第4話 遭遇
さて、まず一つ、現在の状況について伝えようか。
「ほらキョン早くっ、次は4階よっ!」
「へいへい」
俺は現在甲南病院の階段にいる。時刻は深夜の午後12時半っ!
約5時間と少し前の出来事……!>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
「そうですね……夜にここの病院で心霊探検とかどうでしょうか?」
おい、古泉。
「それではっ、今晩。ここ甲南病院で心霊探検をするわよっ!」
「でも、どうやって夜中に心霊探検するんですかぁ?」
そうだ、朝比奈さんの言うとおりだ。
「う〜ん、そうねぇ」
「この中で誰かが近親者を装い、1日看病をすることにすれば問題ない」
「いや……検査入院で看病なんて必要ないd
「いいじゃんそれっ! 有希ったら冴えてるわねっ!」
うちの団長様はやる気満々のようだ、しかし、問題は誰がハルヒと一緒に心霊探検をするかということだ。『この三人全員が兄弟です』とか言うわけにはいかないし、この中から一人を選出しようという結論に行き着き結局のところジャンケンをした、しかしなんと悲しいことか、大富豪でも散々だったというのにジャンケンでもとは、自分の運の悪さにはほとほと呆れる。
結果はわかってのとおりなので、そのあとハルヒの入院する階のナースステーションに掛け合ってなんとかその日1日同伴する許可をもらうことができた、しかし本当に許可が下りるとは……これもハルヒの策略か?ちなみに俺はハルヒの従兄弟ということで通っている。
そして、みんなが帰ってからハルヒと二人で他愛のない話をしたが今回俺と一緒に心霊探検をすることに関しては珍しく文句を言わなかった、そして消灯時間を過ぎた11時頃。
「行くわよキョン」
「はぁ〜、本気でいくのかよ」
「行くに決まってるじゃないっ!私は幽霊をこの目で見るまであんたを返さないんだからねっ!」
「わかった、わかったから声がでかい……っ」
そうして始まった甲南病院心霊探検ツアー。なんとも気が乗らない、俺が入院していたところでもあったため中の構造に関しては少し知っている方である。にしてもだ夜の病院がこんなにも暗いとは、全くもって足元が見えん、歩きづらい。こらハルヒ、俺の袖を掴むな、余計に歩きづらいだろっ。
「うっさいわねぇ、私だって歩きづらいのよ。男だったらちゃんとレディーをエスコートしなさいっ」
こんな野蛮なレディーがいてたまるか。
「ちょっとキョン隠れてっ」
「あ、あぁ」
廊下の角の方で身を屈める、そしてその先にはナースの懐中電灯と思しき明かりが見える、そして俺たちはその明かりとは逆方向へと進んで行く。これじゃあ心霊探検じゃなくてサバイバルゲームだろ。
「ふぅ……」
「こんなところを見られたら末代までの恥ね」
付き添われている身にもなれ。
「負けたのはキョンじゃないっ」
「好きで負けるか……っ!」
4階の病院廊下は基本ナースステーションと病室があるだけで特に変わったものはない、そもそもなんでエレベーターを使わないで階段を使っているんだと疑問に思っている読者諸君。それはだ、まずエレベータ前にナースステーションが存在していて乗ったら一発でバレるということ、そして階段の方がおどろおどろしくていいじゃないっ、というハルヒの提案だ。
「にしても出ないわね、幽霊」
「出たらどうする気だよハルヒ、俺は幽霊と遊ぶなんてごめんだぞ」
「出たらねぇ聞くに決まってるじゃないっ」
前を歩いていたハルヒが振り返り俺に指をさす、いい加減その人に指をさす癖をなんとかしなさい。
「ちゃんとあの世があるかどうか聞くに決まってるじゃないっ」
「あのなぁ、あの世があるだなんて聞いて、それではご案内しましょうなんてのはごめっ……」
「どうしたのキョン?」
「いや何でもない、ほらっさっさと回るぞ」
「えっ、ちょっと待ちなさいよキョンっ!」
