恋のお弁当

トマトも柄

恋のお弁当

「ねぇ。 話を聞いてくれる?」

「何? 明美あけみ

 少女は聞き返し、明美を見た。

「私、好きな人ができたんだ」

「へ〜。 そうなんだ」

「ちょっと愛菜まな! その返し方はないでしょ! そこはね! え!? 誰!? って返してくれないと!」

「ふ〜ん。 で、誰?」

「今、高橋君に夢中なの」

「高橋って高橋直樹たかはしなおきのこと」

「そう! 彼に何かしてあげたいのよね〜。 私、彼のためなら何でも出来そう!」

 明美は勢いよく言って愛菜に打ち明ける。

 愛菜は明美を見てう〜んと考えてい る。

「明美って料理できる?」

「一応できるは出来るけど」

 愛菜の質問に明美はすぐに答えた。

「この前もハンバーグ作って、家族に好評だったんだからね」

 明美はいらない自慢話を威張りながら言っている。

「それならいけそうね」

「え? 何が?」

「じゃあ、私の考えが出来そうね」

「話が見えないのだけど」

「大丈夫。 今日の放課後になったら分かるから。 じゃあ、放課後にここで待っててね」

「あ、うん。 分かった」

 そして、明美は放課後に言われた通りに教室で待っていた。

 すると、教室に入って来たのは高橋直樹だった。

「あぁ、いたいた。 ごめんね。 待った?」

「えと? 私に用なの?」

「そうそう。 話を聞いてね。 実はお願いがあるんだ」

「どんなお願い?」

「お弁当を作って来て欲しいんだ」

「え? お弁当を作るの? いいよ。 一緒に作ってあげる」

「本当かありがとう!」

「一つ理由聞いていいかな? 何でお弁当なの?」

「最近、昼飯はパンで過ごしてたんだけどどうもご飯が欲しくなってね、それでお願いに来たんだよ。 ちゃんとお礼もするからさ」

「なるほど。 そういうことね。 栄養満点のお弁当を作ってあげるわ」

「ありがとう!」

 高橋はそう言って、教室から出て行った。

 すると入れ違いで愛菜が入って来たのだ。

「愛菜〜。 仕組んでたでしょ」

「やっぱりバレた?」

「バレバレよ。 けど、ありがとう。高橋君にお弁当を作ればいいのね」

「そうよ。 恋を制するためにはまず胃袋から捕まえるというしね」

「ありがとう。 じゃあ食材を買いに行かなきゃ」

 明美はそう言って、教室を後にした。

 そして、明美は買い出しに出かけた。

 卵に野菜に冷凍食品と様々な食品を買って行き買い物を済ましていく。

 買い物を終えて、まずは材料の確認から始める。

 材料は揃ってあるので明日の朝に作れるように準備だけして早めに就寝する。

 そして、朝になり明美は勢いよく起き上がり、台所に向かい料理を始める。

 卵焼き、野菜サラダ、ハンバーグと次々と手際よく作っていった。

「出来た!」

 明美は終わったの合図を唱えるみたいに一言言った。

 我ながらよく出来てると笑顔で示し、その弁当を持って学校に行った。

 笑顔を浮かべながら学校へ向かって行ったので、向かってる途中で何かいいことあったのと聞かれたくらいである。

 いいことがあったんじゃない。

 これからいいことが起こるのだ!

