神をも殺す憤怒の炎

「はあ……はあ……ここまでくれば大丈夫だろう……」


「残念、ここまで来ても大丈夫じゃないみたい」


 そもそも君が持っている“神様の落とし物”を持っている限り、私を振り切ることなどできはしない。


「さあ、その布切れを返してもらおうか。それはお前が扱えるものじゃない」


「う、うるせえ!俺は、十分扱えてるぜ!今日だって、これで他のチームを潰したんだ!俺には扱える!」


 ちっ。こういうやつは大体、ビギナーズラックを自分の力だと勘違いする。こういう話しはもう何回聞いたか分からないな。ほっといたら勝手に死んだ奴もいたし、扱えずに暴行されて拷問を受けた馬鹿もいたな。そういうの見るのは趣味じゃないから、今回からは強引に奪いに行くことにする。


「あのさ、さっきも少し見せたと思うけど、私は人間じゃないんだ。信じられないだろうけど。だから、これ以上私を怒らせるとまずいんじゃない」


「うるせえ!これでもくらえ!」


 愚かな不良は布を握り閉め、手のひらをこちらへ向けてくる。あの布は、風に関係する神様のバスタオルだ。風を操る力が少し宿っており、人間からしたらそれだけでもかなりの力になる。さて、不良の手のひらから風の矢が飛んできて、私の腹を貫く。はあ、このくらいの痛み、もう慣れた。風の矢は脆く消えていく。


「これで終わり?」


「う、うそだろ……化け物かよ……」


 化け物ね。……残念ながら、私は天界という会社の下っ端ってだけだよ。でも、私は今、激しい怒りを抱いている。一気に片付けよう。こんな屑一人死んでも、ここ、現世界は何も変わらない。


『神怒龍』


「な、んだ……これ……」


 私は怒りの炎を具現化し、地面から私の最強の相棒である、『神怒龍』を出してやる。神をも殺す怒りの炎で作った、巨大な蛇型の龍。ここが人気のないグラウンドで良かった。じゃなきゃ、天使たちが徹夜でビルの修復作業をしなければならなくなる。そして、みんなから、怒られる。


「遊んでやろう。神怒龍」


 神怒龍はうなずき、地面にすり抜けて潜る。そして、不良の背後から巨大な顔をのぞかせ、前足でつかみ、私の方へ投げてくる。


「はっ」


 それを私は飛び回し蹴りで蹴り返す。楽しくないサッカーを少し続け、やめた時には、不良はすでに息絶えていた。……さて、布切れを回収してさっさと送信箱へ入れよう。そう考えたとき、テレパシーで連絡が入る。もう、休憩くらい頂戴よ。


「雨野。あなた、何をしているのです?」


「何って、仕事をしただけですけど」


「なぜ、人間が死んだのですか?」


「それは……あいつが、私がズタボロになるまで乱暴に抵抗したためです。致し方ない犠牲です」


「はあ……素直に話せば何も言うことはなかったのですが……言い訳はよくありませんね、雨野。人間だったころのあなたならありえないことですよ」


「……そのころの話しはやめてください。神怒龍が顔を出してしまいます。ミカエル天使長?」


「……すみません、つい口を……ですが、最近のあなたの殺人の件数が急激に伸びているのです。何か、あったのですか?」


「……いえ、ただ、虫の居所が悪いだけです。以後、気を付けます」


「そうですか、分かりました。あなたの言葉を信じましょう。ですが、あなたは天使の部下である、使人です。殺し屋ではありません。無暗に、無差別に、無意味な殺人は今後、控えるようにしてください。お願いしますね」


「はい、分かりました、ミカエル天使長」


「ああ、それと、とても重要なことを中世界の責任者ゼウス様から預かりました。あなたは来週から、中世界の配属となるようです。なので、現世界から中世界へ移動するようにとのことです」


「……中世界ですか?それはまた、なぜ?」


「おそらく、あなたの力を現世界で全力で使われたら後始末が大変だからでしょう。それと、あなたもそろそろ、新人を発掘してほしいみたいです。弟子を持てば、少しは落ち着くだろうという判断なのかもしれません。」


「本当にそう思ってるのですかね?あのおっさん。どうせ、美男美女を引っ搔き回してる間に思いついたことなんじゃ?」


「……まあ、否定はできませんが、とにかく、そう仰られたのです。対応、お願いしますね」


「分かりました、それでは」


 中世界か。一度も行ったことがないから、内心結構ウキウキしている。……あれ、この感情、人間だったころ以来かも。……まあ、自分なりに頑張ろう。もう、あんなことを起こさないために。私たちのような悲劇の犠牲者を出さないために。そして、あの、私と大切な友人たちを、実験体にしたあげく殺した組織とそれに類似する組織を、正義の心で潰すために。このおまじないの言葉を、掲げながら、私、雨野美音は、己の正義のために戦う。

『現世界に歓喜と安寧を。この星に賛美を。悪に正義の鉄槌を』


・あとがき

 己の正義のために、戦う。

 読んでいただきありがとうございます。現世界物語です。今回は個人的にやっとだせた存在が登場しました。なので、これからはもっといろいろな展開が出来たらなと思っています。

 意見、批評、ご遠慮なくお願いします。ご意見箱を置いておきますね。それでは、『現世界に歓喜と安寧を。この星に賛美を。そして、あなたに感謝と栄光あれ』

https://kakuyomu.jp/users/yuji4633/news/1177354054883185816

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る