博士と助手の押しかけクッキング

参河居士

第1話

「デザートぉ?」

「そうなのです」

「なのです」

 店内に博士と助手を迎え入れたアルパカは、突然の依頼に小首をかしげる。

「デザートって、なに?」

「……新しい料理の名前?」

 アルパカの隣りに座るトキも同じように首をひねった。

「少し違うのです」

「特定の料理の名前ではなく、大きな群れの名前なのです」

「「群れ?」」

 アルパカとトキが絶妙なタイミングでハモる。

 理解できてない2人に構うことなく、博士と助手は語りだした。

「周知の通り、我々はグルメなのです」

「グルメな我々は、ジャパリまんだけの生活には耐えられないのです」

「そこでカバンに料理を作ってもらったのですが」

「料理には、いろいろな群れがあって、どの群れを先に食べるか順番が決まっていたのです」

「以前、かばんに作ってもらった料理は、メインと呼ばれる群れなのです」

「メインを食べたあとには、デザートを食べるものなのです」

「デザートを食べないと片手落ちなのです」

「……じゃあ、食べたらいいんじゃない?」

 トキがそうつぶやくと、博士と助手は、我が意を得たりといった様子でうなづく。

「だから作るのを手伝って欲しいのです」

「それはぁ別にいいけどぉ、なんでアタシ? 図書館のそばに住んでるフレンズに頼めばいいのにぃ」

 当然すぎるアルパカの疑問に、博士と助手はきっぱりと答えた。

「ここがカフェだからなのです」

「カフェにはデザートがつきものなのです」

「ふぇ? そうなのぉ?」

「そうなのです。ちゃんと資料にあるのです」

「調べたのです。必要な材料と道具は持ってきたのです」

「そうかぁ。それならやるしかないねぇ。わかったよ、手伝うよぉ」

「面白そうだから私も手伝うわ」

 さっそく4人はカウンターの裏にあるキッチンへと移動した。

「はぁ~、ここ使うの初めてだよぉ」

「……で? 何を作るの?」

「アイスクリームです。2人には、我々の指示通りにやってもらうのです」

「まず、このナベに牛乳と砂糖を入れて、焦がさないように弱火で煮るのです」

「ナベの牛乳が半分くらいになったら、いったんナベを水につけて冷ますのです」

「その間にボウルに卵割って、よくかき混ぜるのです」

 いつもお茶を淹れているためか、道具を使うアルパカの手さばきには余裕が感じられる。

 その後、トキがナベの牛乳を少しずつ足しながら、ボウルの卵となじませていく。

「次はこれを冷凍庫に入れて冷やすのです」

「この砂が落ちるまで待つのです」

 助手が大きな砂時計を取り出し、冷凍を待つ間、一同はいったんホールへ戻った。

「それじゃ、待ってる間にお茶を入れるよぉ」

「私はレモンティーを所望するのです」

「……あ!」

 不意にトキが声をあげたため、助手が何事かと振り返る。

「どうしたのです?」

「何でもないわ。ちょっと忘れ物」

 そう言うと、トキはそそくさとキッチンへ戻り、しばらく戻って来なかった。

 キッチンの方から陽気な歌声が響くなか、まったりとした時間が過ぎていく。

 やがて砂時計の砂がすべて落ち、作業が再開された。

「ボウルを取り出して、中身をよくかき混ぜるのです」

「おぉ~、なんか固まってるよぉ」

「しっかりかき混ぜたら、また冷蔵庫に戻すのです」

 混ぜては冷やす作業をもう一度繰り返し、ようやく全行程が終了した。

「これで完成、のハズなのです」

「さっそく味見するのです」

「うわぁ、どんな味なんだろぉ」

「……楽しみ」

 ボウルの中身をそれぞれの皿に小分けしたところで、4人そろってパクつく。

「………………!」

 しばらくは誰も口を開かなかった。

 丹念に味わうように噛み締め、最初の一口目を飲みこんだところで歓声が上がった。

「甘いのです! 美味しいのです!」

「氷みたいに冷たいのに、とても柔らかいのです!」

「はぁ~、これがアイスクリーム……」

「……口の中が冷っこくて気持ちいい。私、気に入ったわ」

 初めてとは思えない上々の出来栄えに、みなご機嫌だ。

「スゴイねぇ。牛乳がこんななめらかに固まるんやねぇ」

「感心するのはまだ早いのです。これはアイスクリームの基本形にすぎないのです」

「食材を変えることで、いろいろな味が楽しめるのです」

「ほぁ~、そうかぁ。どんな材料が合うんかねぇ」

 そんな話をしていると、不意にトキが席を立ち、キッチンから別のボウルを抱えて戻って来た。

「……こんなのはどう?」

 トキが差し出したボウルには、薄茶色に染まったアイスクリームが入っていた。

「何です、これは?」

「……アイスクリームよ」

「妙な色になっているのです。いったい何を混ぜたのですか?」

 渡された小皿を、3人は興味津々に眺める。

「……これ、もしかしてぇ」

 最初に食材の秘密に気づいたのはアルパカだった。何かを確信し薄茶色のアイスクリームを口にする。

「やっぱりだよぉ! 紅茶が入ってるよぉ!」

「紅茶!?」

「何と!」

 博士と助手も恐る恐るといった様子でアルパカに続いた。

「これは……! 確かに紅茶なのです。紅茶の味がするのです!」

「甘みの中にかすかな苦味。それにこの香り! 牛乳とはまた違う風味なのです!」

「すごいわぁ。アタシ、全然思いつかなかったぁ」

「ふふふ、どうやら狙い通りだったようね」

 ドヤ顔で胸を反らすトキを、博士と助手は素直に賞賛する。

「実に素晴らしいアイディアなのです」

「どうやって思いついたのです?」

「アイスクリームは牛乳で作る。紅茶と牛乳は合う。だったら紅茶とアイスクリームも合うはずでしょ」

「なるほどぉ。それならリンゴやレモンも合うかもしれんねぇ。ハチミツもいいかも。すごいわ、トキ天才やわ」

「ふふふ、もっと褒めてくれていいのよ。さっそくこの喜びを歌にするわ!」

 博士と助手は、ご機嫌に歌い上げるトキに背を向けてささやきあう。

「……単純すぎるのです」

「ビギナーズラックなのです」

 一曲歌い上げトキが満足したところで、アルパカは博士と助手を振り返る。

「今度はもっとたくさん作って、みんなに配ってあげようねぇ」

「それは止めた方がいいのです」

「? なんでぇ?」

「アイスクリームは冷たさが命なのです」

「ちゃんと冷やしておかないと溶けてしまうのです」

「ありゃ~、それじゃみんなに食べてもらうのは無理かね……」

「だから良いのです」

「ふえ?」

 がっくりと肩を落とすアルパカとは対照的に、博士と助手は自信満々であった。

「アイスクリームが食べたければココへ来ればよいのです」

「カフェの看板料理なのです」

 2人の言葉にアルパカの表情がぱぁっと明るくなる。

「おお~! すごいすごい! 2人ともそこまで考えてくれてたのぉ!」

「当然なのです」

「我々は賢いのです」

「ありがとぉ! アタシこれからたくさんアイスクリームを作るよう!」

「紅茶のアイスも忘れないでね」

 片付けを終えたあと、博士と助手はアルパカとトキに見送られて帰路についた。

 えりあの境界まで来たところで助手が博士にささやく。

「博士、上手くいきましたね」

「ええ、成功なのです」

 博士と助手は、顔を見合わせ、うなづき合う。

「「これでアイスクリームがいつでも食べ放題なのです」」

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