シーズン終了後の報告会

【ケモノプロ野球リーグ 初年度の優勝チームは『伊豆ホットフットイージス』に! ファン投票開催中!】


 2017年12月からスタートしたケモノプロ野球リーグ(以下、ケモプロ)2018年シーズンは、昨日5月6日の最終戦に劇的な勝利をおさめた伊豆ホットフットイージスがペナントレースの勝者となった。……――


(中略)


 ――……ペナントレースの順位は以下の通り。


 1位 伊豆ホットフットイージス

 2位 東京セクシーパラディオン

 3位 島根出雲ツナイデルス

 4位 鳥取サンドスターズ

 4位 電脳カウンターズ

 6位 青森ダークナイトメア


 最後まで順位がもつれ込み大いに盛り上がったケモプロ。組み合わせの妙もあったとは思うが、この盛り上がりは大成功だったと言っていいのではないか。AIが披露するスポーツに人間が夢中になるという、未来を感じる内容だったと筆者は感じている。


 さて、ペナントレースの終了に伴い、ケモプロでは記録による選手の表彰が行われている。この記事の最後に一覧を掲載するが……さすがゴリラといったところだ。四球が少なければどうなったことか。

 なお、現実での「新人賞」や「ゴールデングラブ賞」のような記者投票の賞は設けられていない。その代わり「ベストナイン」と「アイドルナイン」の一般投票が、5月11日土曜日まで受付中だ。「ベストナイン」は成績を重視した投票、「アイドルナイン」は人気投票と区別されている。ケモプロのアカウントがなくても投票自体は可能なので、選手リストを眺めて悩んでみよう。

 なお、迷った場合は伊豆ホットフットイージスの瓦ノ下ツツネさんに投票してほしい。簡単なことだ。


 (胴上げされるキツネ系女子の写真)

 /*このかわいさよ。なお胴上げは二回で崩れた。怪我人がなかったのが幸いだ。


 明後日の5月9日からは、ケモノ世界の高校生たちの熱い戦い、「獣子園」の地方予選が始まる。今後もケモプロからは目が離せなさそうだ。



 ケモノプロ野球リーグ2018年度シーズン 記録による表彰

 投手部門

 最優秀防御率

  夜山ノヴァク(青森)

 勝率第一位

  光林ダディ(東京)

 最多勝利

  光林ダディ(東京)

 最多セーブ

  灘島マヤ(伊豆)

 最優秀中継ぎ

  巣穴野ラビ太(島根)

 最多奪三振

  影家カズシマ(電脳)


 打者部門

 首位打者

  雨森ゴリラ(東京)

 最多安打

  李西伯(鳥取)

 最多本塁打

  雨森ゴリラ(東京)

 最多打点

  氷土クオン(伊豆)

 最高出塁率

  雨森ゴリラ(東京)

 最多盗塁

  平土トム(電脳)



 ◇ ◇ ◇



【ファッション セール情報 セクシーはらやま『東京セクシーパラディオン準優勝セール』】


 セクシーはらやまは全国の店舗で『東京セクシーパラディオン準優勝セール』を、5月7日~10日までの4日間開催する。ゴールデンウィークのセール期間の延長といったところで、一部夏の新作が先行販売される。

 『東京セクシーパラディオン』とは、セクシーはらやまが所有するインターネット上の架空の野球チーム。昨年12月から行われていたリーグ戦で、チームが準優勝したため行うセールとのこと。



 ◇ ◇ ◇



【<鳥取市> 光の野球場、一夜にして現る】


 鳥取県鳥取市の鳥取砂丘において、5月6日、プロジェクションマッピング(※)の技術を使用して、インターネット上の架空の野球の試合を上映するイベントが行われた。この日集まったのは合同会社KeMPBが運営する「ケモノプロ野球」のファン……――


 (中略)


 ――……この企画を担当した市職員の砂口亮氏は「県外からの参加者も多かった。若者同士の交流にも一役買ったと考えている。今後は機会を増やすためにも、常設のパブリックビューを検討したい」と展望を語った。