神よ、どうか幽霊だなんてものに出会わないようにしてくれ。
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さて、俺の願いが届いたのかなんとか幽霊の類に出会うなんてことはなかった、懐中電灯を持ったナースさんになら何度かあったが。そして俺たちは違う病棟に回っているところだが、なにぶん建物が相当古いため奥に進むにつれてよりおどろおどろしさが増してゆく。
「なぁ、ハルヒもう諦めて病室に戻らないか?もう1時を過ぎたし」
「まだよっ、全部見て周ってないじゃないっ。あんたそれでもSOS
団の一員っ?」
「やれやれ……わかったから、あと一階。それでもいなかったら諦めて帰るんだぞ」
「なんであんたに指図されなきゃいけないのよっ!」
ギャースカギャースカ騒いでいるが、もし次に諦めなかったら、ハルヒを引きずってでも病室に連れ戻そう、正直言ってかなり怖い。
「にしてもキョン、あんた幽霊を信じてるの?」
「いや、子供の頃は信じてたが今じゃ全く」
「ふんっ、夢のない男ね」
そのセリフ、どっかで聞いたことがあるな。
少なからず、出てくれるのであれば巨大なマシュマロが歩いてるようなそんな幽霊であってくれ。
「早く出てくれないかしら、ゆ〜れ〜」
「おいハルヒ、ちゃん前見て歩かないと……」
「うわっ!」
「きゃっ!」
目の前で、二人ほど軽く悲鳴が聞こえる、誰かとぶつかったのか?
「大丈夫かハルヒ?」
「いたた……しりもちついちゃったじゃないっ」
「そ、それはこっちのセリフだっ! イタタタッ」
目の前で倒れていたのはハルヒと、同じ入院着を着た爺さんだった。
「まず謝りなさいよっ」
「それはこっちのセリフだと言っておるっ!」
あぁ、こりゃまずいな。
「すみません、うちのハルヒが……俺こいつの従兄弟でして本当にすみませんでした」
「なっ! あんたいつ私の従兄弟になったのよっ」
すこしは話を合わせろよっ、このバカっ!
「もうわかったから……とにかく起こしてはもらえんか」
「あっ、すみません。ほら、ハルヒも手伝え」
「しょうがないわねぇ……」
何がしょうがないだこいつ。二人掛かりで床でしりもちをついていた爺さんを起こしあげるが、そんな派手にぶつかったような音したか?
「なんでこんな時間まで病院をうろつき回ってるんじゃ?」
「それは心霊探検に決まってるじゃないっ」
「すみません、言って聞かせますのでこのことは秘密にしてください」
このやろう、すこしはごまかしたりとかできないのか。
「お爺さんこそなんで外を歩いてるのよ」
「儂はトイレに忘れ物を取りに起きただけじゃっ!」
「すみません、本当にすみません」
なんでこんなに俺が謝ってるんだ、てかハルヒも謝れよっ
「トイレに行きたいなら、手伝ってあげるから。ほらこっちの肩につかまって」
「なんじゃ、手伝ってくれるのか?」
「まぁ、私も悪いんだしね。ほら早くつかまって、まだ周るところがあるんだから」
……なんだ、いいとこあるじゃないか。そうして俺たちはたまたまぶつかった爺さんを支えながらトイレに向かうことになった。
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「お爺さんここ?」
「あぁ、そうじゃここじゃ」
そこは何も変哲もないトイレである、俺も度々利用させてもらったが夜来るにはなかなか勇気のいる場所である。
「忘れ物なんですか?」
「あぁ、儂の孫が買ってくれたかわいい猫のキャラクターが描いてあるコップなんじゃが」
そう言いながらよたよたとトイレの中に入って行く爺さん、なんだかすこし心配だな。
「ハルヒ、俺もちょっと中に入るからそこで待ってろ」
「なっ、なんであんたに指図されるのよっ・・・早く戻りなさいよっ」
腕を組みすこし不安げな表情を浮かべるハルヒ。もしかして怖いのか?
