第8話 鼓動
下校時間の廊下ほど騒がしいものは無い、廊下の隅で固まって馬鹿騒ぎをする奴ら、掃除をサボって階段に座っている奴ら、横に一列になって話しながら帰ろうとする女子。
そんなものを横目に俺は校門に向かってひたすら走った。
「お、おいキョン、どうしたんだそんな走って」
「すまん、今は話す暇はない。じゃあなっ!」
下駄箱に着いた時、ちょうど上履きをしまおうとしてた谷口と会ったが気にする暇などはない、そして俺は上履きからはき替える間もなく外へと飛び出す。
外では陸上部やサッカー部などの運動部がランニングの準備を始め多くの生徒が下校している、が古泉の姿は見えない。となるともうあの坂のところなのか?
「くっそ……っ!」
もし、もし長門言っていたことが正しかったのなら、俺はとんでもない勘違いをしてたんじゃないのか? あいつは超能力者で、それで機関に所属していて、なんだかんだ言っていろんな時に助けてもらって、
俺たちの大事な仲間で。
「なんで、なんで」
なんで今更そんなことに気づくことになんだよっ!
とにかく今は古泉を探せ、でも俺はあいつになんて言えばいい。『ごめんなさい』なのか? それとも『なんであんなこと言ったんだよ』か? 一体何を言えばあいつに許される、一体なにを……っ
「……古泉」
「……」
校門から出てすぐ、入り口の・・・なんて言えばいいんだろうか学校の名前が書いてある文字版みたいなところに古泉は立っていた。
「あ、その……古泉、俺……」
「……何でしょう?」
いま目の前に立っている古泉は俺の知っているSOS団の古泉じゃない、涼しげな表情というのを通り越して、冷ややかな顔で俺を見ている。そして普段閉じているような目は鋭く俺を睨みつけていて、俺は一体何を言おうとしたのかがわからなくなる。
「古泉・・・すまなかっt
「謝るつもりなら結構です、僕はもうあなた方とは何の関係もありませんので」
頭を下げようとしたその時だ、俺の言葉は冷たい言葉で遮られ止まってしまう、何で俺は謝ってる?何で古泉がいないとダメなんだ?
ハルヒを救うことができないから?
4人が揃ってないとダメだから?
「古泉……っ」
「はい、なんでしょうか」
振り向いた古泉の目は相変わらず冷たい、だけど俺はちゃんと伝えなきゃいけないっ。
「俺は……涼宮ハルヒを助けたいっ」
「……なんで僕が行かなきゃいけないんですか? あなたと朝比奈さんと長門さんで十分でしょう」
ダメなんだそれではっ、
ダメなんだって。
だって俺達は。
「……SOS団だろ? 俺達」
「……」
「『世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団』っ! そこに副団長のお前がいなくてどうすんだよっ!」
無言で俺を見る古泉、だが俺は言ってやるっ
「俺達でハルヒを助けるんだろっ!」
「……僕は機関の人間ですよ、それでもですか?」
機関の人間だ?
知ったことかそんなもんっ!
だって。
「『ただ、涼宮の大事な仲間だろっ!』」
「……」
……当たり前のことを言ってる、でもこのことが、当たり前なことがとても大事なことなんだって。
お前のおかげで気づけたんだよ、俺は。
「……やっぱり、そうですよね。僕たちは……SOS団なんですよね」
「わかったら。さっさとハルヒを助けるぞ」
「でも、どうやって助けるつもりです?」
「……向こうに着いてから話す、とにかくついてこい」
すると今まで冷たかった古泉の顔がいつものように爽やかな涼しい顔へと戻っている、俺もこの調子だったらハルヒを助けられる。そう思って歩き出そうと思ったその時だ。
「すみません、ちょっと……こっちを向いてもらえませんか?」
「なんだ、まだ言いたいことが……っ!」
振り向くと同時に飛び込んできた景色、それは古泉の涼しげな顔とそんな顔から繰り出される。それはそれは綺麗な顔面ストレートパンチだった。
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「あっ、キョン君っ! ……どうか、したんですか?」
「いえ、これは……その……」
病院に着いた俺と長門と古泉、そして俺の連絡を受け病院へタクシーで到着した朝比奈さん。会って早々俺の心配をさせてしまうとは情けない。
「まぁ、一回は一回ですから」
「……悪かったよ」
隣で古泉が水を差すがそんなこと俺だって百も承知なんだよ。
「説明して、涼宮ハルヒを助ける方法」
長門が質問をしてくる、それは当然だ、なにせ今回の方法はお前たちの助けがないと絶対無理だからな。
「まず、ハルヒを助ける前に。みんなにお願いがある」
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「うっ」
「ほらほら、ハルヒちゃん。我慢しないで全部出しちゃっていいのよ」
「うぅ……雅子さん、水とって……」
抗がん剤を投与して二日、まさかこれほどまで副作用が強いとは思わなかった。猛烈な吐き気とこの体のだるさ・・・自分は決して助からないと知っているはずなのに、なんで私はここまでしてるんだろう。
「キョン……カチューシャ汚してないかしら……」
「ほら、ハルヒちゃん。お水」
「うぅ、雅子さんありがとう……」
正直言って水も受け付けられないくらいなのだが、この口の中に残る吐瀉物の味と胃酸の酸っぱさをどうにかしたかった。最近は本当に食事も喉に通らないし私死ぬんだなんて諦めている自分がいて怖かった。
「SOS団のみんな元気かなぁ……うっ」
「ほらほら、お水はゆっくり飲んで」
こんな姿見せたくない、団長の私がこんなのでどうするの、で……
「うぅ、いやだ……」
「ハルヒちゃん?」
「ううん、なんでもないわ。ありがとう雅子さん」
「そう、じゃあ私は他の患者さんのところに行くから。用があったらちゃんとナースコール押すのよ?」
本当に雅子さんは優しい、こんなボロボロの私でもちゃんと接してくれて……怖いな、死んじゃうの。
「わかった。ありがとう」
そういった後雅子さんは病室の扉を開け出て行く、そして部屋には私が洗面器にえずく音となんとも言えない孤独感が部屋にあって……とても、寂しい?
