天使の嘆きは静かな激情

 夜の都心はかなりくさい。酒の匂いに吐しゃ物の匂い。裏人たちの欲望にまみれた匂いにそれにまんまと騙される表人の匂い。僕は長いこと闇社会で活動していたから、この手の匂いに敏感になってしまった。別に慣れたくなかったが、あの時、裏社会よりも深い闇社会で正義の鉄槌を振り回すと決めたのだから仕方ない。まあ今はまだかわいい裏社会で生きているので、闇社会よりかはマシと思うしかない。どうせ裏も闇もあまり違いはない。闇は本当に表には認知もされておらず、行動の自由もあまり利かないというだけで、基本は裏と同じ。色んな匂いがして、とてもくさい。



 僕、錬は散歩がしたくなり、事務所からちょっと遠い都心の街に来ていた。どこもかしこも居酒屋と風俗ばかり。別に嫌いではないが、そういうところには必ずいるのが裏の住人だ。僕は勝手に裏人と呼称しているが、要は暴力団や不良、裏商人などがいるということだ。基本的に何もしていない奴らには何もしないが、ちょっとでも一般人が迷惑しそう、あるいはしていたら、自分なりの正義の鉄槌を下している。それが、かつて天使だった一族の、僕の生まれ持った使命だと思うし、自分自身も一つの生命として、そうするべきだと思う。まあ、一般人に限らず、ちゃんと状況を見て、完全悪とみなしたらどんな相手にも鉄槌を下しているけど。例え暴力団や裏商人を助ける形になっても。裏人にもさまざまな人種がいるから、見分けるのが大変だ。最近は慣れてきたのか、時間をかけずに見分けることが出来るようになったと思う。そろそろ、依頼以外の時でもこれからは積極的に行動してみようかな。



 しばらく都心の路地を歩いていると、人通りが少ないためか、裏路地から微かに声が聞こえた。と、同時に、何か、神秘的な動きも感じ取る。この声色は……怯えている感じする。直感でそう感じ、声がした裏路地へと入っていく。すると、前から人がこちらへ走ってくる。顔は殴られた跡があり、手には財布が握りしめられている。


「お、おい!あんた、あっちへ行ってはだめだ!不良の集団が居座っているぞ!」


 そう言って、僕の横をすり抜けていった。なるほど、居酒屋から出て、通りに出るために通った裏路地に、不良集団がいたわけだ。――自分の中の正義が闘志をむき出しにして僕に訴えかける。分かってる、さあ行こうか。



 ――――そこに行くと、少しスペースが広い場所に出る。ここから色んな通りに繋がっているみたいだ。確かにここなら人も通るから、狩りしやすいわけか。そう、考えていると、不良集団のリーダーらしき人物がこちらに気づき、話してくる。


「お!今日は大漁だな!カモがもう一匹入ってきたぞ!今日は焼肉かな?」


「残念だなぁ。君たちにあげるお金は一円も持っていないんだ。君たちはいつもここで狩りをしているのかい?」


「ああそうだ!ここは俺たちのテリトリーだ!よって、ここを通りたいなら通行料を払ってもらうぜ!財布だしな!」


 後ろに三人来たみたいだ。どうせ強引に奪うつもりだろう。今日はこのまま言う通りに動いてからにしよう。


「しょうがないな。ちょっと待ってくれ……」


「早く出せってんだよクソガキ!」


 後ろの一人がそう言いながらポケットに入れた腕を掴みかかったので、タイミングを計って腕を起こし、肘打ちを顎に食らわせた。


「ぐっ!」


「ああ、ごめんごめん。勢い余って肘打ちを顎にいれちゃったよ。」


「っ!てめぇ!」


 残りの二人が後ろから来たので一人を受け流しそのまま壁にぶつけ、一人のパンチを受けそのまま投げた倒した。これで残りは目の前にいる三人だ。リーダーがまた何か話そうとしているが、もうしゃべることもないので、一気に間合いを詰めて三人の心臓部にパンチを入れた。