 明美が笑顔を向けながら歩いていると愛菜が少し遠くの方で待っているのが見えた。

 明美は愛菜に手を振り、愛菜に近づいて行った。

「出来た? お弁当」

 愛菜は明美に聞く。

「バッチリ! 後は渡すだけ」

 明美は笑顔で答える。

「どんな顔するのだろうね」

「もう今からが楽しみで仕方ないの」

「後は昼休みがなるのを待つだけだね」

「うん!」

 二人は学校に向かって行った。




 そして、昼休みになり、高橋が明美の前に現れた。

「はい、お弁当。 私の自信作よ」

「ありがとう。 助かったよ」

 高橋がそう言って弁当を受け取ろうと手を伸ばす。

「待って」

 明美の声に高橋は手を止める。

「お願いがあるのだけど聞いてくれる?」

「ああ、いいよ」

「その……私と一緒に昼ご飯食べてくれませんか?」

「いいよ」

「本当に!?」

 明美は驚いた。

 こんな簡単に承諾をもらえるとは思っていなかったからだ。

「じゃあせっかくだし屋上で食べようか」

 高橋は明美に笑顔を向けて言う。

「うん!」

 明美は喜びに満ちた返事をして、二人は屋上に向かった。

 屋上には人がいなく、太陽が誰もいない屋上を照らしている。

「今日は人がいないじゃん! ラッキー!」

 高橋が誰もいない屋上を見て、嬉しそうに声を上げる。

 明美は高橋の後をついて行き、隣に離れないようについて行く。

 高橋は屋上の端の方に行き、ここだよと言うように指を指して、そこに座り込む。

 明美もつられるようにそこに座る。

 明美と高橋は座ったまま弁当箱を開ける。

 弁当の中身はハンバーグにサラダ、そして卵焼きと種類豊富に詰め合わせていた。

 ご飯はおにぎりになっており、ガンバレと語りかけてくるような顔を海苔で作っている。

 高橋がこの弁当を見て一言漏らす。

「かわいいな」

 高橋は弁当に見とれている。

「こんな感じで良かったのかな?」

 明美は高橋に顔を赤らめながら聞く。

「うん。 すごくいいよ。 ありがとう!」

 高橋は笑顔で答えてとても嬉しそうにしていた。

「喜んでもらえて何よりです」

 明美はそう言って両手を合わせる。

「いただきます」

 高橋もつられるように両手を合わせていただきますと言う。

 高橋は最初に卵焼きに手を出した。

「美味しい」

  そう言わずにいられなかったくらい美味しかったのだ。

「とても美味しいよ。 これ。 箸がすすむよ」

  そう言って、高橋は野菜サラダ、ハンバーグにも手を伸ばし次々と美味しそうに平らげていく。

  明美はその様子を笑顔で見ていた。

「とても美味しく食べてくれて嬉しいな」

「そりゃあこの弁当が美味しいからだよ。 ありがとう」

「どういたしまして」

 二人は笑顔になりながら答えた。

 高橋は弁当を綺麗に平らげてから箸を置き、明美に話しかけた。

「美味しかったよ。 彼氏とかいたらこういう弁当を作ってくれると喜んでくれるのだろうな」

 高橋がそう聞くと、明美はムスッとして言い返した。

「まだ彼氏はいないよ」

「ごめんごめん。 そうだったか」

「けれど、好きな人はいるよ」

 明美はそう言って、顔を少し上に向け、空を見ながら話し始めた。

「その好きな人はね、とても明るくて、いつも笑っているの。 そして、誰にでもその笑顔を振りまいてる。 きっと優しい人なんだと分かるんだ」

 高橋は明美の言葉に黙って聞いていた。

「その人はね、私から見たらとっても格好良かったの。 いつか話できたら良いなと思っていたの。 その望みは叶うかなと思っていたらその望みが叶ったの」

「そうか。 望みが叶ったのか。 それって誰のことか教えてくれるかい?」

「えぇ〜! 言わなきゃダメなの」

 明美は露骨に嫌そうな顔をして答える。

「だってそこまで話したのなら、誰か気になるじゃないか」

「じゃあヒントをあげるね。 そこから先は自分で考えてよ」

 明美は一呼吸置き、ヒントを話し始めた。

「まず、ヒントその一はお弁当を喜んでくれたこと」

 高橋は頷きながら聞いている。

「ヒントその二は私のお弁当を美味しく食べてくれたこと」

