【開発者ロングインタビュー】ケモノプロ野球リーグ大規模アップデート!選手たちの『生存競争』が始まる

 2018年4月2日本日、ケモノプロ野球リーグ(以下ケモプロ)に予告されていた大規模アップデートが実施された(詳細は【こちら】の記事を参照)。そこで本誌は開発・運営元の合同会社KeMPB(以下KeMPB)にインタビューを行った。長時間にわたり今回のアップデートや、株式会社NoimoGames(以下Noimo)が同日配信開始した『ケモプロ×クイズで学ぶ野球のルール!』(以下ケモプロクイズ、詳細は【こちら】の記事を参照)についても話を聞いてきたので、じっくりご覧いただきたい。


※本稿のインタビューは3月中に行ったものであり、アップデートで実装されるものとは異なるバージョンを元にしています。ご了承ください。



(ユウ、ミタカの紹介など。中略)



――4月から一気に仕掛けてきた、という印象を受けたのですが。


大鳥氏:4月からはプロ野球も開幕します。負けないように話題を提供するためにも、この3,4月でアップデートをしようと決めていました。ケモプロクイズもその一環です。


三鷹氏:クラウドファンディングで約束していた部分の開発はこれで完了しました。あとは1シーズン運用できればいったん落ち着く形です。


――クイズアプリはNoimoさんから出るんですね。これはどういう経緯でしょうか?


大鳥氏:以前の対談(詳細は【こちら】の記事を参照)で縁ができまして、Noimoさんから提案をいただきました。ちょうどルール学習に関するコンテンツを作ろうと考えていましたので、渡りに船でした。


三鷹氏:あわせてケモプロ本体でも判定時に該当するルールを表示する機能をつけましたので、野球の教材としてもらえると嬉しいですね。


――今後こういった派生作品のライセンシーは増えていくのでしょうか?


三鷹氏:状況次第になります。まずは1シーズンを乗り切りたいというところです。



l| 改めて迫るケモノ選手たちのAI。プレイヤー不在のワールドシミュレーター。



――今回のアップデートではケモノ選手たちの野球以外の生活の場が拡充されたわけですが、施設紹介などは【別記事】に任せるとして、まずはAIの仕組みについて教えていただけますか?


三鷹氏:どこから説明したらいいのかという感じですが……。


大鳥氏:既存のゲームとの差から話したらどうでしょう?


三鷹氏:そうですね。AIを持ったキャラクターたちが交流する、というゲームは新しくありません。


――有名所で言うと『ガンパレ』(※)ですね。


※高機動幻想ガンパレード・マーチ。2000年発売。アルファ・システム開発。


三鷹氏:そうですね。もちろん研究対象です。ガンパレが動いていたプレイステーションのCPUは約33MHzでもちろんシングルコア。今のマシンとは比べ物にならないスペックで、あれだけの世界を表現していたことには尊敬の念に堪えません。


――ケモプロ選手たちの豊かなコミュニケーションは、やはりマシンスペックの差が大きいですか。


三鷹氏:もちろんそれはあります。詳細は伏せさせていただきますが、CPUの物理コア数も桁違いですし、GPUも機械学習のため盛りに盛っています。1つのCPUで複数人の思考を計算しなければならなかったところを、複数のCPUで1人の思考を計算できるようになりましたからね。しかし、最大の差は『プレイヤー不在』だということでしょう。


――というと? 確かにケモプロではプレイヤーはアバターとして参加できますが、直接ケモノ選手とコミュニケーションは取れませんが……。


三鷹氏:プレイヤー中心ではない、ということです。プレイヤーアバターという特権がおらず、全アバターが平等に動く。プレイヤーがボタンを押すまでの間進行しない時間、プロセスというものがなく、全てがリアルタイムに動く。ここが設計の最大の違いだと思います。そうですね……例えば会話の割り込み。プレイヤーがいる場合、NPCが話しかけてきたとします。そして同時にもう一人のNPCが話しかけたがっている。するとどうなるか。


――最初のNPCとの会話が開始して、割り込み可能なセンテンスまで進んでから、割り込みの演出が入りますね。


三鷹氏:プレイヤーがボタンを押すまではそこから先には進まないわけです。絢爛(※)ではまた違いますが……しかしケモプロにはプレイヤーはおらず権限は皆同じです。入力待ちはありません。そこからして設計が違うわけです。


※絢爛舞踏祭。2005年発売。企画アルファ・システム、開発プロキオン。


――機械学習を導入していると聞いています。そこのところによる違いはどうでしょう?


三鷹氏:機械学習はダイレクトに思考に使っているわけではなく……むしろ直感の部分を担当しています。なので論理的な思考は昔ながらの古典的な実装ですので……ひとつの要因であって、決定的な違いはやはり設計だと思いますね。


――古典的な実装、とのことですが、ケモプロのAIは何をどこまでやっているのでしょうか? 例えば記憶はどうでしょう?


