鬼束ちひろじゃあるまいし

女に自由なんてない。

もう奪われた自由を今さら主張したとして、一体何になるっていうの?


何にもならない。それはもう知っているの。

だから、私はとうに失ったものを取り戻したいだなんて思わない。


コピーも取るわ。

お茶だって汲む。

バレンタインには手作りのチョコだって配るし、

課長のダサいネクタイを「素敵です♪」だなんて褒めたりもする。


お局には気を使うわよ。

狭い職場だもの。


男たちは見た目が汚いけれど、女は内面が腐っている。

どっちもどっち、だなんて思わない。


息苦しいのはいつだって女子のはずよ。

いつの時代も今の時代も。


こんな時間をあと一体何度繰り返せば、自由を取り戻せるというの?

ううん、戻れないのよ。


それはさっきも言ったとおりわかっているの。

みんなみんなわかっているのよ。


腐敗した世界に堕とされただなんて、口が裂けても言えやしない。

鬼束ちひろじゃあるまいし。最初から自由を知らないの。


そうして、私は手遅れになる。

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