お菓子をもらおう

 私たちは高校を卒業してそれぞれの道を進んだ。

 私の友人には製菓の専門学校へ進学した子がいた。


 彼女は試作したものを時々くれる。

 そして彼女の手作りばかり食べていて、不意に気づいたことがある。


 まず1つは、作り手が変わればお菓子の味も変わるということ。

 私のレシピで彼女がお菓子を作ったとき、少しだけ味が違ったのだ。

 それは、他の子たちも話していた。

 妹が作ったときも、同じことを感じた。


 そして、市販のお菓子よりもずっと手作りの方が美味しいということ。

 彼女のお菓子を貰うようになって、私は彼女のお菓子のファンになった。

 おかげで市販のお菓子を食べる回数はぐんと減って、彼女のお菓子を貰える日がいつも楽しみだった。


 私は大学に進学した。

 一人暮らしになって、アルバイトを始めた。

 勉強とバイトで忙しなく時間が過ぎる。

 この頃の楽しみは、彼女から「お菓子作ったからあげるよ」というラインがきて、彼女のお菓子をもらうことだった。


 バレンタインデー。私はなんの予定もなく、いつものようにバイト。

 彼氏がいたのは、高校生の時に一人だけ。それも、卒業前に遠距離は大変だと思うから、と別れた。今ではいいお友だち。


 休憩時間、紙袋に目がいった。

 事務室のテーブルに置かれているそれには、『バレンタインデーなので、ブラウニー作ってきました。みんな、食べてね 黒井』と書かれたメッセージカードがついていた。


 よく、『○○に行って来ました。お土産です。食べてね』というメッセージとともに、お菓子がおかれているけれど、私はあまり食べない。

 けれど、ブラウニーは手作りだったので食べてみることにした。

 ………とても、美味しかった。


 手作りには、不思議な魔法がかかっている。

 それまでの疲れがとんで、残りの時間も頑張れた。



 私のお母さんは、パウンドケーキを作るのが上手な人で、私も昔はよく一緒に作っていた。

「久しぶりに、作ろうかなぁ………」

 ホワイトデーに、持ってきてみようか。


 なんとなく、ホワイトデーが楽しみになった。

 ついでに、日頃の感謝を込めて、彼女にもあげないとな………。

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