第一章 異世界

第1話

「やりました!勇者召喚に成功しました!」


 誰かの声が聞こえるがその言葉は聞き取ることができなかった。ただただ、呆然と目の前の景色を眺めていることしかできなかった。そして状況に意識が追い付いてくると、目の前にいた人物を見て驚愕した。


「……ッ!?」


 そこには金髪碧眼、肌はシミひとつなく雪のように白い、メロンを二つ携えた日本ではありえないような美少女が喜んでいた。クラスのヤツらを見ると男子たちはその美貌に鼻の下を伸ばし、女子達ですら見惚れている。

 その周りには鎧を身につけ腰からは剣を下げている人たちが5人、女性を守るようにしている。


(なんだ?この人は…可愛いというよりも美しい?…てか!あの胸!でかい!!まるでメロンみたいなサイズだ!!…それにしてもあの人のそばの男達の格好はなんなんだ?今どき鎧なんか着てるなんて…コスプレ?にしてはリアルに作りこまれているな…でもあの使い込まれた感じがかっこいいなぁ)


 まさかこの女が王女で剣は本物だとは知らない黒斗はこの時、剣を見ながらのんきにこんなことを考えていた。しばらくして周りにへと視線を移していく。まず目に付いたのは正面に飾ってある大きな壁画だ。いかにも勇者といった感じの青年が剣を片手に魔物戦っている絵が描かれている。


(RPGとかに出てきそうな壁画がどうしてこんなところにあるのだろう?)


 ますます謎が深まるばかりだ。次に目に入ったのは床に書かれた大きな円状の何かだ。いくつもの円が書かれ細かな謎の文字や、幾重にも重なり合った何かが描かれている。

 そのまま特に何かを考えるわけでもなくボーッとその円を見つめていると周りの生徒達がやっと正気に戻ったようだ。少し騒がしくなってきた。

 黒斗は顔を上げて自分の周囲に目をやった。そこには正気に戻ったクラスメイトと先生たちが自分と同じように辺りを見渡している。


「そういえばここはどこなんだ?」


 誰かがポツリとつぶやいた。その言葉で辺りがより騒がしくなる。そして倒れていた人たちが目を覚ますと先程と同じように女性に鼻の下を伸ばしたりの繰り返しだった。 そうしていると金髪の女性が黒斗たちに向かって何かをつぶやいた。


「むぅぅ…このままじゃ話を聞いてくれそうにありませんね。しかたがありません。…我は願う…迷…者たちに……静寂の…を…『静寂の波紋』!」


 女性が杖を掲げ何かを呟くと同時に杖を中心に光が波紋状に広がっていき、それに触れた瞬間に周りの様子が落ち着いていった。


(ふぅ…なんか急に頭がすっきりしたな…)


 皆が落ち着きだすと、金髪の女性が話し始めた。


「みなさん、はじめまして!。突然このような場所に呼び出してしまい申し訳ございません。私わたくしはノーマコローオ王国の第一王女ララ・アーク・ノーマコローオと申します。ようこそおいで下さいました勇者様方。無事勇者召喚が成功いたしまして嬉しく思っております。」


(えっ…なに!? 勇者? 召喚? 異世界召喚ってこと? まじかやっt…まてよ帰れないのか!? こういうのって大体魔王を倒さないと帰れないっていう話だよな…ってことはずっとこいつらと一緒なのか!?)


 黒斗は勇者や、召喚という言葉を聞いてすぐに異世界召喚を想像した。そうして帰れない可能性を考えると授業中に居眠りでもして夢でも見ているのかと考え頬を抓ってみた。


(痛い。夢じゃない!いや、まさかそんなことはありえない。さっきまでいつも通りの学校生活を送っていたはずだ。だけど、もし本当に異世界召喚されていたとしたら今までの謎が全て納得できてしまう。ここが異世界ならあの大きな壁画に移っているのは勇者と考えれるし、床の円は魔法陣だと思う。本当にラノベやアニメにある展開なら次にあの金髪の少女は魔王を倒してほしい!などといってくるのだろうか。もしそうなら無理だ…俺にそんなこと出来るわけない。)


 一般人に自分の手で生き物を殺せというのは酷な話だろう。確かに自分たちは生き物を殺して自らの血とし、肉としているが、それとこれとは話が違う。


「…勇者様方を召喚させていただいたのは、魔物の王…魔王を倒していただきたいのです…残念なことに我々には魔王を倒すだけの力は持っておりません。このままでは、我々人間は滅んでしまうのです! どうか! …どうか…我々に力を貸していただけないでしょうか…?」


(悪い夢なら早く覚めてくれ。本当にこんなラノベのテンプレ展開はいらない。確かにラノベの主人公には憧れる。だけど死と隣り合わせの生活を送るより平和に生きたほうが絶対にいいに決まってる)


 黒斗は自らの頬を思いっきりつねった。


 (痛い! なんで! なんで痛いんだ)


