第5話 宣告

『涼宮さんの検査結果ですが』


「……おい………お………い」


『涼宮さんの検査結果ですが』


「お……い………キョ……ン……っ」


『涼宮さんの検査結果ですが』


「おいっ!キョンっ!」


「っ! ……なんだ谷口か」


 どうやらぼーっとしていたみたいだ、今何校時目だっけか……?


「なにお前ぼーっとしてんだぁ? 休み明けから」


「……すまん、気づかなくて」


 珍しいな、こいつがこんな心配そうな顔するのは。俺そんなにひどかったか?


「あぁ、心ここに非ずって感じだったぞ」


「……」


 ひどいもんだ、こんなにも俺は動揺するものなのか。もっと朴念仁だと思ってたんだが。


「んで、結局おまえはSOS団に行くんだな」


「……あぁ、俺が行かなくて誰が行くんだ」


「……涼宮のことは、残念だよ」


「……ッ!お前になにが分かるってんだっ!」


「キョンっ!? どうしたんだいったい落ち着けって!」


「落ち着いていられるかっ! なにが残念だっ! あいつが死んじまったみたいに言うなっ!」


「わ、悪かったって、だからまず座れよ」


 気分が悪い、頭がクラクラする。ふと周りを見渡すと下校しようとしてかばんに荷物を詰めてた奴や机に座って喋っている男子どもが動きを止めて俺を見てる……いったいどうしちまったんだ俺は……っ


「今のは俺が悪かった、謝る。それで、涼宮のところにはもう行ったんだろ、どうだった?」


「……まぁ、相変わらずだ」


「……そっか、ならいいやとにかく聞きたいのはそこだったしな……お前も元気出せよ」


「……ありがとうよ」


 そう言って谷口は帰って行った、俺も……部室棟へと行くか。


 休み明けの月曜日、いつものように学校に行った俺は朝のホームルームでハルヒの身になにが起きているかと聞かせられた、「急性白血病」俗に言う白血病だ。詳しいことはわからんがとにかく危ない病気だってことは馬鹿な俺でもわかる。普通の人間が聞いたら絶対に助からない、そう思うだろう、だがあのハルヒなのだ、とんでもなく迷惑な奴でとんでもなく変人だがそれでも世界を変える力を持ってる、あいつなら自分の病気だって治せるはずだ。


「こんちは……」


「……」


 相変わらず、長門は部屋の隅で本を読んでる。何も変わらない日常だがどこかで何かが狂い始めてるのを感じてる。多分この後古泉がやって来て普通にボードゲームを始めるんだろう。


「なぁ、長門」


「なに」


「……ハルヒのこと聞いたか」


「聞いた」


「……どうすればいい」


「この前の話の通り、涼宮ハルヒに能力を使わせる理由を提示する」


 長門は淡々とそう語るが話はそう簡単ではない、まずあいつがなんで自ら治りたいと思わないのかがわからないし、ハルヒにそんなことを直球で聞いちまったなにが起こるかわかったもんじゃない。


「どうもこんにちわ、みなさん」


「古泉か、お前もハルヒのことは知っているんだろう」


「えぇ、知ってますよ」


 さてどうしましょうか、とぼやきならいつもの位置に座る。その表情は確かに何か悩んでいるものがある。古泉も古泉なりに何か抱えているのだろう、例えば『機関』とかの類とかな。


「あなたなら既に察しがついているとは思いますが、僕の所属する『機関』が今回の件についての対応に関しての回答が来ました」


「そんなもの俺に話してどうする」


「あなたには知っておいて欲しいんですよ」


「……で、なんて?」


「『放置しろ』とのことです」


「……は?」


 今こいつはなんて言った?


「『放置しろ』と言われました」


「なんで……なんでそんなことになるんだよっ!」


「……落ち着いてください、説明しますから」


 落ち着けって、見れば鋭い視線でこっちを見ている古泉の顔がある。よく考えてみろ、こいつだって一緒に過ごしてきた仲間なんだ古泉にとっても不本意な話なのだろう。


「……すまない」


「……最近になって謝ることが増えましたね、僕は大丈夫ですから顔をあげてください」


「あぁ……」


「まぁ、普通の反応だと思いますよ。それでは説明します」


 古泉の話した内容はある意味でいえば納得できる話だった。そもそも機関というものはハルヒがストレスや鬱憤がたまった時に現れる『閉鎖空間』と『神人』の対処と監視が主な仕事と聞いている。そしてそんなハルヒを『神』として崇めてるわけのわからないところだが、世界の均衡を保つという点においてハルヒの今回の件に関しては機関にとっては好都合だったらしい。なぜならばハルヒが消えて『閉鎖空間』と『神人』が発生しなければ世界の均衡は保たれ機関の活動目的は達成される、要はそういうことだが……


