ジャパリ公園!?

たに丸

ジャパリ公園!?

「ここはなにかな?」

「ラッキーさん、わかります?」

 僕とサーバルちゃん、ラッキーさんの前には薄っすら茂った芝生の上に、錆だらけの鉄の棒や、木の板や丸太を組み合わせた物がいくつも置かれている。

 いったいここはなんだろう?

『ココハ【ジャパリコウエン】ダヨ。イロンナ【ユウグ】ガアッテ、イッパイタノシメルヨ』

 物知りなラッキーさんは親切に教えてくれたけど、その名前はなんだが違和感があった。

「ジャパリパークの公園って……なんだか変てこな名前ですね」

『カバン、イイトコロニキガツイタネ。【パーク】ト【コウエン】ニハ、ゲンミツナチガイハナイケレド、ニホンジンニハ【コウエン】ノホウガナジミガ――』

「よくわからないけど面白そう。カバンちゃん、早く行こうよ」

「待ってよ、サーバルちゃん」

 駆け出すサーバルちゃんの背中を、僕は追いかけた。

『…………』


「これはなんだろう?」

 僕らの目の前には樹木の支柱からロープが垂れ下がっていて、水平の板を吊るしていた。

『ソレハ【ブランコ】ダヨ。スワッテコイデ、エンシンリョクデ、フリコウンドウヲ、タノシム【ユウグ】ダヨ』

「えんしんりょく、とか、ふりこうんどう、とかボスの言ってることは難しくてよくわからないよ」

「とりあえず座って、漕ぐっていうのは、こういうことじゃないかな?」

 水平の板に座って、足をブラブラ、反動をつけてみる。ゆっくりと僕の身体が行ったり来たりを繰り返し始めると、そばで見ていたサーバルちゃんが目を輝かせた。

「わぁ! なにこれ! 揺れてる! 動いてるよ! 楽しそー!」

『ウシロカラオセバ、モットイキオイガツイテ、モットタノシイヨ』

「後ろから押せばいいんだね、ヨーシ」

 ラッキーさんの言葉を受けて、サーバルちゃんが腕をブンブン回して近づいてきた。

「え? サーバルちゃん、ちょっと待っ……」

「それー!」

「うわわゎゎ!」

 さっきまでとは比べ物にならないほど高いところまでブランコが上がり……思わず僕は息を呑んだ。

 視界いっぱいに、吸い込まれそうなほど綺麗な青が広がっていた。

「サーバルちゃん。すごいよ! 空が近いよ!」

 首を回して後ろを見ると、サーバルちゃんが羨ましそうにこっちを見ていて……。

「えー、ズルイよカバンちゃん! 僕にもやらせでみゃっ!?」

「サーバルちゃんっ!?」

『オシタアトニウシロニイルト、スゴクアブナイヨ』



「これはなんだろう。ヒモみたいだけど」

「誰かの忘れ物かな?」

 僕らの目の前には細いロープがいくつか落ちていて、その両端はロープよりも太めの木で加工されていた。

『ソレハ【ナワトビ】ダヨ。ハシヲテデツカンデ【ナワ】ノウエヲ、ジャンプシテアソブンダ』

「端を手で……こう、かな?」

「んみゃっ、みゃっ、みゃっ、みゃっ……」

 縄を回して、地面の辺りを通過するたびにジャンプして飛び越す。

 たしかに楽しいけど、結構疲れる……あと背中で跳ねるカバンが、すごく邪魔だった。

 きっと身軽なサーバルちゃんはこういうの得意だろうな。

 そう思って、くるりとサーバルちゃんの様子を見ると……。

「助けてー、動けないよー」

「サーバルちゃんっ!?」

 縄でこんがらがって、身動きの取れなくなったサーバルちゃんがいた。

「どうやったらこんな風に絡まるの……」

「だって……これ、難しいよ。【ナワトビ】もできるなんて、やっぱりカバンちゃんは凄いね」

「そんなことないと思うけど……」

「カバンちゃんは凄いよ。ほら、見てみなよ」

 サーバルちゃんの指差す方へ振り向くと……。

『カバン……タスケテ……』

「ラッキーさんっ!?」


 

「これはなんですか?」

『ソレハ【シーソー】ダヨ。リョウハシニソレゾレノッテ、フタリデ、ギッコンバッコン、シテアソブ【ユウグ】ダヨ』

「ギッコンバッコンって、全然意味がわからないよ!」

 僕らの目の前には長い板の【ユウグ】があった。板の中心には棒があり、それを支点に板は斜めに傾いている。板の両端の地面にタイヤが半分埋まっているのは、なにか意味があるのかな?