 ◇ ◇ ◇



 5月7日、月曜日。

 ゴールデンウィークが終わり、平日が戻ってきた夜。


「それでは報告会を始めようか」


 そう呼びかける先はいつものノートPCの画面ではなく、無限の地平線が続く空間だった。


「今日からこういう形で開催になるが……問題ないだろうか?」

「ばっちりッス! 声もちゃんと先輩のほうから聞こえるし」


 答えたのは丸メガネをかけたシマリス系のケモノ女子。


「問題ないデスね。秘書サンはどうデス?」

「少し目が疲れる感じがしますが……慣れれば平気でしょう」


 エメラルド色の目をした銀のネコ系女子が訊ねると、メガネをかけた毛の長いイヌ系女子が頷く。


「まァさすがに酔わねェよ」


 目つきの悪いキツネ系女子が鼻を鳴らす。


「ムフ。ずーみーちゃんデザインのアバターを通して見ると、アスカお姉さんもかわいいよね!」

「あァ?」


 ひときわ服装の際立つヒツジ系女子が、キツネに睨まれ。


「エムさんに感謝しないと、だね」


 最後に、大きなメガネをしたオオアリクイ系女子――従姉のアバターが神妙にうなずいた。


「けッ。開発に協力するんだ。機材ぐらい調達するのはフツーだろフツー」

「そデスネ。人数分くれると言ってくれたんデスカラ、遠慮しなくてヨシデスヨ!」


 プロジェクトHERB。VR図書館、MR型電子書籍、本型電子書籍などの開発を進めるグループに、KeMPBは協力することになっている。そこでミシェルに開発機材としてVR機器を要求したところ、全員にいきわたるだけの数が届いた。届いたからには活用しよう――ということで、今回からオンライン報告会は、VR空間上で行うことになったわけだ。


「これが流行りのVRオフィスってわけッスね」

「流行りなのか?」

「まァこれから一つの選択肢としてシェアが増えてくるんじゃねェか? うちはこれまでも物理で集まったこたねェからな……インターフェースが変わった程度の認識だろうが、物理でやってた所にとっちゃちょっとした衝撃だろ」


 キツネ――ミタカが肩をすくめる。


「オマエとずーみーと秘書さんに回したような独立型ゴーグルが普及すれば……って感じだが。あとは人数増やすとスペックがな……」

「みんなので動かすと、ちょっとギリギリ、かも」

「ギリギリでも動くものをこうして用意してくれたんだから、助かる」

「でへへ……」


 また従姉が一晩でやってくれた。二晩あったらどうなったんだろうな。


「さて、まずはリーグ戦の話からしよう。昨日で無事に1シーズン終わることができた。みんなの協力のおかげだ」

「盛り上がったよねー! おかげで記事もバンバン出てるし。これ一覧ね。あと取材の申し込みも増えたから、お兄さんよろしくね!」

「わかった」


 雑用係としては、できる仕事はどんどんこなしていかないとな。


「各球団の売上のほうも好調です。これから獣子園が始まりますのでしばらくは広告収入も控えめになりますが、次のシーズンまでの資金は確保できたかと」

「らいむとしては、もう少し盛り上げたかったなあ……サプライズ不足?」

「ヤメロ。やるにしてもオレには教えろ」

「んー……サプライズの内容次第だよね!」


 ミタカのアバターが無言でライムのアバターの頭に拳を下ろす。……VRでよかったな。あれ物理だと相当痛いぞ。


「獣子園は明後日からか。準備はどうだ?」

「バッチリデスヨ。9日から83日間かけて……7月30日まで予選。8月3日の本選からは1日2試合で休養日も含めて31日に決勝。余裕あるスケジュール、カンペキデス」


 当初は12球団の実現よりも難しいと考えていた獣子園の予選放送だが、規模と日程を調整することで放送に至った。3ヶ月もオフシーズンを提供するより、こうして細く長く続いたほうがいいだろう。


「まァ、現実と違って雨天中止だのなんだのはねェからな……サーバートラブルさえなければ予定通りいけるのが強みだわな」

「アスカサン……フラグっぽい言い方はやめてクダサイ……」

「甲子園より試合の消化がスローペースッスね」

「時間帯をずらしたかったからな」


 野球好きに甲子園は見逃せないイベントだ。ならばスケジュールの都合上期間がかぶるとしても、せめて時間帯はずらしたほうがいいだろう。ということで獣子園は夕方から試合が始まる。甲子園を見たその勢いで獣子園をどうぞ、という感じだ。

 ちなみに仮想空間ならではということで、開催時間が夕方だろうと青空の下での試合になる。


「トラブルさえ起きなきゃ、物量をこなすだけだ。開発の手は空く。っつーことでだ、そこのネズ公。一つ相談がある」


 ……あ、俺か。ネズミアバターなんだった。


「なんだろうか」

「これからHERBプロジェクトに手を貸すわけだけどな」


 ミタカは頭の後ろを掻いて――耳が揺れているな――言った。


「オレが別会社を用意した方がいいか?」


 ◇ ◇ ◇


「別会社? ……どういうことだ?」

「あァ、その……ワリィ、説明が飛んだな」


 ミタカは手を振って仕切りなおす。


「KeMPBはよ、ケモプロをやる会社だろ? それがまるっきり別業種の仕事をやるわけにもいかねェだろ。特にHERBは……まァ成功する可能性があるから手伝ってやるわけだが、コケる可能性も結構ある。KeMPBとして仕事を受けて共倒れするのもマズいかと思ってな」

