飯テロ

無謀庵

飯テロ

 洞窟エリアの地下迷宮。

 まだまだ未踏のエリアが多く、ツチノコは探索を進めている。


「ここは……なんだ?」

 ドアを見つけたツチノコは、開けて入ってみた。

 すると中には、人類の遺物らしい袋がいくつも収められていた。

 袋には、透明の容器に入った水、植物の種のようなもの、フレンズの毛皮のようなもの、他にも色々、よくわからないものが入っている

 これはヒトが備蓄していた防災袋だが、ツチノコには未知の道具だ。

「袋にまとまってて便利だな。ひとつ持ち出して、博士に聞いてみるか」

 黒いセルリアンの一件から、他者に頼ることも覚えたツチノコだ。




「これはなかなかのお宝なのです」

「見る者が見れば値打ちがわかるのです」

 図書館の文献から得た知識で、博士たちには使いみちがわかるものばかりだ。


「これは『タオル』なのです。水に濡れた時に、ついた水を取れるのです」

「『マッチ』は知ってるですね。貴重なものなので確保しておくです」

「これは『ナイフ』。ひごのかみ、ともいうのです。ヒトがツメの代わりに使うものなのです」

 次々と、モノと用途を言い当てていく。

「この粒は『くすり』なのです。下手に食べると危ないのです。あとで調査しておくのです」

 薬瓶のラベルには「扉屋綺皇丸」と書いているが、博士らには読めなかった。人間でも読みにくいから仕方ないだろう。


「む、これは」

「これは……!」

 そして、短い円筒形の、黄色く光るものが出てきた。側面にも模様がついている。

「それ、なんだ。オレにはさっぱりわからん」

 ツチノコには、形のきれいな石にしか見えない。

「これは『かんづめ』なのです!」

「割ると中から料理が出てくるのです!」

「なにぃ!」

 思いもよらないものだった。

「大変な発見なのです!」

「これがあれば、かばんやヒグマに火を使わせなくても料理が食べられるのです!」

「す、すごいな」

 お宝には興奮するツチノコなのだが、目の前で先にふたりに興奮されてしまって、タイミングをなくした。

「さあこれを割るのです!」

「そして料理を食べるのです!」

「え……オレ?」


 「たくあん漬」と書かれた缶詰に、ツチノコは苦闘する。

 石に叩きつけてみたが、金属の缶は割れず、凹んで形がゆがむだけ。

 ツメがあれば切り裂けるかもしれないが、ツチノコにはない。

 牙で、と思ったが、フレンズの姿では口があまり開かない。

「『ナイフ』を使うのです」

 博士に渡されたそれの先を缶に押し当て、ぐっと力を入れると、先が食い込んだ。少しずつ場所をずらして繰り返し、缶を切り開いていく。


「おお……」

 缶の中には、黄色く染まって縮んだ大根が詰まっている。昆布の切れっ端なども少し混じっている。

「あまり美味しそうではないのです」

「でもかばんの料理も最初はそう思ったのです。逆に期待できるのです」

「独特の匂いがするな」

 ツチノコが唇を舐めると、不快とまではいわないが、知らない臭いがした。

「そうですか? 我々は気にならないのです」

「とにかく食べるのです」

 それぞれ一切れつまみ出して、ぱくり。

 ぽりっ、とした、独特の食感。

「……ジャパリまんのほうが美味くないか?」

「そう思わせて、食べていると癖になってくるのが料理なのです」

「濃縮された旨味、塩味、かばんの料理と一緒に食べたくなるですが、これだけでも」

 ぽりぽりぽりぽり。

 しっかりハマった三人。




「『かんづめ』を発見したら我々のところに持ってくるのです」

「開けて料理を取り出してやるから、一緒に食べさせてやるのです」

 パークの長を自称する博士と助手は、フレンズたちを集めて命令した。

 みんなは、また美味しい料理が食べられると期待して、パークじゅうに散っていく。


 そして、アルパカが缶詰を持ってきた。

「カフェの倉庫にいっぱいあったからぁ、きれいな色のを持ってきたよぉ」

「ふむ……『たくあんづけ』ではないようなのです」

「名前は書いていないのです。模様だけなのです」

 鮮やかな黄色とオレンジ色に塗られた缶には、名前もちゃんと書いているのだが、遠い異国の文字だった。これも、人間にさえ読むのは難しい。

「この缶詰、膨らんでないか?」

 開缶役のツチノコが、違和感を覚える。

「問題ないのです。さっさと開けるですよ」

「へいへい……」

 ツチノコが缶にナイフを突き立てる。


 だが今度の缶からは、ぶしゅう! と、ガスと液体が吹き出した。

 そして広がる、激烈な悪臭。

「うわぁあ! くせぇよぉ~!」

 アルパカが叫んで地面に膝をつき、程なく白目をむいてひっくり返った。

 遠くの方からも「ぎゃあああ!」「ぐわあああ!」と絶叫が聞こえる。叫び声より遠くでは、大勢のフレンズたちが走り去る足音。

 動物には鼻がきくのが多いから、かなり遠くまで大惨事になったようだ。

「う……鳥類の我々でも不快なのです」

 鳥は嗅覚が弱いので、博士や助手は顔をしかめる程度。

「ツチノコは大丈夫なのですか」

 助手が呼びかけるが、ぷるぷる震えて返事をしない。

「返事くらいするのですよ」

 博士が脇腹をつつくと、ツチノコはぶはっと息を吐く。

「あーもう! 俺たちヘビは舌で臭いを感じるから、口を開けたら……」

 ツチノコも、気絶して倒れた。


「犠牲の多い料理なのです。臭いで倒れない我々向けなのです」

「魚の料理なのです。猛禽類向けなのです」

 博士と助手は、多数のフレンズが倒れたその中心で、シュールストレミングを口にする。



 以後数日、博士と助手についた悪臭のせいで、他のフレンズが近寄ってこなくなった。

「美味かったですが、皆に臭いと嫌がられるのは寂しいのです」

「孤独のグルメなのです」

「……オレは食ってないのに」

 腐液を浴びたツチノコはもっと臭くなって他所に行けず、仕方なく博士らの近くにいる。

 何度も水に入って洗っているが、臭いが取れるのはいつになるか。

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飯テロ 無謀庵 @mubouan

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