苺のショートケーキ

ニジュウイッサイの誕生日。私は知らない男といつものように抱き合っていた。

仕事を終えて、男の腕枕で少しボーッとしたあと、ベッド脇に腰掛け、下着を探す。今日の下着はお気に入りの白いレースがついて天使みたいに可愛いやつだ。可愛いものを身につけて、少しでもテンションを保たなくてはいけない。

下着は少し離れた真っ赤なソファに剥ぎ取られてあった。可愛い私の下着。

ブラとショーツを身につけてから、サイドテーブルに置いておいた煙草を取って火をつける。これが私のルーティーンだ。

「へー。リカちゃんって煙草吸うんだね。まあ、やってらんないよね。こんなの」

どうせまた同じことの繰り返し。だけど今日は何だか無性にイライラする。吸って、吐いて。ゴリゴリと灰皿に押し付ける。頭が痛い。早く帰りたい。

「何でこの仕事してるの。家族が可哀想。お父さんとかお母さんとか何か言われない」

そんなの人それぞれだろうが。

「何か理由あるんでしょ」

理由なんてない。ここに流れ着いただけ。別にいいじゃないか、それで。

「まともじゃないな。まともじゃないからこの仕事についてるんだろ。そうだろ」

そうやって自分自身の汚さを、醜さを肯定したいがために、私に全部押し付けるの。辞めてくれないかな。あーあ。ビジネスライクにいこうよ。ねえ。

好きでこの仕事をしている子もいるし、せざるを得ないからしている子もいる。私は楽だからここに流れ着いただけ。ただそれだけ。

仕事だよ。仕事。

ねえ、何が違うの。

震える手で 二本目の煙草に手を伸ばし、火をつける。吸って、吐いて。吸って、吐いて。少し心がシャンとした。あと五本はあるから余裕だな。

「シャワー浴びよっかな」

少し高めの媚びた声で。怒らせるのはこわい。暴力は嫌いだ。

真っ暗な部屋に非常灯の赤い光が漏れてチカチカしている。吸って、吐いて。吸って吐く。

そうだ。今日は苺のショートケーキを買って帰ろう。私はよくやってる。ご褒美だ。

ねえ。あなただって仕事を終えたらビールくらい呑むでしょ。もしかしたら、ショートケーキかもしれないけど。仕事だよ。同じ感覚なの。私は今日ショートケーキを買うの。だって、しっかり働いたから。

なんて言ったら逆上されるんだろうか。お前なんかと一緒にするなって。

ああ、最低。

「もう一回していい」

起き上がった男が私に抱きついてくる。男の両手が胸の位置で止まる。

ドブみたいなすっぱい臭いのする男がにたにたと舌舐めずりしている姿が想像できた。大丈夫。私は怯まない。だって仕事だし、慣れてるから。

「ねえ、リカちゃんどうかな」

男の黒々とした手が、ブラジャーごしに私の乳房をガシッと掴む。いつものように、悩ましげな声をあげてからいつもと同じセリフを唱える。これは仕事。仕事なのだ。

「オプション料金かかっちゃうけどいいかな」

今日は苺のショートケーキをホールでいいかな。私はユカに問いかける。

いつも頑張ってる私へのご褒美に。なんてったって、今日は私の誕生日なんだからね。


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