「うぅ……みんなに……みんなに会いたいよぉ」
あぁ、私ってこんなに弱かったんだ……一人ぼっちが怖くて、怖くて。誰かに私を見て欲しくてSOS団を作ったんだ……でも……
「でも……私」
そんな、悩んで。お前らしくもない。
「え……キョン?」
唯我独尊、猪突猛進、自由奔放、お前を表すにはそんな言葉がお似合いだ。
「な、なによ。私はあんたにそんなことを言われる筋合いないわっ!」
なんだそんなに元気じゃないか。だったらさっさと病気治して戻ってこいよ。
「で、でも・・・私・・・」
なんだ、自分で建てておいた団で団長不在とかありえんだろ。
「そんなんじゃなくて、わたしっ!」
「ハルヒ?」
「へ?」
声のかけられた扉の方へと向くとそこには SOS団のみんなが揃って私の方を見ていた。じゃあさっきのは一体……
「みくるちゃんに古泉くん、有希にキョン。どうしたの急に」
こんなメンバー全員揃ってくるなんて、入院し始めた時以来じゃない。
「あのなぁ、ハルヒ。今からお前に大事な話をしたい」
「な、なによキョン」
大事な話? まさか……
「えっとなぁ……」
「駄目よそんなのっ!」
「……は?」
こいつが真剣な顔しているだなんて、それに他の子達もあんな固い顔して。大事な話って。
「SOS団解散なんて認めないんだからっ!」
「いやいや」
「とにかく絶対認めないわよっ! 古泉くんっ、あんた副団長なんだからしっかりしなさいっ!」
「おいおい、なに勘違いしてるんだハルヒ」
認めないわそんなのっ! 私は絶対……っ!
「うっ」
「おい、ハルヒ」
また強烈な吐き気、こんな姿。絶対団員には見せたくなかったのに・・・
「……とにかく。帰ってちょうだい……」
「いや、帰らん」
え?
「な、なんで」
「とにかく話を聞け、ハルヒ」
「い、いやよっ。とにかく帰ってっ!」
こんな姿……見せたくないんだから……わかってよっ、この朴念仁っ!
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ハルヒはどうやらこんな姿を見られたくないと思ってるのだろう。ベットの上で毛布をかぶり丸く背中を向ける姿は確かに普段のあいつとは大違いだ。
だが俺もここで引き下がるわけにはいかない。
「・・・やれやれ、長門。始めてくれ」
隣で控えていた長門に合図を出すとコクリとうなずき、まずこの作戦の第一段階が始まる。
「$%!’&%(!”%8%’(&”)(0!&(’%!&!#$&%)#(=0”)#(!(&#(’!”&!$&”$!’”)!”(”!’(%’&”$#’&&’#)&’”」
そういえば久々に聞いたな、長門の超早口呪文。長門が早口に何かを唱えると周りの病室の壁がみるみるゆがんで行き、そして。
「ハルヒ、こっちを見てみろ」
「いやだ」
「なんなら布団を引き剥がすぞ?」
「……わかったわよっ」
布団から出たハルヒが驚きの表情で固まる、
それはそうだ。だってここは
「キョ、キョンっ! なんで私たち部室にいるのよっ!」
なんでと言われてもなぁ。
「俺にもよくわからん」
「はぁ〜っ!?」
まぁ、どうやら少しは話を聞いてもらえそうだな。にしてもよりによって部室を選ぶとは、長門はセンスがいい。
「キョンっ!ちゃんと説明しなさいっ」
「だから話すって言ってるだろう?」
そう言って、俺たちは一列へと並ぶ。SOS団からハルヒがいなくなって一ヶ月、やっぱりお前の居場所はここだ。
「まず、自己紹介と行こうか。古泉から頼む」
はい、と爽やかな返事で古泉は前へと一歩出る
「SOS団副団長、古泉 一樹。俗に言うエスパー、超能力者です」
「えっ、えぇ〜と。SOS団副々団長兼書記の朝比奈みくるです……えと未来人です……」
「SOS団長門有希、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。あなたたちの言葉で言えば宇宙人に該当する」
「み、みんな。何言って」
突如始まった自己紹介に困惑するハルヒ、普通の人間だったらただの電波の集まりだが。突如病室から見慣れた部室へと瞬間移動をしたんだから少しは信じてくれるだろうか。
「次は俺か。SOS団雑用係、キョン。そして俺は機関の認める普通の人間で、お前が六年前、七夕で会った男」
ジョン=スミスだ
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