ジャガー:私が川渡しを始めた理由

小咄よしひろ

第1話

じゃんぐるちほーで川を渡れないで困っているフレンズを向こう岸まで運ぶ仕事をしている。…していたかな,わからん。

はじめた理由?うん,ある大雨が降った明くる日に増水した川を見に行ったんだ。

いつもよりすごく川の流れが速くて,なぜだか無性に泳いでみたくて飛び込んで水遊びをしていた。そうしているとぐんぐん下流に流されて,気が付いたらいつも縄張りにしているところよりだいぶ下流まで来ていた。

見慣れない川岸で見慣れないフレンズがいてこっち来いって呼んでいる。

大型のイヌかオオカミのフレンズ…どっちだったかわからん。そいつは「こんな日に川遊びだなんて,キミは泳ぐのが得意なフレンズなんだろうね。」って,そのときは黙ってうなずいてた。「キミ,因幡の白兎って昔話は知ってるかい」て,言うから,わからん,聞いたこともないって答えると,そいつはその昔話を語りだした。

細かい部分は忘れたけどこういう話だった。

ワニだったかサメをだまして川だったか海の向こう岸まで並ばせてその背中を飛び石にして向こう岸に渡ろうとしたウサギが,だまされたことに気づいたやつらに背中の毛皮をむかれるって話をして,こう言うんだ「こういうかわいそうなウサギが今後現れないためにも,ひとつキミが川渡しをしてあげたらどうか」と提案してきた。

つづけて「上手くできるかどうか,ためしに私を水にぬらさずに担いで向こう岸まで運んでみてはどうだろうか?ちょうど川の流れも緩やかになってきたことだし」そう言われたときはあまり乗り気ではなかったけれど,言われたとおりにしてみた。

向こう岸まで渡って「少し水に浸かってしまったが,上出来だよ。図書館まで行こうと思ったのだけれど,この川で往生していたんだ。助かったよ。」その時はまんまと乗せられたなと思ったよ。乗せたのはこっちじゃないかって?…わからん。

「私のように困っているフレンズはほかにもいるんじゃないのかな?その辺りにある木材で,何か小船みたいのを作って,それに乗せて渡るってのもいいかもね。」そう言ってそいつは図書館に向かって去っていった。

…それからかもしれない,川渡しを始めたのは…それで今でも続けている。

そういえば、話していて思い出したけどあいつはもしかして…いや、わからん。


今ここでこうしていると,川岸で渡れずに困っているフレンズがいるんじゃないかって?それは大丈夫だろう,いまは橋がかかったからね。カバンたちと一緒に架けたんだ。

これからも続ける理由?うん,わからん。橋がかかった今,必要なくなってしまったのかもしれないな川渡しは…

川渡しを続けてきた理由…なぜだろう?わからんってことはないけど,うーん。

「それは『たのしー』からじゃないの?」

カワウソか?いつから聞いてたんだ?

「ジャガーは運んであげたフレンズが喜んでくれたら楽しいって思わない?橋はできたけど,ジャガーに運んでもらうのは今でも楽しいよ」

…そうか,そうかも。これからも「たのしー」のために続けていこうと思うよ。

それじゃ,帰ろうかじゃんぐるちほーへ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ジャガー:私が川渡しを始めた理由 小咄よしひろ @kobanasi_yosihiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