非情な心は鮮血に染まる

 都心地方に来て、二年が経つ。あの惨劇を経験した私にとって、都心地方は平和ボケしていると思う。今も殺し屋としてここで活動しているが、どうもあの地方にいたころほどの緊張感が湧かずに、ダラダラと毎日を過ごしている。そして、今日も、薬の密売人を殺す依頼を受けた。報酬は五百万。そこそこの値段だが、ターゲットは戦闘経験がないらしいので、さくっと終わるだろう。



 いつも被っている赤いニット帽をかぶり、拠点から出る。都心地方は気温の変動が穏やかで、とても過ごしやすい。自分がいた、荒原地方は気温が高い時期が多く、とても大変だった。汗はかくし、薄着になるので傷もできやすく、出血が絶えなかった。特に前線で積極的に作戦に参加していた時は、暑さで余計な体力を持っていかれていた。その経験もあってか、都心地方では、全然息切れを起こさずに行動できる。それに、相手が変な魔法や魔術を使ってこないので、対処がしやすいのも大きい。ここの住人は皆攻撃速度が遅い。だから、目視で確認してから対処することが容易だ。



 拠点から、ターゲットがよく目撃されている駅で降りる。今はちょうど終業時間らしく、人が多くいた。しばらく街で探索をする。薬の密売人は大体夜から活動を始める。最初の売り手に会う前に始末したい。


「ねぇ君、一人?俺らと遊ばない?奢るからさ~」


 歩いているとよくナンパされる。自分の容姿には自信はないが、男から見たらそれなりにきれいに見えるらしい。もしそうなら、純粋にうれしいが、今は仕事の邪魔だ。


「今はそんなひま、無いの。他を当たることね」


「一緒に遊んでくれたら、これから買う気持ちよくなれる薬ただであげるからさ~」


 その言葉を聞いて、もしかしてターゲットのことだろうかと思い、「へ~、興味あるね。それならあそこで話しを聞かせて?」といい、人気のない裏路地に誘う。男らは色々と想像したのか、笑みを浮かべてついてきた。裏路地に入り、人の目が届かないだろうと判断した瞬間、裏路地にある別の小道に男らを誘い、一人をハンディータイプのスタンガンで気絶させ、もう一人を、サバイバルナイフをちらつかせ、その売人の特徴とを聞き出した。


「さて、今日買う予定の薬は一体どんな人から買う予定なのか、教えてもらおうかな?大丈夫、話せば殺さないよ」


「ひい!!えっと、黒の帽子とジージャンを着て、下は紺のチノパンをはいているって聞いたよ!ほら!これでいいだろ!放してくれ!」


 情報にあった特徴と一致したので、待ち合わせ場所を聞き出し、その男も気絶させた。そこは通りから外れた小道にある、小さな公園だった。確かにここなら一般人はあまり来なさそうだし、来ても酔っ払いだろう。



 ターゲットが来る間、疎らに通る通行人を観察した。時にリーマン、時に学生カップル。私も普通に生きていたら、あんな感じに恋人が出来て、一緒に歩けただろうか。そういえば、お酒も飲んだことなかったな。友達は飲むと楽しいと言っているが、本当なのだろうか?よくアル中とか、中毒で問題になるニュースを聞くから、あまり良いイメージがない。今も近くの居酒屋から若い人たちが数人、大声を出しながら歩いている。あっ、一人倒れ込んだ。っと思ったら、他の人は吐いている。それでも、彼らは笑顔でまたよろよろ歩きながら帰っていく。彼らの家に。多分あれが話に聞く大学生なのだろう。大人であって、大人でない。子どもと大人のよい所を持った存在。私が大学生だったら、どんなことをしているだろうか。興味がある分野……人の心の動きには興味はあるから、心理学科とか?友達が通っているから、一緒に講義を受けて、空き時間で遊んで、サークルに入って、恋をして。今の私以外の可能性の私を想像する。うん、楽しそうだな。でも、今の私はもうその道には戻れない。絶対に他人を不幸にする。そう、今の私は裏人。表人と関わることはすなわち、その人を不幸にすること。そう思うと、涙が溢れてくる。ダメだ。まだ仕事が終わっていない。集中しなければ。



 そんなことを考えていると、密売人がくる時間になっていた。周りを見渡してもそれらしき人物はいない。勘付かれたか?と思っていたが、近くのビルの地下へと降りる姿を発見した。もしや、最初の買い手がいなかったから、次の買い手に売りに行ったのか?急いで後を追う。幸運なことに、買い手はまだ来ていなかったらしく。壁に寄りかかる密売人を見つけた。ここなら周りに遠慮する必要はない。私はサプレッサーのついた拳銃を握りしめ、すぐに打てるようにしながら近づく。密売人は買い手ではないと理解していたのか、こちらを見ようとしなかった。密売人の前まできて、最終確認として顔を見る。間違いない、ターゲットだ。さすがに不審に思ったのか、密売人は顔を上げようと動いた。瞬間。


「さようなら」


 と言い、心臓部に二発、首元に二発、狙えるので、頭に二発撃ちこんだ。密売人は力なく壁へ倒れ込む。薬莢をすべて拾い、ターゲットの生命確認を行う。うん、確実に死んだ。その後、発信機を近くへ置く。これで回収班が回収するだろう。多機能型携帯で写真を撮り、依頼人にメールを送る。これで依頼は終了だ。案外時間がかかってしまったが、無事に終わって安心する。さて、これからご飯でも食べて帰ろう。何を食べようか。……久しぶりに、あの串やでも行こうか。そんなことを考えながら、私は帰路へ着いた。




 私、七原理穂の運命はあの高校一年の中月から変わってしまった。武器を持ち、悪天教に洗脳されそうになった家族を全員殺し、作戦に積極的に参加し、殺しあったあの日々。私の心は、あの時からずっと、凍ったように冷たく、何かに縛られているかのように、止まったままだ。その心と共に、これからも殺し屋として、部隊配属の時、一番最初に教えてもらったおまじないの言葉を自分に掲げながら、これからも生きていく。


     『現世界に歓喜と安寧を。この星に賛美を。我らに勝利を』




 ・あとがき

 勢いで書き綴った短編は、おそらく誤字脱字が多いことでしょう。

 読んでいただきありがとうございます。はい、現世界物語短編です。現世界は表裏がはっきりしていて、表は一般人たちが、裏は裏の住人たちが生活しています。今回はある殺し屋の女性の物語の一遍を綴りました。彼女は、都心地方という、高層ビル群が立ち並ぶ地方に住んでいる殺し屋です。しかし、出身は荒原地方という、別の地方の人です。この地方も、まあ色々と複雑な思惑が交錯していて、表と裏がはっきり分かれています。彼女は裏に生きる運命引き込まれた人の一人です。そんな彼女が、これから都心地方でどのような生き方をするのか、それはまた別の機会に綴ろうかと思います。ここまで読んでいただきありがとうございました。ぜひ、この作品に対する意見を聞かせてもらえると、とてもうれしいですし、参考になります。

 では 『現世界に歓喜と安寧を。この星に賛美を。そして、あなたに感謝と栄光あれ』

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