「それだけじゃないんだろう?」


「えぇ、これは表向きの理由です」


 上の説明を聞けば綺麗に聞けるだろう、だが物事には必ず裏がある。元はと言えば機関を発足した理由として涼宮ハルヒが自制心を効かせることなく『閉鎖空間』であったり『神人』を生み出す原因を生み出している、そして6年前突如として一般人だったはずの人間が超能力を持つようになったり、危険な『神人』と対峙することになったが、正直に言えばうんざりなのだという話だ。


 ハルヒがストレスを溜めないようにと多額の金をつぎ込み世界を危機から救ったところで誰からも認知されない、危険な『神人』を倒したところで誰からも感謝されない、そんな無意味なことを続けるくらいなら涼宮ハルヒには死んでもらおうという手前がってな話だというわけだ。


「まぁ、機関に所属している手前あんまり勝手なことを言えないのが辛いんですがね」


「だろうな……ん?」


「誰か来ますね」


 廊下がなにやら騒がしい、朝比奈さんか? いやにしては足音が大きいような気が……


 と、部室の扉をぶち壊しそうな勢いでストレートの髪を靡かせながら一人の女性が部室に舞い込んできた。


「こんにわっさね〜っ! 聞いたよ聞いたよっ、ハルにゃんが入院したって〜っ」


「ど、どうも鶴屋さん、お久し振りです」


「相変わらず堅いっさね〜っ、キョンくんはっ」


 こちらは我がSOS団名誉顧問、朝比奈さんの親友である鶴屋さんだ。何かと世話にはなっているが既にハルヒが入院したということは知っていたとは、さすが情報が早い。


「それでハルにゃんは元気にしてたっ?」


「それは・・・その・・・」


 どうやら、今のハルヒがどういう状況なのかは知らないらしい、そしてそれを俺の口から説明してもいいのかという、わけのわからん自制心が働いたところだ。


「涼宮ハルヒのところへ行く」


「長門?」


「直接会って話を聴く、その方が効率的」


「さっすが有希ちゃんっ、行動が早いっさねっ」


 とまぁ、結局ハルヒのところへと全員で行くことになった、今回は鶴屋さんもいるわけだが。俺としてはなんとも入りズラい、なにせこの前ナースの人に叱られたばかりだし、だが、今ハルヒがどんなことを考えているのかそれはなんとなく気になる部分でもある


 そして隣を歩いている古泉はなんとも難しそうな顔をしていた、たしかに『機関』がそんなこんな考えをしているなんて思ったら難しい顔もするものだとは思うが。


「ハッルにゃ〜んっ、お見舞いに来ったにょろ〜んっ!」


「あっ、鶴ちゃん!久しぶりねっ!」


 予想外といえば、予想外だが普段のハルヒが居たようでどこか安心をする。病室のドアを押し開けて入った鶴屋さんだが、ハルヒの病気がどういったものかというのは知っているんだろう、だがここまで明るく振る舞えるのは羨ましい限りだ、その明るさを少しばかり売っていただけませんかね。


「ねぇ、キョン。みくるちゃんは?」


「ん、今日はいらっしゃってないぞ」


「そう、なの……ね」


 そう聞いたハルヒは、100Wの笑顔を一瞬曇らせた。しかしすぐに元の笑顔に戻ると鶴屋さんと大学の話に花を咲かせ始める。


「なぁ、古泉」


「はい、なんでしょう」


 隣で二人のやり取りを眺めている古泉に小声で話しかける。


「ハルヒは知ってるんだよな、自分のことは」


「えぇ、おそらくですが」


 じゃぁ、なんであんな風にふるまえるんだ?あんな笑顔で。


「……心配させたくないんでしょうか?」


「は?」


「白血病は衆知の通り、不治の病です彼女自身それはわかってるでしょう。

だからこそなのだと思いますよ」


 相変わらずいろんなところが鈍いですね。と、古泉からそう言われて普段だったら「気持ち悪い」の一言で済むのだが今回の場合はどこか納得せざるを得ないと思えた。


「ほらっ、そこの3人もただ立ってないでこっちに来て話すっさねぇ~」


 鶴屋さんがこっちに手招きをする、さてこれからどうなることやら、俺たちは涼宮ハルヒに何をするべきなんだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る