「そっ、そんなわけないじゃないっ。早く行きなさいよっ!」
うん、これは怖いんだな。珍しいものを観れたところでトイレの中に入り壁のスイッチを押す、目の前でオロオロしながらコップを探している爺さんだが明るくなったところでその姿を見ると白髪ですこし腰が曲がってる如何にもって感じな爺さんだ、特にガリガリというわけでもなく近所にいたら必ず朝のラジオ体操には参加してみんなに挨拶をするような、そうな優しそうな顔をしてる。
「お爺さん、これですか?」
「おぉ、これだよ。本当にありがとう」
探し始めておよそ1分、洗面台の上においてあったキティーちゃんのコップをとって爺さんに手渡す、お孫さんは女の子かな?
「孫が儂の誕生日に買ってくれた大切なコップでなぁ……毎日見舞いに来てくれて嬉しかったよ」
「入院して長いんですか?」
「あぁ、もう1年経つかな……でももう退院なんだ」
「それはおめでとうございます」
「ありがとう。それじゃ、戻ろうか、あのお転婆の女の子が怒るじゃろう」
「えぇ、よくわかってますね」
そう言い合いながら、トイレから出ると案の定ハルヒがプリプリ怒っていた。
「遅いじゃないっ、罰金よっ!」
「わかったから大声出すなって……」
「はっはっ、いやいや儂の婆さんも若い頃はこんくらい元気じゃったな」
後ろの方で爺さんに笑われているし、つい夜の病院というのを忘れてしまう、それでは戻るとしますか。
「お爺さん病室は何号室?」
「あぁ、儂はこの階じゃないんじゃ、ほれこっち」
そう言ってよたよたと歩き出した爺さん。ん、この階じゃないのか爺さん、隣ではハルヒが爺さんの方を支えている、向かっているのはおそらくエレベーターの方だろう、まずいな。
「あれ、お爺さんナースの人に見つからなかったの?」
「まぁあんたらみたいに心霊なにがしをしているわけではないからのぉ」
そういう問題なのか? そうこうしているうちにエレベーターホールに着くがどうやらナースステーションには今誰もいないらしい。
「ほらついたわよ、お大事にねお爺ちゃん、今度お見舞いに行くわ」
「ありがとうな、ほれそこの男の子」
「はい?」
「彼女の手綱はしっかり握っとかなきゃいかんぞ、どっかに行っちまわんようしっかり握っときんさい」
「か、か、彼女なんかじゃないですこいつは」
反論したが『そうか、そうか』と言ってエレベーターに乗り込んだ爺さん、ハルヒとは断じてそのようなことはない、ありえん。当のハルヒは隣で口を金魚みたいにパクパクさせてる。
「じゃあな、今日はありがとう」
爺さんがそう言った後エレベーターの扉が閉じる、なんとも最後はとんでもないものをぶち込んできた爺さんだった……ん?
「はぁ〜、なんで私がキョンなんかと。キョンほらさっさと行くわよっ!」
「なぁ、ハルヒこれおかしくないか?」
「おかしいって何がよっ……えっ……?」
先ほど爺さんが乗ったエレベータの階数を示す明かりが4階から下に止まることなく移動中なのである。
3F
2F
1F
B1
B2
「ちょっとキョンこれ……」
「……地下って行ったらあるのって」
霊安室?
「こらっ!」
「「ひっ」」
いつの間にかナースさんが後ろに立っていて叱られてしまった、なんとかごまかし開放はされ、病室へと連れ戻されたがとても眠る気にはなれず、さっき目の前で起きた現象について夜が明けるまで話をしていた。
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「へぇ、そんなことがあったんですか」
「ふぇ〜、怖いですぅ」
「……」
あの怪奇現象が起きた次の日、俺たちは学校が休みだったためハルヒの病室に集まってその話をしたわけである、おかげで二人揃って寝不足だが。
「にしても、あのお爺ちゃん幽霊っぽくはなかったわね」
「そうだな、どこにもいそうな爺さんという感じだったが」
とにかく真実は神のみぞ知るというわけか。
その後噂でハルヒがナースから聞いたというのは、地下の霊安室にいたはずのご遺体が調べた時は何もなかったのに次の日家族のところへ運ぼうとしたらいつのまにかキティーちゃんのコップを握っていたという話だった。
そして
「涼宮さんの検査結果なんですが」
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