第2話 不審者

死んでしまおうか



その考えは毎日俺の中をぐるぐると回り、いまかいまかと待っていた。



その日は雨だった。

朝から雨で、学校へ行く足取りも重く、嫌々ながら無理やりいっているようだった。3時間目も過ぎた頃、「もう帰ろう」とさっさと荷物をまとめて無断早退をした。


教師から責め立てられることはない。もう、諦められているらしかった。


アパートに近づくにつれ人通りのないくらい小道になって行く。


ふと、後ろから誰かがついてきているような気配がした。気のせいかとも思ったが、こんな道、しかもこんな時間に、通る人間は自分くらいだろうから、つけられている、と感じた。


傘で顔を隠しつつ、チラリと後ろを見遣った。


黒いタイツに、黒いプリーツスカートが見えた。


なんだ、学生か。


だが、見たことのない制服だ。


少し早足になる。すると後ろの足音も早足になる。


完全につけられている。


バス停を通り過ぎたあたりで後ろから「あ!」という声が聞こえた。


びくりとしたがその声の主はバス停に駆け寄っていった。なんだと様子を伺うと、ベンチを屋根に子猫が3匹ほどいた。か細い声でミャオと鳴いていてそれを撫でる人物はかがんでいるせいか赤い番傘で全身が覆われていた。


この時代に番傘?


怪しさ満点。不審者である可能性がある。


思わずじっと見ていると、不審者(仮)は突然パッとこちらを向いた。


不覚にも目があってしまった。不審者(仮)はキョロキョロと周りを見て、再度こちらを見て「私?」と自分を指差した。


「え、あ、いや・・・」


声をかけられてしまった、


「え、私??」


「・・・すいません」


なぜ謝っているのだ俺は。


「え!」


大きい声を出すからびっくりしたが向こうもびっくりしていた。


なんでだ。


「え、うそ・・・」とブツブツつぶやく不審者(仮)。


いきなり黙って「仕方ないか・・・」とつぶやくとすっくと立ち上がり、ものすごい速さでこちらに詰め寄ってきた。不審者(仮)の顔がまさに眼前にある。


「私、日比谷っていうの」


「へ・・・」


「死神やってます。よろしく、善君」



不審者確定。





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死神の願い事 ふかい うみ @mikichamp39

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