三鷹氏:ああ、記憶には機械学習を使っています。


――は? ……ええと、データベース的なものではなく?


三鷹氏:短期記憶はデータベースになっていますが、長期記憶は短期記憶からの学習によるニューラルネットワークでの再生成で……


――すいません、もう少し砕いて説明していただいていいですか。


三鷹氏:直近のハッキリとした記憶はデータベース化されていますが、その他の記憶は経験に基づいて作り直されている、ということです。人間の記憶があまりアテにならないことはご存知ですか。


――時が経つうちに自分の都合のいいように改変されてしまう、ということは聞いています。


三鷹氏:つまり古い記憶については、思い出すときに概要を元に再生成しているんです。例えば得点差、回、走者、投手、捕手などが過去の状況と似ている場面を思い出しながらバッターボックスに入る。以前はホームランを打った、その球は一球目の真ん中ストレートだった……と思い出す。ところが実際の記録は一球目はボールで、二球目が真ん中のストレートだった、という感じです。このような勘違いを生み出すための仕組みですね。


――なぜ勘違いを? そしてどうして勘違いが必要なのでしょう?


三鷹氏:先ほど挙げた例で言うなら、ホームランを打った快感の記憶が強くて、というところが勘違いの原因でしょうね。勘違いが必要なのは……。


大鳥氏:ケモノ選手たちがリアルであるため、です。完璧なデータベースを備えて間違わないのであれば、それはただのコンピューターでしかない。時には間違えなければ、生きているとは思ってもらえないでしょう。


三鷹氏:まあきっちり記憶しようとしたら、データベースが巨大になりすぎて物理的に無理という点もありますが。



l| 本能で打つ? ケモノ選手たちの生存戦略。



――記憶に関してはなんとなくわかりました。思考についてはどうでしょう?


三鷹氏:複数のAIが1つのキャラクターの中で走っています。身体感覚を認識しているもの、視聴覚、本能に基づく反射や感情、理性、それらの比重から行動を決定付ける自我。


――すいません、これも例を挙げてもらえますか。


三鷹氏:守備時に強い打球が飛んできたとき、目で捉えた映像から機械学習した結果で軌道が予想されます。身に危険を及ぼすコースなら本能的に回避を考え、体は反射で動き始める。理性が捕れると判断すれば体の動きが補正され、最終的に捕るかどうか決める……とまあ同時にいろいろなことを考えています。危険度による判断へのバイアスなどはパラメータで決めてますね。


――捕れる、と判断したら捕れるわけですか。


三鷹氏:判断が間違っている場合もあります。身体感覚の認識が間違っていて、ジャンプ力が足りなかったり……あまりに捕るのに必死な場面で、捕れるという予想にバイアスがかかりすぎていたり。


――能力以上のことをしてしまう、あるいは希望的観測で動いてしまうと。


三鷹氏:いま(筆者が)正確に何センチジャンプできるかって分かります?


――いや、わかりません。うーん30……いや40センチぐらいですかね。


三鷹氏:ここ(出入り口の非常灯)に手がつくと思いますか?


――ちょっと厳しいですかね。


三鷹氏:ケモノ選手たちもそんな感じです。練習を繰り返して自分の身体感覚を把握してはいますが、その日のコンディションやスタミナ、地面の状態なんかも影響しますから、自分が正確にどれだけ跳べるか、ボールが捕れるのかどうかは分からない。これを捕れば試合終了、そういう場面で飛び込むリスクを取れるかどうか。その辺りは性格も影響してきます。


――なるほど……これ(非常灯)に手がつけば100万円、とかだったら頑張れそうですね、私は。


三鷹氏:動機ですね。それも重要です。


――ケモノ選手たちもやっぱり、お金がほしい、とか思ってるんでしょうか。


三鷹氏:究極的には、『生き延びたい』というのがケモノ選手たちの共通した動機です。


――重い。


三鷹氏:チームから解雇されどこにも契約してもらえない、そういう状況にならないようにする。そのためにどうするか。結果を出し続けるのか、人気を取るのか。その手法は様々ですが、最終的には現役を続けることを目標に動いています。


――となると、例えば今回追加された焼肉店に連れ立って行くのは?


三鷹氏:お互いの理解を深めたり、好印象を与えたりすることで連携を高めるとか、ストレスを発散してパフォーマンスにつなげるとか……あるいは栄養摂取とか。直近の理由はそれぞれですが、最終目標はみな同じです。……まあ、それを忘れてただ目先の快楽を追っている場合もありますが……。


大鳥氏:その方が結果につながる、とAIが学習すれば、そうなっていくでしょうね。


――なるほど。それにしてもこれだけ複雑な仕組みをあの短期間で、こんなにスムーズなコミュニケーションができるところまで……よく作れましたね。


三鷹氏:以前からAIについては研究していて……機会があれば作ろうと考えていましたので、基礎設計はできていました。まさかこんなにリッチな環境でやれるとは思っていませんでしたが。


――マシンパワーで変わるところがありましたか? 学習能力が上がって強くなったとか……。


三鷹氏:基礎設計以上のものになりましたね。とはいえ、それで生まれたのは『揺らぎ』です。ケモプロは最強の野球AIをつくることが目的ではありません。最適解を探すのではなく……――



(中略)



l| アバター出力に対する想いとは



――AI関連の話から逸れますが、アバターの3Dモデルの販売を始められましたね。7日間の出力権に対し100円という激安価格ですが、これで採算は合うのでしょうか?


