第3話 手段
「……なんだって長門」
「言葉の通り、涼宮ハルヒはこのままだと死ぬ」
……死ぬ? そんな言葉なんてあったか? いやいや待て待て落ちつけ、まずは座れ、そうだ座るんだ。
肺にたまった空気を吐き出すと、先ほどより頭がクリアになった。が、ハルヒが死ぬ? なんでそんなことがわかる?だが長門が言ってるんだ、長門は正真正銘の宇宙人だ、なんでもわかってしまうような気がする。それ故に無作為になんでも信じようとするんだ、そうだきっと……
「涼宮さんが死ぬ……余命は?」
「古泉っ!」
「お、落ち着いてくださいぃ、キョンくん……」
とっさのことで机に拳を思いっきり叩きつけてしまう。ハルヒが死ぬ?そんなことがあるわけないだ……
「冷静になって考えてください。涼宮さんが死んでしまっては元も子もありません。ならば涼宮さんが死ぬまでの間に対策を練ることが先決です」
「……すまない」
だが、なんで……なんで俺はこんなに冷静でいられないんだ?
「涼宮ハルヒのタイムリミットは12月24日22:26:34:18まで」
「……となると約3ヶ月後のクリスマスイブということになりますね」
「それまでにハルヒに能力をつかわせて自己治癒みたいなものを高めなきゃいけないのか?」
「……成功する確率が一番高いのはその方法、しかし、問題点が3つ存在する。1つ、涼宮ハルヒが自身の能力を認知することになる可能性。2つ、能力を行使することによって状態が悪化する可能性。3つ、涼宮ハルヒが能力を行使させる理由を提示しなくてはならない」
1つ目に関して言えば、ここにいる全員が恐れていることであり、密かに悟られないように守ってきた事柄だ。そしてそれはそれぞれが所属する人間たちが恐れていることでもある。2つ目は現在起こっている諸悪の根源であり、あえてそれを使わせるのは危険でもある。ここまでは理解できた、だが3つ目は……?
「先ほど言っていた、涼宮さんが能力を使うことを無意識に拒んでいるということですか?」
長門はこくりと頷く。しかし変な話だ、前述にもある通り、自分の団のために学校という組織が存在していると思っているようなやつだ、そいつが無意識に学校に行きたくないと望んでいるとはどういう道理なのか。
「つまりハルヒは自ら望んで回復していないということだよな」
「そう」
「なんでだ?」
「……不明」
「じゃあ、どうすりゃ……」
部室内に沈黙が流れる。理由が分からなければ手の打ちようがない、ひどい話だ。
「あのぉ……すみません皆さん」
「あっ……はい、朝比奈さんどうかされましたか?」
「えぇ……と、実際に会ってみたらどうですかぁ?」
「えっ……」
「実際に会って話してみればいいんですよ、そしたら何かわかるかもしれませんしぃ……」
なるほど、その手があったか。
「そうですね、僕も朝比奈さんの意見には賛成です。長門さんは?」
朝比奈さんの提案に軽く頷いた長門も賛成のようだ、となれば。
「それでは皆さんで、涼宮さんのお見舞いに行きましょう」
「おい、なんでお前が仕切る」
「一応僕はSOS団の副団長ですからね。団長不在の時は副団長が団を仕切るのが定石かと」
そういえばそうだった、こいつが副団長だった。
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まず簡単な結果を伝えるとしよう。ハルヒは元気だった、すこぶる元気だった、どうしようもなく元気だった、今までのシリアスな雰囲気はどこに吹っ飛んでっちゃったの、ってくらい元気だったっ!
「おいハルヒ、買ってきたぞっ!」
「遅いじゃないっ! こっちはもう二回戦目終わっちゃったのよ!これはもうキョンの不戦敗ね、もう一度行ってらっしゃいっ! 次は古泉くんのぶんよっ!」
「へいへい……」
現在俺は病室で暇だ暇だとギャーギャー騒ぎ立てるハルヒのためにトランプの大富豪をしていたところなのだが結果として惨敗、俺は仕方なくハルヒのために病院のジュースを買いに行かされるという罰ゲームを言い渡されたわけである。そしてそれは例外なく俺の小遣いからということだよ、まったく。
「にしても暇ね、病院なのに幽霊の一つもでやしないじゃない」
そんなことを望む入院患者はお前ぐらいだ。
ハルヒは入院着を着てベットにふんぞり返っているわけだが、事情を聞いたところによると家に帰ったら、明日は病院に行かなくてはならないというある種のお告げ的なものが舞い降り、そしてお告げのままに病院に行ったところ検査入院をさせられる羽目になったということらしい。
「まったくもうっ、ここの医者ったらひどいのよっ。検査入院をいきなりさせるわ、人に針を刺して女の子の貴重な血液をとるわ、女の子の『ピィーッ!《規制音》』や『ピィーッ!《規制音》』をとるし、ここの医者たちは変態なのかしらっ!」
検査入院なんだから当然だろ、それに自分が女の子と自覚するんだったらそんなことを言ってはいけません。
「でも涼宮さんが元気でよかったです」
「よかったですぅ」
「……」
少なからず、今のハルヒの状況を見て生命の危機を感じ取ることはできない。でもなんか胸騒ぎがするのは気のせいか?
「にしても本当に暇ね、さっきも言ったけど幽霊くらい出てもいいんじゃない?」
「出てきても困るだろ。それに出るとしたら夜とかじゃないのか?」
「いいじゃないの、病院なんてたくさん人が死んでるのよ」
『死』という言葉に対して俺たちは少し身構える。さっきまでその言葉を聞いていたからか、それともここが病院だからなのか、理由は両方だからなのだろう。
「死ぬだなんて軽率に使うな、それに場所も考えろ」
「何よ急に、変なキョン」
「とにかく場をわきまえろ」
珍しく黙ったな、病室には色々な人がいるし、さっきの会話で随分と注目を集めてる。すみませんね、うちの団長様が。
「とにかくつまらないのよ、古泉くんなにかないっ?」
「そうですね……夜にここの病院で心霊探険とかどうでしょう?」
おい、古泉。
「それではっ、今晩。ここ甲南病院で心霊探険をするわよっ!」
胸騒ぎの原因て、まさかこれか?
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