 明美は話を続ける。

「そして……ヒントその三は今話を聞いてくれている人」

 それを聞いた途端に高橋は周りを見渡す。

 屋上には誰もいず、いるのは明美と高橋だけだった。

 意味がわかったのか、高橋は顔を赤らめる。

「それって……もしかして」

「分かってくれた?」

 明美も照れているのか顔が赤くなっている。

 二人は顔を赤らめたまま見つめ合い、風の音だけが流れた。

「ずっと……ずっとずっと! 好きでした! 付き合ってください!」

 風の音と共に流れる明美の思い。

 高橋は明美の思いを聞き、静かに口を開いた。

「はい。 よろしくお願いします」

 明美はその言葉を聞いて涙を流しながら笑顔を向けた。

 泣きじゃくりながら、ありがとうとつぶやいている。

「そ、そんな泣かなくても」

 高橋は明美に言う。

「だって! 嬉しいんだもん!」

 明美は泣きながら答える。

 そして、明美は笑顔を高橋に向ける。

 だけど、その笑顔はさっきまで泣いていたせいか顔がクシャクシャだった。

 高橋は何も言わずにハンカチを明美に手渡す。

 明美はハンカチを受け取り、涙を拭いてクシャクシャだった顔を元の顔に戻していく。

「ハンカチありがとう。 洗って返すね」

「付き合ってるからいつでも返せるから大丈夫だよ」

 高橋が笑顔で答えた。

「そうだね。 なんせ私達は今は付き合っているんだから」

 明美も笑顔になって答えた。

 弁当も食べ終わったことで二人は弁当を片付けて教室に戻る。

 そこで、高橋は教室に戻る前に明美に声をかける。

「その……お願いがあるんだけどいいかな」

「なんのお願い?」

「その……またお弁当を作ってきて欲しいんだ。 とても美味しかったから、また食べたいなと思って」

「いいよ。 今度はとびっきりのを作ってあげるね」

 明美はとびっきりの笑顔を見せて答えた。

 そこから、高橋と明美の付き合いが始まった。

 明美はそれからと言うもの登下校は高橋と帰り、昼休みは明美のお弁当を食べる習慣がついていた。



 ある日、高橋は一つの疑問を持っていた。

 いつも、高橋君と呼ばれていて名前で呼んでこなかった。

 なぜそうなのか全く分からなかった。

 付き合っているのに名前で呼ばれない、この疑問を昼休みにぶつけてみようと高橋は思った。



 そして、昼休みになり、高橋は明美が作った弁当を綺麗に食べる。

 美味しいお弁当を頂き、隣にいる明美に質問をする。

「そういえば、どうして俺の名前で呼ばないの?」

 その質問に明美は顔を赤くしながら小さな声で呟いた。

「だって呼ぶのが恥ずかしいの」

「いいじゃないか。 もう名前で呼んでも、試しに呼んでみて」

 高橋に言われ、明美は顔を赤らめながら、

「な……直樹君」

 そう言われた直後、高橋の顔も赤面する。

 言われた方も顔を赤くして恥ずかしがっている。

「そ、そ、そうだよ」

「あら、高橋君も顔赤いよ」

「いや! これはね!!」

  二人の会話はそこで止まり、二人は笑い出した。

「お互い顔真っ赤になってるようじゃまだ恥ずかしがってるね。 お互いが自然に言えるようになるまで頑張ろうか」

「お……おう! そうだな」

 その後の会話も二人は終始笑顔になっていた。



 お弁当から生まれた恋。

 その恋はとても甘くて美味しいものだった。

 愛菜は一人でお弁当を食べながら薄ら笑いを浮かべている。

「今回の恋は大成功みたいだね。 明美」

 一人の食事中に愛菜は独り言を言う。

 そして、弁当を食べ終えて愛菜は席を立つ。

「私はキューピットってことかな」

 愛菜は教室の外から手を振っている明美に近づき、話を始める。

「恋のお弁当は効いたかな?」

「物凄く効いたよ! ありがとう。 そして、明日のお弁当も作るんだ。 今から楽しみ!」

 明美は笑顔にしながら話す。

 一つのお弁当から出来た一つの恋が生まれた。

 明美は笑顔になりながら言う。

「明日はどんなお弁当にしようかな」

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