カルーアミルク
真面目だね、と言われ続けてはや21年。
大学生になった春、18歳の私は新歓でお酒を呑まなかったし、19歳の私は呑み会に呼ばれても頑なにザクロジュースばかり飲んでいたし、20歳の成人式もまだ呑めなかった。私の地元は8月にドレスとスーツで成人式をするのだけれど、生憎、私の誕生日は三日後で足りなかったのだ。
真面目だね、と言われる。
あのときもそうだ。
初めてお酒を呑んだ20歳の誕生日。
成人式で久しぶりに会った中学の同級生たちは大学や仕事で私のように地元を離れている子もいれば、地元の大学に進んでいる子、地元で働いている子もいて、中にはお父さんやお母さんになっている子もいた。
働いている子たちは振る舞いも呑み方も社会人のそれで同じ歳なのに大人っぽく見えた。大学生の幼い振る舞いでも荒い呑み方でもなかった。
マサトはその中でもずば抜けて大人っぽく見えたのだ。テーブルからテーブルへとお酌をしてまわり、ジョークで場を盛り上げる。ぴたりと身体に吸い付いた黒々としたスーツ姿はエレガントだった。
私は仲の良い友達数人で固まって、文化祭の話とか修学旅行の話とか懐かしい思い出話に花を咲かせていた。ちらりとマサトの姿をとらえながら。
お手洗いに行こうと会場を離れたとき、マサトに話しかけられた。
「タカちゃん久しぶり。LINE交換しようよ」
マサトは中学二年生のときに同じクラスで、一度告白された。私は断った。好きだったけれど付き合うというのがよくわからなかったのだ。
LINEを交換したあとは、とんとんと話が進んでいった。私の誕生日、マサトの仕事終わりにごはんを食べに行くことになった。
アジアンテイストの店内は薄暗く、赤やオレンジのランプにカラフルな像の置物が置かれ、案内された個室はブルーのカーテンで仕切られていた。
何呑む、と聞かれても、お酒は初めてだから何を呑めばいいのかわからないと返すとタカちゃんは相変わらずだね、とにこにこされた。
「カルーアミルクならコーヒー牛乳って感じで呑みやすいと思うよ。女子はだいたい好き」
白く濁った液体を一口呑む。
「 コーヒー牛乳。本当だ。ただ少しだけ喉が熱いような気がする」
だんだんと身体がぽかぽかしてくる。
マサトも私も次から次へと運ばれてくる料理とお酒をどんどんと胃袋に流し込んでいく。
「タカちゃん彼氏はいるの。」
誕生日にマサトとごはんに行ってるんだからいないよ。私いないよ。
「タカちゃん」
なに。
「久しぶりに会ったら。やっぱりタカちゃんが可愛いなって思ったんだけど」
うん。
はじめてキスをした。
はじめてのお酒に頭がぼうっとしたけれど聞きたかった。ちゃんとしたかった。
「これは、付き合うってことだよね」
「タカちゃんは真面目だね」
「マサトは彼女いないんだよね」
「彼女はいないよ。」
煮え切らない答えに酔いは完全に醒めた。
私に告白して振られたマサトはすぐに別の子に告白して付き合って、付き合ってる最中に他の子にも手を出して修羅場だったなんて噂を聞いた。
私はマサトが好きだったから、すぐにマサトが他の子に告白したことがショックだった。
コーヒー牛乳はカルーアミルクにアルコールを足して少しだけ進化したもので、マサトはマサトで少しだけスーツを着て大人に見えただけで中身はちっとも変わってなかった。
私は相変わらず真面目だから、気づけて良かったなと思う。だって不倫なんて気持ち悪くてやってらんないよ。
21歳 すぷらぴ @ch0c077
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