〔 お嬢さまの社会見学 〕①
キャア―――!!
早朝の
執事の
「お嬢さま、どうなされましたか!?」
見れば麗華お嬢さまが、ベッドの隅で身体を縮めてブルブル震えていました。
「な、なにがあったのですか?」
「く、黒鐘……で、でたのよ、あれが……」
「はあ?」
「そこにほらっ! いるでしょう? 虫が……」
目を
「この小さな蜘蛛ですか?」
「わたくし、虫は大嫌い! 早くなんとかして頂戴!!」
「はい、はい、かしこ参りました」
蜘蛛の子を紙で摘まんで窓から逃がした執事の黒鐘は――。
いくら温室育ちのお嬢さまとはいえ、虫けら一匹で朝から大騒ぎするとは困ったものだと、心の中で舌打ちをした。チェッ!
「わたくしの部屋に虫が出るなんて、許せませんわ!」
「まあ、あれくらいの小さな虫は我慢してください」
「イヤよ、イヤイヤイヤー!」
わたくしはベッドの上で両脚をバタつかせて抗議しました。
だって、どんな小さな虫だって大嫌いなんですもの。こんな虫の出る部屋なんかで眠れません!
「即、お引っ越ししますわ!」
「えぇ―――!!」
その言葉に爺やは顔をしかめて驚いている。
「わたくし、他のお部屋に移ります」
「……お嬢様、またですか?」
フゥーと、わざと大きな音で溜息を吐くんですのよ。失礼ね!
「二ヶ月前もお部屋に蚊がいたからと……、部屋替えしたばかりじゃないですか?」
「わたくし、虫は大嫌いですの。絶対にお引っ越ししますわ。お屋敷の見取り図を持ってきて頂戴!」
わたくし、
当家、蟻巣川家は広大な土地に屋敷が建っていますの。本館、別館、新館と合わせるとお部屋の数は百以上はあるんです。さながらリゾートホテル並みの規模で、その中に住んでいるのは当主のひとり娘、わたくし麗華と執事の黒鐘、家政婦、コック、メイド、運転手、庭師、家庭教師、美容師、スタイリスト、警備員をいれても、わずか二十人ほどですわ。
ほとんど使われていないお部屋ばかりなので、それぞれ四季に応じて、お部屋替えをしています。でも後片付けでなんやかやと仕事が増えるので、執事の黒鐘はいつも渋面で乗り気ではないの。
まったく使えない爺やだこと……。フン!
お引っ越しする部屋を決まるために、メイドに言いつけて、お屋敷の見取り図を持ってこさせました。
地図を広げて見れば、敷地内にはプール、ゴルフ場、野外コンサートホール、池や森もありますわ。あっ、滝もひとつ。わたくしでさえ、まだ隅から隅までは行ったことがないんですの。
あらら、よく見れば見取り図の中に知らない建物が載っていますわ。西地区の端に小さな建物が、いつの間に……?
「黒鐘、ここ、この建物はなぁに?」
わたくしが指差した、地図を見て、
「はあ? やや! いったい、いつの間にこんなものが!?」
爺やも驚いています、どうやら知らなかったみたい。
「――そう言えば、いつだったか大型トラックが何台もお屋敷のゲートから入って来ていたもので、当主の御主人さまにお訊ねしましたら、知り合いが住む建物を西地区に建築中だから、気にしないで放って置くように、むやみに立ち入らないように、と申し渡された記憶がございます」
「まあ、お父さまがそんなことを……その建物に誰が住んでいるのか気になりますわ」
わたしくの父、七代目当主の
こんな風に家族の
「わたくしの住む、屋敷の敷地内に得体の知れない建物が建っているなんてどういうことなの? 誰が住んでいるのか、今から調査に参りましょう!」
その言葉に驚いた黒鐘は、慌てて
「そ、それはダメでございます! ご主人さまに近寄るなと申し渡されて……」
「いいえ! 麗華の知らない秘密があるなんて許さない」
この「ザ・グレート・オブ・お嬢さま」麗華のプライドが許しません。キリッ!
そして、わたくしの断固たる意見で、黒鐘と古くからいる家政婦の鶴代、それと警備員を二名連れて、移動用カートに乗り込みました。蟻巣川家は広大な土地なので屋敷の中を移動する時には、いつも専用のカートがありますのよ。
西地区に建っている、その謎の建物に向けて、我ら蟻巣川探検隊はレッツ・ゴウー!!
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