現世界物語 今を生きる者たち

後藤 悠慈

日常

頑張り隊は頑張りたい

「今日は忍の番だよ。今日は頑張って成功させようね」


「……ん。頑張る。じゃあ、そろそろ出る?」


「ねーねー!今日のご飯はどこで食べる?昨日はハンバーグだったから、今日はラーメンが食べたい!それでね!昨日は近所の野良猫さんとね――」


「猫、うるさい。もう外でるから少し黙ってて。一緒にいて恥ずかしい。……はあ、なんで今日の荷物当番、あたしなわけ?昨日、ターゲット捕まえる当番だったんだけど」


「もう、照は昨日、失敗しちゃったじゃない。失敗したら次の仕事の時に荷物当番する決まりでしょ?この頑張り隊の決まりを決めた時にこれでいいって言ったじゃない?ちゃんと守ってね」


私たちは、頑張りたい。私、忍が所属するこの頑張り隊は今、錬探偵事務所に入った依頼をこなす為に今日も外へ行く。所長の錬からは、くれぐれも失敗はしないように注意されている。事務所にとって私たち頑張り隊は、悩みの種なのだ。自覚はしている。でも、やはり難しいものは難しいのだ。だが、今日こそは成功させると意気込む。




 今回の依頼は、依頼人の友人の女性をレイプし、金品を奪った社会不適合者一人を拘束すること。まあ私にかかれば余裕だろう。この手の輩はちょっと色仕掛けをかけてしまえばこちらの思惑通りに動いてくれる。過去に雪がやっていたから、私にも出来るはず。




 私たち、頑張り隊は輩がよく出没するという情報を頼りに、都心の商業施設が多い駅に降り立つ。まずは人気のない裏路地を探さなければ。まあこんなところには腐るほどあるだろう。探し始めてすぐにちょうどよい場所を見つけたので、次はターゲットを探す。


「…………いないわね。レイプするくらいだからどっかでナンパでもしてるのかしら。それか風俗?いや、お金がないからレイプしたんだろうし、ありえないか、ああでも、金品を――」


「……雪、うるさい。外でそんな言葉使わないの。情報によるとよくここの裏路地で仲間とうろついているのが目撃されてるし、この辺にいるでしょ。…………あ、ほら、いたよ。写真の顔と一致する。今日は一人みたいだね。面倒くさくなくてよかったじゃん」


「あ!本当だ!……うーん、おなか減ったー。まずはご飯食べに行こうよ!ほら、あそこに牛丼屋さんがあるよ!ご飯食べた後は遊びたいな!何して遊ぶ?」


「猫……黙って。うるさい。恥ずかしい。それに今日は多分仕事で遊ぶ時間残らない。……明日一緒に遊んであげるから黙って」


「本当に!照、ありがとう!!」


「じゃあ、どうすればいい?雪がなにか考えてくるって言ったから何も考えてないや」


「大丈夫、目の前に行って、『助けてください!友達が不良に襲われているんです!お礼は必ずするので一緒に来てください!』っていって、さっきの裏路地に連れて来て、そこで拘束するの。どう?出来そう?」


「ずいぶん簡単に言ってくれるね。そんなうまくいくかな?まあやってみるよ」


 言われた通りに目の前に走っていく。人通りが少ないので、周りの目はあまり気にならない。


「すすみません!そこのあなた!強そうなので助けてくれませんか?」


「あ?俺のことか?」


「そうです!私の友達が不良に襲われていて、助けてほしいんです!お礼になんでも一つ言うこと聞くので、どうか、助けてください!」


「へえ、なんでも一つ言うこと聞いてくれるんだ。よし!助けてやろう!どこにいる?」


「こっちです!ありがとうございます!」


 ちょろい。やはり、性欲の強い男は、なんでも言うことを聞く、と聞けばころりと動く。あの目の動きはかなり分かりやすかった。完全に体しか見ていなくて、私の顔を一度も見ようとしなかった。……なんか考え始めたらムカついてきたな。いやいや、ここは抑えよう。失敗はしたくない。

 予定通りに、人気のない裏路地へと連れてくる。


「…………おい、誰もいねぇじゃねぇか。本当にここか?」


「……どうしよう。もしかしたら、どこかへ連れていかれたのかも。そんな……私の大切な友達が!!知らない男に!!!レイプされてる!!!なんて!!ふざけんな!!!!あのやろう!!見つけ次第殺してやる!!!!あああああああああああ!!」


「ちっ、おい、落ち着けよ」


 男が近づいてきた瞬間を狙い、腹に掌底を食らわせた。男はうめき声とともに崩れ落ちる。


「……どう?あなたが最近レイプし金品を奪った女性の、友人の心の叫び。友人がこんなに悲痛に思っているのだから、実際にされた女性はもっと悲痛な叫びをしてただろうね。ぜひあなたに聞かせたい」


「うまくいったじゃない。よかったわ」


「いえーい。錬に連絡して。迎えの車は近くに置いてある?」


「今、連絡して確認するわ」


「…………っざけんな;;;このやろう、全員ぶっ殺して犯してやる!!」


 そう聞こえ、振り返ると男はナイフを持ってこちらへ向かってきた。


(こいつ!)


 私は遅すぎる突きを裁き、掌底を今度は心臓へと食らわせようとした。ここで私はうっかり殺意を抱いてしまった。


「はっ!」


 ばん!!……何かが破裂する音がした。ああ、またやってしまった。男の心臓部には風穴があいていた。男の後方には肉片が飛び散り、心臓があるはずの位置には、何もなかった。男は即死だったか、それともショックで喋ることが出来なかったのか、何も言わずに倒れた。当然私も血を浴びた。


「ああ……錬、ごめんなさい、たった今、失敗したわ。忍がまたターゲットを殺ってしまった。ええ、いつもの通り、抵抗した相手をね。……うん、分かった。じゃあ今から帰るわ」


「……ごめん……みんな。また失敗しちゃったよ」


「大丈夫大丈夫!照も昨日失敗してるし、気にしない!気にしない!それより、ご飯食べてから帰ろう?あ、仕事も終わったから遊べるね!やったー!」


「……はい、タオルと替えの服。……今、戦場事務所の人たちが死体を回収しに来てくれるから…………それまでのんびりしようよ」


「私は人が来られないようにしておくわ。匂いは早く消臭しといた方が良いわよ」


 やはりみんなは優しい。失敗しても誰も咎めない。このやさしさに甘えないよう。早く力加減を覚えなければ、あとすぐ殺意を向けることもしないようにしなければ。錬は頭を抱えるだろうが、まあ内容から察するに、どうせ死ぬことになるんだし、問題はないだろう。

 私たちは、頑張り隊。ターゲットを殺さずに拘束することを、頑張りたい。



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https://kakuyomu.jp/users/yuji4633/news/1177354054883185816

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