「てめぇ!この……ぐっ…………く……そ……」


 案外、あっさりと沈んだので拍子抜けしてしまった。さて、さっきの人の金は……あった。こういうのは大体ポケットに入れているので、すぐに見つかった。あとで知り合いに頼んで送ってもらう。あと、こいつらの有り金もつけとこう。まあ、二,三割は家の事務所に入れるとしよう。こいつらが持っていても宝の持ち腐れだ。こいつらには個人的な恨みはないが、この裏社会では、特に家みたいな事務所はこうしないと生きていけない。



 カード類もすべてもらい、通りに戻ろうとしたときに、また、何か神秘的な動きを感じた。感じた方向を見ると、青白い光と共に、僕のよく知っている人物が現れた。僕は柔らかな表情になる。


「……やあ、久しぶりだね、悠。何年振りかな」


「こっちの時の流れ的に言えば、まだそんな立ってないと思うよ。一年ちょっとくらい。こっちの時の流れは少し遅いんだ。多分そっちでは二年くらいたっているよ」


「そっか。体調はどうだい?何か、異変とかはないかい?僕はとても心配だ」


「大丈夫。やっぱり天使の一族だから何ともない。でも、普通の人間がここに来たら、確実に死ぬ。そんな感じがするよ。だからこそ、あの組織はここに行き来できるようにしたいんだろう。明確な目的は分からないけど、多分、この次元が一つの目的だと思う」


「そうだね。こっちでも追っているけど、やはりなかなか情報が入らない。首都で活動していることは分かっているのに、実際の活動情報がないんだ。本当、強敵だよ」


「錬。あいつらを完全に止めて。すごく嫌な予感がするんだ。こんな次元に人を送る装置を作っているなんて、危険すぎる。そもそもなんでそんな技術を持っているのか、どこからそんな情報を知ったのか、色々と謎が多すぎるよ。私はこっちから色々とアプローチをかけていたから、引き続き色々やってみる。だから錬はそっちから、どうかお願い。――そういえば、大和の姿がないけど、彼は?」


「ああ、大和は……組織に連れ去られた。……全部……僕のせいだ。だから、必ず二人を助ける。そして、元々受けた依頼通りに、組織を潰す。だから、それまで待っててほしい」


 彼女の姿から青白い光が再び光出す。同時に足元から透明に、儚く、脆く消えていく


「うん、待つよ。辛抱強く、希望を持ちながら待つよ」


「悠」


「何?」


「愛している。これまでも、これからも、ずっと」


「…………錬。私も、あなたを想ってる。いつも、いつまでも」


 そうして、悠は儚く消えていった。そう、僕が闇社会から裏社会に戻った理由。それの大きな理由の一つ。かつて闇社会で行動していた時、ある組織の消滅の依頼を親友の二人と受け、結果、彼らは、組織と共に消えていった。僕は彼らを追うために、動きやすい裏社会へと戻ってきた。そして、情報を集めるために、裏社会で一緒に戦った友人たちが立ち上げていた探偵事務所に入った。その時に、心機一転だといって、僕の名前を事務所に入れて新しく、錬探偵事務所として立ち上げた。

 この事務所で、僕は、奪われた大切な存在を取り返す。取り返して見せる。絶対に。


 『現世界に歓喜と安寧を。この星に賛美を。かの組織に裁きを』



・あとがき

 裏社会はなんでもありの無法地帯。

読んでいただきありがとうございます。今回は都心地方の裏社会の話しでした。ここで探偵事務所を営んでいる青年、錬が、裏社会に生きる日常を描いてみました。そういう知識はあんまりないので、想像で書くしかないので、大変ですね……

 かれは元天使の一族なのですが、天使ってかなりの人数いるみたいですね。堕天使も等しいくらいにいるみたいなので、話しに組み込みやすくて、考えるのが楽しいです。

 ぜひ、意見などをお聞かせいただければと思っています。他の作品も流し目でも良いので見ていただけると嬉しいです。では、『現世界に歓喜と安寧を。この星に賛美を。そして、あなたに感謝と栄光あれ』

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