぶまとまった額を要求するんだな。
「今後注目のスマホゲームユーザーが取り扱う通貨、カジノでも使われるようになる……っていうのが、けっこうウケてるみたいだね!」
「カジノへの注目は大きいですからね……話がどこまで決まっているかわかりませんが、可能性を感じる投資家は多いでしょう」
「うんうん。あることないことで盛り上がってていい感じだね! ――でも」
ライムは――雲のように笑う。
「いきなり梯子をはずされちゃったよね!」
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