 これは夢なんかではない。そう思った瞬間、黒斗は怖くなった。涙が出てきそうになるが必死にこらえる。何度か小さく深呼吸してから王女様の方を見た。

 王女様は興奮まじりに話を続けた。


「今魔王軍はかなり力をつけてきており、このままではあと1年後には1つの大陸を魔王に支配されてしまうでしょう。私は…まだ死にたくない! 死ぬわけにはいかないのです!! まだこの国の、この世界の民を死なせたくはないのです!」


 ララ王女は涙を流しながら頭を下げ懇願してきた。こんな自分たち対して年齢の変わらない子がここまでして救いたいと思うのはなぜなのか。なぜ自分たちなのか。いろいろな感情が頭をよぎる。


「そんな時神より信託が下ったのです。神より授けられたこの魔法陣を用い世界を救う勇者を召喚せよと 今回その魔法を使ってあなた方を呼び出したのです。この魔法は、神によって魔王に勝つことのできる勇者をこちらに呼び出す魔法です。あなた方は神に選ばれたのです! お願いします」


 再び頭をさげこちらに懇願してくる王女。あまりの展開の速さ、泣き落とし。こちらが落ち着いて考える前に同情を誘い自分たちの願いを聞かせる簡単な方法。そんな考えが黒斗の頭をよぎる。今まで読んできたラノベには心の底から懇願している王女と自分たちを利用せんとし、手玉に取るかのようにだましてくる王女など様々なパターンが存在していた。この王女はどちらなのだろう。そんなことを考えていると王女が頭を上げた。


「こんな都合のいいことを言っているのは承知しております。私たちももちろんたたかわせていただきます! 皆様だけに責任を負わせたりは致しません! 碌な抵抗をすることもできずに、ただ死にゆくだけだった私たちの希望である勇者様方。 どうかどうか魔王に脅かされているこの世界をどうかお救いください」


 そして三度頭を下げ懇願する王女だが生徒たちは同情はするもののそもそも現状の理解ができていなかった。

 そのため生徒たちが口々に思っていることを言い始めた。


「魔王? 魔法? 勇者? なにいってるの? この王女様?が言ってること理解できない。」

「本当に僕たちは異世界召喚されたの?」

「集団ドッキリ?それならよくできてるなー」

「おいおい、今日は彼女と帰るからドッキリなら早く帰してくれ。」


 みんなまだ状況を理解できていない。どうせなにかのドッキリや夢でも見ていると思っているのだろう。そしてクラスメイトたちは徐々に怒りを募らせてきた。


「はやく帰せ」

「もう十分だろ、こんな茶番に付き合ってられない」


 一人また一人とその場に立ち始めた。そして王女様のいる方向に歩いて行こうとすると一人の鎧を着た男がクラスメイトたちの前に立った。


「これは夢などではない。いきなりで驚いていると思うがこれは現実だ。あまり手荒な真似はしたくないが、ララ王女がここまで必死に頼んでいるというのに貴様らには心というものがないのか!! ……ハァ! 炎覇斬!」


 チャキッ


 鎧を着た男はそう言って剣を抜いた。そして剣が赤く輝き、そのまま地面に向かって剣を振り下ろした。


 "ズバンッ!"


 大きな音がして地面が切り裂かれた。レプリカの剣では…地球では、絶対にありえないことが起きた。

 この時クラスメイトたちは本当に異世界に来てしまったことを感じた。そして徐々に怒りが消えていき不安へと変わった。

 怯えてみんながオロオロとし始めた。そんな時、今までクラスを引っ張ってきた英澤 勇星の声がした。


「みんな、一旦落ち着こう。」


 そのままクラスメイトの代表として王女様に話しかけたをした。


「僕の名前は英澤 勇星と言います。現状を理解するためにいくつか質問してもよろしですか?」


 自分たちがあの石ブロックのようにならないよう丁寧に王女様に質問をした。それに対して王女様は笑顔で返事をした。


「はい、なんでもお聞きください。」


 その言葉のあとに鎧を着た男が剣をさやに納めもといた場所に戻った。それを見た勇星は少し安堵し質問を始めた。


「まず、ここは地球でないのならどこなのですか?」


 王女様は地球という言葉を聞いた瞬間ハテナを頭に浮かべたが、世界という言葉から自らの住んでいる世界について説明した。


「地球…というのが何かは分かりかねますがここはザナレプスと呼ばれております。」

「そうですか。それでは僕たちは前にいた世界には帰ることはできるのですか?」


 その質問に対して王女様は申し訳なさそうに答えた。


「神より授けられしこの魔法にはジドウソウカンキノウがついているとのことです。目的を達することで元の世界に戻ることができる魔法だと聞いております。条件は魔王を倒すことです」


 答えを聞いた瞬間クラスメイトたちの顔が曇った。魔法があるのならこちらの反応次第でやる気がないなら帰れるかもしれないという希望はなくった。

 しかも、これは実質脅迫だ。魔王を殺さなければ地球に変える手段を失うことになるのだから。

 それに加え恐らくこの世界で生きていくうえで勇者が召喚されたというのはすぐに広まるだろう。そうすると魔王が黙っているとは到底思えない。

 結局は相手の言うことを聞くしかない状況だ。この時黒斗は、まずこの世界についての知識集めようと心に誓った。

 そして王女様たちがいる方向を見ようとした時


 タッタッタッタッタッ…ガチャ!