「……それで、別会社か?」

「あァ。別にオレらがフリーランスとして個別に契約したっていいけどな。ただよ、言ったろ? ケモプロの開発は減っていくって。だからまァ、これを機に開発系の仕事を請ける会社を建てたほうが都合がいいんじゃねェかと。ツグとセプ吉がいりゃあ失敗しねェとは思うが、万一HERBがコケて死ぬのは新会社だけにできんだろ?」

「つまり……リスクを分けたい、ということだろうか」


 ミタカは頷く。……KeMPBのため、ということか。

 確かにHERBの仕事は、今のKeMPBとは内容が違う。ケモプロに問題がないのにHERBのせいでケモプロが終わらざるをえなくなる……というのは、確かに困るが。


「新しい会社とか、面倒じゃないか?」

「言うほどじゃねェよ。金はあるから必要な手続きは外注できるしな」


 そういうものか。俺がKeMPBを作る時はそこそこ苦労を……ああ、創業融資がなければそこまででもないのか。まあ、それもシオミにやってもらったのだけど。


「シオミはどう思う?」

「別会社を作るなら、ケモプロの業務はその会社に委託する、という形態もとれますし、リスクを分散するという点では効果はありますよ。もちろん事務作業は倍になりますので、その分手間と費用はかかりますが」


 その手間を取ってでもリスクを分けるべきだという判断をミタカはしたわけか。


「……ふむ」

「まァ会社を建てねェんなら今回はフリーランスとしてやるが、今後の案件次第ではな――」

「ひとつ聞きたいんだが」


 俺はミタカを遮って言った。これを確認しないと進まない。


「KeMPBの仕事にしたら、いけないのか?」

「……あァ?」

「確かに今のKeMPBの仕事は、ケモプロの開発と運営だ。それを目的にして作った会社だからな。けれど、別にそれ以外の仕事をしちゃいけない、ってわけじゃないんじゃないか? ……あ、いや、そういえば会社を作る時の書類で、事業内容の部分があったか?」

「事業内容の追加や変更は可能ですよ。今回の場合はあらかじめ登録している内容で十分かと思いますが」

「なら、問題ないな――仕事を増やそう。KeMPBは、システム開発の請負もする」


 それができる人間が集まっているのだから、不可能じゃない。


「そもそもVR図書館はケモプロのVR開発と共通するところがあるんじゃないか? ならまるっきり別の仕事とも言えないだろう。それに、俺としてもHERBには協力したいと思っている。みんなもそうだと思うんだが」

「自分は獣野球伝の出版にも関わるッスからねー」

「らいむも、面白そうだから興味あるな~」

「……ということだから、会社を分けたところで全員関わるし、それで損害を受けたら間接的にでもKeMPBに影響はあるだろう。だったらKeMPBで続けたほうが手間がなくていい。開発作業以外で時間をとられるほうが損失だと思う」


 俺はアバターを無表情にして黙ってしまったミタカを見て言った。


「KeMPBのことを気遣ってくれたのは嬉しい。だけどミタカに無用な手間をかけさせたくない。KeMPBがケモプロ以外の開発の仕事もする、ということを宣伝すれば――これだけのものを作ったんだ、新しい仕事を請けることは難しくないだろう。だから……一緒にやらないか?」

「ッ……」

「オ? アスカサン、どうしマシタ? ねえ?」

「うるせェ」


 ミタカはニャニアンを蹴る。


「いってェ!?」


 ――悲鳴を上げたのはミタカだった。


「どうした」

「……棚にぶつけた……クソ」

「フフン。狭い部屋でアクションするからデスヨ。プレイエリアは確保してくだサイ!」

「チッ。……まァ、そういうことなら別会社建てるのはやめとくわ。好き好んで面倒を抱えたいわけでもねェし」

「わかった。……というか、そういう方向で仕事を増やしてもよかったんだな……ふむ」

「KeMPBでお仕事がなくなるのが後ろめたかっただけだよね? 大丈夫、らいむがなんとかするから!」

「オマエら、イヤな予感しかしない言い方するのをヤメロ。クソ……」


 ハァ、とミタカは大きなため息を吐く。


「……まァ、しばらく大きな動きはねェだろ。HERBの方を進めとくから、その辺はゆっくり考えてくれや」

「確かに、ケモプロはこれから地区予選だからな。本選まで静かになるのは仕方ないか」

「表向きはね!」


 らいむはぴょこん、と跳ねる。


「シーズンもいい感じに終わって、記事も出て! これなら追加の6球団も契約間違いなしだし! 営業はがんばらないとだよ?」

「それもそうだな」


 この勢いに乗らない手はない。休んでいる暇はなさそうだ。


「話題性のあるうちに、どんどん契約を進めていくとするか」

「おー!」


 そうして報告会は穏やかな雰囲気にまとまって終わり――




「話題性とられちゃったね!」


 翌日に飛び出した記事の一つに、その雰囲気は吹き飛ばされるのだった。

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