第百十話「救出目標確認」

『うん、わかった! ありがとー!』

「どうだった、チンチクリン」

『いやー、これ以上は抜け道無さそうだよー。見ての通り、って感じだねぇ』

「そうか」


 チンチクリンに敵の少ない道を教えてもらいながら、時にやり過ごし、時に各個撃破して少しずつ前進してきたが、それもどうやらここまでのようだ。

 各個撃破していくことで全員レベルが上がったが、さすがにこの量はキツい。


 茂みからそっと顔を覗かせるとそこには緑色のカマキリがうじゃうじゃと。

 その頭上を見れば、ブンシャカ飛び回っている蜂の集団が。周りの木にもビッシリ張り付いている。

 アウィンを追っかけている百鬼夜行なんて目じゃない。気持ちわりぃ……。


 だが、カマキリ達の隙間から敵モブ達の中央部分を見れば、時折光っているのが見えた。

 つまり、フェアリーはまだ戦っている最中ってことだな。何とか間に合った。


「チンチクリン、他に情報は無かったか?」

『んー、ないと思うけど……。あ、そうそう、またあのこと言われたんだよ! 目の前にいるのに、なんであんなこと言うんだろね?』

「また言われたってのは、お前が」

『そう! わたしが死んじゃったのを見た! ってやつ。生きてるのにねー』

『……ご主人様マスター

『旦那』

「記憶がないなら指摘する必要はない。それとも、お前は既に死んでいるとか伝えんのか? 言うならお前らが言えよ。俺は嫌だかんな」

『『……』』


 まあ、んなこと言いたいやつなんていないよな。

 さっきから、チンチクリンの精神的なバランスは不安定に見える。

 お前はもう、死んだことがあるんだ。なんて言えばそのバランスが容易く崩れ去ってしまうことぐらい、誰だって察してしまう。


 それにしても、至るところで言われてんだな、その言葉。結構な迂回ルートを通ったりしたし、広範囲を移動したと思うんだが。

 植物の情報伝達速度が凄いんだろうか。あと、デリカシーのなさも凄まじいものがあるな。


 よくもまあ、「お前、死んでたの見たぜー」なんて揃いも揃って本人に言えるもんだ。良心の呵責かしゃくとかは無いんだろうか。

 ……無いんだろうな。木だし。


『ねえ! みんなでコソコソ何話してるの? 作戦会議なら、わたしにも教えてよ!』

「ん、ああ、そうそう、作戦会議な。っつっても、お前に伝えることは単純だ、チンチクリン」

『単純?』


 フェアリーであるチンチクリンと、光球好きなハーピーの役目は敵に見付からずに里、ないしはフェアリーの集まっている場所へ辿り着くこと。

 俺の記憶では、里へ向かうルートとは大分離れているし、ここはフェアリーの里ではないのだろうが、フェアリーのいる場所までは来ることができた。


 つまり、この二人の役目は終わったのだ。

 後は俺達が何とかする番だ。


「お前はハーピーに乗って最短距離であのフェアリー達が応戦しているところへ合流しろ」

『ええ!? いやいやいや! タンクマンティスさんや特攻蜂さん達って今、わたし達も攻撃して来るんでしょ? 鳥ちゃんもわたしも死んじゃうよ!』

『……くぇー』

「大丈夫だ。さっきも見たろ。自我持ちユニークよりもプレイヤーやテイムモンスを優先して襲ってくるんだよ、あいつらは」

『ゆに……ぷれ……?』


 ダメだ。理解できてない。

 そりゃ、ゲーム内キャラクターにゲーム用語を言っても分からないか。

 別に難しいことは言ってない。


 ま、要するに。


「ここは俺達に任せて先に行けってことだ」

『俗に言う死亡フラグですね、ご主人様マスター

『おう、旦那ぁ。オレらを巻き込んでんじゃねえよ』

「うっせ、死ぬ時はいつも一緒だろが」


 かくれんぼはここで終わり。

 次は新しいゲームを始めようか。


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~


「狙いは適当でいい。敵が多そうなところを突っ切れ」

『おっしゃ、オレの得意分野だな!』

「ラピスは……既に《分裂》済みか。移動とかは全部お前に任せる。頼んだぞ」

『はい。必ずご主人様マスターのお役に立ってみせます』

『ねえ、わたしは……』

「ハーピーにしがみついとけ。後はこっちで何とかするさ」


 今まで二十八だったレベルはこの道中で三十となった。五の倍数。つまり、スキルレベルの上昇だ。


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 《HP自然回復》Lv.7


 4秒で最大HPの14%回復