 ドアを勢いよく開けて厳つくだがどこか優しさのある感じのダンディーな金髪のイケメンっぽい男性が入ってきた


「ララよ、勇者様の召喚が成功したとは本当か!」

「はいお父様。召喚は無事成功しました」


 その言葉を聞いた瞬間王様は笑顔になった。そしてこちらを向き自己紹介を始めた。


「我はノーマコローオ王国の国王レオンハルト・アーク・ノーマコローオである。勇者様方歓迎しますぞ。おい、今夜はパーティーだ城の皆に伝えろ」


 王様はそう言い5人いた鎧の男の2人にパーティーのことについて伝えると鎧の男は走り去った。王様の登場にクラスメイトたちが驚いといると王様が話を続けた。


「ララに聞いたとは思うが、今この世界は魔王によって支配されようとしておる。魔王によって人々が怯えて苦しんでいるのだ。どうか我々に力を貸してはいただけぬか?」


 王様と名乗ったこの男性は黒斗たちに頭を下げた。その途端先を程剣を抜いた男とは別のひょろっとした男が怒鳴った。


「王様! このような者共に頭など下げてはなりません!」

「やかましいわっ!我々はな!この者達を拉致したようなものなんだぞ!!この者達には家族がいるだろう、大切な人もいただろう、なのに、我々の勝手な都合で連れてきておいて頭の一つも下げれないとは何事だ!」


 そんな兵士に向かって怒鳴りあげた国王を見て、人々が怯えて苦しんでいると聞いた瞬間になにかを決心したかのような勇星が声を張り上げた。


「みんな魔王を倒そう! どうやら僕たちは勇者としてこの世界に来たみたいだ。そして僕たちは日本に帰らないといけない。僕は大切な家族に一刻も早く会いたい!それはこの世界の人々も同じだ! いや、この世界の人々は、もう会えなくなってしまうかもしれないんだ! ここはみんなで団結して魔王を倒し、大切な人に会いに一刻も早く日本に帰ろう!」


 英澤 勇星の言葉に幼馴染である龍崎 元輝と清水 麗子が周りにいるクラスメイトにむけて声をかけ始めた。


「みんな勇星の言う通りだ! このままなにもしなかったら何も起きない! だけど、みんなで協力していけば必ず魔王も倒せる! そうすればみんなで帰れるぞ! 止まっていたらなんにもはじまらない!」


 その言葉を聞いた王様と王女様は涙を流しに


「おぉ…そ…うか…我々のために戦ってくださるのか…勇者様たちは我らが全力でサポートさせてもらう。」


 そう言って英勇星に握手を求めた。勇星も手を出し二人で握手をした。しかしここで今まで状況を見守ってきた担任の久世が眉間にシワを寄せながら声を上げた。


「国王様よぉ、俺は不敬罪だとか言われようがなこれだけは言わせてもらおうか。こいつらの担任として生徒が危険な目に遭う可能性がある話を担任という立場上、素直にyesとは言えないな」


 しかし、その言葉に返事をしたのは国王ではなく英澤 勇星だった。


「久世先生、この世界は魔王によってたくさんの人が悩み、困っています。その人たちを放っておくことはできません。先生は困っている人を見捨てることができるのですか!」


 そして、その言葉に乗るように国王も、


「我々は勇者様方の安全を第一に考えておる。勇者様方がこの世界に慣れるため国の精鋭の騎士団がつきっきりで指導をする予定だ。」


 と言ってきた。


 「こんなこと言いたくはないがな、そんな顔も知らない奴の事よりも自分が守りたいと思えるやつを守る方が大事だと思うんだがなぁ…まぁ、お前が言い出したんだ、最後まで突き通せよ? 途中で逃げ出したなんて言ったら俺はお前らをぶちのめしてでも帰るからな」


 それを聞いた勇星は覚悟を決めたような顔つきになり宣言をした。


「わかりました! 必ず魔王を倒し、平和を得るまで精一杯やらせていただきたいと思います!」


「わかった、ただし国王様、戦いをしたくないと言っている生徒には強制させないでほしい。」


 その問いに対して国王は申し訳ないような顔をして提案をしてきた。


「しかしこの世界にはモンスターや盗賊など危険がたくさんある。注意はしているがもしもの時、自分の身を守るためにも最低限の戦闘ができるように訓練は受けてもらったほうがよいとおもうのだがのぉ。」


 今の久世には反論する言葉が見つからなかった。


「それもそうだな、死んで欲しくはないからな。みんなそれは受け入れてくれ。」


 久世は一言だけ言い返した。本当は訓練自体させたくないのだが、生徒の危険を少なくするために王様の言葉を了承した。これで召喚された全員が一応魔王を倒しに行くことが決まり、王女様が笑顔で話し始めた。


「みなさん本当にありがとうごさいます。今日は既に疲れていると思いますので、パーティーまでお休みください。では、個室に案内いたしますね。」


 そう言って残っていた鎧を着た男たちに部屋に案内するように指示を出した。

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