大鳥氏:アバター用のファッションアイテムの販売数の増加を見込んでいます。ですので出力については、手軽に試してもらえるよう、低価格であるべきだと考えました。


――MMD(※)だけでなくVRChat(※)用の出力と、最新の利用シーンに向けた形ですね。


※MMD。MikuMikuDance(ミクミクダンス)。2008年発表。個人製作の3DCGソフトウェア。

※VRChat。2017年開始。VRChat Inc.開発・運営のVRネットワークサービス。


大鳥氏:今後も対応すべきサービスが出てくれば、対応していく予定です。


三鷹氏:というよりも3Dモデルの統一規格とかが先に出てくると思いますが……もちろん出れば対応します。長年の問題を解決できるはずなので。


――問題というと?


三鷹氏:アバターの分散問題、と個人的には呼んでいるんですが……分かりやすいのはWii(※)とXboxですね。Wiiには発売当初からMii(※)が搭載されていました。おそらく初めて一般的に3Dのアバターを獲得できるシステムでした。


※Wii。2006年発売。任天堂のゲーム機。

※Mii。Wiiに搭載された、パーツを選んで2頭身のアバターを作るシステム。多数のゲームに使用できた。


三鷹氏:Miiは色々なゲームに使えるアバターということで革新的でした。が……完全な成功には至らなかったと認識しています。


――というと? だいぶ盛り上がった気がするんですが。今も利用は続いていますし……。


三鷹氏:遅れてXbox 360(※)にアバター機能が搭載されました。これもMiiと同じく対応するゲームを横断して使えるアバターでした、が……


※Xbox 360。2005年発売。マイクロソフトのゲーム機。アバター機能の搭載は2008年11月。


――が?


三鷹氏:結果的に任天堂はMii、マイクロソフトはアバターと、全く別の3Dモデルを使うことになってしまった。ゲーマーのペルソナとしてのアバターは分散してしまったわけです。


――ああ、なるほど。言いたいことはわかります。すべてのゲーム・サービスで共通して使えるアバターではなかった、と。


三鷹氏:2Dアイコンであれば規格は簡易ですから、ユーザーは現在も様々なサービスで横断して使っています。しかし3Dモデルはそうはいかない。仕様がまちまちだからです。しかしこうしてケモプロのように、対応するモデルデータを出力できるようにするか、あるいは統一規格が生まれれば……分散問題は解決する。


――3Dモデルの自分、というものを固定できるようになる。ということですね。


三鷹氏:語りすぎましたが、そういうことです。


大鳥氏:いいことだと思う。


三鷹氏:まずはケモプロに集中ですよ。1シーズン完走するまで気は抜けません。


――今後の動きにも注目しています。本日はどうもありがとうございました。



l| おまけ。エイプリルフール全部実現!?



 本稿の投稿の1日前、4月1日はエイプリルフールだった。様々なWebサイトがお祭り騒ぎに乗じ、ケモプロ公式サイトも例外ではなかった。いや――本気度は一段、高かったかもしれない。

 以下は公式サイトでエイプリルフールネタとして披露され、その午後に正式に発表されたプロジェクトのまとめである。時間がないのでここでは簡潔なものにとどめ、別の記事で改めて触れたい。


・セクシーはらやま

 『ゴリラの腕毛』と称した羽毛アームカバーを同日ネット通販開始

・ダークナイトメア

 『ダークナイトメア・ロゼ』と称した果実酒の予約注文受付開始

・ナカジマ

 『ダークナイトメアボール』と称した黒革に赤紐の野球ボールを限定生産、受注開始

・ホットフットイン

 『女将と行く伊豆シャボテン動物公園~カピバラ見るよ~』ツアー開催。抽選予約受付開始

・島根出雲野球振興会

 『検定編満点まで帰れまセン!』と称した配信を中継中(4/2 9時時点)。ケモプロクイズに寝ずに挑戦中。

・日刊オールドウォッチ

 VRChat内に『電脳県』と称するワールドの作成開始。ケモプロ視聴可能ワールドになる予定とのこと。

・鳥取野球応援会

 鳥取砂丘にプロジェクションマッピングでケモプロを投影する、応援上映会を開催決定。予約受付中。

・ケモノプロ野球

 ケモプロタワーバトルが正式なコンテンツとして実装。さらなる続報は今後発表とのこと。

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