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 うむ。順当な強化だな。

 十二パーセントだったのが十四パーセントになっただけだ。

 だが、今まで瀕死から全快まで三十六秒掛かっていたのが、四秒短縮され、三十二秒となったと言えば……い、いや、四秒が大事になる場面もきっとあるって!


 他にも、ラピスやトパーズ、同じエリアで同じパーティに入っていたアウィンもレベルが二十三から二十五へ上がった。

 トパーズは跳躍力が、アウィンは《盗む》の成功確率と挑戦回数がそれぞれ上がっていたが、一番目に見えて変化したのがラピスの《分裂》だ。


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 《分裂》Lv.6


 自分の体を分けることにより、

 別個体として存在する。

 (上限:64体)

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 スキル説明欄にあまり変化はない。上限の数値が二倍されたくらいか。

 変化はさっきも言った通り、“目に見える”形で表れた。


 なんと、ラピスの体積が変わっていないのだ。

 今まで、《分裂》する度に体積が半分になっていたのだが、三十二人の時と六十四人の時とでは体積に変化は見られなかった。


 恐らく、これがラピスの《分裂》スキルがレベル五になったことの変化だったのだろう。

 よく分かっていなかったが、体積変化の打ち止めだったようだ。


 体積が小さくなるにつれ、見つかりにくいというメリットもあったが、実質ラピスの体積が二倍になったとも言えるこの変化。

 どう使うかはまた今度考えるとして、今はラピスの分裂個体数が増えたことを喜ぼう。


 これで、救出確率は一気に高まった。

 大丈夫。この作戦は必ず成功する……!


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 プレイヤー名:テイク

 種族:ヒューマン

 ジョブ:テイマー(Lv.30)

 HP  1000/1000

 MP  7070/7070 (used 38)

 ATK  10

 VIT  10(+30)

 INT  10(+55)

 MIN 10(+30)

 DEX  10(-28)


 スキル

 《鞭》Lv.1

 《火魔法》Lv.1

 《水魔法》Lv.1

 《土魔法》Lv.1

 《風魔法》Lv.1

 《光魔法》Lv.1

 《闇魔法》Lv.1

 《HP自然回復》Lv.7

 《MP自然回復》Lv.1

 《即死回避》Lv.1

 《魔法複数展開(Ⅱ)》Lv.☆

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 モンスター名:ラピス

 種族:マルチスライム(Lv.25)

 HP  800/800

 MP  320/320

 ATK  3

 VIT  9

 INT  2

 MIN 306 (used 25)

 DEX  1


 スキル

 《粘着》Lv.1

 《吸収》Lv.1

 《分裂》Lv.6

 《擬態》Lv.1

 《物理攻撃無効》Lv.☆

 《被魔法攻撃5倍加》Lv.☆

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 モンスター名:トパーズ

 種族:ホーンラビット(Lv.25)

 HP  3600/3600

 MP  20/20

 ATK 308(+40) (used 25)

 VIT  5

 INT  2

 MIN 2

 DEX  6(-10)


 スキル

 《跳躍》Lv.6

 《気配察知》Lv.1

 《採取》Lv.1

 《ハウリング》Lv.☆

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 モンスター名:アウィン

 種族:町盗賊(Lv.25)

 HP  3210/3210

 MP  20/20

 ATK  2 (+4)

 VIT  2 (+16)

 INT  2

 MIN 1

 DEX 320 (+8) (used 24)


 スキル

 《盗む》Lv.6

 《暗器》Lv.1

 《隠密》Lv.1

 《気配察知》Lv.1

 《闇魔法》Lv.0

 《罠設置》Lv.0

 《罠解除》Lv.0

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