「ねぇボス? 今度は危なくないよね?」

『…………』

「ラッキーさん。この遊具に危険はありませんか?」

『【ユウグ】ハドレモ、タダシクツカエバ、アンゼンダヨ』

「ほんとにー?」

『…………』

「どうする、カバンちゃん? よくわかんないから、あっち行こっか?」

「待って、僕わかったかも。こうして座って。サーバルちゃん、そっちに座って……反対だよ、僕と向かい合うように……そうそう。それで両足で地面を蹴ってみて」

 二人で【シーソー】に跨る。たぶん、こうやって遊ぶんだ。


「ギッコーン!」

「バッコーン!」

「楽しいね、カバンちゃん!」

「そうだね、サーバルちゃん!」

 お尻から伝わる振動で身体が弾み、なんだが心も弾む。なによりサーバルちゃんと繋がっている気がして、とっても楽しい。

「そうだ、カバンちゃん。もっと勢いをつけたら、もっと楽しいんじゃないかな?」

「え、でもラッキーさんが正しく使わないと危ないって……」

「いいからいいから。カバンちゃん、そこの木の上から飛び降りてみてよ!」

「大丈夫かなぁ……」


「カバンちゃん、いいよー」

「いくよー。それっ」

 木の上からジャンプして【シーソー】の上に着地した瞬間、

「うわぁぁっ!?」

「サーバルちゃぁぁぁぁん!?」

 サーバルちゃんはとんでもない勢いで空の向こうへ飛んでいってしまった。



「どうしよう! あんな勢いで飛ばされて、あのまま落っこちちゃったら……あの高さとスピードじゃ、いくらサーバルちゃんでも……。僕のせいで、サーバルちゃんが……」

『カバン。ダイジョウブカイ? ナンダカ、ゲンキガナイヨ。【ジャパリマン】ヲタベレバ、オナカイッパイ、ゲンキガデルヨ』

「ラッキーさん。僕を元気づけてくれようと……そうだ! サーバルちゃんが飛んでいった方角……ラッキーさん、あっちは何があるんでしたっけ?」

『アッチニハ、オオキナ【ミズウミ】ガアルヨ。【ジュモク】ガユタカデ、ミハラシモヨクテ【ドライブ】ニモ、オススメダヨ』

「ドライブなんてどうでもいいです。うまく川に落ちてれば、サーバルちゃんも無事かもしれない!」

『ヤク40メートルノタカサカララッカスルト、【ミズ】ハ【コンクリート】ト、オナジカタサニナルヨ』

「ラッキーさんは励ましてるのか、絶望を与えてるのか、どっちですか!?」



 陽は傾き、辺りは薄闇に包まれ始めていた。

「暗くなってきたし、なんだか怖くなってきた……」

 恐怖を押し殺して草の根を掻き分けながらサーバルちゃんを探していると、暗闇の中でギラリと不気味に光る目があって……。

「ガオォォ! 食べちゃうぞぉ!」

「うわぁぁ、食べないでくださぁぁい」

「食べないよ。カバンちゃん!」

 聞き慣れたその声は、サーバルちゃんだった。幸いどこも怪我した様子はなく、ピンピンしている。

「サーバルちゃんっ!? 無事だったんだね!」

「あれくらいどうってことないよ! でもカバンちゃんがどっちにいるのかわからなくて、仕方ないから寝てたんだ」

「寝てたって……」

『【サーバルキャット】ハ、ヤコウセイダヨ。デモ、ヒルマニカツドウスルコトモアルヨ』

「とにかく無事でよかった……」

 ホッと安堵の息を漏らす僕に向かって、サーバルちゃんはいつものニコニコ笑顔を向けてくる。

「カバンちゃん、【しーそー】って楽しいね。凄かったよ。空を飛んでるみたいで面白かった。カバンちゃんもやってみる?」

「絶対嫌だよっ!」


おしまい

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ジャパリ公園!? たに丸 @tanizou

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