がんじょージャンプ

司馬仲

いちばんがんじょーなの、だあれ?

「サーバルちゃんってさ……すごく頑丈だよね」

 お昼のゆうえんち。かばんは同じベンチに座るサーバルにそう切り出した。

「がんじょう?」

 サーバルに見つめられ、かばんは笑う。

「ほら、サーバルちゃんって、バスにはね飛ばされたり、崖から落ちたりしたけど、なんともなかったでしょ? すごいな、って」

「えへへ、そーかなあ……?」

 逆にサーバルの顔を見つめ返すと、サーバルは照れたように頭へ手をやった。


「頑丈なのはサーバルだけじゃないぞ」

「うわあっ!?」

 いつの間にか後ろにたくさんのフレンズが集まっていた。

「みんな聞いてたのー!?」

 サーバルも立ち上がって驚いている。

「私の方が頑丈で強い」

「あたしだって!」

「アライさんもなのだー!」

「じゃあ私もー」

 誰かの一言を合図に、みんな口々に己の頑丈さを主張し始めて大騒ぎだ。


「あわわ……!」

 オロオロするかばんの背後に、ふたつの影が音もなく降り立った――。

「これは面白い予感なのです」

「なのです」

「は、博士さんっ……!?」

 博士と助手はひそひそ話し合い、やがて博士が全員に向けて発声した。

「これから『頑丈ジャンプ』をして、誰が一番頑丈か選ぶのです」

「がんじょージャンプ!?」

 フレンズ全員の声が揃うとこんなにも耳が痛いのか……。かばんはこっそりとそう思った。


「見るのです」

 博士は頭上空高くを指した。

 その先にはいかにも人工物らしい均一な赤色で塗られた塔のようなものが細く高く天へと伸びていた。

 全員塔を見たのを確認して、博士が再び口を開いた。

「アレのてっぺんにいい場所があるのです」

「そこから飛び降りて、頑丈さを競うのです。それが『頑丈ジャンプ』なのです」

 助手がまとめると、すぐにかばんが声を荒げた。

「あんな高い所、危ないですよ――!」

 塔のてっぺん。床が空中にせり出していて、飛び降りには確かにぴったり。

 でもそこは地上からかなり遠い。さばんなちほーで登った木が可愛く見える。かばんの反対も当然だ。

 ――が。

「たのしそー!」

 かばんは耳を疑った。フレンズはみんな『頑丈ジャンプ』に乗り気だった。

「まずは私からー!」

 サーバルが意気揚々と塔へ駆け出した。

「『エレベーター』を使うのです」

 サーバルは博士とエレベーターに乗り込んだ。


 しばらく待つと、塔のてっぺんに小さくふたりの姿が見えた。

「サーバルちゃーん! だいじょーぶー!?」

 かばんの声にサーバルは何か答えたが、かばんには聞き取れなかった。

 直後、サーバルの体が宙に舞った――。

「サーバルちゃん!」

 ぐんぐん地面に向かって落下してくる。かばんは無意識に両手を組んだ。

 やがてサーバルは地面に着地した。あっけないほどにスマートで静かだった。

「さ……サーバルちゃん?」

 サーバルはしゃがみの姿勢からゆっくり立ち上がると、うつむいていた顔をパッと上げた。

「……たーのしー!」

「……え」

 サーバルの笑顔にかばんは目を丸くした。

「これ! がんじょージャンプ! とっても楽しい! みんなもやろうよ!」

 その声にフレンズたちは一気に沸き、我先にと塔へ走った。

 かばんは自分の感覚がおかしいのかと不安になった。


 ここでかばんは気づいた。多くのフレンズが『頑丈ジャンプ』に興じる中、トキをはじめとした鳥のフレンズはあまり盛り上がっていない。

「トキさん?」

「アレ、楽しそうだけど、私は頭の羽を使って飛べるから、あんまり意味ないの」

「そっか……あっ、じゃあ、こういうのはどうでしょう?」

 かばんは閃いた。飛べるフレンズが『頑丈ジャンプ』を楽しむ方法を。


「こう?」

 塔の上。トキがかばんに尋ねる。

「はい。縄で手足を縛って柱に繋いで……頭には木で作った帽子をかぶる。そうすれば鳥のフレンズさんも飛べなくなって、『頑丈ジャンプ』ができます。それにこれなら地面にぶつからないし安全です!」

 渾身の説明だったが、トキはそれを最後まで聞かずに飛び降りていた。かばんの足下から甲高い叫び声が響く。

「おおおおあああアアァァー!」

 トキいわく「とっても楽しかった」らしい。


 かばん考案『新・頑丈ジャンプ』はすぐに大ブームとなった。飛べるフレンズも飛べないフレンズも縄と帽子をつけての飛び降りに夢中。

「はは……でもこれ『頑丈』関係ないような……」

「次はかばんちゃんの番だよ!」

 ひとりごちるかばんの前にぴょこんとサーバルが現れた。

「ええっボク!? 遠慮する……って、うわあ!」

「いいからいいからー!」

 嫌がるかばんの手を握ってずんずん歩き出すサーバル。


 数分後、ふたりは塔から下を眺めていた。

「うえぇ……高いよお……」

 腰に巻きつけた縄を握りしめて、かばんは弱気な声を出した。

「大丈夫! 楽しいから!」

 サーバルは無邪気に励ましている。かばんも覚悟を決めたようだ。

「わ、わかったよサーバルちゃん。で、でも、自分のタイミングで行きたいから……押さないでね?」

「押さないよ!」

 聞き覚えのあるやりとりの最中さなか、ふたつの影が音もなく、かばんの背後に降り立った――。

「ならば我々が押すのです」

「えいっ――」

「うえっ!? あ、あ……あああああぁぁぁー!」


 それから数日間、博士と助手は料理を作ってもらえなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

がんじょージャンプ 司馬仲 @akira_akari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