小説を書こうよ。

神無月と稲穂の波

小説を書こうよ。 序章

小説家になりたいと思ったのはいつからなのだろう。


予備校からの帰り道に俺はそんなことを考えていた。


俺の趣味はカクヨムというサイトで小説を書くこと。月に二、三本作品を上げている。ジャンルはさまざまで、恋愛を取り扱ったり、異世界ファンタジーを書いてみたりもする。その他、現代異能や近未来SFなども書く。詩を書いてみたこともあったっけな。


俺の小説の特長はジャンルを超えて、さまざまな要素を取り入れることだと思う。時にノンフィクションの中にSFの要素を取り入れてみたり、恋愛と見せかけて実は推理ものでした、なんてこともした。まあ、ジャンルに囚われないのはいいことだろう。


最初の投稿は中一の春。今までやったことのないことに挑戦してみようと思いカクヨムに短編小説を投稿した。

きっと今読んだら吹き出してしまうであろう文章の拙さだ。言いたいこともわからない、敬語の使い方も間違っている、終いには漢字が間違っていた。パソコンで打ってるのに。


でも、あの時は仲間がいた。少しずつ俺の小説を読んでくれる人が増え、フォローをしてくれた。そして中三の冬、まさに受験真っ只中にアカウントを作り直した。今までは、アニメやラノベの二次創作を書いて、読者を獲得していたが、大賞を受賞するという目標ができたので、ユーザー名も変え、一からやり直そうと思った。


しかし、ここからが大変だった。


新アカウントに変えて、すぐに、俺は半年前から練っていた小説を投稿した。フォローはどのぐらいついたのか、お気に入り登録してもらえたのか、そんな期待に胸を膨らませて、カクヨムを開いた。結果、フォローゼロ。全く読者は増えなかった。その後もいくつも投稿したが、増える気配はない。唯一のフォロワーは親友の智樹だけだ。


なぜ、あれほどフォロワーがいたのにこんなにも人気がなくなったのだろう。色んなことを考えた。そして、分かってしまった。俺が今までどれだけ二次創作に助けられていたかを。


二次創作はいわば既存の物語に新たな物語を追加していくものである。まず、しっかりとした設定が既にあるため、設定を組まなくても良い。また、二次創作を読む人は原作を読んでファンになった人だ。だから、原作の名前を出せばある程度の読者は掴める。


しかし、オリジナルの作品となると違う。設定を一から作らなくてはいけない上に、設定に「自分らしさ」が出ている必要がある。まず、そこで躓いた。そして、アカウントも作りなおしたため、無名である。俺の名を知るものは誰もいない。その状況で、売り出すのは容易ではない。地道に書き続けて誰かが見つけてくれるのをじっと待つ。SNSで、宣伝することもある。また、人気になる一番の近道は、俺の目標、いや、もう、目標ではないが、「大賞を受賞する」ことだ。一番効果があり、一番難しい道だ。


俺はオリジナル作品の難しさについていけなくなった。



そして、

俺は小説を書くことをやめた。







「小説を書いてみない?」

「は?」

「ネット小説書いてたんでしょ?」

「…なんでそれを。」

「いいから。今文化祭で必要なの。」

「小説家が?」

「そう。でも、うちの部活には…」

「書ける人がいないと。」

「そう!だから、書こうよ!」

そして、彼女は俺の目をじっと見て言った。

「私と一緒に小説を書こう?」


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